狂いのストラトス Everlasting Infinite Stratos   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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推奨BGM : 一霊四魂万々無窮

*より陰陽歪曲




あけましておめでとうございます


第碌話

 周囲には現実逃避で気絶している連中やとりあえず騒いでるのやあほみたいに叫んでいるのとか、何故か脱いでいる変態とかがいて、食い散らかされた食事のゴミや食べカス、空き缶等が散らばり、毛布や枕が乱舞している。お洒落している人も結構酷くなっている。蘭は何時も通り茜色のジャージ姿だからよかったが。

 

「うむ、実に楽しかったぞ!」

 

 そんなレース終了と共にそんな感想を述べたルキに蘭は感心する。今のを見てそう言えるならば中々のバイタリティだ。今のは蘭からしてもかなり頭がおかしかった。

 地球一周て。

 一日半て。

 遅い。

 自分だったらもっと早い。

 まぁ、それはしょうがないけど。

 ともあれ、そんなレースに開始と変わらないテンションで素直に楽しかったと言えるのは中々のものだ。周囲を見れば、

 

「やべぇぼろぼろのシャルちゃんかわええええええええ」

 

「それより涙目の束様を探せ、どこかにいるだろ!」

 

「解説淑女の解説衆を今すぐネットに上げろ!」

 

 目を逸らす。

 あれは違う。少し違う。結構違う。だから別方向を見る。ちゃんと呆然自失しているまともな人たちがいた。一般のまともな人たちはそれが正しい。

 だが、

 

「いやはや次は我が出てみたいのう!」

 

 そんなこと言えるルキは中々だ。中々ヤバい。初対面の時に感じたのは間違いではなかった。自信過剰というか自信家というか。あんなのに出ようというのはそうはいないだろう。

 六人中二人は途中で脱落と棄権。走りきった二人は疲労困憊で、優勝者は亜光速稼働で機体が自壊したせいでかなり傷だらけだ。それでもシャルロットは笑顔だけれど。

 以外と負けず嫌いなのだ彼女は。目には目を、歯に歯を、を地で行くというか攻撃のバリエーションが広いのでやられたら似たような攻撃を返してくる。

 笑顔で。

 黒い笑顔で。

 結構怖い。

 思い出すと身震いする。

 だからそれは置いておく。

 

「ルキは最後まで見てく? 私はこのあと用事あるんだけど」

 

「ふむ? そうだな……見たいものは見れたからな。暇させてもらおう」

 

「そっか。あ、じゃあメアドとか交換しない?」

 

「おお、構わんぞ」

 

 メールアドレスと携帯番号を交換する。蘭のは茜色でルキは黒と青のカラーのスマートフォンだった。お互いに来ている服と同じ色で少し苦笑。新たに登録された名前には普通に笑みを浮かべる。

 

「おお……!」

 

「? どうしたの?」

 

「いや――これが身内以外始めてのアドレスと思うと感動してだな」

 

「……今度私の友達を紹介するよ」

 

「機会があったら頼むぞ」

 

 露出狂の上に友達がいないとは。

 悲しすぎる。

 コミュ障の箒でさえ友達がいるのに。かなり偉そうだが、悪い子ではないのは短い付き合いでも解る。

 

「……蘭」

 

「ん?」

 

「よければ、エントランスぐらいまでは共に行かぬか?」

 

「ん、いいよ」

 

 一日だけとはいえ、一緒にいたのだからそれくらい構わない。ルキが言わなかったら自分も言っただろうし。

 

 

 

 

 

 

「短い間だったが楽しめたぞ。礼を言おう」

 

「ううん、私こそ。ありがとうねルキ」

 

 アリーナのエントランスでお互いに握手をしながら微笑みあう。周囲にはすでに足早に帰ろうとする人も多くいる。大体八割くらいは何があったのか理解してなさそうな顔だ。

 そんな人々を横目にしながら、ルキは握り合った手はそのままで、

 

「ふむ」

 

 少し思案気な顔をしながら、ルキは首を傾げる。何か迷うようにだ。彼女の顔に憂いの色が浮かぶ。それは号外不遜な彼女にはどうにも似合わない顔だった。

 

「……? どうしたの?」

 

「いや、そうだな……」

 

 苦笑する。だが惑いも憂いもすぐに消えて、

 

「なぁ、蘭」

 

「うん?」

 

「短い付き合いだがな、我とお主は快い友になれるだろうな」

 

「え、う、うん」

 

「だから――隠しごとは無しにしよう」

 

 ルキが開いた胸元に手を突っ込む。突然の行為に戸惑う蘭を置き去りにしながら、胸元から取り出したのは――栞だ。それを口に咥えながら。笑みを、そう凄惨とすら言える笑みを浮かべ、その翠の目を見開きながら。形のいい口元を歪めながら。

 栞を口で引き裂いた。 

 

・――――罪こそが力である

 

 

 

 

 

 

 

 

 声を聞いた。どこからともかく聞こえる自分の声のような、機械的な音声のような声。そんな音の響きが蘭の鼓膜を震わし、

 

「――――!」

 

 世界から色が消えた。周囲から自分たち以外の人は消え去る。

 だが、そんなことがどうでもよくなるほどの存在が――目の前にはいた。

 

「な、あ……!」

 

「改めて名乗ろう、蘭よ」

 

 繋いだ手のひらはそのままで動かせない。驚愕と共に身を引こうとしたが身体は動かなかった。まるでルキの言葉を聞かなければならないと言わんばかりに動作が否定される。

 聞け。

 己の言葉を聞け。

 そう、ルキから伝わるのだ。

 

「八大竜王が一角、担いし(シン)傲慢(ハイペリファニア)――第2(セクンドゥム)『傲慢の光臨』」

 

 ――八大竜王。(シン)傲慢(ハイペロフォニア)第2(セクンドゥム)。『傲慢の光臨』。

 それらの言葉は知っているどころでは無い。既に二度に渡り相対している()

 そんなはずがないだとか、嘘だとか、ありえないとか、そんな月並みな反応は今の蘭にはない。栞を引きちぎった瞬間から、世界から色が失った瞬間から既に悟っていた。そういうのは(・・・・・・)はただそうあるだけで解るのだ。魂の色を見れば一目瞭然だ。いや、最早外見だけで気付けるだろう。始め彼女を見た時の既知感。つまりそれはそういうことだったのだ。髪や目の長さ、年のころは違うがクァルトゥムと同じだ。その容姿は織斑千冬に酷似している。

 

 故に蘭は即座に意識を戦闘状態へと移行し、

 

「ああ、勘違いするでない。交戦の意思はない」

 

「――っ」

 

 言葉通りに敵意も戦意も欠片もないルキの言葉に毒気を抜かれる。

 

「言っただろう。我は今日ただ社会見学に来たにすぎん。奴らの継子たるお主らの確認しに来ただけだ」

 

「……そんなこと」

 

 信じられとでも、と思った。だから力を抜かなかった。今の蘭なら初速はすなわち全速であり、彼女の全速はすなわち光速だ。限定的に一夏の光速抜刀にすら並ぶことのできる。握手という超至近距離。この距離で、言葉通りなら戦意が無い彼女ならば、一撃を入れられる自身がある。シューズの周囲に淡い光と共に幾何学的な魔法陣が浮かび始める。

 だが。

 

「友の言葉だろう、信じろ」

 

「――――そう」

 

 力を抜く。光は失う。馬鹿げていると言われてもおかしくないかもしれない。今すぐに一夏や鈴たちを呼ぶなりしたほうがいいのだろうけど。

 

「よいのか?」

 

「いいよ」

 

 片目を閉じて問いかけるルキに蘭は応える。

 

「友達同士だもんね。信じるよ」

 

「ほう、いいのか。結局言ってしまえば敵だぞ? お主がここでその気を見せれば我とて応戦せずにはいられん。ここで一戦交えても一向に構わん」

 

「無駄な戦いするつもりはないよ。戦闘狂は私の担当じゃないし」

 

「それは我も同じだな。そういうのはプリームムやオータムどもの担当だな」

 

 言って、ルキはく、と三度笑い、

 

「あぁ、賢い選択だ。そうだないいことを教えてやろう。今この空間はな、その身に内抱している罪で強度が左右される。大罪を担い、それのみしか知らぬ我らは太極を開かずともこの中ならそれなりの強度を保てるのだよ」

 

「……いいの? そんな大事そうなこと教えても?」

 

「ふむ」

 

 ルキはきょとんと首を傾げるが、

 

「悪いが我にそこらへんの勘定もできん。戦闘狂でも頭脳労働担当でもない。傲慢だぞ?」

 

「ふうん。私も頭脳労働は苦手だね。私もやることは別だよ」

 

 握りしめた手はそのままでも笑みは濃くなっている。外側は変わらなくても、互いの内側は活性化しているのだ。お互いの渇望が視線による鬩ぎ合いを行っているのだ。戦闘行為ではない、一種の語り合いだ。それは、ただ言葉を交わし合うことの万倍の意味がある。

 

「我は――驕るだけよ」

 

「私は――飛ぶだけだよ」

 

 驕る者と飛ぶ者。地を見下す者と天を見上げる者。相反する渇望。支配を望むか支配から逃れるか。

 傲慢とは己への過大評価にして過剰なまでの自己愛。そして蘭の渇望はそれらとは逆だ。自己愛もなにもない。己は己でただそれだけで、空へと往こうとするから。必要なのはそのままの魂だけだから。

 だから、この二人の邂逅は運命的とさえ言ってもいい。

 益荒男たちと八大竜王たちの中で最も対照的なのがこの二人だろう。

 

「カカッ――あぁ、快い。素晴らしいぞ、蘭よ。ここに来てよかったぞ」

 

「ははは、それはよかったよ。私としてもよかったしね」

 

「まったく、騒ぎは起こすなと言われているからが、今なにもできんのが歯がゆくて仕方が無い。まぁ、機は熟しておらぬし、時も満ちておらん。我らが雌雄を決するならばふさわしい場がある。故それまでの辛抱だ」

 

「私としては、バトル展開なくていいけどね」

 

「そうはいかぬよ」

 

 交わしていた手を離す。それがすなわち離散の合図だ。たった一日半の出会い、そして数舜の鬩ぎ合い。それだけといえばそれだけだが、魂の色を見合うことができるのだから時間はそれほど関係ない。

 

「では、さらばだ――次、相見える時は」

 

「その時も仲良くしよね」

 

「――――ああ、そうだな」

 

 そうして消える。世界に色が戻り、周囲に人が戻ってくる。

 

「ふぅ……はぁー」

 

 息を長く吐いて、吸う。強張っていた筋肉を緩めて、力を抜いた。首を曲げれば小気味のいい音がなる。

 

「ふぅ……よし」

 

 ルキの姿やあの存在感は脳裏に焼き付いていた。だからこそ、理解できる。

 

 今の自分では決して勝てない。

 

 至るべき境地に至らねば絶対に届かない。だから手を伸ばし、駆けあがる必要がある。そのために自分たちは数日後にはドイツに、彼の地に向かうのだろう。そこで切っ掛けを得なければならないのだ。

 

 ポケットに入っていたスマートフォンが鳴った。鈴だった。よく見れば今鈴だけではなくて一夏やセシリアたちからも何件も入っている。結構心配を掛けたようだ。とりあえず出て、安全を報告。会話もそこそこにして、アリーナを出る。

 屈伸して、

 

「ん」

 

 両の頬を思いきり手のひらで挟む。バシンという音が鳴った。

 強くならなきゃなぁ、と思う。出来たばかりの友達に並び立つ為に。

 

「んじゃ、ま。とりあえずドイツまでは走ろうかなぁ」

 

 

 




次回からシリアス展開で。
それと終わりのクロニクル要素が結構強くなりますよー

一応、知らなくてもいいように書くようには努力します


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