狂いのストラトス Everlasting Infinite Stratos 作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定
IS学園第3アリーナ入学翌日。気持ちいいくらいの晴天の中、二人がいた。 一人は金髪ロールの少女。その身体にコバルトブルーの機体を纏っており、何より目にはいるのは長大なビームライフルだ。さらに は彼女の身体から独立して浮遊するビット。 彼女──セシリア・オルコットはそれらをまるで騎士の槍と盾のごとく携えていた。
もう一人は黒髪の少年。 その身体に無骨の銀灰色の機体纏っているが、手にしているのは右手の近接用ブレードが一振りのみ。だが、決して軽装というわけ ではない。すでに少年──織斑一夏からにじみでている剣気と合わさって感じさせる印象は武士。
空を飛ぶことなく一夏とセシリアは距離二十メートルほど離れて、向かい合う。
「いい天気ですわね」
「だな」
「──こんな日なら負けても気持ちいいと思いますわよ?」
「──へえ。セシリアは負けた後のことが心配なのか」
「あら、なに言ってますの? 一夏さんが負けたときの話しでわよ?」
「面白い冗談だな。誰が、誰に負けるって?」
「あなたが、ですわよ。大体訓練機を使って私に勝てるとでも?」
「余裕だな」
「……ふ、ふふふふ」
「ははははは」
『…………………もういいかお前ら。時間が押してるんだ』
乾いた笑いを浮かべ、そして目が笑っていない二人にスピーカーの声が降り注ぐ。 アリーナの管理室にいるであろう千冬だ。
『ルールは二つ。ISのシールドエネルギーが零になった時と降参した時を決着とする。これは今朝織斑から申告があったルールだが、 異存はないな?』
「はい」
「はい」
『よし、では早速始めるぞ』
空気が、張り詰める。 一夏の剣気とセシリアの中てようとする気配──射気とでもいうのか──が高まっていく。 一夏とセシリアは互いに笑みを浮かべ、
「織斑一夏、機体『打鉄』──」
「セシリア・オルコット、機体『ブルー・ティアーズ』──」
『試合──』
「──参る!」
「──参ります!」
『──開始!』
・・・・・・・・・・・
一夏はことISに関してはセシリアよりも圧倒的劣っていると分かっていた。なにせ自分の稼働時間は精々十数分。対して代表候補生 であるセシリアは300時間を超えるらしい。 話にならない。 せめてと思い、朝から打鉄を使わせてもらったがそれでも動きの確認や自己の感覚との誤差を修正したくらいだ。 唯一救いだったのはクラスメイトののほほんさん(本名は教えてくれなかった)がセシリアの機体について何故か教えてくれたこどた。
イギリス製BT兵器実験機第三世代IS『ブルー・ティアーズ』 。 主な武装はビームライフルとセシリアの意思に従って自律する小型ビット『ブルー・ティアーズ』。それに近接用小型ブレード。
明らかに、中遠距離型の機体だ。
それが分かった瞬間に一夏の戦法は決まった。
離れたら『打鉄』装備では話しにならない。それに昨日のセシリアとの会話の後では重火器の類も使えない(使う気もないが)。故に、 一夏が選んだ戦法は、
(一気に接近して、斬り伏せる!)
開始合図の瞬間に前に飛び出す。それと同時に
「……っ!」
それまで一夏の顔があった所に蒼い閃光が走った。目を、見開く。何かなんて分かりきっている。 セシリアの狙撃だ。 速い。開始の合図からまだ一秒すら経っていないのに。
意識を慣れないISの操作に向けていたとはいえ一夏が気づけなかったほどだ。セシリアを見ればライフルを突き出した状態で、目を 見開き口が小さく動いているのが分かる。 外れた? と。
互いの戸惑いは一瞬。
「──!」
一夏は加速し、セシリアは狙撃する。狙いをつけているのか怪しいが、寸分違わず一夏の各急所に放たれた。 それを一夏は回避なんてしない。
全て切り落とす。
普段から光速の抜刀を行う一夏からすれば見切るのは容易い。自身の得物でない近接用ブレードでは鞘もなく、全力で振ればブレー ドそのものが自壊するかもしれないので速度は音速を軽く超えた程度。無論、斬撃により速度を落とすことなど有り得ない。 むしろ、勢いを増していく。
数秒で自分とセシリアの距離を半分に詰める。 さらに
「ブルー・ティアーズ!」
「まずは踊ってもらいますわよ! 私と『
「生憎刀振ってばっかだったからなぁーー」
言葉の途中でレーザーが放たれる。 切り落とす。 だが、すでに数発分チャージされていたらしく連射してきた。それらも切り落とし、軽く跳躍。二つの内より地面に近い方を踏み潰 す。ビットごと地面が砕かれた、それの衝撃を利用してもう一方を蹴り上げる。破壊までは至らなかったがぶっ飛んだ。
「ーー踊れねぇよ、そんなの!」
そして、前へと加速─しようとして本能的にやめた。
「!」
腹と胸辺りに横一閃の光線が走る。 横から来た別のブルー・ティアーズの狙撃だ。 ブルー・ティアーズとは結構離れているので、光線自体に対処する。横から伸びているので斬っても効果は薄い。傾けていた体をさ らに前に倒す。地面スレスレに顔を近づけてくぐり抜けた。顔を上げて視線をセシリアに向ける。狙撃をすべて打破し進む一夏を前に し、それでも彼女は笑みを浮かべていた。 再加速し、距離を詰め、
「……シッ!」
振った。下段からの一刀だ。 それに対しセシリアは、
「お行きなさい」
ブルー・ティアーズを一基、割り込ませた。
「!?」
意図は読めないし、動き止められない。振り上げた一刀はブルー・ティアーズに刃を食い込ませ、
「うおっ!?」
爆発した。四基あるレーザー放つビットではなく、二基しかないミサイル型だ。それの内蔵されたミサイルが爆発したのだ。互いの シールドエネルギーが削られ、たまらず一夏も後ろへ跳躍す。ブルー・ティアーズを一基犠牲してセシリアは一夏と距離を取った。
「おいおい、それ一応主武装じゃないのかよ。いいのか? そんなに簡単に無くしちまってよ」
「構いませんわ、最終的にあなたを倒すのなら」
「はっ、言ってろよ」
・・・・・・・・・・・
セシリアはレーザーを連射する。狙いをつける時間は零に近い。さらに同時に残ったブルー・ティアーズも稼働させながら。全ては 一夏に接近を許さない為だ。如何に訓練機といえども彼が振るえばただでは済まない。避けるのも無理だ。先ほどは彼の速度を見極め るために動かずに迎撃したが理解した。自分では織斑一夏の一刀を見切れない。なんとかブルー・ティアーズを一基犠牲にして防いだ が、何度もできる回避方法ではないしその前に想定外にもう一基潰された。
だから、セシリアはひたすらに距離を取る。距離を取り、レーザーを放ち、隙を窺う。空に上がれば一方的に攻撃できるが、セシリア はそれを選択しない。一夏は地上での動きならともかく、空中の動きには慣れていないからだ。
舐めている、わけではない。 余裕と言ってほしい。 有利になるくらいなら、自らから不利を選ぶのがセシリアの思う貴族だ。
常にセシリアが胸に秘める言葉だ。
(……そういえば)
昨日は聞き損ねたが、彼にも何か彼なりの信念があったはずだ。
「そういえば一夏さん」
「なんだよ」
「昨日の話しの続きを聞かせてもらえませんか?」
「んー、あれか。……でもなあ、今刀も鞘もないから話しにくいな」
「なら、使えばいいじゃありませんの。別にシールドエネルギーがなくなる前ならISから降りても負けにはなりませんわ」
「…………でもなあ」
どうやら彼は乗り気ではないようだ。呑気に顔をしかめている。因みにこの会話中もレーザーは途切れていないし、一夏も全て落と している。
「なら、いいですわ」
「え?」
「──────使わせるだけですの」
瞬間、セシリアは全神経をライフルとビットの銃口に集中させる。
中れ。 当たれ。
それだけを願い引き金を引き、ビットからレーザーを発射させる。 都合四本。 同時に放たれた、一夏へと走る。二本だけは分かりやすく急所を。あとの二本は急所ではないが、それ故に意識の低い箇所。だが、そ れでも一夏は全てに反応する。呆れる反応速度と把握能力だ。瞬時に弾道を把握し、刀を振るう。
一瞬四閃。
ほぼ、同時に一夏が先読みした弾道へ振った。 振って、
「!?」
空振りした。
レーザーが刀に斬られる直前に
刀を振り抜いた一夏はレーザーが曲がったことは認識するが、体は付いていかない。故にレーザー四本は余すことなく一夏に突き刺 さり、
「があぁぁぁ……!」
爆煙を上げながらシールドエネルギーを大きく削った。
イギリスの開発部の研究者は理論上可能でも未だに未確認らしいが、
(やればできるものですわね)
「──さて、一夏さん。いい加減ダンスの時間は終わりにしましょう」
・・・・・・・・・
「ああ……!」
その瞬間、観戦していた一年一組の生徒たちは息をのんだ。
・・・・・・・・・
「……ようやくか」
その瞬間、腕を組んだ箒は楽しそうに笑みを浮かべた。
・・・・・・・・・
「おおー、こっからだねー」
「そうだね、来るよ。その時が」
その瞬間、のほほんさんは笑顔でお菓子を頬張り、簪は意味もなく右目を抑えた。
・・・・・・・・・・
「ああ! 大丈夫ですかね、織斑くんっ」
「………………………………やはりこうなったか」
その瞬間、真耶は純粋に一夏を心配し、千冬は諦めたように嘆息した。
・・・・・・・・・・
「……しょうがないよあれは訓練機だもんいっくん動きについていけないからだよちゃんと専用機を使えばいいんだよだからしょうがな いよしょうがないよ………………ぐすっ」
その瞬間、どこかの場所で試合を見ていた束は涙目だった。
・・・・・・・・・・
その瞬間、セシリアはさらにレーザーを叩き込んでいた。 偏向射撃《フレキシブル》を利用してフェイントを幾重にも重ねた射撃。 だがそれは────
チンチンチンチン!
四回の小気味よい音と共に断ち切られた。
「これは……!」
煙が晴れていく。そこには銀灰色の『打鉄』の姿はない。 『打鉄』はそこらへんに転がっている。
白。
何者にも、何物にも染められない白がそこにいた。 先に
「──ああ、そうだな。セシリア」
織斑一夏は自然体、脱力しているとも思わせる姿勢で、
「──ここからは戦争の時間だ」
光の速度で抜刀した。