狂いのストラトス Everlasting Infinite Stratos   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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推奨BGM:力を見つけて(ホニメⅡ)

嫌気と虚栄。
その涙を止めるのは?


第肆話

 

「久しいな、とでも言うべきか?」

 

「……別に」

 

 南西区にあるグラウンドの一つにて、ラウラ・ボーデヴィッヒとクァルトゥムは向かい合っていた。IS学園は言うまでもなく広大でグラウンドはいくつか存在する。ソレらの中でも特に広い、縦横三百メートルほどのグラウンドに二人はいた。ラウラは普段通りの軍服。クァルトゥムは黒の装甲服。モンド・グロッソでラウラが見た物と色違いではあるが意匠は酷似している。

 

「ふむ。その装甲服、なにかあるのか?」

 

「別に、知らないよ。興味もない」

 

 ラウラが語り掛けるも取り付く島もない。興味なさそうに、実際興味の欠片もなく、ラウラを視界に入れることすら億劫そうに相対している。肉体年齢的に見れば十歳前後の幼い少女がそれだけにアンニュイな様子はいかにも不自然だ。それでもこの少女はそうであるのが当然のように感じさせる何かがあった。それはラウラですら感じる。彼女が敬愛する織斑千冬と容姿が酷似した少女であるにも関わらず、あの鋭利な雰囲気とは正反対の鈍のような気配であるというよに。

 ふむ、とラウラは一つ頷く。

 おかしいと思う。何かしらの絡繰りがあるのは間違いなく、それを気づかなければならないだろう。

 それでも、

 

「あぁそうだな。今更語るような間柄でもないか」

 

 こうして戦場で相対し、殺意と戦意を交わしているのだ。細かい事情などはこの期に及んで論外だ。元々ラウラ自身意思疎通というのは得意ではない。

 戦うことこそがラウラ・ボーデヴィッヒの本懐だ。

 

「ドイツ軍IS部隊『シュバルツェア・ハーゼ』隊長及びIS学園一年一組、ラウラ・ボーデヴィッヒ」

 

「……?」

 

「名乗れ小娘。戦の作法も知らんのか」

 

「……八大竜王嫌気(アーケディア)クァルトゥム」

 

 ――交わされた名乗りが開戦の合図だった。

 

 

 

 

 

 

 南西区でラウラとクァルトゥムが名乗り合いをするのとほぼ同時。

 南区、シャルロット・デュノアとセクストゥムが転送された領域だ。学園の寮の屋上の二人は同時に転送され、

 現れたセクストゥムに数十本の苦無の刃が叩き込まれた。

 

「――」

 

 針鼠のようにセクストゥムの全身を覆う黒塗りの暗殺用の刃。灰を使って焼き入れを施し、さらには墨で塗ったことで光に反射することのない戦うためではない殺すための武器。さらにはシャルロットの異能である気配操作によって周囲の空間に紛れ込ませ、事前に察知することを赦さない暗殺行為だった。

 しかし、

 

「こっすいわねぇ」

 

 セクストゥムは無傷だった。数十本の刃は余すことなくセクストゥムの装甲服や露出した体に命中している。しかしそれでも傷は無い。当たってはいるが、刺さってはいない。殺すためだけに研ぎ澄まされたシャルロットの攻撃が殺すことができなかった。

 

「あっちゃぁ」

 

 バラバラと音を立てて苦無が屋上の床へ落ちていく。同時にセクストゥムの正面にシャルロットの姿が現れる。袖無しの緑の忍装束に口元から全身を覆う外套。見るからに軽装で今の攻撃を放ったのならばこれ以上の武装がある風にも見えない。それでもシャルは気にした様子もなく苦笑する。

 

「無傷っていうのは傷つくなぁ」

 

「はっ、そんなせこい攻撃が通じると思ってるの?」

 

「そりゃあ僕は戦士でも剣士でも軍人でも侍でもなく、忍者だ。暗殺者だから。真っ向方戦う人種じゃあないんだよ」

 

 それでも困ったなぁとシャルロットは思った。今の強襲はシャルロットなりに本気の全力の攻撃だった。それでも相手は無傷だった。倒し切れるとは思っていなかったが、それでもいくらかの手傷を負わせるつもりだった。それがダメージゼロ。言った通りに彼女は暗殺者なので真っ向から勝負することは不得手だ。

 

「でも、まぁ。頑張んないとなぁ」

 

 ここに来る前に簪の声が聞こえたのだ。

 勝ってと。

 帰ってきてと。

 終わらせてくれと。

 たぶん今の自分たちにはその言葉の真意を解っていない。一足先に太極という領域に足を踏み入れた簪が知ったことをまだ知らない。けれど、簪の言ったことだ。彼女が自分たちに伝えてくれたことだ。

 

「応えないとね」

 

 シャルロットが両手を広げる。それで目に見える変化は無かった。ただヒュンヒュン(・・・・・・)tという風斬り音が周囲に響く。

 

「んじゃあまぁ、あんま得意じゃないけどね。真っ向勝負やってみようじゃないか。えっとなんだっけ? こういう時は名乗りってラウラが何時だったか言ってたなぁ」

 

 一つ頷いて、

 

「IS学園一年一組シャルロット・デュノアだよ」

 

「八大竜王虚栄(ケドノシア)、セクストゥムよ」

 

 

 

 

 

 

「Panzer」

 

 静かに呟くラウラの背後にパンツァーファウスが並んだ。黒赤黄にカラーリングされたソレだ。かつては彼女自身が火薬を弄り、通常の数倍の火力を保有していた。そして今は、

 

「――腐滅しろ」

 

 無価値の炎が宿されている。学園祭においては加減ができず、広範囲にまき散らすだけしかできなかったが今は違う。この数か月の修練にて細かい操作が可能だ。その一端として本来の火薬の代わりに腐滅の黒炎が込められている。

 

「Feuer」

 

 腐敗が火を噴く。反天使(ダストエンジェル)としての能力であるが為にそれは例え格上だろうと、神格だろうと倒せるだけの神殺しの異能だ。故にそれはクァルトゥムにも明確な損傷を与えられる。 

 当然ながら当たればの話だ。

 

「……うざいなぁ」

 

 クァルトゥムを中心にして黒紫の靄が発生した。

 

 それが弾頭や無価値の炎を完全に遮断した。

 

 かつて学園祭でラウラ自身も受けたそれは、

 

「嫌気か……!」

 

「Jud.そういうことだ。操るのに大罪武装なんて面倒臭いものは要らない。物好きに使っているのもいるけど……僕には必要ないね」

 

 クァルトゥムの周囲に展開された嫌気の靄は無制限に発生し黒炎を防ぐが、クァルトゥム自身に動きはない。だらりと手を下げているだけだ。

 

「戦うのも面倒か?」

 

「あぁそうだよ。面倒臭い。嫌で嫌でしょうがないね」

 

「ガキが、ならば家に帰って布団でも被っていろ」

 

「生憎そうしたいけどできないんだよ。……それに、別に体を動かさなくても十分だ」

 

 クァルトゥムは動かない。軽く一睨みしただけだ。だが、それだけの動作で、

 

「く……っ!」

 

 ラウラの左目と胸に靄が発生し纏わりついていた。“嫌気の怠惰”の超過駆動によって受けた嫌気の箇所と全く同じだ。しかしその拘束の度合いは数十か、数百倍。ただ動きを止めるだけではなく締め付けるような不動縛。常人ならば一瞬で砕かれる強力な戒めだ。

 

「言ったでしょう? 必要ないって。睨むだけで、あとは本人から勝手に嫌気が生まれてくる。まぁ、その……貧乳気にしてたんだ?」

 

「否! 私はただ教官のようになりたかっただけで貧乳そのものを気にしてなどいない!」

 

「それを気にしてるっていうんだよ」

 

 やかましい。

 思いは一瞬であり、行動もまた刹那だった。

 

「冥府の魔犬よ――!」

 

 ラウラの背後から三叉の鎖が召喚される。それには頂点に獣を模した意匠が施されていた。彼女のIS『シュバルツェア・レーゲン』が己の主に応えるために最適化した武装だ。それは言うまでもなく咢に黒炎を宿し左目と胸の嫌気や喰らう。その上で、

 

「アクセス――ディス・パテル。富める者よ、汝の鎌を此処に」

 

 手刀を振るう。物理的な腕の長さで絶対に当たらないはずの行動は、当然尋常ならざる行為だ。振られた手刀は十五閃。その軌跡の通りに無価値の炎は斬撃となって飛ぶ。滅多打ちされた黒刃の波動はグラウンドの大地を腐らせながら、音の壁をぶち抜いて発生した水蒸気爆発すらも腐滅させクァルトゥムに。

 嫌気の靄と激突する。だが、数瞬拮抗するも嫌気に絡めとられて無価値の炎が消えていく。

 

「だから効かないって」

 

「だろうな――顕現せよガァプ、ナベリウス」

 

 クァルトゥムの小さな驚きは真上から発生した。黒刃を消去したのを目くらましとして同時にラウラはクァルトゥムの頭上へと跳躍、否転移していた。

 さらに中空にて三叉の魔犬が咢に黒炎を蓄える。左頬の刺青が黒く輝きそこから溢れる黒炎が魔犬たちの砲火となっていく。大きさにすれば野球ボール大ほどでしかないそれは、大きさは変わらずに密度だけを加速度的に増していく。

 放たれた。

 

「……ちっ」

 

 舌打ちはクァルトゥムのもの。頭上から落下してくる三つの炎球を一瞥し、選んだの回避だった。軽く膝を沈め跳躍する。人間離れした膂力で行われたそれは一足飛びでグラウンドの中心部から端まで百メートルばかりを一瞬で移動し、

 

 大地が爆散する。

 

 グラウンドの全域が一瞬で蒸発し腐滅し、腐りきっただけの焦土へと変生する。常人が嗅げば一瞬で錯乱しかねない協力な腐臭が南西区画に充満する。そして腐臭だけではなく大量の瘴気。これも常人が触れれば魂が蹂躙されかねない。

 それでも今更言うまでもなく、ここに只の人間はない。

 腐滅した大地の中央にラウラは立つ。周囲に蔓延る腐臭も瘴気も、未だに残った黒炎も全て構わない。

 

「はっ! 避けたなガキが。なにもかも面倒じゃなかったのか! 避けるのも面倒と言って受けんかアマチュアが!」

 

 嘲りを載せた哄笑を受けたクァルトゥムはしかし揺らがなかった。凄惨な笑みを浮かべるラウラへと気だるげな瞳を僅か細ませて吐き捨てる。

 

「この戦闘狂(ウォーモンガー)が」

 

「あぁそうだ。――私は戦争が大好きだよ」

 

 

 

 

 

 

 シャルロットの五指の駆動。関節部を複雑怪奇に蠢き、

 

 寮が丸ごと細切れに裁断された。

 

「う、お、ちょお!?」

 

 足場が崩れ、セクストゥムが跳躍しようとしたが叶わなかった。全身が動かない。指の一本すら。まるでなにかに絡めとられたように。

 なにこれやば、とセクストゥムは思った。思い、全身に力を入れてその何かを引きちぎる。引きちぎるが、それでも風斬り音と共にまた体に纏わりつく何かは増殖しセクストゥムの自由を奪う。

 

「この……!」

 

 膂力で言えばセクストゥムのそれは八大竜王の中では最下位だ。単純に産み落とされたのが最後発ということもあるし、設計的(・・・)にそういう風に作られていない。また拘束を抜け出すだけの精密な技術を持ち得ているわけでもなかった。

 だから、彼女はシャルロットの業に抗うことはできず、

 

「そいやっ」

 

 シャルロットが間の抜けた声と共に腕を振り、それに伴うようにセクストゥムもぶっ飛ぶ。引きずられるように瓦解した寮へと落とされる。

 

「デュノア流忍法地獄巡り!」

 

「なんか違うでしょそれぇ!」

 

 セクストゥムからも突っ込まれたが慣れた物なので構わずにシャルロットはセクストゥムを振り回す。ジェットコースターとミキサーの気分を同時に教えられる。それで傷がつくことはないが、不快は不快だ。数十回にもおよび、何度も地面や瓦礫に叩き付けられて、

 

「こ、こんな、の……全然っ、あいたっ……なんてこと! ないんだからあいたぁー!」

 

「やだなぁ、嘘言わなくてもいいよ?」

 

 拘束が解かれた。解かれたが頭に血が上り、目が回っていたのですぐには反応できなかった。 必然的に慣性の法則によって大地を抉りながら滑っていく。傷ができたわけではないし、装甲服に汚れが付いただけだ。口の中に入った土を吐きだしながら見たものは、

 

「デュノア流忍術風穴大噴火」

 

 派手にカラーリングされたパンツァーファウストとRPG7を両肩で構えたシャルロットだ。

 

「……それ忍者的にどうなのよ」

 

「デュノア流的には問題ない」

 

 引き金が引かれた。二つの弾頭が火を噴く。単なる火薬ではなく簪が改造した崇徳概念により祝福儀礼が施されている。罪があれば罪があるだけダメージが増えていくのだ。それを見たセクストゥムの動きは迅速だった。

 自己の概念格納庫から武装を取り出して引き金を引く。シャルロットの砲撃を上回る轟音が響き爆炎と爆風をぶち抜く。

 

「とおっ!?」

 

 驚いたように飛びずさったシャルロットの声を聴きながら爆炎の中でソレを構え直す。

 

「かっこいいでしょう?」

 

「……それは流石に僕でも中々使わないなぁ」

 

 セクストゥムが手にしていたのはパイルバンカーだった。両腕で抱えるほどの大きさで、白亜の機殻(カウリング)とビーズなどでデコレーションされている。明らかに実用性皆無で、ただの装飾目的のそれを見て、

 

「見栄っ張りだね」

 

「解ったような口を聞くのはやめてもらってもいいかしら? 吐き気がするわ」

 

 パイルバンカーの引き金を引く。通常のそれは杭に留め具が付いているが、セクストゥムのそれにはなかった。それはつまり一種の大砲と同じだ。そして杭そのものがセクストゥムの罪によって形成されている。

 即ち、

 

「アンタには防げないよわね?」

 

「っ……!」

 

 音速の数十倍で射出中の杭に苦無を放ち、砲火を放つが止まらない。物理法則を無視するようなそれは、

 

虚栄(ケドノシア)……!」

 

「Jud.! 私が虚栄を抱き続ける限り、私は自らを損なわない! そして私は虚栄の八大竜王! 私の中からそれが消えることなど在りえない!」

 

 連続して放たれる杭はシャルロットにとっては脅威だ。セクストゥムが八大竜王の中で膂力に劣るように、シャルロットもまた仲間内では耐久力はかなり低い。あれが一発当たれば致命傷だ。

 

「これはまいったなぁ」

 

 言いながら、シャルロットは回避に専念する。極限まで気配を薄め、周囲を飛び跳ね迫る杭を回避する。それでも地面や遠く概念壁に激突した際にまき散らされる破片が細かい傷を作っていく。虚栄の加護は杭だけではなく彼女自身にもかかっているだろう。

 つまり現状、シャルロットではセクストゥムに傷を付けられない。

 

「くっ……!」

 

 

 

 

 

「……戦争が好き、か。バカみたいだ。どうでもいい。どうでもいいどうでもいいどうでもいいどうでもいいどうでもいい嫌だ嫌だ嫌だ――」

 

 自身へと降り注ぐ腐滅の炎に対して、クァルトゥムは変わらず思う。どれだけ放たれたのか。どれだけ喰らったのか。気だるげにただ視線にて対処するクァルトゥムに解らない。解りやすく放たれる腐炎に交じり、こちらの認識外からも攻撃は来る。それは嫌気の靄を増やせば問題。

 問題ないが面倒だ。 

 ならばどうすればいい。

 この面倒事を終わらせるにはどうすればいい。

 あぁ――そんなのは至極簡単だ。

 

「死ね」

 

 言葉と共にクァルトゥムは自身の神威を完全に解放した。

 

「――!」

 

 ラウラの驚愕など知らない。構う気もない。どうせこれから殺すのから。それすらも正直に言えば面倒だし、嫌だけれど彼女を殺せば守護の一角は削れるのだ。ならば、ココで消せば面倒は減る。 だからこそ、

 

『――太・極――』

 

「――ベリアル!」

 

 特大の黒炎が放たれた。分割された八分の一の大地どころか島全体を腐滅させるだけの規模を持つ炎。それが刹那にてクァルトゥムに放たれ、

 

随神相(カムナガラ)――神咒神威・嫌気の怠惰』

 

 嫌気の神威が全て消し去った。

 そして同時にクァルトゥムの背後に生じる巨大な影。山ひとつ分はあるであろうそれは大罪の具現。嫌気を担う巨大な竜。かつての林間学校で見たのと同規模の、しかし感じられる神威は桁違い。

 

「これは……!」

 

 そしてラウラを驚愕させたのはかつて見たヴィジョンに出てきた大機竜がそのまま巨大化したようなものだったから。あの時みた高潔さすら感じさせる意志はどこにもなく、クァルトゥムの大罪に塗れたなれの果て。

 八大竜王。

 嫌気の大罪。

 流れる血涙は尽きぬ感情。

 それこそがこの竜の全て。

 

「■■■ーーーー!!」

 

 竜が吠える。

 世界を揺るがさんばかりの大轟音は概念壁に亀裂を入れ、

 

 ラウラの全身を嫌気の靄が包む。

 

「あ、が……!?」

 

 完全に開かれたことによって強まる不動縛。ラウラですら動けず、思わず声を漏らすほどの激痛。僅かでも力を抜けば自分の体が粉微塵になると理解できる。刺青から無価値の炎が湧き上がるも片っ端から嫌気によって消えていく。

 

「もう終わりだよ。さっさと死になめんどくさい」

 

 最後通牒を気だるげに。しかし必殺の意志を以て。

 それをラウラは抗えない。全身全霊を振り絞っても、どうにもならない絶対絶命の中で――

 

 ラウラ・ボーデヴィッヒは笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「弱いわ貴方。そうよ、私は負けないわ。私は強いわ。大丈夫よ、大丈夫だから、心配することなど何一つないんだから――」

 

 無制限に放つ大罪の杭。それは少しずつシャルロットを掠める回数が増えてきた。おそらく遠からず当たる。当たればこちらの勝ちだ。負ける理由などどこにもない。セクストゥムはそう認識した。それは間違っていない。このままではシャルロットがどう足掻いてもセクストゥムには傷一つつけられないのだから。

 ならばこれ以上は時間の無駄だ。

 今すぐ終わらせよう。

 ならばどうすればいい。

 最も見栄え良く終わらせるにはどうすればいい。

 あぁ――そんなのは至極簡単だ。

 

「死になさい」

 

 言葉と共にセクストゥムは自身の神威を完全に開放した。

 

「――!」

 

 シャルロットの驚愕など知らない。構う気もない。どうせこれから殺すのから。可及的速やかに、圧倒的な力のが最高だ。彼女を殺せば守護の一角は削れるし。ならば、ココで消せば華々しい戦果となる。

 だからこそ、

 

『――太・極――』

 

「この――!!」

 

 耳をふさぎたくなるほどの風斬り音。この正体は既に看破していた。極細の鋼糸だ。それが全身に纏わりつけば人体などバターよりも容易く殺傷できる。広範囲を殲滅するのではなく、ただ個人を殺すためだけの武芸は、

 

随神相(カムナガラ)――神咒神威・虚栄の降臨』

 

 虚栄の神威が全て消し去った。

 そして同時にセクストゥムの背後に生じる巨大な影。山ひとつ分はあるであろうそれは大罪の具現。虚栄を担う巨大な竜。かつての林間学校で見たのと同規模の、しかし感じられる神威は桁違い。

 

「熱っ……!」

 

 それは熱の竜だった。全体が莫大な熱エネルギーで構成された長大な竜。腕も足もない蛇のような竜だった。何重にもとぐろを巻き、口から出た舌でさえもが熱の塊。その熱全ては浮かれたようなセクストゥムの熱。

 八大竜王。

 虚栄の大罪。

 流れる血涙は尽きぬ感情。

 それこそがこの竜の全て。

 

「■■■■ーーーー!」

 

 竜が吠える。

 世界を揺るがさんばかりの大轟音は概念壁に亀裂を入れ、

 

 刹那動きが止まったシャルロットに大罪の杭がぶち込まれた。

 

「……!?」

 

  悲鳴は喉から溢れる血が全て潰してしまった。腹にぶち込まれた杭はシャルロットの腹に巨大な風穴を開ける。杭の直径がもう数センチ大きければ上半身と下半身が両断されていただろう。それでも内臓の半分以上は潰れてしまった。

 

「終わりよ。最後はせめて美しく散りなさい」

 

 最後通牒は高らかと。しかし必殺の意志を以て。

 それをシャルロットは抗えない。全身全霊を振り絞っても、どうにもならない絶対絶命の中で――

 

 シャルロット・デュノアは笑っていた。

 




ちょっと描写不足かなぁと思ったり。
もっと書けよコラァとかあったら遠慮なくお願いします

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