狂いのストラトス Everlasting Infinite Stratos 作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定
「ちょっと遠いな」
しゃらーん!
一夏は光速の速度で抜刀した。鳴った音は先ほど連続した小気味よい音ではない。少し間伸びた音だ。それの瞬間、やはり刀身は見 えなかった。 だが、
「なっ……!」
離れているセシリアのレーザーライフルが縦に断ち切られた。明らかに刀の範囲を超えている。
「こいつらも……鬱陶しいな」
しゃらーん!しゃらーん!しゃらーん!しゃらーん!
またも刀身は見えない。鍔なりの音だけだ。それでも、残っていたブルー・ティアーズが全て落とされた。
「……なるほど、これは厄介な」
セシリアは予想以上のモノができたことに冷や汗を流す。見切れないどころの話しではない。まったく見えない。
──音だけ。
音しかしない。おまけに一夏自身の手も霞んで消えるから予測も不可能。 ていうか、
「なんで刀なのに遠距離攻撃できるんですの?」
「それはあれだ、気合い込めて思いっきり振ったらなんだかんだで斬撃が飛ぶんだよ」
そんなわけがない。 でもまあ、
「やっと面白くなってきましたわ」
呟き、セシリアはISを
「おいおい、どういうつもりだよ。いいのか?」
「分かってるでしょうに、意地が悪いですわ」
口元を歪める。セシリアはISの
「なんだそれ、言っただろ。ダンスは終わりだって」
「ええ、分かってますわよ? これはただの正装ですわ」
足でトランクケースを開けて中身を蹴り上げる。それはデザートイーグルの二丁拳銃。
「おいおい、カッコいいな」
「あなたの刀もかっこいいですわね」
「サンキュ、てかそれってそういう風に使う銃なのか? 二丁拳銃なんてマンガや映画の世界だけじゃないのかよ」
「それはあれですわ、ほら。淑女スキルですよ」
「そんなの淑女じゃねえよ」
「細かいことを言うと──」
セシリアはデザートイーグルを突き出し、
「──嫌われますわよ!」
ダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダン!
引き金を引いた。吐き出された50口径マグナム弾が、二丁の弾倉16発分余すことなく一夏へとぶちまけられる。 一発一発が普通の人間を絶命しうる威力を持ちうる。
だが──。
チンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチン!
一つ残らず余すことなく不視の斬撃に断ち切られる。一夏の足下に二つに分断された銃弾が転がる。一発につき一閃。十六発に対し 十六閃。 否──見えないのだから、一も十六も変わらない。人間離れした荒技を見せた一夏はしかし、自然体。
「あら……? これでは足りませんか」
「おう、足りねぇよ」
「では」
セシリアはトランクケースから弾倉を蹴り上げ、装填。
「こんなのはどうでしょう?」
さらにトランクケースからなにかを蹴り上げた。 何かではない。
二丁のデザートイーグル。
無論、セシリアは既に両手に二丁のデザートイーグルを握っている。それにもかかわらず新たな武装。一夏も他の観客も意味が分か らなかった。
両手で
「────────」
握っていた二丁を
すなわち、四丁拳銃。
ダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダ ンダンダン!!!
掟破りの四丁拳銃に対し一夏は、
「───────」
チンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチンチ ンチンチン!!!
全て切り裂いた。 四丁の拳銃を使って連射するセシリアもセシリアだか、それを全て切り裂く一夏も一夏だ。
「足りない」
「これでも、ダメですか……」
セシリアは残念そうに呟き、
「なら次は八で行きましょう」
さらにトランクケースから四丁のデザートイーグルを蹴り上げた。
・・・・・・・・・・・・
迫る弾丸の悉くを切り裂く。すでに一度に迫る弾丸は五十を越えた。さらに言えば、セシリアの
一夏の斬撃には剣気のみが宿ってた。
「なあ、セシリア。足りねぇよ」
一夏が初めて刀を手にしたのは五歳の時だ。一夏はその時から刀を振り続けた。正確に言えば刀を抜き、戻す。 ただそれだけの動作に一夏はどうしようもなく魅入られた。 だから、
「俺は毎日毎日抜刀と納刀を繰り返した」
体が痛かろうと、熱を出そうと、腱が切れようと、肉が裂けようと、骨が砕けようと。ただ愚直に刀を振り続けた。 刀を抜いて、刀を振って、刀を納めた。 ただ、それだけ。
「二つ目の理由はな、俺が抜刀術士だからだ。剣士にとって剣が魂のように、抜刀術士にとっては刀と鞘が魂だ」
いつの頃からか、一夏から斬ったという自覚が消えていった。自己の意識と腕と一刀の意識が乖離しだしたのだ。 一夏自身が斬る対象を認識し一夏の意志で動く前に、腕が動き鞘から一刀を引き抜き対象を切り裂く。 中国拳法の練功剄拳と同じ技術。 無拍子、無意識、無殺意、ありとあらゆる雑念はなくただ、そこにあるのは剣気のみ。 かつて、一夏の知り合いの中国拳法を極めたヤツはそれでは意味がないとも言っていたが、それこそ意味がない。 一夏の一刀は一夏の魂だ。 だから、込める。
斬る、と。
それは織斑一夏の全て断ち切りたい、という渇望の具現だ。 拍子は無く、意識も無く、殺意もない。 ただ斬るという概念のみが内包された抜刀術。
曰わく─────無空抜刀。
「自分の半身を、魂を会ってすぐのヤツに渡すわけないだろ」
・・・・・・・・・・
「……なるほど」
セシリアは理解した。 否、理解したと言うのは言い過ぎかもしれない。
「少しは触れることができましたわ、貴方に」
「ん? そうか、それはよかった」
「ええ」
この男はつまり馬鹿なのだ。 自らの技量にしか興味がないのだろう。
「ふ、ふ」
歪んでいた口元からさらに音が漏れた。
「ふふふふふ」
面白い、愉しい。
「最高ですわ、貴方」
「サンキューな、セシリア。お前もいい女だぜ」
「あら、お上手ですわね」
知りたいことは知ることができた。 もう、ほとんど満足と言ってもいい。 だから最後は、
「────終わらせましょうか」
足下の楽器ケースから新しい銃を蹴り上げる。銃というかそれは対物狙撃銃PGMヘカートⅡ。今、セシリアが持つ銃火器の中でも最 大級の射程距離と口径を誇るブツだ。
本来なら伏射姿勢で放つ銃だが、セシリアはそれを両手でしっかりと持つ。 銃身の横のボルトを引き、
「アンチマテリアルライフルですわ。貴方は切り裂くでしょうけど、流石に斬ったら体制くらい崩れるでしょう?」
「………………おいおい、なんかこの英国淑女不安なこと考えてるぞ?」
「おほほ」
「笑ってごまかしたよ、コイツ!」
引き金を引いた。
バカン!!
ふざけた爆音がなり、一夏に目掛けて空気をぶち抜き──
「────『無空抜刀・零刹那』──弐式」
どういわけか、一夏は全くの姿勢の崩れもなくアンチマテリアルライフルの弾丸を断ち切った。それまでで最も強い音が響いた。一 発斬ったはずなのに四回も。
「…………なにしましたの……?」
「教えない」
「むむ……いいですわ。自分で考えますから」
「やってみろよ」
互いに、さらに剣気と射気が高まっていく。 斬る、という意志と中てるという意志がアリーナを充満させる。 そして──
『そこまでだ、戯けども』
千冬の声がどちらも霧散させた。 ちょうど昨日と同じように。 だが、その声に込められたら疲労の度合いはヒドい。
「なんだよ、千冬姉。ここからがいいところだろ」
「そうですわよ、こっからですわ」
『お前ら……少しは周りを見てみろ』
見てみる。 セシリアの周囲には使用済み未使用関係なく大量の銃やトランクケースに楽器ケース。 一夏の周囲には切断された数えるのも馬鹿らしくなるほどの銃弾。
『やりすぎだ、馬鹿共め』