狂いのストラトス Everlasting Infinite Stratos   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

60 / 70
推奨BGM:Fallen Angel (パラロスBGM

溢れる暴食と喰らいつくしの暴食
魔弾の法則は何処に


第拾章

 セシリア・オルコットの超絶技巧により放たれた魔弾は秒間数百発を超える。かつて『蒼き雫(ブルー・ティアーズ)』と名付けられたISだったがセシリアと共に在るためにその在り方をハンドガンとして変えている。『魔群』の式の保有故にその拳銃も尋常のものではない。ハンドガンサイズでありながら、マシンガン並の連射性、バズーカ並の威力、狙撃銃並の精密性等の凡そあらゆる銃火器の最高スペックを実現している。放たれる弾丸もただの鉛弾ではなく、魔力ないし歪みで構成された魂にまで及ぶ。

 

「しゃらくさい、水しぶきかよ」

 

 それをオータムは直に受けながら、しかしそれだけだった。

 

「っ……!」

 

 命中している。当たっている。決して外れてなどいない。彼我の距離十数メートルという至近距離でセシリア・オルコットが狙いを外すことなど在りえない。実際に、これまでの彼女の生涯に於いて自分の弾丸が無力化されたことはあっても外したことなど一度もない。効果のあるなしは関係なく、絶対に当たっている。

 そして必中の理は今も尚健在だ。

 セシリアの弾丸は一つ残らずオータムへと当たっている。――当たっているはずだった。

 

「……着弾の瞬間や軌道上で、自ら弾けていますの?」

 

 彼女の目にはそういう風に見えた。オータムに着弾しても彼女にダメージを与えることなく装甲服の表面で弾け、または着弾するよりも前に弾丸そのものが破壊されている。明らかにおかしい現象だが、それにセシリアは動揺しない。

 なぜならばそれこそが、

 

「そう、これが私の『暴食(ガストリマルジア)』だ。この世界ではあらゆる力は飽食となって自壊を得る。お前さんはよくもっているけどなぁ」

 

 広げた腕が示すのはオータムの随神相内。戦闘開始と共に馬鹿げた大きさを誇る霧水の竜を生み出し、オータムはセシリアをその体内に取り入れていた。広がる世界は水に覆われている。所々に隆起した苔に覆われた大地がある。一件すれば恵みの世界でありなが、何故かそんな印象はない。苔の類は際限なく水を吸収し、足首まである水は常に流れを変えている。

 飽和と飢餓が両立する世界の中でセシリアは納得を得る。

 

「……なるほど、納得ですわ」

 

 つまりは強制的なオーバーヒートやメルトダウン。この世界の中にいる限りそういうことが起き続けるのだろう。

 オータムという女は学園祭の時においても主犯格でありながら、自ら戦ったり能力を用いることはなかった。セシリア自身暴食の罪の術式を用いるからこそ、一目見てオータムが暴食の八大竜王であることには気づいていたが、能力自体まで解るわけではない。

 けれど今、確かにセシリアはオータムの特性を知った。

 

「っ!」

 

 引き金を引く。弾丸が射出する時間は一瞬すらもない。その一瞬に吐きだされる破壊の弾丸は変わらず数百以上。常軌を逸した高速射撃(クイック・ドロウ)。恐るべきはその超絶技巧は歪みではなく彼女自身の魂から生じた技能だということ。

 しかし、

 

「駄目ですかっ!」

 

 結果は変わらない。全ての弾丸の悉くが飽食の波動を受けてその力を失ってしまう。

 

「……よくやるなぁお前。流石って言っておこうか? 弾丸飛ばせるってだけで十分よくやるよ」

 

「それはどうも。けれど、効かないなら意味がありませんわ」

 

 言葉と共にセシリアは銃を掲げた。最早通常の射撃では意味がないことは明白だ。量がメインの攻撃ではオータムにダメージを与えられない。

 

「アクセス――我がシン」

 

 故に彼女は己に眠る反天使の力を使用する。オータムの暴食(ガストリマルジア)とは同種でありながらまた別の暴食。蒼の銃身が姿を変えていく。より長く太く。一メートルほどにまで延び、銃口にはプラズマの閃光が集まっていく。

 

「これなら――どうでしょうか?」

 

 かつて数十の機竜を一瞬で屠った赤い破壊。それが銃口の中で臨界を迎え射出され、

 

「残念、無駄だ」

 

「――っあああああああ!?」

 

 その光は暴発し、伸びたばかりの銃身が破裂した。

 

「……なっ、これ、は」

 

「だから言ったろう? 飽食するって。プラズマだかなんだか知らねぇけど関係ねぇよ。お前が力を込めれば込めるほどに返し風は大きくなるぜぇ?」

 

「……ぐっ」

 

 プラズマの暴発は言うまでもなくセシリアへのダメージが大きい。右腕全体が焼け爛れ、全身の各所にも火傷がある。至近距離での暴発を考えれば、それで済んだというのが奇跡だ。焦げ臭い匂いが鼻を付き、彼女の自慢だった金髪も半ば焼け落ちている。

 

「それ、でも……!」

 

 触覚の消えた右手で残っている『蒼き雫』を握りしめる。常人ならば即死していてもおかしくはなく、この状態でも動けるのはセシリアの精神力に他ならない。

 

『イザヘル・アヴォン・アヴォタブ・エルアドナイ・ヴェハタット・イモー・アルティマフ

 ヴァイルバシュ・ケララー・ケマドー・ヴァタヴォー・ハマイム・ベキルボー・ヴェハシュメン・ベアツモタヴ

 呪いを衣として身に纏え。呪いが水のように腑へ、油のように骨髄へ纏いし呪いは、汝を縊る帯となれ

 ゾット・ペウラット・ソテナイ・メエット・アドナイ・ヴェハドヴェリーム・ラア・アル・ナフシー

 暴食のクウィンテセンス。肉を食み骨を溶かし、霊の一片までも爛れ落として陵辱せしめよ 』

 

 血に濡れた唇から零れるのは呪詛染みた詠唱。同時に拳銃に入っていた赤いラインが枝分かれして伸びていき――光の帯となってセシリアの腕に突き刺さる。

 

「っぐぅ……!」

 

 プラズマの暴発すらを上回る激痛。魂すらを蝕んでいくそれは罪を身に宿す代償。血管が浮き上がり、尋常ではない異物感がセシリアを襲う。思わず嗚咽を漏らしながらその浸食を受け入れていき、半壊した銃口に全てを溶かす酸が集まっていく。

 

 『死に濡れなさい――暴食の雨(グローインベル)ッッ!』

 

 引き金を引き――暴発。

 しかしそれがセシリアの狙いだった。暴発に壊れた銃身。それによって銃口に溜まっていた酸の波動は周囲にまき散らされる。

 

「……よくやるなぁ」

 

「意外としぶといんですの、よっ!」

 

 言葉共に拳銃サイズにまで落とした『蒼き雫』に今度こそプラズマ弾を放つ。周囲に広がった『暴食の雨』は一時的とはいえオータムの世界に生じたセシリアの領域だ。高速射撃(クイック・ドロウ)とプラズマの合わせ技。最小限の規模で最大限の威力を生み出した弾丸は確かにオータムへと放たれ、

 

「カカカ、英国淑女っていうのは喰い甲斐がありそうだぜ」

 

 腕の一振りで薙ぎ払われる。直に触れたせいでまたもや飽和し、力を失うが、

 

「対処しましたね」

 

 これまで不動だったにも関わらず、今のにオータムは反応した。つまりはこれまでのよりは彼女へとダメージを与えられる可能性があったということ。右腕を犠牲にし、暴食の雨の展開によって威力を高めてやっとそこまでだが、

 

「このまま続けていけばどうでしょうね」

 

「さてなぁ? 試してみろよ」

 

「言われなくても」

 

 元より暴食の雨は長時間広がり続けることはできない。セシリア自身の力ではなく反天使である『魔群』を基にしているからかろうじて随神相の中でも保っていられるのだ。

 

 だからこそセシリアが行うことは――何よりも自身の魂に触れることに他ならない。

 

 今のセシリアもまた太極位階に手が届いているのは確かだ。この世界に身を起きつつ、存在を保っていられるのが何よりの証拠。けれど変わらずにあと一歩が届かない。なにか決定的な最後の切っ掛けに未だ至っていないのだ。

 だからこそまずはセシリア・オルコットという存在の確固たる何かを己で理解しなければならないのだ。他の地区にいる者たちもそれは同じだ。

 だから迷いはない。

 

「アクセス――我が狂気(ロウ)

 

 

 

 

 

 

 

 斬撃が走る。

 朱色の大太刀が大気を割り、世界を切り裂く。一見無造作に放たれた一刀でありながら、無駄は一切なくその刀身に宿された淡い光は軌跡を描く。

 篠ノ之箒だ。真紅の十二単という凡そ戦闘向けではない服装をものともせずに二メートルもある大太刀を振るう。その足場は何もかもを引きずり込もうとする底なしの砂場。一瞬でも足を止め呆けようものならば存在を根こそぎ強奪されるしかない。故に箒はこの随神相に取り込まれてから一度も停止することはなく、ただひたすらに、愚直なまでに『朱斗』を振るい続ける。

 

「ちょっとー!? なにか一言くらいあっても、ってうわぁ!?」

 

 相対するのは八大竜王の一角、テルティウム――桃だ。彼女は名の通りの桃色の髪を揺らしながら無手で箒の鬼気迫る斬撃を避け続ける。

 避ける。

 避けている。

 ――避けざるを得ない。

 

「なんなの、よ! 全く!」

 

 『朱斗』の力は『愛の狂兎』の直轄だ。この世で誰よりも彼女の力の薫陶を受けている。あらゆる異能を無効化し、凌駕する朱色の閃光。篠ノ之束の強度に匹敵する存在でなかればその力に抗うことはできない。一夏の『雪那』と含め、この世で二振りのみの神格へと対抗できる概念兵器だ。 

 だからこそ桃は避ける。

 当たれば崩壊するとまではいかないにしても、ある程度のダメージは受けざるを得ない。

 

「あぁ、もう! なんか言うことなにのぉ! 私たちの存在とか――」

 

「――黙れ」

 

 桃が語りかけるが、しかし箒は欠片も取り合わなかった。声に込められたのは特大の怒り。あるいは八大竜王にさえ匹敵しかねない激怒。それが今の彼女の全身を支配し、動かしている。当然その姿は最早姿が変わり切っている。全身はほぼ朱に染まる。朱斗のような鮮やかなそれでは血のように濁った赤。通常なのは僅か左目の周囲だけしかない。 

 それでも箒はそんなことに構わず、大太刀を問答無用と振り続ける。

 

「いい加減我慢の限界だ」

 

 一閃一閃が海を砕き、空を断ち切る大斬撃。今彼女を焦がす怒りがその武威を加速度的に引き上げていく。

 

「貴様ら、揃いも揃って私の姉さんの顔でベラベラと――滅尽滅相、誰も生かして返さない。その首刈り飛ばして、来世の果てで姉さんに土下座させてやる」

 

「うわこの女神格級のシスコンだ――気持ち悪い!」

 

「妹が姉を好きで何が悪い!」

 

 





なぜかデジモンの二次を始めていた。解せぬ
主人公の友達が司狼臭い(白目


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