狂いのストラトス Everlasting Infinite Stratos   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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第漆話

「いやぁ、それにしてもいい勝負だったな。セシリア」

 

「ええ、まったくですわね。一夏さん」

 

「それにしても、あれだな。銃ってのがあんなに怖いものだとは思わなかったぜ」

 

「なにをおっしゃるのですか、全部斬り落としていて。そして、それは私のセリフですわ。刀というのはあんなにも恐ろしいとは思いませんでした」

 

「なに言ってんだよ、セシリアの方が凄いって。なんだよ四丁拳銃って、あんなの漫画の世界だけじゃなかったのかよ」

 

「一夏さんこそ、居合い斬りというのは確かに世界最速の剣とは聞いてましたがあそこまでとは。まったく目に見えませんでしたし」

 

「まあな、抜刀術士が速度で負けるわけにはいかないしな。それにまさかまさかの八丁拳銃って。おかしいだろ」

 

「ふふ、結局全部防いでしまったじゃないですの。それにおかしいのはやっぱり一夏さんです。アンチマテリアルライフルの弾丸を斬ってどうして体勢が崩れたりしないのですの?」

 

「はは、それにはちょっとした種があるんだよ。……まぁ、秘密だけどな」

 

「あらあら、連れないお方ですわね。ふふふふ」

 

「はははは」

 

 (どうしてそんなに楽しそうなんだろう……?)

 

「ははは……ん? そういえば、クラス代表はどうなったなんだ?」

 

「さあ……? 別に私がやっても構いませんが……どうしましょう?」

 

「うーん………そうだな。俺でも構わないけどなぁ……………。そうだな、こういう時には」

 

「こういう時は?」

 

「──ジャンケンだ」

 

(ええ!?)

 

「……いいでしょう」

 

(いいんだ!?)

 

「よし、じゃあ行くぞ」

 

「ええ」

 

「「ジャーンケーン」」

 

 (全てを斬り裂く最速の剣《チョキ》よ!)

 

 (全てを撃ち抜く最強の弾丸《グー》よ!)

 

「ポン!」

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと……一年一組のクラス代表になった織斑一夏です。ISに関しては初心者ですが、頑張ります!」 

 

 パチパチパチパチパチパチパチパチ。

 

「……………………………ああ」

 

「お、織斑先生ーー!?」

 

 世界最強の頭痛が増したのも言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても、お前がクラス代表になるとはな……」

 

「そうだなぁ……自分でもびっくりだ」

 

 一夏とセシリアとの決闘の次の日の昼、IS学園食堂にて。一夏と箒は食券の券売機の最後列に並んでいた。この食堂は多国籍な学園生徒を思ってか、様々な料理がリーズナブルな値段で食べられる。料理が好きな一夏にとっては実に嬉しいことだ。

 

「まぁ、でも任されたからには頑張んないとな」

 

「そうか…………頑張ってくれ」

 

「他人事だなぁ。一応お前のクラスだぜ?」

 

「興味ない」

 

 バッサリと言い捨てる箒。それに一夏は分かっていたように肩を竦める。いや、分かっていた。篠ノ之箒は良くも悪くも他人に興味がない。彼女にとって大事なのは姉の束だけだ。一夏はそれをよく知っている。 自分はそれなりに会話ができるが、それはただ単に自分と彼女の実力が拮抗しているからだ。きっともし自分が弱かったらきっと相手にされなかっただろう。まぁ、それでも他人をなにがしろにしたり、路傍の石ころのように接しない所は人間できてるだと一夏は思う。コミュニケーション障害だって、無意味に他人を傷つけないようにする予防策だろう。

 

(やれやれ) 

 

 クラス代表になって、いきなり幼なじみがクラスの問題となっていることに頭を痛める。

 

「あら? どうしましたの?」

 

 と、声を掛けてきたのはセシリアだ。彼女も食券の列に並んできた。よく見ればそれはセシリアだけでなくて、彼女の後ろに結構な人数が並んでいる。やはり、入学してすぐは混みやすいのだろうか。毎日これだけ混んだら大変だ。

 

「いや、なんでもないよ」

 

「そうですの。……ああ、そちらの方とは挨拶がまだでしたわね、セシリア・オルコットですわ」

 

「……………………篠ノ之、箒だ」

 

 間が、酷い。

 だが、

 

「よろしくお願いしますね、箒さん」

 

「………………ああ」

 

(スゲェ……………)

 

 あからさまに目をそらす箒に笑顔で対応している。これが英国淑女か。

 懐が、デカい。

 これは箒のコミュ障を治すいい機会かもしれない。セシリアと会話しつつ、箒にも話題を振っていく。そうしていく合間にも行列は流れていき、券売機の前に立つ俺は日替わり定食(メガ盛り)に箒はきつねうどん(メガ盛り)、セシリアも洋食ランチ(メガ盛り)だ。ちなみにメガ盛りとは全部の量が大盛りの三倍というデカ盛りメニュー。俺も箒も昔からよく食べるが、セシリアもそこまで食べるとは驚きだ。

 

「いいですか? 一夏さん。──────食べられる時には食べておかなければならないのです」

 

 同感だが、なんか遠い目をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは一夏たちが食堂のおばちゃんからそれぞれの料理のお盆を貰った瞬間だった。何の前触れもなかった。少なくとも一夏も箒もセシリアも気付かなかった。それでも彼らの列の後方。十人程を開けた所でその少女は動いていた。

 前にいる一夏を見据え、

 

「───────心意六合大鵬展翅通背拳」

 

 呟き、目の前で並んでいた少女の背に手を押し付けた。トンッ、という軽い音でしかなかった。その少女は別に少し当たっただけだと思ったし、端から見てもそうだったろう。

  

 だが。

 だがしかし。

 それの動きの直後に前方にいた一夏のお盆(・・)が弾けた。

 

 まるで、間にいた十人近くを衝撃が通り抜けて一夏の所で炸裂したように。

 

 お盆が壊れたというわけではなく、お盆に乗っていた料理の皿が上に弾け飛んだのだ。米やおかずや汁物、付け合わせが飛ぶ。数秒あれば、盆に地面に中身をぶちまけるだろう。無論それを一夏は許さなかった。

 

 一夏の右手が霞む。まず茶碗を掴み、米を掬い盆へ。次に付け合わせの小皿を取り中身を納める。さらに次へと手が動き出し、

 

「ほら」  

 

「どうぞ」

 

 箒が汁物を、セシリアがおかずの皿をつきだしてくれた。

 

「サンキュー」

 

 受け取り、列からズレて後ろを確認する。こんなことをするヤツの心当たりは──ある。

 ちょくちょくエアメールやら通信やらして、彼女がこの学園

に留学しているのは知っていた。

 彼女は一夏と目が合うと、

 

「ハーイ、一夏。ひさしぶり」

 

「……久しぶりだな、鈴」

 

 ラーメン(メガ盛り)の食券片手に、少女──凰鈴音はにこやかな笑顔を浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく。私がこの学園にいることは知ってたのに何で会いに来ないのよ」

 

「悪かったって。今日行こうと思ってたんだよ。それにいくらなんでも飯に当たるのはダメだろ」

 

「ちゃんと掴むってわかってたからいいのよ。あとアンタ、何よ昨日の試合」

 

「なんだよ、見てたのか」

 

「見てたわよ。それで?」

 

「だからなんだよ」

 

遊びすぎ(・・・・)でしょって言いたいのよ」

 

「……………」

 

「まぁ、そっちのも同じ感じだったけど」

 

「あら」

 

 指摘されたセシリアが反応した。 

 

「遊んでいた、とは?」

 

「言葉通りよ、どっちも本気じゃないし全力でもない。見せ物にはなったかもしれないけどさ」

 

「……………」

 

 あまりも明け透けな鈴に、流石の淑女スキル持ちのセシリアも目を点にする。

 実際、セシリアも昨日の試合では本気(・・)全力(・・)も出していなかったし、それは一夏もだろう。

 

「それがなによ、”戦争の時間“とか。カッコつけるにもほどがあるわねぇ」

 

「ぐぬぅ……」

 

 一夏が変な声を出し始めた。図星である。

 

「……………それで」

 

 それまで無言だった箒が口を開いた。

 うどんを啜りながら、

 

「……誰なんだ? 一夏の知り合いらしいが」

 

「ん? ああそうね、自己紹介してなかったわね。私は鳳鈴音、一応中国代表候補生ね」

 

「へぇ、私と同じですわね」

 

「そうなの? まぁ、なんでもいいわよ」

 

「ですわね」

 

(よくないだろうなぁ……)

 

 思いつつも一夏は口に出さない。 

 

「んと、一夏との関係か……。そうね、その話をしたかったのよ」

 

 鈴は一夏に視線を送る。

 それに一夏は冷や汗を流し、

 

「な、なんだよ」

 

「言うまでもないでょうが」

 

 鈴は制服の懐から一枚の書類を取り出し広げる。

 

「それで? いつ判子押してくれるのかしら?」

 

 それは所謂──婚姻届だった。

 ちなみに、鈴の所は記入済みであとは一夏が名前書いて判子押すだけである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鳳鈴音が織斑一夏と初めて出会ったのは小学5年の時。家庭の事情で日本に留学して来たその日だった。どうしてそうなったかは、よく覚えていない。多分、交流試合とかそういう理由だった気がする。出会って、互い武の世界に身を置いているからちょっとした遊びのつもりだった。その当時から既に中国拳法の大半を修めていた鈴としても、抜刀術──所謂居合い抜きを使う一夏との対戦は悪くなかった。休みの日の学校のグラウンドを使ったことから遊びの程もしれただろう。

 

 そう、ちょっとした遊びだった。遊びのつもりだったが────

 

 ─────学校が半壊した。

 

 鈴の震脚は大地を砕き、一夏の一刀は校舎を裂き、互いの激突の余波で体育館は崩壊した。おまけに引き分けだった。勝負がつかなくて、二人の激闘を知った千冬に二人して叩きのめされた。

 

 素手で。アレは怖かった。それなのに千冬自身は剣士というのは理解できない。

 

 まぁともかく、それが。織斑一夏と鳳鈴音の物騒すぎる馴れ初めだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………貴方、会う人会う人と喧嘩してますの?」

 

「そ、そんなわけじゃねぇよ」

 

 セシリアが呆れたように笑い、一夏は顔をしかめる。

 

「……………だが、私と初めて会ったときも喧嘩紛いだったではないか」

 

「ぐぬぅ」

 

 箒との出会いは鈴ほと物騒ではなったが。ただ単に箒をからかっていた男の子たちを箒が返り討ちにして、それを一夏がイジメと勘違いして言い合いになったくらいだ。

 

「まぁ、ともかく……。私と入れ替わりに転校してきたわけか」

 

「ああ、そうだな。箒がファースト幼なじみだったら、鈴はセカンド幼なじみだな。まあ鈴も1年前に国に帰ったんだけど」

 

「はぁ……。で、その婚姻届はどういうことですの?」

 

「決まってるじゃない」

 

 鈴は婚姻届を一夏に突きつけつつ、

 

「私がコイツにプロポーズして、コイツが受けてくれたのよ」

 

「あら」

 

「ほう」

 

 セシリアも箒も一応は年頃の乙女だ。

 反応を示すが、

 

「いやいや、だから受けてないって!」

 

「往生際が悪いわね、ちゃんとアンタオーケーしたじゃん」

 

「してない! してないからな! よく思い出してみろ! ハイ、というわけで回想!」

 

 

 ──以下回想・1年前──

 

 織斑家、一夏自室。

 一夏は机にて週刊誌を読み、鈴はベッドで寝ころんでいた。

 

『ねーねー、一夏。私が作った酢豚食べてよ』

 

『あ? ああ、いいけど』

 

『じゃあ、炒飯も』

 

『いいぞ』

 

『回鍋肉』

 

『おう』

 

『春巻き』

 

『任せろ』

 

『なんでも食べてくれる?』

 

『ああ』

 

『作った分だけ?』

 

『残すわけないだろ』

 

『じゃあ、毎日食べてくれる?』

 

『おうおう、毎日食べてやる…………ん?』

 

『……よし! じゃあ、一夏! これにサインして』

 

『……………いやいやいやいや待て待て待て待て!』

 

 ──以上回想・1年後──

 

 

「…………………………………」

 

「…………………………………」

 

 箒とセシリアが物凄く微妙な顔をしていた。

 

「ほら! やっぱりおかしいだろ!」

 

「そう? まあ、いいじゃないの。ほら、サイン」

 

「しねーよ!」

 

 もはや、漫才だ。

 

「なんていうか……」

 

「なんとも言えないな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ………」

 

 一夏は頭を抱え、机に突っ伏していた。悩みは勿論鈴のことだ。昔から感情豊かというか表現過多というか、いつもあんな感じとは分かっていたがあんな公衆の面前で求婚されるとは。いや、彼女が国に帰る直前はいつもあんな感じだったけど。

 

「おい」

 

 別に彼女のことが嫌いな訳ではないが。

 しかし、15歳で人生の墓場に入るのはどうなんだろう。

 

「おい、織斑」

 

 本当にどうしようか。

 大体なんで俺が悩まなきゃならないんだ。

 

「……………おい」

 

 こういうのは男から言って悩ませるもの────

 

 バシン!

 

「うがっ!」

  

 一夏の頭に衝撃が炸裂した。

 顔を上げれば鬼がいて、

 

「何かいうことは?」

 

「…………………相談が」

 

「授業後にしろ」

 

 バシン!

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 授業後、チャイムが鳴った瞬間、

 

「ハーイ、一夏! サインしなさーい!」

 

 鈴が飛び込んできた。

 

「鳳………お前か」

 

「あ、お義姉さま」

 

「違う、千冬さんだろう……って、それも違う。織斑先生だ」

 

「了解です、織斑先生。てわけで一夏ー、サイン」

 

「…………」

 

 パパアン!

 

 頭痛を堪えながら放った出席簿はいつかの一夏と同じように、防がれた。無論、ほとんどが気づいていない。

 

「鳳、今度防いだら本気で殴る」

 

「り、了解です」

 

 流石の鈴も、これにはたじろいだ。だが、早急に頭痛薬を摂取せねば。

 だから、

 

「織斑、お前のISだが今週末に専用機が届く」

 

「は?」

 

「あ」

 

 と、箒がいきなり拳で手のひらを叩いた。

 

「そういえば、姉さんが一夏のISを作るとかなんとか」

 

「はぁ!? 教えてくれよ」

 

「いや……忘れてた」

 

 忘れんなよ、と皆が思った。

 

 


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