狂いのストラトス Everlasting Infinite Stratos   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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推奨BGM:*より唯我変生魔羅之理


第捌話

 白。

 

 真っ白。無垢。飾り気がない、無の色。それがアリーナの出撃ピットで織斑一夏を待っていたISの姿だった。

 

「これが……俺の、ISか……」

 

『そうだよ! そうだよ! 束さん特製の『白式』だよ!』

 

 モニターから聞こえてきたの篠ノ之束の声だ。諸事情の為、サウンドオンリーだが嬉しそうなのは分かる。

 

『とりあえず初期化(フォーマット)はしといたから、最適化処理(フッティング)はそっちでしてね!』

 

「了解です」

 

最適化処理(フッティング)自体は模擬戦でも構わないな? 束」

 

『おーけーだよ、ちーちゃん!』

 

「よし」

 

 頷き、千冬は後ろへ振り向く。そこには、見物に来た箒、セシリア、鈴がいて、

 

「……………………………………………………………………………………オルコット、お前が相手をしてやれ」

 

 物凄く、迷ってセシリアを指名した。専用機持ちである程度の技量を持つ彼女なら一夏の専用機の最適化処理(フッティング)相手には妥当だろう。箒はISに関しては初心者だし、鈴は……………鈴だから。

 

「まぁ、構いませんけ「ちょっと待った」……はい?」

 

 ため息を含んだセシリアを遮ったのは、鈴だった。

 

「……なんだ?」

 

「いやー、一夏の相手なら私がしますよ。先生」

 

「…………だが、お前は」

 

「大丈夫ですよ、私は」

 

「まぁ、俺もいいですけど」

 

「………………………………………………………………………………………いいだろう。準備しろ」

 

 沈黙は彼女の頭痛の証だ。

 

「やった! やるわよ、一夏」

 

「おう。でも、ま、軽くだからな?」

 

「分かってるわよ」

 

 鈴はウインクを決めて、

 

「遊びでしょ、遊び」

 

「教師の前で遊びとか言うな」

 

『それにIS作った人もいるんだけど、な……』

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さてさてー、いっくんの最適化処理(フッティング)までは30分くらいかかるだろうから、その間にこの束さん自ら解説をしてあげよう!』

 

「いりません」

 

『…………………………ぐすっ』

 

「……………え、ええと。束博士? お願いできるのですか?」

 

『ぐすっ…………誰?』

 

「セシリア・オルコットと申します。妹さんのクラスメイトですわ」

 

『………ふうん。聞きたいの?』

 

「ええ。お願いしますわ」

 

 IS開発者、世界を変えたといってもいい束を相手にしてもセシリアの余裕は崩れない。恐るべし淑女スキル。

 

『ほ、箒ちゃんは?』

 

「いや、べつ「聞きたいですわよね、箒さん!」……え、あ、うん……」

 

『……………………そっか、そっか! じゃあ語っちゃうよ! おねーちゃんに任せて、箒ちゃん!』

 

「あ、はい……」

 

 箒が頷くと同時にその場にいた全員の前にホロウィンドウが展開される。ピットにある備え付けの液晶よりも高画質なの流石というべきか。ホロウィンドウの中ではすでに空中で二つの色がぶつかりあっていた。

 白と黒。

 一夏と鈴だ。真っ白なのは『白式』であり、僅かに赤みがかかった黒は鳳鈴音専用機『甲龍』だ。

 一夏は近接ブレード一本で、鈴は両刃の青龍刀で何度も空中で交差する。

 

『ほらほら、一夏! 機動が甘いわよ!』

 

『初心者だぞ、俺!』

 

 言いつつも二人の激突は苛烈さを増していく。

 

『うーん、さすがだねーいっくん。とても、初心者とは思えないよー』

 

「確かに、代表候補生の私から見てもやりますわね」

 

『ん? ん? セッシーは代表候補生なのかな? スゴいね、それは!』

 

「あ、ありがとうございます」

 

「まぁ、これくらいは当然だな」

 

『あはは、なに言ってるのちーちゃん。普通はいきなりであんなふうにIS操縦できないよ! しかもリンちゃんも代表候補生なんだし!』

 

「……? 姉さんは鳳と知り合いなんですか?」

 

『まあね! 二人が小学生の時に色々あったんだよ!』

 

 因みに、色々とはいつでもどこでも血みどろの戦いを繰り広げた二人の後始末である。

 千冬が鎮圧し、束が二人が破壊したモノの修繕やもみ消しなどをしていた。その事を思い出す度に千冬はやっぱり頭痛がするのだが。

 

 ホロウィンドウの中で二人が距離を取った。いや、鈴が自ら距離を開けたのだ。

 それは、

 

『おおっ、これは来るね!』

 

「なにがですか?」

 

『『甲龍』の固有武装、衝撃砲『龍砲』だよ!』

 

「……衝撃砲?」

 

「あの非固定浮遊部位(アンチロック・ユニット)のことか?」

 

『さすがちーちゃん、鋭い! その通りだよ!』

 

「“砲”ということはやはり遠距離武装ですの?」

 

「…………だが、飛び道具は一夏には通じない」

 

『だろうね! でも、あれは特別なんだよ!』

 

 ホロウィンドウの中の衝撃砲は球状だ。砲というにも関わらず砲身らしきものもない。いや、見えないのだ。

 

『『龍砲』の特徴は見えないってことなんだ!』

 

「……………普通に見えますよ?」

 

『そうじゃなくて、砲身と砲弾が見えないんだ! 空間に圧力をかけて砲身を作り、衝撃を砲弾として打ち出す! 肉眼でも、ISのハイパーセンサーでも視認は出来ないし、察知するのもほぼ無理という優れものだよ! これならいくらいっくんでも──』

 

 束の説明の最中に鈴は衝撃砲を発射した。

 当然ながら、一夏にも箒にもセシリアにも千冬にすらその瞬間を気づかせなかった。

 初見では避けるのがほぼ無理に等しい砲撃。

 だが──。

 

『うおっ、なんだ!? なんか振ったらなんか斬れたぞ!?』

 

『──防げ、ない、はず……』

 

「思いっきり防いでますけど……」

 

『な、なんで……』

 

「…………『無空抜刀』」

 

『へ?』

 

 箒が呟き、千冬が続ける

 

「一夏の抜刀術は一夏の意思で抜いているわけではない。あいつの手と刀の意思だ。見えようが見えまいが一夏の射程圏に存在しているのなら同じだ。無論、鞘が無い分速度自体はかなりおちるだろうがな」

 

『が、がーん』

 

 ホロウィンドウの中で何度も鈴が衝撃砲を発射するが、全て一夏に切り落とされる。

 

『やっぱ、こんなおもちゃじゃ通じないか!』

 

『当たり前だろうが!』

 

『お、おもちゃ……って』

 

「ち、ちょっと箒さん? 大丈夫ですの? 束博士は」

 

「大丈夫だろう……多分」

 

 と、突然一夏が光に包まれた。

 

「あ」

 

 光が消え、現れたのは姿を変えた白式だ。角張っていたフォルムはより流線型になり、シャープな印象を見せる。

 

 最適化処理(フッティング)が終了したのだ。

 

『……ふ、ふふ、ふふふふふ! 来たよ来たよ! あれがいっくんの専用機、『白式』の真の姿なんだよ!』

 

「おい、束。あの刀は……」

 

 千冬が指したのはやはり姿を変えた近接プレート。千冬はそれに見覚えがある。というよりも、現役時代に彼女が握っていた太刀だ。

 

『そう! あれは『雪片弐型』! ちーちゃんの『雪片』の後継なんだ! 拡張領域(パススロット)を全部使って実装したんだから!』

 

 一夏の雪片弐型を一度振ったらエネルギー刃が構成される。

 純白のそれは、

 

「『零落白夜』か……!」

 

「これが、あの……」

 

「……ほう」

 

 千冬が呟いた名にセシリアだけでなく、箒でさえも反応する。当然だ。それは世界最強の織斑千冬が用いた一刀の能力の名だからだ。詳細は知らなくても、名前くらいは知っている。

 

「どういう能力ですの? それは」

 

『それはだね、セッシー。エネルギー無効化なんだよ! 相手のエネルギー兵器や、シールドバリアーまで無効化する最強の矛! それが単一仕様(ワンオフアビリティ)『零落白夜』の能力なんだよ!』

 

「なるほど……。私のブルー・ティアーズとは相性悪いですわね」

 

 一夏が叫びを上げて鈴に突っ込んでいく。 

 

『ふふん! セッシー所かあれを食らったら──』

 

『──そんなもん当たんなければいい話しでしょうが!』

 

『──イチコロ……な、ん、だ、よ……?』

 

「うまい具合に青龍刀で防いでますわね」

 

「……エネルギー刃自体は触れずに柄や一夏自身を狙って動きを阻害するとは……やるな」

 

『………………………………』

 

「た、束……?」

 

 完全に無音になったホロウィンドウに千冬が小さく声をかける。

 

『…………………………………ぐすっ』

 

「いかん」

 

 とっさに千冬側からホロウィンドウを操作して、音を自分にしか聞こえないように設定する。

 

『うわーん!うわーん!うわーん! なんだよなんだよ!いっくんもリンリンもー!』

 

 思いっきり泣け叫んでいた。子供の癇癪のようだが、仕方ない。意気揚々と説明していたことが全部覆されていくのだから。

 

「お、落ち着け束」  

 

『うー……。ぐすっぐすっ』  

 

「大丈夫か?」

 

『う、うん。なんとか………』

 

『あはははははははは! ほらほら、訳わかんない光に頼ってないで普通に来なさいよ!』

 

『言われなくても! 行くぜーーー!』

 

「あらら、『零落白夜』切って普通に戦い始めましたね」

 

「まぁ、そっちのほうが分かりやすいだろう」

 

『………………………ぐすっ』

 

(私だって泣きたくなってきたぞ……ず、頭痛が)

 

 大天災の涙と世界最強の頭痛は止まらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クラス対抗戦当日。

 第二アリーナで数週間前の『白式』の試運転と同じように織斑一夏と鳳鈴音は向かい合っていた。

 一夏は一組代表であり────鈴は二組代表なのだ。

 一夏がソレを知ったのは実は対抗戦の数日前である。

 

「まったく、こんな風に鈴と闘うとはなぁ。中学時代に路上やらバトってたのが懐かしいぜ」

 

 一夏の視線はアリーナの観客に向けられる。新入生同士の戦いということで、観客は満員だ。どころか、通路にまで押し掛けている。おまけにVIPルームには見物に来た政府などの要人もいる。

 

「別に、気にする必要ないわよ。というか、私と闘うっていうのによそ見すんな。浮気は死よ」

 

「浮気なんかしてねぇ」

 

 相変わらず鈴に一夏は困る。

 まぁ、いい。

 思考をこれから行われる戦闘に向ける。はっきり言って互いの手は全てわかっている。

 

 この数週間、日常的に鈴と模擬戦を繰り広げていたのだ。

 この数週間は飯喰って寝て、鈴に襲われ、箒に人格更正プログラムを受けさせ、鈴にサインを強請られ、セシリアと談笑し、鈴とバトり、のほほんさんとお菓子をかじり、鈴に迫られ、千冬に殴られ、鈴に抱きつかれ、なんかよくわかんない白衣と水色の髪に眼鏡の少女に監視され、鈴にその少女と一緒に監視されたりした。

 

(なんか目から汗が………)

 

 それはともかく。

 本来のスタイルではないISといえど、何をしてくるかなんて分かり切っている。さらに言えば中学時代もやはり日常的に拳と刃を交えていたのだし。どうするか。 

 とりあえず、余裕を持とうとし、

 

「あ、一夏。この試合、私が勝ったらアンタ私と同棲ね」

 

「はあっ!?」

 

 持てなかった。

 

「どういうことだよ!」

 

「そのままの意味よ、……ああ、安心してよ。箒の許可は取ってるから」

 

「箒ィ!!」

 

 ピットで観戦している箒に通信を繋げる。

 

『なんだ』

 

「どういうことだお前」

 

『ああ、別になにしてても気にしないから私の事は放っておいて好きにしてくれといったんだがな。二人きりがいいそうだ、良かったな愛されているぞ』

 

「なにってなんだよ」

 

『なにはナニだろう。睡眠の邪魔をしてくれなけばいい』

 

 なんだコイツ。

 色々終わってね?

 怒りを通り越して呆れた。

 通信を切る。

 

「人格更正プログラムを組み直さねば……!」

 

「大変ねぇ、アンタも」

 

 今一番大変にさせている本人に言われたくない。

 言い返そうとして、

 

「──時間よ」

 

『それでは両者────』

 

 アナウンスが響き、瞬間鈴から闘気が溢れ出す。

 

「……っ!」

 

 それに伴うように一夏からも剣気があふれる。

 

『─────試合を開始してください』

 

 そして、両者は飛び出した。

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

「───────────は?」

 

 互いに飛び出した瞬間一夏は自分が見たものを信じられなかった。

 それはこの試合を見ていた全員も同じだった。

 

 鈴がISをパージしたのだ。

 

 高速で互いに接近していたにも関わらず、激突の寸前に空中でISを脱ぎ捨てた。当然ながら、主を失ったISの装甲が慣性の法則にしたがって超高速で一夏へと向かう。

 

「……!」

 

 だが、驚愕したといってもその程度一夏の動きは揺らがない。

 『雪片弐型』を以て装甲へと振るい、

 

「ぜあっ!」

 

 気合いの声と共に振り抜いた。

 が、

 

「ハーイ」

 

「なっ……!」

 

 切り裂いた装甲の向こうから鈴が現れた。その姿はISスーツではなく、山吹色のチャイナドレス。鈴自身も慣性の法則に従い、一夏へと跳んでくる。一夏は刀を振り抜いた姿勢故に対応ができない。

 

 それほどまでにタイミングは絶妙だった。ほんの刹那前では一刀が音速を超えた速度でふられていたのだ。どれほどの胆力だろうか。

 

 懐に入った鈴は拳を振りかぶり、ぶち込んだ。

 

「…………!」

 

 瞬間、『白式』のシールドエネルギーの大半が持っていかれ、一気に二桁まで落ちる。同時にアリーナの外壁に一夏は叩き落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

「悪いけど、まだ終わらないのよね」

 

 空中から音もなく、当たり前のように着地する。

 殴り落とした一夏が上げた土煙から視線は外さず、『龍砲』を掴んだ。先ほどの突撃ではそれを残していたのだ。

 

 追撃(・・)の為に。

 

「この『龍砲』さ。一応中国からスペアを用意してもらってるよね、戦闘用だから。二個まではあるのよ」

 

 だから。

 

「────二個までは壊していいのよね」

 

 掴んで、放り投げた。それが鉄の塊にも関わらず鈴は容易く投げる。

 そして、

 

「おりゃっ!」

 

 ボレーシュートのように『龍砲』を蹴り飛ばした。弾丸どころか鉄塊の蹴球。地面を抉りながら、土煙へとぶち込んだ。

 轟音がアリーナを震わす。

 

「さーて、もう一発」

 

 二個目を掴み、無造作に蹴り飛ばす。

 

「一夏ー? 死んじゃうわよー?」

 

 笑った瞬間だった。

 

「──────『無空抜刀・零刹那』───参式ィ!」

 

 同時に同じ音が響いた。

『龍砲』がこまぎれになる。

 その音に鈴はニンマリと笑う。

 土煙が晴れる。

 

 そこには白が、純白の着流しに身を包んだ織斑一夏がそこにいた。その身体には傷はない、だがその顔には険しさを宿している。

 

「…………どういうつもりだよ」

 

「なによ、IS乗ってたら私もアンタも本気で戦えないでしょ?」

 

「そうだけどなぁ……」

 

 尚も顔をしかめる一夏に鈴は、

 

「……………………………なによ、アンタ」*

 

 苛立ちを覚えた。

 そして、そのまま無造作に一夏へと踏み出した。

 

 あまりにも、無防備だ。

 だが、その身体から噴き出したのは闘気だけでない。

 

 殺気(・・)殺意(・・)

 それを纏いながら鈴は呆気なく一夏の攻撃範囲に入った。

 

「っ!」

 

 無造作に近づいてきた鈴に目掛けて抜刀する。

 それは光速を誇る一刀だ。織斑一夏の渇望の下に切断という概念を内包した絶断。ありとあらゆる存在を断ち斬る斬撃。

 断ち斬れぬものは無く、反応すらも許さない一刀──────しかし、それに鈴は反応した。

 

「───は」

 

 鉄と鉄がぶつかりあう音がアリーナに響く。片方は一夏の刀であり、もう一方は──鈴の拳。

 

 そのことにピットから観戦していた箒やセシリアは驚愕する。

 ありえないと。

 『無空抜刀』。

 一夏の有する速度の境地。

 それに対応する方法とは──。

 

「あんたができることなら私ができるに決まってるでしょうが」

 

 『無空拳』。

 それはつまり中国拳法における錬巧勁拳。無意識、無拍子、無殺意を以て振り抜かれる拳。一夏の『無空抜刀』と同じ技術だ。

 

「アンタさぁ」

 

 鈴の拳。

 それには山吹色の陽炎が宿っていた。

 それはあらゆる存在を断ち斬る一夏の一刀とぶつかり合い、しかし砕けない。拳撃と斬撃が交差しあう。

 ぶつかり合う音が連続して響く。

 だが。

 

「──私と戦ってんのに他事考えてんじゃないわよ」

 

 怒りを含んだ低い声の一撃が一夏の腹に突き刺さった。

 

「ガハァッ…………!」

 

 踏み込みの震脚により大地が砕ける。

 血反吐を吐き出し、一夏が数メートル後退する。

 

「あのさぁ……ふざけてんの?」

 

「……別に、そんなこと……」

 

「あるでしょうが、────殺す気で来なさいよ」

 

「…………!」

 

「ダメよ、そんなんじゃ。私が惚れたのはそんな男じゃないのよ。スかしてんじゃないわよ。気取ってんじゃないわよ。私が惚れたアンタはそうじゃないのよ」

 

 怒りを滲ませながら鈴は言う。

 それでは、足りない。

 それでは、不満だ。

 それは楽しくない。

 

 一夏から溢れ出す剣気。

 なるほど、それは確かに研ぎ澄まされ、研磨された混じり気なく澄んでいるのだろう。

 

 

「そんな奇麗事じゃあないでしょうが、私とアンタの舞踏《殺し合い》は」

 

 

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 鈴は突き放すように言った瞬間、一夏が脱力するのを見た。

 見た瞬間に────跳んだ。

 

 直後。

 

「─────っ!」

 

 鈴が立っていた場所が無茶苦茶に切り裂かれた。

 地面が割断されていく。

 誰がやったかなんて分かりきっている。

 

 一夏だ。

 一夏は顔を伏せ、

 

「は、はは、はははは」

 

 笑っていた。

 

「ははははは! ははははははははは! はははははははははははは!」

 

 腹の底から笑っていた。

 それはまるで自らをあざ笑うかのように。

 

「…………そうだな、鈴。俺、ちょっと鈍ってたのかもしんねぇな」

 

 自らの魂である刃が鈍っていたと。

 一夏は言う。それは間違いではない。

 しかし、それは間違いだ。

 

 確かに鈍っているかもしれない。 

 ここ最近は本気で殺し合うことなんて無かったから。

 命のやり取りの緊張感を忘れていた。

 

 けれども根本的に間違えている。

 鈍っているかもしれないが───────そもそも、一夏の刃は未だ抜かれてさえいない。

 

 『無空抜刀』なんて柄に手を添えたに過ぎないを

 『零刹那』でさえも鯉口をきった程度だ。

 

 鈴が怒るのも無理はない。

 一年ぶりに会えて、拳と刃を交わすにも関わらず一夏はその魂の刃を抜こうとしないのだから。

 

 でも──もう違う。

 

「悪かったなぁ、鈴。もう大丈夫だ。ああ、ちゃんと刃抜くから。お前の殺意《あい》に俺も答えるからさァ──」

 

 そしてIS学園において初めて、織斑一夏は己が魂を抜き放つ。

 瞬間、剣気だけではなく、殺意と殺気が溢れ出す。

 

 鈴はそれを感じて軽く息を吐き、身を震わせる。

 これだ。

 これを待っていたのだ。

 気を緩めれば一瞬で死にそうな殺意。

 それがたまらない。

 

「────殺し合おうぜ、鈴ーーー!!」

 

「上ッ等ーーー!」

 

 

 

 

 

 

 


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