ダモイ!   作:タイルマシン

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騎兵と狩人と戦車
馬鹿が戦車でやってきた①


 天窓から光が差し込んで、屋根裏部屋へ降り積もったほこりや塵が、きらきらと黄金の粒子を作り出している。

 錆びた農具やいつの物か分からないほど古い機械、子供の乗る馬のおもちゃ。

 それらを収める色褪せた箱たちに満たされたこの空間に、小さい息遣いが二つ。ごくわずかな音量で聞こえていた。

 

「それじゃあ、そのお宝の場所は………」

 

 声の主はグラ二。ヴィクトリアの騎馬警官であり、現在はロドスに籍を移している槍使い。

 ヴィクトリア出身でありつつカジミエーシュの民を先祖に持ち、この縁から興味を持って、辺境の滴水村へとやって来た一人のオペレーターである。

 彼女は話を整理しながら、この屋根裏の外に広がる惨状へと意識を飛ばす。

 扉とシャフトを破壊され、無残な姿を曝した粉ひき小屋、未だ近代化されているとは言えない村の、貴重なインフラであった発電所の残骸、引き裂かれた旗、引きずり降ろされた青銅の村章。踏み荒らされた田畑。

 穏やかな暮らしを続けてきた美しい山間の村は今、騎士の財宝を目指して湧いてきた賞金稼ぎの手で散々に破壊されつつあった。

 

「賞金稼ぎたちは村民を脅して……財宝の在りかを探し回ってるの。あの時私が名乗り出なかったら………」

 

 絞り出すように言葉を紡ぐ少女をグラ二は間近で見詰める。密着するように狭い隙間へ身体を収める、自らと同年代にしか見えないキャロル。

 そしてグラ二は思い出す。彼女はこの重大な危機に直面し、若き村の長として真っ先に矢面に立ったその結果、先ほどまでの拷問により命を危うくしていたのだ。

 

 あの手の賞金稼ぎ達は無法者でありつつ皆ある種のルールを持っているが、それは当然弱者である現地民には適用されない―――――。

 騎士の庇護も見込めないこの見放された村を守るには、傭兵を雇用する資産が要った。キャロルは村を守るため、代々の村長のみが在り処を知る騎士の財宝まで、なんとかたどり着かなければならない。

 

「何はともあれここから脱出しないと。どう、見える?」

 

 千里の道の一歩を踏み出すために、まず賞金稼ぎから逃れねばならない。義憤に燃えるグラ二がキャロルを高く抱きかかえた。

 キャロルの両目は高い天窓から下界を捉える。だがそこには尋常でない景色が広がっていた。腰を抜かすキャロル、下で慌てるグラ二。

 

「どうしたのキャロル!? あぶないよ!」

「でもだって人が………! 横に飛ばされて!」

 

 一人の賞金稼ぎがほぼ真横へとぶっ飛ばされていく、なにかの間違いみたいな光景。

 

「あれは………そんなことできる人なんて、あたしは一人くらいしか知らない……… キャロル、もう一度見てみて!」

「わ、わかったわ………」

 

 キャロルはもう一度持ち上げられて天窓を覗き込む。だが今度は、遠くから迫って来る振動と鉄を打ち付ける様な異音をグラ二が感じ取った。

 それと同時に外を覗いたキャロルがまた慌ててバランスを崩す。

 

「車………いや鉄の箱が道を………!」

「鉄の箱!?」

 

 異様な振動はどんどん大きくなって、やがて家の前を通り過ぎていく。男女の「どけーっ!」だとか「散れ散れー!」とかいう間の抜けた声に反応する男達の怒声、うめき声。

 グラ二はその小さな額に、事態が混沌を呈する事を予感した。

 

(滴水村に一体何が起こっているの?)

 

 いくら明るさが魅力の彼女といえども、この時ばかりは軽く眩暈を覚えざるを得なかった。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

GT-1

 

馬鹿が戦車でやってきた①

 

 

 

 

 

 

コンディションを表す液晶に妙なメッセージが表示された

 

「何この表示!?」

 

 

 

 

前方に村を荒らす賞金稼ぎを確認。戦車の突進力で轢いてしまうのも手だ

 

 

 

 

「轢いてしまうのも手だ、じゃないんだよ!」

 

 荒野を突っ切って走り続け、運よく見つけられた集落だった。のどかで空気も随分良い場所だ。小川が谷を通り、清浄な水が村内へ流れ込んでいる。

 早速入ってみようと少し離れた山道に戦車を突っ込ませて隠し、ケーと降車の準備をしていた所、にわかに数人の武装した男が草むらから飛び出してきた。

 急いで運転手席ハッチを閉じ車内に頭を引っ込めると、鋭い風切り音と共にクロスボウの矢が髪の毛を数本ちぎっていく。ようやくケー以外の人間に会ったと思ったら危うく殺されるところだった。物騒すぎる。

 

「ケー! 襲撃だ!」

「わかってるよ!」

 

 声が返ってくると同時に、頭上でアーツが働く小気味良い音がする。飛ぶ炎、ぶっ飛んだ先で凍るゴロツキ。

 

「なんだこの車両は!? お前らも賞金稼ぎか!?」

「え!? もっと大きな声で言ってくれ!!」

「お前らは! 賞金! 稼ぎか!」

「違う!!」

 

 俺は若干額に汗を滲ませながら、一度切ったエンジンを叩き起こし、山道へ後退する。ダモイの外側に下げられたスコップやらバケツやらの乱舞の中、緩い土壌にめり込んだ履帯がめちゃくちゃに暴れて土を弾き飛ばし、転がった男達をさらに埋め立てていく。

 彼らへの返答にはちょうどいい分かりやすさだ。仕上げにもうもうとしたエンジンの黒煙を吹きかけて、出来る限りの速度で木を薙ぎ倒しながら、道なき斜面を重力も利用して下りはじめる。豊かな山よ、多少の環境破壊を許してくれ。

 髪に落葉を付けたままのケーは、何が楽しいのかさっきからインカム越しに爆笑している。砲塔から顔を出して山の手を振り返った。

 

「あーっ! キーズ!」

「どうしたケー! 怪我か?」

「あいつらの武器取るの忘れた!」

「追いはぎは後にしよう!」

 

 今までそうやって武器を集めていたのか? このペッロ―、思ったよりかなり物騒な趣味だった。

 画面を切り替えて後部カメラを見ると、先程の残党が山刀を振りかざして急な斜面を転がってくるのが見える。やはり潜伏していた人員が他にもいて、すべては倒しきれなかったようだ。コンディションモニターの端に二つの星が躍る。不完全な勝利って言いたいのか? このシステムを組んだやつは相当良い性格をしているな、馬鹿が。

 状況がよく分からない状態であまり敵を増やしたくはない。いやもう全て遅いかもしれない。無法者があわてて無線機で連絡を取ってるのが見える。これは何かの事故みたいなものだから無かったことにしてくれないかな?

 

「なんで泣いてるの?」

「もっと人里を平和に楽しみたかったと思って」

「ふーん、おいらにはよくわかんないや」

 

 農道の幅を一杯に取ってのどかな景色の中を爆走する。涙が風に散っていく。ワクワク集落交流がドキドキゲリラ散兵戦になってしまった悲しみは野生児には分かるまい。

 あっ道の端の小屋を巻き込んじゃって粉々になった。持ち主の人マジでごめんなさい。あっ水車を破壊した………水車が道を転がってクロスボウ手を巻き込んだ………そのまま転げていく………ご愁傷様………。

 あっゴロツキが真横に吹っ飛んできて川に刺さった。ごめ………ん?

 

「大尉ー!!」

 

 仲間と思われる男が、通りの方から草を踏み分けて駆けよって来た。

 

「大尉………大尉! 厄星の奴、大尉をこんなにしやがって………!」

「ゴホッ………テッ…ゴホ……テメェ俺はまだ死んでねえ! もっと優しく引き上げろ!」

「あっ大尉! 生きてたんですね!」

「あんな一撃で死ぬかよ! ………いや死ぬかとは思ったけどよ………」

 

 川から救助された大尉と呼ばれる男は、その部下らしき男と河岸で一息付く。

 非常事態の合間の一瞬の空白。

 だがそこを、横につけられたダモイのけたたましいエンジン音が埋めていく。

 

「………」

「………」

 

「………どうも」

「おいらはケー! おじさんたち悪い奴でしょ? 武器置いてけ!」

 

 目が合った。めちゃくちゃ見られている。

 俺は運転席に収まったまま、どうにか無害感を演出しようとして、眉毛を上げたり下げたりしたが、いまいち効果は薄いようだ。男たちの顔はどんどん恐怖で染まっていく。

 部下の男が慎重に、一言ずつ区切りながら声を発した。

 

「サルカズ、に、ペッロ―………」

「戦車に乗った感染者………?」

 

 俺は戸惑いながらも返答する。

 

「あー、間違いじゃないです。まずは教えてください、あんたがたは一体………」

 

「「レユニオン!?」」

 

「は?」

 

 俺らはなにやら盛大な勘違いをされ、通りのむこうでは閃光と爆音が響き渡る。

 訂正する間もなく、尻もちをつきながら脱兎のごとく逃げ出していく大尉一味。

 屋根の間に一瞬見えたテンガロンハット。

 後ろからは怒り狂った無法者。

 レユニオンという言葉の、無いはずの記憶をくすぐる不穏な響き。

 

 一瞬で色々な事が詰んだ気がする。途方に暮れて、後ろに立つペッロ―に話しかけた。

 

「ケー、これから一体どうしよう?」

 

 彼女はするりと腰からナイフを抜いて、無邪気に笑った。ナイフがアーツで燃え上がる、ちりちりとした熱を後頭部で感じる。

 

「キーズ、色々考えすぎだよ。とりあえずやっつけてご飯たべてから考えよ!」

「………」

 

 俺は泥水みたいなコーヒーをカップに汲んで、一気に飲み干した。

 思考が明瞭になった気がする。つまるところ、誰が何でどこ所属とか余計なことを考える必要は無いのだ。

 

「よし………………悪そうな奴は全員轢く!」

 

 30トンの鉄塊が最強、質量こそ正義。

 そんな思考に染まった俺はこの時、正真正銘の馬鹿になってしまっていたとしか言いようがない。

 そして実際、硬い装甲とそれを動かすだけの十分な馬力を持ち、おまけに砲塔からアーツユニットをぶっぱなしまくるペッローを乗っけたダモイは無敵だった。まだこの時は。

 

 

 そう、まだこの時は彼女の存在を欠片も知らなかったのだ。

 

 スカジ。

 

 全ての賞金稼ぎから『厄星』と恐れられた、暴風のごとき規格外のバウンティハンター。

 

 




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