ダモイ!   作:タイルマシン

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馬鹿が戦車でやってきた②

 ◇ ◇ ◇

 

 

「えー、まずは状況を把握しよう」

 

 

 人々の話を整理すると、この村を中心とした山脈一帯に、いくつかの勢力が入り乱れているらしい。

 大勢の賞金稼ぎと、村長の味方の小さな騎馬警官一人、そして白い装束の不気味な感染者たち。

 賞金稼ぎは幾つかのグループに分かれて付近を荒らしまくっており、騎馬警官の女の子は村長と共に問題を解決しに行った。感染者たちの集団は付近の森に姿を見かけるばかりでよくわからない。

 共通するのは、おそらく全員が村に言い伝えられる騎士の財宝を求めている事。

 

「というか俺らもその内の一人ということになってるらしい」

 

 村の広場に駐車したダモイに、さっきから空き瓶とかタマネギとかが投げつけられている。砲塔から出した俺の横顔に、勇敢な少年の放った生卵が直撃する。とれたての新鮮だった。

 

「サルカズー! 吸血鬼ー! 父さんの大切な水車を返せー!」

「本当にごめんね………」

 

 事故のようなものとはいえ、村内を戦車で走り回った罪は重い。小回りの利かない路地で門や小屋を破壊し、通った後の轍は耕されて畑みたいになっている。

 ケーは投げられたトマトへ器用に食らいついた。笑顔と口に付いたトマトの汁が眩しい。

 

「おいしい!」

 

 よかったね。

 

 

 

 

 

 ウルサス帝国とカジミエーシュとを隔てる山脈の西、タラート山とモティカ山の麓。

 清流の流れ込む高原にその礎を構え、移動都市の庇護を充分に受けられずとも生活を営んできた辺境の村落、滴水村。

 源石関連工業の恩恵を受けない、結晶紀元を堰き止めたかのような昔ながらの暮らしは、破壊と暴力に曝されてその往時の姿を失いつつあった。

 

「君たちは本当に賞金稼ぎじゃなかったのか………」

「全くもってその通りです。天災から避難していたら賞金稼ぎに襲われて」

「我々と似たような境遇か。あいつら、本当に見境というものがない」

 

 目の前のおじさんは村の古株であり、感染者への偏見も薄かった。誤解であるという主張をちゃんと聞き入れてくれて、こうして軽食まで御馳走してもらっている。

 

「色々と壊してしまった事は申し訳ないです………。こちらとしては今の位置を知って、燃料や食料の補給がしたいだけなんです」

 

 あ、このサンドイッチおいしい。野菜がシャキシャキしていて瑞々しいし、雑穀の混じったパンが満足感を与えてくれる。いつのかわからないレーションやらオリジムシの切り身ではない久々のちゃんとした飯は、心の余裕を作ってくれる。

 

「財宝は?」

 

 そう聞くおじさんの眼はどこまでも真剣だ。歴代の村長以外は在り処を知り得ない、存在も曖昧な騎士の財宝に散々に翻弄されてきた村人の眼。

 

「いりません。もらっても困るし………ケーは?」

「財宝って盗賊がもってるきらきらぴかぴかしたやつでしょ? いらないよ。でも悪い奴から取ろうとすると必死に守るからおもしろいよね」

「言い方」

 

 それきり室内に沈黙が訪れ、ケーがもしゃもしゃと咀嚼する音だけが響く。

 おじさんはしばらく俺とケーを凝視していたが、短く息を吐いて笑った。

 

「ほ、本当に害意は無いんです。信じてください」

「そうか、安心した。あんな車に乗って来たもんだから、いよいよ滴水村も終わりかと思ったよ」

 

 おじさんが伸びをするようにさり気なく手を上げると同時に、屋根裏からこちらを覗く気配が消えた。

 開け放たれた天井の穴の中に一瞬、金属が光って闇へと溶けていく。迂闊なことを言った瞬間にあのクロスボウの矢が放たれたに違いない。食事に招かれたのは戦車の装甲から引きずり出す為だったか。

 

「壊された発電所に源石燃料が残っている。君たちへの補給はできるだけ都合しよう。我々に協力してくれたらの話になるが、それでいいか?」

「大変な中本当にすみません。我々は一体何をすれば?」

「うちの村長と騎馬警官のお嬢ちゃんを賞金稼ぎから守ってやってくれないか? 山は今、悪路に加えて他所者の罠だらけだ………キャロルは村長だが、あまりに若い」

 

 おじさんの顔に悔しさが滲む。

 

「村長は死にそうになりながらわしらを守ってくれた………なのにあの娘にわしらがしてやれる事はこれくらいしかない。どうか、どうか頼まれてくれないか」

「勿論」

 

 俺は村長の手を取って固く握った。村を破壊したのを許してくれる上に補給までしてくれるとか、なんて善良な人なんだ。空気が澄んでいると人間性も研ぎ澄まされるのか?

 俺はサルカズなのに一瞬神を信じたくなったが、やめた。俺が神を好きになっても多分神は俺の事が嫌いだろうからだ。

 片思いの恋は美しいが、多くの場合で不毛である。

 

 

 

 

 

 

馬鹿が戦車でやってきた②

 

 

 

 

 

 

 ケーと知り合ってから、ダモイの運転席以外の部分に手を入れることが多くなった。ケーが変なレバーを引いて怪我をしたり、俺やダモイがその他の取り返しのつかないことになるのを防ごうと思ったからである。

 結果ダモイについての理解は深まったが、肝心のケーは野生の勘とでも言うべきもので機器に触れる事を回避していたことにも気付いた。誰にも教わる事無くアーツユニットの扱いや手入れの仕方を習得するこのセンスで、地に満ちている危機を乗り切ってきたのだろうか。

 

 それはともかくとして、この戦車で出来ることが増えたのは事実だ。戦車はなにも自走する盾としての役割が全てではなく、むしろ車体に備わった兵装で積極的に攻撃する事を想定している。狭い市街地で戦うならばアーツや最新の電子装備の支援を受けた少数精鋭が最も適しているが、荒野の中長距離を移動して攻めかかる機動戦では戦車がポテンシャルを発揮する。群狼とでも言えばかっこ良いかもしれないが、どちらかと言えば重武装できるロバか。

 

「いいか、このハンドルを回すと砲塔が旋回する。逆に回すと逆に回る」

「おー! ダーちゃんすごい!」

 

 モーターが作動する音と共に、砲塔が緩慢に左右に動く。源石エンジンの発電量を絞っているため、砲塔を電動で動かす時は車内の電力供給が不安定になって蛍光灯がチカチカする。若干不安な動作をしているものの、少しくらいなら大丈夫だろう。

 

「そしてここを覗いて狙いを付ける」

 

 背の皮が破れた照準手席に座ると、視野にノイズがかったホログラフィックでレティクルが浮かび上がる。ハンドルを掴んで細かい照準を付け、下に伸びるスイッチを引き絞れば………。

 

「なにも出ないよ?」

「いや、本当は出るはずなんだけどね」

 

 砲塔の主兵装は要塞設置型のバリスタに近い。アーツの力で砲内の源石部を励起、火薬を爆発させて太く大きい矢を飛ばす。矢は敵の装甲車や施設の壁に突き刺さって貫通し、爆発エネルギーを中まで通す。

 問題はこの鋼鉄の矢の作りが特殊すぎてバカ高いということだ。市場がラテラーノに独占された銃弾でも比較にならないコストパフォーマンスの悪さ。

 ウルサス軍籍から離れたらしいこのダモイには当然、調達するあてなどなかったようだ。俺の意識が明瞭になって来た時点ですでに弾は撃ちつくされ、代わりにウォッカが差してあったが、それも二本は空き瓶だった。今はそこに拾った傘が差してある。

 

「これが杖だったらいいのにね。おいらあれなら何度でもビリビリをだせるよ」

「実際にアーツユニットを載せる計画はあったんだけど………」

 

 数少ない記憶に残るウルサス第七設計局の資料映像、デッドコピーのL—44『蓄音機』を搭載した戦車についての記録フィルムは、コピー元の欠陥から火達磨になる戦車と脱出する乗員を映して終わる。

 

「どうにも上手く行かなかったみたいだね」

 

 

 なんでわざわざ『蓄音機』をコピーさせたんだ、とセルゲイが愚痴っていたことを思い出すと、急に激しい頭痛が襲った。

 セルゲイって誰だ? これは一体誰の記憶なんだ?

 ダモイってなんて意味だったっけ? 俺の種族は何だ?

 

 

「キーズ」

 

 

 

 ケーが俺の袖を引っ張った事をきっかけに、意識が正気に戻っていき、眼裏に映ったなにかは消えていく。

 

「キーズ、そっちは駄目」

「え?」

「それに触れちゃだめだって、おいらでもわかるよ」

「………何故?」

 

 ペッロ―は微笑んだ。似合わない曖昧な笑みだった。

 

「あぶないから~」

 

 ケーは動かないスイッチを弄びながら言った。

 当然弾は出ない。励起された源石がピカピカ光って終わり。

 

 

 

 

 

 

 

 この様な調子で、ケーの野生の勘はあらゆるところで働いた。例えば伏兵には向こうより先んじてアーツをお見舞いできたし、タラート山の道にボコボコと仕掛けられた罠にとても敏感だった。

 大らかな彼女にしてはやけに神経質になっていたので理由を聞いてみると、昔似たような罠に掛かって足を怪我したことがあるらしい。トラバサミを指差して言っていたから、それは野生動物用の罠だったのかもしれない。

 罠は罠でも対人用の物がほとんどで、戦車の障害となる物は少なかったから、遠慮なくひき潰しながら登山を敢行した。バクダンムシの詰まった落とし穴だけは恐ろしかったから、ケーに遠距離からアーツを撃ってもらったところ、山肌が吹き飛んで5m程のクレーターが出来た。

 

「うわっ、なんで野生動物がこんな爆発力を持つんだ」

 

 つい昨日までこれの近縁種を食べていたことを思い出して思わず胃に手をやった。

 

「お腹へったの?」

「オリジムシが爆発したら怖いなと思って」

「おいらはお腹減ったよー」

「ケーちゃんさっき食べたでしょ」

「うん、おいしかった!」

「よくも隊長を殺りやがったな! 覚悟ォ!」

「ばいばーい」

「グウ!」

 

 車体に取りついてきた賞金稼ぎの残党が引っぺがされて斜面を転がっていき、先ほどのクレーターに落ちていった。上がる爆炎。

 

「ホールインワンだな」

「きもちいいね~ ホールインワンってなに?」

「クルビアにはああいうスポーツがあるんだ」

「たのしそ~」

 

 こんなに楽なら源石受信機で音楽でも流しながらいこう、と思い立って、運転しながらダイアルを回す。ラジオ音声のインカム出力はどれだったっけな。

 

「クルビアには野球ってのもあって、バットとミトンで………」

 

 波をザッピングしている手が止まる。ラジオ放送よりかなり高い周波数帯に、断続的なビープ音。暗号化されていないデジタル方式の信号。ジャイロセンサーの値をフィードバックしている?

 急いで停車し、ケーを押しのけて上空を見る。黒いバツ印のような影が、森の木立ちよりさらに高い場所に浮かんでいた。

 偵察ドローン。どこ製か全く見覚えがない、ローターとアームにカメラがつけられただけの粗末な航空機が、急いで地上へと退避して行くのを目撃した。

 見られた。そう察するには十分な状況

 

「………ケー、なんか嫌な予感しない?」

「前ね、寒くてしんじゃいそうだったから森にあった穴に入ったんだけど」

「うん」

 

 木から何かがぶら下がっているのが見えた。 ───賞金稼ぎだ。足を縛られて、蓑虫のように枝からぶら下がっている。

 鳥肌を感じながら、運転席のハッチを閉じた。

 

 

「その穴がくまさんの巣でね───」

 

 

 突如として進行方向を塞ぐように木が倒れ、土煙が噴き出した。得体のしれない巨大な黒い影が、ゆっくりと超信地旋回して、こちらを向く。

 それは戦車だった。北方仕様の白い車体へペンキで森林迷彩を施した、禍々しい赤いマークがペイントされた車両。

 

 チェーンソーの様な音を伴って砲塔の機銃が地面に向かって掃射され、ダモイは停車を余儀なくされる。急停車に前のめりになる車体、軋む金属の音。

 ハッチを開いて煙の向こうに現れたのは、傷だらけの仮面で顔を覆った白装束の男たちだった。

 拡声器を通した声が山間に響き渡る。

 

 

「我々はレユニオン独立愚連戦車小隊ー!! 同じ感染者とて容赦せんー! ボブ隊の援護のためお前らを撃破するー!」

 

 

 その声はあまりにでかかった。戦車乗りってみんな耳がいかれてんのかな、と少し思った。

 

 

 

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