Infinite ARMS   作:橘 千景

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00 プロローグ

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義弟の入学試験の為に電車で隣町の試験会場までやって来て、二時間ほど経った頃だったろうか。

 

試験が終わったら寒空の下待っていた私を労えと冗談ぽく言って暖かい飲み物でも奢らせ、その後合格の前祝いにと夕食をどこかで外食にしようとか考えていたら弟……一夏が物凄い勢いで此方に走って来た。

 

 

「ユー…に…ハッ…ハァ…たい…へん…フッ…フゥ」

 

 

「随分早く終わったんだね…とりあえず息を整えなさい、それから話して」

 

 

目の前まで来たと思えば慌てすぎて余程全力だったのか、何か言おうとしてるんだけどまずそう言い聞かせる。

 

 

「わるっ…ユーリ…兄…すっ…はぁ…すう…はぁ」

 

 

「落ち着いた?」

 

 

「ああ、ごめんユーリ兄」

 

 

「それでどうかした? 入試にしては早すぎると思うのだけれど?」

 

 

「えっと…信じられないかも知れないんだけど俺、ISを動かしちゃったんだ」

 

 

………ファッ?

 

 

「…ワンモアプリーズ」

 

 

「だから、俺ISを動かしちゃったんだって!」

 

 

一夏は自分でも未だに信じられないのかまた慌てた様子になりつつそう叫んだ。

 

 

「えー…まずどうして藍越(あいえつ)学園の入試を受けに行った君が、ISを動かすという事になったのか教えて欲しいのだけれど」

 

 

「えっとな、建物ん中入って試験会場に向かおうとしたんだけど…迷っちゃって。そんで歩き回ってて適当に目に留まったドアを開いたらISだけポツンと置かれてる部屋で、現物なんて見た事なかったから近くに寄ってちょっと触ってみたら…」

 

 

「何故か起動できたと、それで騒ぎになって今まで色々やってたと」

 

 

「そうなんだ。それで俺なんか色々やらされてIS学園に入学しなくちゃいけなくなったんだけど、書類とか渡されてもどうすれば良いか分かんなくて…助けてユーリ兄ぃぃぃ!」

 

 

そう言いながら一夏は泣きながら私に抱きついてきた、自分の身体が冷えているから一夏が結構暖かく感じる。

 

 

「まぁ、家に帰って話そうか」

 

 

私と、私に泣きついている一夏を見る道行く人達の視線が凄く痛いから。

 

羞恥心と戦いながら車道に寄ってタイミング良く来たタクシーを停め、急いで一夏を押し込んで自分も乗り込み家に向かってもらった。

 

 

………………

 

 

家に帰ってきた私はまだくっついたままの一夏を抱えながらリビングに向かい、一夏を引き剥がしてソファーに転がしコートを脱いで預ける。

 

そしてエアコンをつけて暖房を掛け預けたコートと一夏のコートを脱がせて片付け、インスタントのココアをホットで二つ淹れて一つを一夏に手渡した。

 

 

「さてと、そろそろ落ち着いたかな? まだならそのココアを飲んで気分を落ち着かせると良い」

 

 

「ありがとうユーリ兄、もう落ち着いたよ。まぁココアは飲む、頂きます…ふぅ」

 

 

「頂きます…ふぅ。それで、何から話そうか」

 

 

「何からっていうか、俺どうしてもIS学園行かなくちゃ駄目なのか?」

 

 

「そうだね、まずIS学園に行くべき理由を話そうか。簡単に言えば一夏の身の安全の為、IS学園は全寮制だし表向きは外の干渉を受けないからね」

 

 

「俺の身の安全? それと表向きって?」

 

 

「身の安全は言葉どおりだよ、このままだと何処かの組織や国に攫われてモルモットにされる可能性もある、まぁそんな事は絶対にさせないがね。そして表向きと言った理由は国際規約でIS学園はどの国にも組織にも所属していないし干渉されない、というのがあるんだけれど実際は色々軽い手出しはされてるんだよ」

 

 

「なんでだ? 国同士で決めたルールが在るんだろ?」

 

 

「どの国、組織にも所属しないって事は何処からの助力もないって事になる。それで状況次第では問題が発生するから各国の陰ながらの援助トカ、その代わりの多少の干渉の黙認って結果になるんだよ」

 

 

「ゲー、なるほど。ってそれじゃIS学園に行っても危ないんじゃないのか?」

 

 

「そんな直接の危険はまずないよ、流石にゼロとは言えないけれど。例えば人を送り込んで攫わせるって事は不可能じゃないけど、失敗するリスクとかを考えればやるバカはまず居ない。男でISを動かせるのは世界に一人と考えれば貴重すぎるサンプルでも、その存在に国の命は掛けられないでしょう?」

 

 

「まぁそりゃ、って俺の存在って国がどうこうレベルなのか!?」

 

 

「自覚なさい。世界最強の姉に世界最高の頭脳な幼馴染の姉に世界一の武装メーカーに意見出来る兄が居るんだ、君に何かあればその三人が一斉に敵に回ると考えれば誰も手出しは控えるさ」

 

 

そう説明してからココアを一口、文字通りほっと一息吐く。

 

 

「…ユーリ兄に鍛えられてても色々教わっても、俺ってまだまだ護られてばっかだな」

 

 

「私も千冬も一夏に支えてもらってる、だからお相子だよ」

 

 

「でも俺はユーリ兄も千冬姉も護れるようになりたいんだ、この手で!」

 

 

立ち上がり、私の目を真っ直ぐに見て叫ぶ一夏。

 

そう言ってくれる気持ちはとても嬉しいね、ホント自慢の弟だ。

 

だけど―――

 

 

「……急がない、焦らない。一夏は強いよ、私が教導してきたんだから。一夏の目標の高さは分かるけど急いても早く辿り着けるものじゃないんだ、自分のペースで進むのが一番だよ」

 

 

「…分かった。なら、傍で教え続けて欲しいから…ユーリ兄も一緒にIS学園に行ってくれ!」

 

 

………はい?

 

 

「頼むよ、IS学園って女子校なんだろ? 俺そんなとこに一人っきりとか耐えられねぇよ、お願いだユーリ兄このとーり!」

 

 

そんな無茶をまた豪く綺麗な土下座で一夏は頼んできた、それが色んな所に凄い迷惑を掛けると分かってるのかなこの愚弟は。

 

そしてそうと分かっているのにしょーがないなーと思ってる自分も大概か全く、自分の身内への甘さが恨めしい。

 

 

「……しょうがない、なんとかするよ」

 

 

「ホントか! やった、これで何とかやって行ける気がしてきたぜ!」

 

 

「全く、甘えん坊な弟だよ。さてと、結果的に入学は確定したし夕食はお祝いに外に食べに行こう」

 

 

「え? でも、冷蔵庫の中身とか確認しとかないと…」

 

 

「今日明日に食べなきゃいけないものはない、日替わりで作ってるんだから中身位把握して言ってるさ」

 

 

「そっか。でもまだ昼過ぎなんだよな、どうやって時間を潰す?」

 

 

「部屋に戻って何かしててくれないかな? 私は関係各所への連絡や依頼の電話を入れないといけないから」

 

 

「分かった、時間までゴロゴロしてる」

 

 

「ゴロゴロて…まぁ良いか、そうしてて」

 

 

そうして二階の自室に向かう一夏を見送ってからソファーに腰掛け、ポケットから携帯を取り出し登録している中から一人の番号をコールする。

 

三度コール音が鳴り終わった時、電話が繋がった。

 

 

【もすもす終日(ひねもす)~~?】

 

 

「のたりのたり~」

 

 

【さっすがユーちゃん、何時もながら分かってるねー♪】

 

 

天災ウサギこと篠ノ之 束(しののの たばね)はどうやら今日も絶好調のようで安心したよ。

 

 

「いえいえ、とりあえず久し振りだね束」

 

 

【そだねー、一ヶ月位かな?】

 

 

「うん、それ位だよ。それで早速だけれど聞きたい事があるんだ、答えてくれる?」

 

 

【もっちろん! ユーちゃんの知りたい事なら束さんなんでも答えちゃうよー】

 

 

「今日とある偶然で一夏がISに触れて、起動させた上に検査も受けたらしい。それでIS学園に入学する事になったんだけど……」

 

 

【へー…ほえ?】

 

 

今日起きた事をそのまま伝えると束にしては珍しい呆けた声が返ってきた。

 

 

「その事について束は何か知っている事はある?」

 

 

【ユーちゃん、冗談じゃないよね?】

 

 

「本当だよ、一夏の鞄にIS学園の案内や入学前に必読の参考書が入ってた。それでどう? 束は何か関係しているかな?」

 

 

【…まず信じて欲しいんだけど私はそれには無関係だよ、流石に一瞬起動を誤魔化す位は出来るけどそのまま装着して操作までは介入できない。ISがどうして女性にしか動かせないのかは私にもまだ解ってない事だし、いっくんが動かせた理由なんて今は何も言えないよ?】

 

 

「そうだよね、ごめん。後私もIS学園に入学する事になる、一夏に泣きつかれちゃって」

 

 

【相変わらずいっくんに甘いんだからー、束さんにも甘くしてほしいなー? でも大丈夫なのユーちゃん、身体の事とか立場の事とかさ?】

 

 

「そこは工房のメンバー達に協力してもらうし、自分の事は自分でなんとかね。それでそっちの皆にも、四月からちょっと連絡が取り辛くなる事を伝えておいてくれるかな?」

 

 

【おーけーおーけー、任された。にしてもいっくんがねー、私もIS学園に直接調べに行こうかなー?】

 

 

「いやそれは、凄く不味くないかな?」

 

 

【だーいじょーぶ! 束さんを捕まえられるものなど居ないのだー、ぶいぶい! それに、傍に居る間はちゃんと護ってくれるんでしょ?】

 

 

「…もちろん、私の大切な家族の一人だもの」

 

 

【えへへー、そんじゃまたねー♪ あ、知ってると思うけど箒ちゃんもIS学園に行くんだ、だから箒ちゃんの事もよろしくねー】

 

 

最後にそう言って通話は切られた、私の周りは私をよく振り回してくれるよ全く。

 

でも、悪い気分じゃないから良いかな?

 

 

「さて、後は工房に電話して発表の準備と学園への通達を頼んでそれから……」

 

 

色々考えつつ、とりあえずココアをおかわりしようとソファーからキッチンに向かった。

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