Infinite ARMS   作:橘 千景

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10 こいつ、動くぞ!

 

私とセシリアとの試合から四日経ち、気付けばもう一夏とセシリアとの試合の時を迎えていた。

 

が、何故か倉持技研から一夏の専用機が送られて来ず、開始が遅れに遅れている。

 

現在控え室では一夏が気分悪そうな顔で座っていて、私と箒と千冬がそれを見守っている状況。

 

 

「ちふ…織斑先生、ホントに俺の専用機って来るんですか? 何とか抑えてる不安や緊張が漏れそうなんですけど」

 

 

「此方に送ると昼には連絡が来ていたんだから間違い無い筈だが…これは何か遭ったと考えるべきか、最後の連絡から音沙汰が無いのはおかしい。もし到着していれば山田君から連絡があるはずだし、まだ届いてないのは間違い無いが」

 

 

確かにこれだけ遅れているのに連絡も寄越さないような所では無いし、ヒカルノは変人だが礼儀はしっかりしていた人だし大丈夫だと信じたい。

 

…例え初めて会った時にいきなり抱き締められて、胸で圧死&窒息死させられそうになったとしても。

 

 

「一夏、気をしっかりな」

 

 

「ああ、ありがとう箒。でもな…これ以上待たされると本当にヤバイかも知れない、ちょっと吐き気してきた」

 

 

そう呟く一夏の表情はなんかじわじわと青ざめていき、本当に不味いかも知れない。

 

 

「何とか堪えて一夏、気分落ち着かせる為にも何か飲む?」

 

 

「いや、今は飲むのも不味い気がする」

 

 

「そう…ん?」

 

 

一夏を見守りながらこっちも段々不安になってきていたら、不意にポケットの携帯が震えた。

 

 

「ん? ちょっとごめんね」

 

 

一言断ってピットの隅に行き、取り出して画面を見たらこの状況で束からだった。

 

タイミングに疑問を感じつつも、とりあえず着信をとる。

 

 

「もしもし、何かあったの?」

 

 

【ユーちゃんユーちゃん、今学園の搬入口に来ちゃってるんだけどねー? 何か緑の小動物が邪魔だから実力行使して良いかなって聞きたくて】

 

 

………………え?

 

 

【あれ、ユーちゃん? どーしたの?】

 

 

「あ、いや、なんでもない。ってか何で普通に来ちゃってるのさ! 見つかると不味いよ!」

 

 

一夏達に聞こえないよう声量を抑えつつ怒鳴る。

 

 

【だーいじょーぶ! 見つかって追われても逃げる手段はバッチリ用意してあるから。んで来た理由だけどね、色々あっていっくんの専用機を直々にお届けしに来たのだー、ぶいぶい♪】

 

 

「えー……まぁ束が直接動いたならやっぱり何かあったんだろうけど、無茶はしてないよね?」

 

 

【そんな問題なっしんぐだよー。機体の回収と搬送は"妖精達"にやらせたし、私はシュレディンガーで此処まで飛んで来て受け取っただけだもん】

 

 

「なら良いけど、ちゃんと護衛にも付いてもらってる?」

 

 

【持って来させた娘達にそのままやらせたよ、んでこの緑をどーにかして良い?】

 

 

「ダーメ。その人うちのクラスの副担任だし、何時も言ってるけど先ず人をどーにかしようとしないの。とりあえずその人に代わって」

 

 

【はーい…ん、代わってってユーちゃんが言うから】

 

 

【………あの、どなたでしょうか?】

 

 

結構面倒くさそうな束の声から少し置いて、真耶ちゃんの声が聞こえてきた。

 

 

「真耶ちゃん先生、驚かせてすみません。その人はえーと…関係者だって工房が保障しますから、機体と一緒に通して下さい」

 

 

【え、ユーリ君!? あ、えと、分かりました。あの…どうぞ】

 

 

【話は済んだ?】

 

 

困惑気味の真耶ちゃんがそう言って、また束の声が聞こえてきた。

 

 

「その人の案内でピットまで機体を運んで来て、お願いだから揉めないでね?」

 

 

【はーい、じゃあ直ぐ行くからねー】

 

 

そう言って通話は切られた、さて機体は届いたけどどう説明するか…。

 

なんて言うべきか、いやまぁどうしようもないから諦めよう。

 

そう決めて一夏達の傍に戻り千冬に声をかける。

 

 

「千冬、機体が届いたって」

 

 

「そうか…何故お前に連絡が入る?」

 

 

私の言葉にさらりと答え…たと思えば直ぐ此方を向いて問いただしてきた。

 

 

「いや搬入口で持って来た人がちょっと揉めてたみたいで、それでその…誰が来ても冷静で居てね?」

 

 

「その言い方だと嫌な予感しかしないな、一体何が来ると言うん「ちーーちゃーーーん♪」だっせい!」

 

 

話してる最中に控え室の扉が動き、扉が開き切らぬ内にそこから飛び出してきた束だったが千冬はあっさり反応し、振り向きながら迫る束の顔面を鷲掴むとその勢いのまま床に叩き付けた。

 

 

「がはぁ…何時もながらちーちゃんの愛は激しいねー、よっと…直接は久し振りだね箒ちゃん」

 

 

凄いダメージを受けたような素振りをしたと思えば次の瞬間にはけろっとして飛び上がり、束は箒の許へ躊躇いがちに近付いて行った。

 

 

「そうですね姉さん、直接は……もう六年ぶりでしょうか」

 

 

「そんなにかー。すっごく綺麗になったね、それにこのはちきれんばかりの膨らみは…うぐぅ!」

 

 

じわじわと近付いて行ってからすかさず箒の胸に手を伸ばそうとした束だったけど、さらっと見切られてカウンターに鳩尾を手刀で突き上げられた。

 

 

「ふふ……強くなったね、箒ちゃん」

 

 

「もう昔とは違いますよ、子供じゃないですから」

 

 

そんなやりとりをして、二人はちょっと固いながらも微笑み合った。

 

 

「久し振りの再会なのは分かるが今イチャつくな。それで何故お前が此処に居るのかは大体予想が付くが、機体は大丈夫なんだろうな?」

 

 

「もっちろんだよ! この天才束さんの傑作に問題なんて在るわけ無いさ、さっきの緑がピットで準備して待ってるんじゃないかな?」

 

 

束は振り返って軽快なサムズアップをし、余裕の笑みで言い切った。

 

 

「さっきの緑?」

 

 

「真耶ちゃん先生の事だよ、んじゃ時間が押してるし急いでピットに向かおう」

 

 

「………あ。お、おう!」

 

 

千冬の疑問に答えつつ束が現れてからずっとポカンとしていた一夏に声を掛け、全員ダッシュでピットに向かった。

 

十数メートルの距離の間、どっかからエンディングダッシュ!って幻聴が聞こえた気がしたけどまぁいいか。

 

 

そしてピットのドアを開けた私の目に飛び込んできたのは、全く予想していなかったモノだった。

 

 

「え? なぁユーリ兄、これって…」

 

 

「白騎士、だがどこか違う?」

 

 

「昔見た物に似ているような、似ていないような?」

 

 

驚きに固まる私に対し、束以外の三人はそれを見た感想を口にしていた。

 

ピットのハンガーに佇んでいたのは白い、そう、穢れなく澱みなく、そんな印象を与える白き機械の鎧が鎮座していた。

 

だが私が驚いたのはそこではない、白騎士に似ている事に驚いたのではなく、何故"この白騎士のデザイン"なのかに驚いているのだ。

 

 

「束、これはどういう事なのかな? どうして私が設計したデータが使われてるのかな? いや細部は結構違うけど」

 

 

束の方に振り返り、少し困惑気味に聞いてしまった。

 

 

「あっはっは、ユーちゃんの仕事用PCにこのデータが在るのは前から分かってたんだ。これが本来はちーちゃんが現役復帰する時用なのも知ってた。でもこれがそう使われる事は無いだろうから、だからいっくんになら託しても許してくれるかなーって」

 

 

「な…そんな物を隠してたのか?」

 

 

「…うん。もし何時かもう一度千冬が表舞台に立つと言い出したら、これを作って渡すつもりだった。多分使われる事は無いと分かっていたけど、ついね」

 

 

「全く、お前という奴は。まぁ良い…一夏、急いで乗り込め。既にオルコットも観客も待たせている以上時間はやれん、だから初期化(フィッティング)と最適化(パーソナライズ)は試合中にやるしかない。ただでさえ不利な状況に追い撃ちを掛けるようだが、それでもやる覚悟は良いか?」

 

 

私の言葉に一瞬呆れた素振りを見せた千冬だったが、直ぐに一夏の方に向いて指示を出し確認を取った。

 

 

「……おう!」

 

 

その千冬の言葉に一瞬瞼を閉じ、そして静かに開いて凛とした笑顔で答えた一夏は、急いで機体の傍に走っていく。

 

そして準備を整えていてくれたであろう真耶ちゃんに手伝ってもらいつつ、ISを装着していった。

 

 

「さて、私達は先に管制室まで上がるか」

 

 

「「はい」」「ほいほーい」

 

 

「あ、ユーリ兄ちょっと待ってくれ!」

 

 

ピットを出て行く千冬達に続いて出ようとしたら、距離の所為で大声で一夏に呼び止められた。

 

 

「どーしたー?」

 

 

こっちも距離的に大声で返す。

 

 

「この機体の名前って何だー!」

 

 

「…白光(びゃっこう)! その娘は白光だよ!」

 

 

「分かった!」

 

 

そうして改めてピットを後にした。

 

 

 

――――――

side 一夏

 

 

……白光、か。

 

 

「織斑君、どうかしましたか?」

 

 

「あ、いえ何でも無いです」

 

 

「なら良いですけど。それで、感触はどうですか?」

 

 

「えーと、よっ……何か思ったよりしっくりきてます」

 

 

試しに立ち上がろうとしたら、思ったよりすっと身体が動いて楽に立てた。

 

もっと重いとか思ってたけどそんな事は無く、ちょっと厚着したかなって位の感じだ。

 

 

「そうですか。装着も問題無いですね、発進の仕方は分かりますか?」

 

 

ホログラムウィンドウを確認しながら山田先生が聞いてくる。

 

 

「大丈夫です、そこのカタパルトに足を掛けたら声で合図を送るんですよね」

 

 

「そうです、言葉は発進なり何なり大抵は反応してくれますから、じゃあ…頑張って下さい」

 

 

そう言って山田先生もピットを出て行った。

 

それを見送ってから歩いてカタパルトの上まで行って、描かれた指示に従い足を置く。

 

するとガチリと音がして、ロックされたのが分かった。

 

 

「すぅ……はぁ……それじゃ宜しくな白光。えーとこういう時は…一夏、発進します!」

 

 

そう叫んだ途端物凄い速さで引っ張られるように前進し、ピットの端まで来た所で打ち出された。

 

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