Infinite ARMS   作:橘 千景

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11 一意専心!

side 一夏

 

 

 

打ち出されて直ぐ初めてISを纏った時を思い出し、何とか人生二回目の飛行を成功させる。

 

そしてアリーナの中央に浮かんでいるオルコットに向かってゆっくり近付いて行く。

 

 

「随分と遅かったですわね、何かありましたの?」

 

 

「この機体の到着が遅れまくってたんでな、それで到着したから急いで飛び出して来た」

 

 

あれ?何かもっと怒ってたりするかと思ってたけど普通の反応だな。

 

 

「到着して直ぐ? という事はそのISはまだ初期化も最適化も済ませていないと?」

 

 

「ああ、試合中にやってみせろって無茶言われた」

 

 

「……仕方ありませんわね、そのような相手に勝っても嬉しくなどありませんし待ちましょう。それまではそうですわね…飛ぶ練習でもしたら如何です?」

 

 

何か反応が柔らかくなってるような、そういえば教室でも態度が最初と違ってたような気もするし。

 

ユーリ兄と試合してからだったような、いやそれは如何でも良いがその物言いはやっぱムカつくな。

 

 

「そんな情けはいらねぇよ、直ぐに始めよう」

 

 

「あら、そのように失礼な事を仰いますの?」

 

 

「失礼? 何でだよ?」

 

 

「不完全な状態だと分かっていて勝負しようとする、時間を掛ければ準備が出来てその間待つと言うのにそれを断ってまでです。それは全力を以ってこの試合に臨むわたくしへの無礼ではありませんこと?」

 

 

ん……おお!成る程。

 

 

「あーその、悪かった。それじゃあお言葉に甘えさせてもらう」

 

 

「そうなさい。ああ、飛ばし過ぎてエネルギーを無駄に消費なさらぬよう注意なさい」

 

 

「分かったよ」

 

 

とは言え飛ぶ練習か、確かユーリ兄と箒に聞いたのだと自分のイメージが大事なんだっけか?

 

自分に合う様にイメージする……深くは考えなくても良いから何となく思いついたので良いって言ってたっけ。

 

 

 

――――

side ユーリ

 

 

管制室から一夏とセシリアを見守っていると、どうやら白光の一次移行(ファーストシフト)まで待ってくれるみたいで戦闘は開始されない。

 

 

「あの時あんな態度を取っていたオルコットが変わったものだな、お前の入れ知恵か?」

 

 

その様子を見ていた千冬が此方に横目を向けてそう聞いてきた。

 

 

「別にこれって事は言ってないよ、セシリアが一夏と正々堂々試合したいと思っただけじゃないかな?」

 

 

「そう思える時点でお前に影響を受けている気がするぞ。まぁこれでどうしようもない勝率が、僅かにマシにはなったか。それで束、何があったのか聞かせてもらおうか」

 

 

私の言葉に何故か呆れ気味に見える表情で呟き、今度は束の方を向いてそう聞いた。

 

 

「んー、大した事じゃないよ。私の技術を研究したがったのか政府の連中が白光を奪取しようとして、それを手駒にしてる娘達に蹴散らさせて此処まで持ってこさせたのさ。そんで久し振りに直接箒ちゃんとちーちゃん、いっくんにも会いたかったから私が中に搬入したって訳」

 

 

「全く、自分の立場を分かってるのか?……いや、お前には言うだけ無駄だろうがな」

 

 

今度はよく分かる呆れ顔でそう溜息混じりに言った。

 

 

「姉さん、師匠には会いたくなかったのですか? さっき名前が挙がって無かったですけど」

 

 

束の性格上私の名前が呼ばれなかったのが気になったのか、箒が束にそう聞いた。

 

 

「ん? だってユーちゃんとはちょくちょく会ってるし、態々久し振りって言う程じゃないもん」

 

 

そう束が言うと箒はえ?と呟き呆け、千冬が私を怖い顔で睨んできたよ。

 

 

「ほほう……時折連絡を取り合っていたがそんな事は初耳だな、どちらからも聞かされてないが?」

 

 

「あはは……千冬が政府に洩らすとは思わないけど、何処で聞かれてるかも分からないから言い出せなくて。私一人なら束に迎えに来てもらうなり、こっちから強化ステルス仕様のIS使って会いに行くなり出来るから。どうしても直接会ってやらなくちゃいけない事もあったりするから、偶にこう……ね?」

 

 

割合必死の弁解です、何故なら千冬が恐過ぎる。

 

 

「……まぁ良いだろう、どうせ学園内の監視カメラ等は細工してあるのだろう? なら急ぎ心配する問題は無いだろう、今は試合を見るのに集中しよう」

 

 

「う、うん、そうだね」

 

 

とりあえず納得してくれたみたい、あー恐かった。

 

 

「りょーかーい、ほら箒ちゃんぼーっとしてないで」

 

 

「…あ、ええ分かってます」

 

 

「ああ山田君、この件は誰にも洩らさないように頼む。もし誰かに話したら……身の安全は保障出来ないからな」

 

 

「っひゃ、ひゃい!!」

 

 

管制室に来てからずっと隅っこの方でそわそわしていた真耶ちゃんが、千冬に急にそんな事を言われて跳ね上がりながら答えていた。

 

 

「そんな脅すような言い方しないの千冬。真耶ちゃん先生、これは貴女と近しい人の安全の為ですから。どんな理由であれもし束と直接会ったとか会える人間と知り合いなんて知れたら、先生が何に使われるか分かったものじゃないですから。先生に直接でなくても、家族等を人質に取られて脅迫される危険もありますし」

 

 

「は、はいぃ……もしもが起きないように気を付けます」

 

 

「宜しくお願いします。所で話は変わりますけど、セシリアには今回誰か付いてるんですか?」

 

 

「え、えーと、イギリスから来ている教員の方が付いています。何でも前回の試合の結果を受けて現場での細かいデータが必要だそうで、機材を入れて色々やっているらしいです」

 

 

「成る程、ありがとうございます」

 

 

余程前回の結果が良かったのかな?後で聞いてみようかね。

 

そんな事を考えつつ大きく映されたモニターではなく、敢えて窓から一夏達を見守る事にする。

 

 

side out

――――

 

 

 

「少しは悪くない動きになってきましたわね」

 

 

「そうか? なら良いんだけどな」

 

 

色々と試しながら飛んでたらオルコットにそう言ってもらえた、少しはマシになってきたって事か?

 

 

「って、うおっ!?」

 

 

動くのをやめた所で急に白光がビカーッて輝きだして、何にも見えなくなる。

 

瞼を閉じてても光ってるのが分かる程眩しかったけど、直ぐに治まったのか閉じた視界が暗くなった。

 

何があったのかも分からず恐る恐る瞼を開くと、特に何も変わってなかった。

 

 

「あれ?」

 

 

「ご自身のISを見て御覧なさい」

 

 

言われてハイパーセンサーで全身を見てみると、真っ白だった装甲に青色のラインが入ったり黄色のマークが付いたりしていた。

 

 

「えっと、これが一次移行ってやつか?」

 

 

「そうですわ、これでそのISは完全な貴方の専用機になったんです。では試合開始と参りましょう、武装の出し方は分かるかしら?」

 

 

「ああ、コイツが教えてくれてる。えーと…………嘘だろ?」

 

 

白光から流れ込んでくる情報に従って視界に映し出される画面を確認してたら、ついそう言っちまった。

 

 

「どうしましたの?」

 

 

「武装が、一つしか無い」

 

 

「……は?」

 

 

「と、とりあえず出して見る」

 

 

これまた白光の指示に従ってその武器を手にするイメージを念じる。

 

すると棒状の光が手の平から伸び、それを掴むと光が消えて一本の武器が握られた。

 

武器を手にした瞬間その情報がまた画面に映し出される、名前は雪片銃剣拵(ゆきひらじゅうけんこしらえ)……って確か雪片って千冬姉が使ってたのと同じ名前じゃなかったか?

 

ってそれより使い方はえーと、普通に剣として使うのと刃にエネルギーを集めての射撃攻撃、それか振るって斬撃を飛ばす感じで衝撃波を撃つの三種類って…そんだけか!?

 

 

「……使い方は分かった、それでホントにこれしか武装が無いのも分かった」

 

 

「はぁ……ならそれで出来るだけの事をしてみせなさい、たとえ剣一本しか持たぬ相手でもわたくしは手加減などしませんわ」

 

 

そう言ってオルコットはユーリ兄との試合でも使ってたBT兵器のビットって奴を周りに飛ばして、手にした大きな銃を俺に向けた。

 

 

「されたくも無いさ、それと剣だけだからって出来る事は一つじゃないぜ? 行くぞ!」

 

 

そう叫んで雪片を構え距離を詰めに行く…って速っ?!

 

 

「な?!」

 

 

一瞬の内に驚いた表情のオルコットの直ぐ傍まで迫ってたから、慌てて雪片を振りかぶる。

 

が斬りかかる前にセンサーにエネルギーの反応があったから反射的に飛び退く感じで後ろに下がると、目の前を一筋のレーザーが通り抜けた。

 

 

「なんて加速ですの、つい驚いてしまいましたわ」

 

 

「だがそれでも反応してビットで撃ってくるなんてな、流石だぜ」

 

 

「ふん…今度は此方の番ですわ、踊りなさい!」

 

 

そうオルコットが叫ぶと同時に周囲のビットが一斉に動き出し、四方八方からレーザーを撃って来る。

 

 

「くっ、はっ、とぅ、この!」

 

 

それを当たり所がヤバそうなのは雪片で防ぎ、何発か掠りつつもかわしていく。

 

慣れて無いから雑な避け方にはなるが、なんとか直撃は避けていく。

 

 

「っの、其処だぁ!」

 

 

そのかわす合間にエネルギーを溜め、ビットとオルコットが近付いた所を狙って衝撃波を振り飛ばす。

 

 

「なんっ?! くぅ!?」

 

 

衝撃波はビットを一機落としたけど、オルコットには身を捻られ掠っただけだった。

 

 

「確かに出来る事は一つではないようですわね、ですが!」

 

 

体勢を立て直したオルコットが叫ぶと同時に、さっきまでより速くビットの攻撃が始まった。

 

しかもどんどん俺の反応し辛い死角を読んできてんのかかわし辛くなってきてやがる!

 

くそ……どうする?こっからどうする?

 

 

「こんなものですの? 期待外れでしたわね」

 

 

「うるせぇ! まだだ、まだ終われねぇ!」

 

 

イチかバチか、やるしかないよな!

 

ビットがレーザーを撃った瞬間を狙って、その内の一つに向かって突っ込む。

 

目の前から迫る一発を弾き、そのままの勢いで逃げようとするビットに追いついて斬り落とす。

 

 

「甘いで…しまった?!」

 

 

ビットの爆発と同時にさっきまで狙われ続けていた死角の方に雪片を向けて、溜めていたエネルギーを撃ち出す。

 

読み通りそこに浮いていたビットにエネルギー波が直撃し、後は今飛んでる一機とユーリ兄との試合で見た腰のミサイル二機になったな。

 

 

「油断大敵ってやつだぜ、狙って来る場所がパターン化してた」

 

 

「そのようですわね、油断はしないと誓ったばかりで全くわたくしは……なれば、もう出し惜しみはいたしませんわ」

 

 

そう言うオルコットの腰からあのミサイルのビットが外れて浮かび上がり、オルコット自身も手にしていたでっかい銃をこっちに向けてきた。

 

 

「決めに行きます、覚悟なさい!」

 

 

そう叫ぶと同時に銃とビットからレーザーとミサイルが放たれ、俺は飛び上がる様にそれをかわす。

 

それを追うようにオルコットが動いてレーザーを撃ってきて、かわした所にビットの攻撃が飛んで来た。

 

咄嗟に左腕の装甲でレーザーを防ぎながら、加速してミサイルはかわす。

 

そこにまたあの銃の一撃が飛んでくるから旋回して避けるが、今度は回り込まれていたビットのミサイルを喰らうハメになった。

 

 

「くぅ! がっ!?」

 

 

オルコットのあのでかい銃の一撃は喰らう訳にはいかないって思う程に、ビットからのダメージも段々溜まってきて焦っちまう。

 

此処までなのか?相手は代表候補生って凄い奴だからって、もう俺に出来る事は無いってのか?

 

まだだ……諦めたくない!

 

そう強く思った瞬間、視界に二つの情報が表示された。

 

ビットの攻撃をいくつか貰いながらも動き続けながら、その表示された内容を急いで読む。

 

一つはユーリ兄とオルコットが使っていた瞬時加速のやり方、もう一つは…零落白夜(れいらくびゃくや)?

 

良く分かんねぇが、今表示されたって事はこれに賭けるしかないよな。

 

負けそうだとか余計な事を考える暇より、やれる事に集中する方が俺向きだ。

 

ユーリ兄に教わったあの言葉みたいに。

 

 

「俺は負けない、千冬姉とユーリ兄の名を守る為に!」

 

 

そして狙うは……此処だ!

 

 

「発動!」

 

 

その零落白夜ってのを発動させ、瞬時加速を使って俺に向かいレーザーを撃とうとしてるオルコットに翔け寄る。

 

この時上段に構えた雪片は青い光に包まれていた。

 

 

「落ちなさい!」

 

 

「おぅりゃああぁぁぁぁぁ!!」

 

 

突き進む勢いのまま放たれるレーザーを斬り落とし、そこから薙ぐように雪片を振り上げる。

 

 

「くっ?!」

 

 

もらった!と思った次の瞬間だった。

 

 

『試合終了、勝者はオルコットだ』

 

 

ブザー音が鳴り響き、スピーカーから千冬姉のそんな言葉が聞こえてきた。

 

 

「「……は?」」

 

 

俺はオルコットに軽く雪片を当てた状態で固まりながら呆けた顔になってるだろうし、オルコットも何が起きたのか分からないのか困惑した顔で首を傾げてる。

 

 

「え、あ、まぁピットに戻りましょう」

 

 

「あ、おう」

 

 

結果俺達は二人揃って状況が分からないまま、互いのピットに戻って行った。

 

 

 

―――

 

 

 

試合が終わってピットに戻り、迎えてくれたユーリ兄達にISを待機状態にする方法を聞いてやってみたら白に青の縁取りが付いた腕輪になった。

 

そんで落ち着いた所で何が起きたのかを聞いてみてる。

 

 

「それで俺はなんで負けたんだ?」

 

 

「それはおま「私が教えてしんぜようぶいぶ痛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」お前のISの単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)の所為だ」

 

 

俺の疑問に千冬姉が答えようとしたら束さんが飛び出してきて喋ったら、途中でアイアンクローされて結局千冬姉が説明してくれた。

 

でもあっさりし過ぎで分っかんねー。

 

 

「あたた……ちーちゃんざっくりし過ぎだよ、だから私が説明するって言ったのにー。いっくんの白光が発動させたのは零落白夜だったでしょ? あれは自身のISのシールドエネルギーをも攻撃に使うってリスキーなスキルなのだ、まぁその分威力は規格外なんだけどね? なにせ直撃すれば相手のシールドエネルギーそのものにダイレクトアタック! できるって効果があるからねー、さていっくん向けの説明にしたつもりだったけどついて来てくれてるかなー?」

 

 

千冬姉のアイアンクローから抜け出した束さんが痛みが残ってそうなこめかみを少し撫でた後、ペラペラと凄い速さで説明してくれた。

 

ぎりぎり全部聞き取れたけど、意味は何となくしか分かんなかったぜ。

 

 

「えーと、簡単に言えば相手の防御を無視して直接ライフにダメージを与える……って事で良いんですか?」

 

 

「ざっくり言っちゃえばそーゆー事だね、正しくは防御というか表面のシールドエネルギーを消滅させるからどっかに掠る程度でも十分なダメージが期待できるよ? 因みに零落白夜はちーちゃんの暮桜(くれざくら)の単一仕様能力でもあったんだけど……はて? 全く同じ能力をISが発現させたなんて私の記憶にも無いんだけど……ちょっといっくん白光調べさせて?」

 

 

俺の言葉に更に説明を足してくれた後なんか束さんが唸りながら頭を指でグリグリし始め、かと思えば白光を調べたいって俺に手を差し出して来た。

 

 

「あ、えっと」

 

 

「ハリィハリィ、はーやーくー」

 

 

急かされるからこっちも急いで腕から白光を外して束さんに手渡した。

 

すると束さんは何処から取り出したのかでっかいコンピューターをドンと置いて、その上に白光を置いてケーブルを繋いでなんかやり始めた。

 

 

「やれやれ、ああなると結果が出るまでは放っておくしかない。まぁなんでお前の負けだったのかは理解したか?」

 

 

「ああ、納得したよ千冬姉。つまり零落白夜を発動させて斬りかかったは良いけど、届く前にエネルギー切れで負けたんだな俺」

 

 

「そういう事だ、後まだ勤務扱いだから織斑先生と呼べ馬鹿者」

 

 

そう言うや否やどっから取り出したのか分かんないけど、千冬姉に出席簿で頭を叩かれた。

 

 

「あはは、まぁ負けたといえど良くやったよ一夏。決着前の言葉、兄さんは嬉しかったぞ♪」

 

 

「だがあんな格好付けた台詞の後で自滅とは……お前も随分恥ずかしい真似をしたな一夏」

 

 

ユーリ兄の労いの言葉は凄く嬉しいけど、箒の言ってる事が最も過ぎて恥ずかしさで泣きそうになってくる。

 

ホント、あんだけカッコつけたのになー……トホホ(泣)

 

 

「やれやれ。まぁそろそろ時間も時間だ、束が動き出したら撤収するぞ」

 

 

「いよーっしチェック完了! だが残念で悔しいけど要因は不明、またなんかしら調べておくかな? っとしまってーしまってー」

 

 

そう千冬姉が言った瞬間、束さんはさっきまでコンピューターのモニターと睨めっこしてたかと思えば次の瞬間にはバンザイポーズで一人納得してからまたコンピューターを何処かへしまった。

 

 

「それじゃー束さんはここら辺で一旦去るよー、またね箒ちゃんちーちゃんいっくんユーちゃん……見守ってるから頑張ってね、箒ちゃん」

 

 

そう言うだけ言って誰の返事も待たずに束さんは搬入口から走って出て行ってしまった、相変わらずせわしない人だったな。

 

箒は何かを言おうとしてたのか束さんが去った方に手を伸ばして固まってる、ユーリ兄は慣れてるからか何時もの微笑みだし千冬姉も慣れてるからこそか凄い呆れ顔だった。

 

 

「……やれやれ、それじゃあ撤収解散だ。今日の試合の疲れを明日に残すなよ一夏、負けたからと言っても遅刻など許さんからな」

 

 

「ぐふ……はい」

 

 

「今日は飲む? 話し……聞くからさ?」

 

 

もう涙がぽろぽろ出始めてる俺の頭をユーリ兄がそっと撫でてくれた。

 

フルボッコ状態の心にユーリ兄の優しさが染みる……けど飲まねえってかまだ飲んじゃダメだろ!何処ぞのスナックのママかよ!

 

 

「……ジュースでなら」

 

 

心で一回ツッコミつつも正直愚痴りたいのでそう返した、そんでユーリ兄にだけ着替えとか終わるまで待っててもらって一緒に食堂に向かった。

 

 

 

―――

side セシリア

 

 

 

後片付けを終え、何処かぼうっとする頭で更衣室でスーツを脱いで併設されたシャワー室へ。

 

ハンドルを捻ればシャワーの冷水が試合で火照った身体を冷ましてくれる、ですが胸の奥の熱い衝撃が未だに治まりません。

 

あの時の……一夏さんのあの真っ直ぐで鋭い、そして何処か情熱的な眼差し。

 

あの時目が合ってから今もずっとこの胸で高鳴っているこの鼓動、それが止む気配がまるでしない。

 

 

「初めて……でしたわ」

 

 

無意識にそう呟いてしまった。

 

そう、初めてでしたの、あれ程に雄々しき殿方を見るのは。

 

今までわたくしが目にしてきたのは女性に媚び、頭の上がらない軟弱な男性ばかりでした。

 

わたくしのお父様も、優しい父ではありましたが家では何時もお母様の顔色をうかがってばかりで……それが不愉快でしたわ。

 

だからでしょうか、わたくしは自分の意思を曲げず、どのような状況でも己を貫くような……そんな殿方に出会える事を夢見ていました。

 

そして出会ってしまった、そんな相手に。

 

 

「一夏さん………」

 

 

これが恋……というものなのでしょうか?あの方の顔を思い浮かべるだけで顔が熱くなるような気がしてきますわ。

 

わたくしはこれからどうするべきでしょうか?こういう時は、そう……チェルシーに相談してみましょう!

 

そうと決まれば早速ですわ、急いでシャワー室を出てと。

 

さくさくと身支度を済ませ、わたくしは更衣室を飛び出しました。

 

 

 

side out

 

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