Infinite ARMS   作:橘 千景

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13 そのツインテールには、夢と願いが籠もってる

 

一夏の就任パーティーの翌朝、クラスメイトと他愛ない話をしていたらある話題が挙がってきた。

 

 

「そう言えばね、何か転校生が来るって噂だよ?」

 

 

「転校生? この早いのか遅いのか分からない時期に…ね」

 

 

エスカレーター式の学校とかからの転入なら遅いし、それ以外なら始業九日目に来るものなのかな?

 

 

「うん、何でも中国の代表候補生らしいんだって」

 

 

「中国か……」

 

 

元気にしてるかな、あの娘は………。

 

 

「代表候補生なぁ、何で始業から来なかったんだろうな?」

 

 

「さてはわたくしの実力を耳にして慌てて送り込んで来た……何て事はありませんわね」

 

 

「別にこのクラスに来るわけでは無いのだろう? そういう話しを織斑先生達から聞かされて無いのだし」

 

 

クラスメイトからの情報に私、一夏、セシリア、箒は其々に反応した。

 

 

「まぁ気にしてもしょうがないし、先ずは目の前の事に集中しようか」

 

 

「そうだな、気にしても意味は無い。特に一夏は他の事に気を取られている暇は無いぞ? お前はクラス対抗戦に出る当事者なのだからな」

 

 

「お、おう!」

 

 

そう、五月にはクラス代表最初の大仕事『クラス対抗戦』が控えている。

 

そして一夏には是が非でも勝ってもらわなければいけない理由がある。

 

 

「そう、是非とも一夏さんには勝って頂きませんと!」

 

 

「そうだな、負ける事は許されん」

 

 

「おりむ~が勝てば皆が幸せになれるよ~」

 

 

「うんうん、フリーパスがかかってるんだもん」

 

 

そう、優勝したクラスには食堂の半年間デザートフリーパスが与えられるのだ。

 

故に一夏には勝ってもらわなければならない、必ずね。

 

 

「まー今のところ専用機を持ってるクラス代表って一組と四組だけだし、多分余裕じゃない?」

 

 

「………その情報、古いわね」

 

 

一人の娘が言った言葉に、不意に何処かからそんな台詞が返ってきた。

 

何か聞き覚えがある声だったような気がしつつ声のした方を向くと、教室のドアの所にツインテールをなびかせる一人の少女が立っていた。

 

 

「二組も代表が専用機持ちになったわ、そして簡単に勝たせてあげるつもりなんて無いからね?」

 

 

そうドヤ顔で宣言するのは鈴…一年前程前に中国へ引っ越しさっきどうしてるか気にしたばかりの友人だった。

 

 

「鈴、久し振りだね」

 

 

「え?……ホントに鈴だ」

 

 

私の言葉に一夏も顔をよく見て気付いたんだろう、再会の驚きと嬉しさの所為か何とも言えない表情になっている。

 

 

「そう、久し振りね二人共。凰 鈴音(ファン リンイン)、中国代表候補生になって帰ってきたわよ!」

 

 

「うん、お帰りって言うのは変かな? ってよっと」

 

 

「へっ?」

 

椅子から立ち上がって傍に行こうとしたら、鈴の背後に気が付いたから踏み込んで私の方に引き寄せる。

 

 

「こら、教育的制裁の邪魔をするな」

 

 

鈴の背後に立っていた千冬は空振った出席簿を肩に当てながら、不機嫌そうに言ってきた。

 

 

「千冬の出席簿アタックは威力高すぎるからダーメ、って千冬が来てるって事は教室に急いだ方が良いよ鈴」

 

 

「あんがと、また後でね! ああ千冬さんも」

 

 

「織斑先生だ、全く」

 

 

呆れる千冬の横を通り過ぎ、鈴は隣のクラスに走って行った。

 

何時かまた会おうと約束はしていたけど、まさかこんな形で再会するなんて思ってなかったな。

 

 

「お前達もさっさと席に着け、授業を始められん」

 

 

「ほいほい、一夏ーそこで固まってたら千冬に頭凹ませられるよー?」

 

 

「……は!? おう!」

 

 

一夏に声を掛け、ささっと自分の席に着く。

 

他の皆も急いで席に着き、授業は開始された。

 

 

 

―――

 

 

 

午前の授業を終えて昼休み、一緒に食堂に行こうと誘おうと思ったけど二組の教室に鈴は居なかった。

 

移動教室やらで授業間の休み時間は会えなかったし、色々ゆっくりと話そうと思ってたんだけどな……。

 

ややションボリしながら一夏達と四人パーティーで食堂に向かったら――

 

 

「もう、遅かったじゃない」

 

 

既に料理の載ったトレイを片手に鈴が立っていた。

 

 

「いや誘いに行ったら教室に居なかったし、それで少し遅れたんだけど?」

 

 

「あ、ごめん、先に行ってるって言っときゃ良かったわね」

 

 

「まぁ良いけどね。それとそこは他の娘達の邪魔になっちゃうから、窓側の左端のテーブルで待っててくれる?」

 

 

「おっけー、じゃあ座ってるわ」

 

 

鈴に何時も私達が使ってる席に行っててもらい食券を買って料理を注文、そして出て来たトレイを受け取って鈴の所へ向かう。

 

お待たせと言いつつ席に着き、全員座った所で最初に箒が口を開いた。

 

 

「さて、一夏と師匠はこの転校生とどういう関係なのだ?」

 

 

「改めて紹介するけどこいつは鈴、俺とユーリ兄の幼馴染だ」

 

 

「幼馴染……だと?」

 

 

一夏の幼馴染という言葉に箒が怪訝な表情になる、まぁ自分以外に幼馴染ってどういう事?って急に聞いたらなるよね。

 

 

「あーえっと……箒は小学四年生の頃にその……色々あって引っ越したよね、その後五年生の始業の時に鈴が転校してきたんだよ」

 

 

「言っちまえば箒はファースト幼馴染、鈴はセカンド幼馴染ってとこか」

 

 

「「ファースト、セカンドって……」」

 

 

一夏のざっくり過ぎる発言に箒と鈴がハモッて呆れてる、うん私もちょっとだけ頭痛いや。

 

 

「ま、まぁともかくこっちも鈴に紹介するよ、このポニーテールの娘が昔話した篠ノ之箒」

 

 

「へぇ、アンタが話しに聞いたユーリと渡り合える剣術家の幼馴染ね」

 

 

「篠ノ之だ、よろしく頼む鳳」

 

 

「鈴で良いわ、こっちも名前で呼ばせてもらうから。まぁおんなじ幼馴染同士、仲良くやりましょ?」

 

 

「ああ」

 

 

最初の反応は少し心配だったけど、二人共和やかに話して握手してるし大丈夫かな?

 

 

「それでこっちが……」

 

 

「セシリア・オルコット、イギリスの代表候補…でしょ?」

 

 

手で差して紹介しようとしたら、先に鈴がセシリアの事を口にした。

 

 

「あら、わたくしの事をご存知とは優秀な方ですわね」

 

 

「ふん、戦うだろう相手の情報収集は大事って教わったからね」

 

 

それって昔私が教えた事だよね、ちゃんと実践してくれてたんだ。

 

 

「それは挑戦状と受け取っても?」

 

 

「いや別に? お互い代表候補生なんだし、他の代表候補生の事調べる位はするでしょ」

 

 

「う、ま、まぁそうですわね」

 

 

今のセシリアの反応、さては何も調べずに来たんだね?

 

まぁ初日の発言からして何と当たっても勝つって気持ちで入学したんだろうね、でも情報は大事な武器の一部だぞ…と。

 

 

「普段この四人で集まってるならアタシもこれからよく顔合わせるんだし、戦う時以外は仲良くやりましょ? よろしくね」

 

 

「そうですわね、よろしくお願いしますわ」

 

 

セシリアとも何とかなりそうかな?鈴が直ぐに馴染めそうで安心したよ。

 

 

「それじゃあご飯食べようか、鈴のラーメン伸び始めちゃってるし」

 

 

「え? うわホントだ?!」

 

 

自分の昼食のピンチに気付いた鈴は慌てて麺を啜り始める。

 

他の三人も冷めない内にと早めに箸とフォークを進めて行く。

 

んじゃ私も、はぐ……うん今日も美味しい♪

 

 

「ずず……相変わらずユーリの食べっぷり凄いわね」

 

 

鈴が呆れ気味に呟いてるけど気にしない、がつがつ、はぐはぐ。

 

 

それから軽くこの一年の事や互いの事とかを話しながら食事を楽しむ。

 

 

「ごく……ぷはぁ、ご馳走様っと。そういえば、一夏が一組のクラス代表なんだって?」

 

 

男前にどんぶりを傾けてスープを飲み干し、ラーメンを食べ終わった鈴がそう言い出した。

 

 

「ごちそうさんっと…ん? ああ、何かそうなっちまった」

 

 

「当然だけどクラス対抗戦手加減はしてやらないわよ、アンタがどれだけやれるか見てみたいからね」

 

 

「こっちこそ手加減なんてごめんだぜ、勝負は本気で全力でやらないとな!」

 

 

自信満々で一夏に言い切る鈴、実際一年って短い期間で代表候補になるなんて結構な実力があると思う。

 

これは今の一夏には結構厳しい相手かもだね、試合までに何処まで鍛えられるか……。

 

 

「まぁアタシから言い出しといてなんだけどそれは置いといて、ユーリは今日放課後時間ある?」

 

 

「んー……放課後は一夏と訓練をしてからになるからちょっと遅くなるけど、それでも良いなら時間はあるね」

 

 

「えー。ならその訓練、アタシも混ざって良い?」

 

 

「いや対抗戦で当たる相手同士で訓練は不味いでしょうが、互いに手の内ある程度見せちゃう事になるよ?」

 

 

「だよねー、残念。じゃあ終わるの待ってるからそれからで良い?」

 

 

「それなら大丈夫」

 

 

「じゃあそん時に、アタシは先に戻るわね」

 

 

「ん」「じゃあな」「うむ」「ええ」

 

 

四人同時に答えて鈴を見送り、全員食べ終わった所で私達も教室に戻った。

 

 

 

―――

 

 

 

授業を終えた放課後、予定通りに一夏への教導と箒とセシリアとの訓練を行っていた。

 

訓練用ISを二機借りられたので私も直接参加出来た、口頭だけでの指導だったら伝え難いから助かった。

 

後アリーナを貸し切りで取れたのも助かった、まぁこの時期だと二、三年生しか先ず使わないだろうから確率は高かったろうけどね。

 

 

『一夏、今はまだ何も考えずに自分の判断で動いて。先ずは慣らしだ、それで徐々に色々教えるよ』

 

 

『お、おう!』

 

 

私と一夏対箒とセシリアで分かれて先ず一夏にはISでの戦闘経験を、そして三人共に複数人での戦闘の感覚と戦い方に慣れさせていくのが今の所のファーストステップ。

 

それをアリーナの使用時間の半分やって、もう半分で個人スキル等の上達に当てると。

 

 

「はぁあああああ!」

 

 

「せぇぇぇい!」

 

 

一夏と箒が声を張り上げながら互いに斬り掛かり鍔迫り合いを始め、その後ろからセシリアはビットを飛ばして私と一夏の方に向かわせてきた。

 

 

『そう、戦術としては正しい判断だね。でも………』

 

 

『くぅ!?』

 

 

二人を同時に狙うが故に精度の落ちたビットの攻撃をすっとかわしつつ、ロングライフル・グライフを半身で構えてセシリア本体を狙い撃つ。

 

更にさり気なく後ろ手に近接ブレード・ブレッドスライサーを取り出して一夏側のビットの射線に投げる。

 

そしてレーザーを防いだ所でビット本体を撃ち落とす、と言っても訓練用の軽装弾を使っているし設定も変更してあるから撃墜と判定されたビットは量子化して消えるだけだけど。

 

 

『操作精度を維持する為に一機ずつしか飛ばさなかったのは良かったんだけど、まだ慣れてないのに二人同時に撃とうとしたのは早かったね。最初から前衛の援護を主体にするんじゃなくて状況の流れに合わせるのがセシリアにはより求められるかな?』

 

 

『そうは言いますが、ISでの集団戦など基本となる情報が殆んどありませんわ?』

 

 

プライベート・チャンネルで会話しつつ、私とセシリアは引鉄を引き合っている。

 

お互いの銃撃は撃った瞬間に居た場所を通り抜け、示し合わせたかのように弾丸とレーザーが外れていく。

 

その最中にちらりと一夏達を見ると、鍔迫り合いから激しい斬り合いに変わっていた。

 

でもあのままだと結果は―――

 

 

「ぐぁっ!?」

 

 

打鉄を纏った箒の負けだね、互角の斬り合いじゃあシールドのエネルギー差が出ちゃうから。

 

 

『よし、ここからは一夏とセシリアで私を落としに来て。セシリアはビットのみでの援護に集中』

 

 

『おう』『はい』

 

 

オープン・チャンネルで指示を出すと、セシリアはさっきより距離を取って一夏は私に突っ込んで来た。

 

そこで一夏に向かいライフルを向けるとその背後から飛び出してきたビットからレーザーが放たれ、慌ててかわした所にもう二機のビットの攻撃が迫る。

 

それを身を捻って掠る程度に抑えつつ、空いた手にショットガン・レイン・オブ・サタデイを取り出して弾丸を自分に近いビットに向かいばら撒く。

 

それで一機がロストしたのをセンサーで確認しつつ後方のセシリアにライフルを、迫る一夏にショットガンを構える"ふり"をする。

 

それに反応して二機のビットが私の手にした銃を狙って撃ってくるが、私は一夏に向けて振るう勢いのまま銃を手放す、つまり一夏に放り投げた。

 

 

『『なっ?!』』

 

 

その所為でビットの攻撃の内一発は空振り、もう一発は空いた手で受けながら一夏にライフルを向けて引鉄を引く。

 

一夏はいきなりで焦ったのだろう慌ててショットガンを斬り払うが、顔面に弾丸の直撃を受けた。

 

私の読み通りその一撃でシールド残量が尽きた一夏は、ゆっくりと地面に降りて行く。

 

それを見てから今度はライフルをしまって両手にショットガンを取り出し、セシリアに向かい瞬時加速で急接近を仕掛ける。

 

私の動きに対しセシリアは迎撃しようとライフルを撃ってくるが、身を捩る事で装甲に当てさせ絶対防御の発動は防ぐ。

 

そしてセシリアの間近に来た所で多方向加速推進翼を使い逆噴射を掛け、ワンマガジン全てを距離を取ろうとしたセシリアに叩き込む。

 

それでセシリアのシールドも尽き、模擬戦は終了した。

 

 

『……ふう、初回の模擬戦はこれで終了。ちょっと休憩と補給をしたら二回目はバトルロワイヤル式でやってみようか』

 

 

『おう!』『『はい!』』

 

 

そうして四人でふよふよと浮かびながらピットに戻って行った。

 

 

 

―――

 

 

「――三人共お疲れ様、ゆっくり休んでね」

 

 

「「は~い」」

 

 

片付けと着替えを終えて控え室に集まった所でややへろへろになった三人に声を掛けると、気の抜けた返事が返って来た。

 

一回目の模擬戦の後、バトロワ式で三回、その後個人教導をみっちりとやったから仕方ないけど。

 

特にセシリアには不慣れな近接を克服してもらう為に私、一夏、箒とインターセプターのみで何回か戦ったから余計に疲れてるだろうしね。

 

一夏は一戦ごとに少しずつ射撃に対しての回避が上手くなってきてたし、機動そのものも鋭くなっていってた。

 

そして驚かされたのは箒だね、知識はともかく経験ではさっき初めてISを纏った筈なんだけどもう基本はマスターしてる。

 

三人共これからが楽しみだね、もっと強くなって……もっと私を楽しませて欲しいね♪

 

 

「それにしても、打鉄とは違いリヴァイヴを使った時のユーリさんはなんと言うか……少々容赦無かった気がしますわ」

 

 

「ん? 別にやる気の差は無いよ、エグいと感じたならそれは武装の違いだろうね。打鉄の時は打鉄用の武装に手榴弾を足しただけだったけど、リヴァイヴは元から武装の種類が豊富だからね」

 

 

別にそのメーカーで製造されているとは言え専用機の武装では無いから他の機体でも普通に扱えるんだけど(パッケージとの相性次第ではある)、やっぱりそのメーカーの機体にはそのメーカーの武装を使いたくなるもんじゃない?

 

 

「一対一だと一勝も出来なかった、しかも最後に喰らったあの一撃は怒ったユーリ兄の正拳突きを鳩尾に受けた位痛かったんだけど」

 

 

「灰色の鱗殻(グレー・スケール)の事? そりゃー威力を制限してても第二世代の武装では最強の威力を誇るとっつ…パイルバンカーだからね、あれで絶対防御が発動すれば泣くほど痛いさ。そして今日は射撃攻撃メインで攻めてたから、一夏には相性最悪だったよね」

 

 

「だがそれでも師匠に一太刀浴びせられたのは良くやったと思う、あの弾丸の雨の中刃を届かせたのは偉いぞ一夏」

 

 

そう言って箒はベンチに座る一夏の頭を撫でた……ややにんまりとしながら。

 

 

「そ、それを言うならわたくし相手に、今日はちゃんとした勝利を得た事を褒めて差し上げなくては。あの戦いは見事でしたわ一夏さん」

 

 

そう言いつつセシリアは一夏の隣に座り、そっと手を握った。

 

そしてセシリアはドヤって言いそうな顔をして箒を見ると、箒はぐぬぬって効果音が聞こえそうな表情でセシリアを睨んでいた。

 

 

「どうしたんだ二人共、何かやけに今日は優しいな」

 

 

二人の行動の意味を残念ながら一夏は解ってなかったようで、そう言われて二人共がくっと肩を落とした。

 

 

「あー……まぁそろそろアリーナの使用時間一杯になるから此処を出ようか」

 

 

三人にそう言いながら先に控え室を出ると、其処には廊下にぺたんと座った鈴が待っていた。

 

 

「あ。遅かったじゃない、アリーナの使用時間に合わせて迎えに来たのに」

 

 

「ごめんごめん、ちょっと片付けとかで時間を食ってね」

 

 

言いつつ鈴に手を差し出して引き上げる。

 

 

「それじゃあ行きましょうか、付いて来て」

 

 

「ああ。三人共改めてお疲れ様、それじゃあ」

 

 

「ああ」「うむ」「はい」

 

 

三人に見送られ、私は鈴の後ろを付いて行った。

 

学園内を進み、辿り着いたのは屋上だった。

 

 

「それで鈴、私に何のご用かな?」

 

 

私一人だけ指名して二人きりになれそうな場所に来た、さてその目的は?

 

こういう状況に良い思い出が少ないから内心ちょっと身構えてると、こっちに振り向いた鈴がややもじもじしながら口を開いた。

 

 

「えっとね………一年前の約束って、覚えてくれてる?」

 

 

「一年前……あの最後に会った日の話だね。もちろん覚えてる、いきなりの事でかなり驚かされたからね。そういえば、あの日もこんな感じだったよね?」

 

 

そう、あの日の事はよく覚えている。

 

それは中学二年の終わり、鈴が急に中国に帰らなくてはいけないってなった時だった。

 

それなら良い思い出を作ろうと帰ってしまう前々日に仲の良いメンバーを集めて友人の家が経営する食堂を貸し切らせてもらって送別会をしたりした。

 

そして帰国前日に教室でもクラスメイトに別れを告げたり色々と忙しかったろう中で、鈴は放課後に私を校舎屋上に呼び出した。

 

 

「来てくれてありがと」

 

 

待っている間に泣いていたのか夕日の所為か、私に振り向いた鈴の目はうっすらと赤く見えた。

 

 

「ん……それでその、何の用だろうか?」

 

 

シチュエーションと過去の経験から、当時もやや身構えてたなーとか思う。

 

 

「その…さ…一夏には先に言っといたんだけど、初めて会った時から今日までずっとアタシを助けてくれてありがとね」

 

 

そうはにかみながら言う鈴にちょっとドキッとしたのは秘密だ。

 

 

「お礼を言われる程の事じゃないよ、私達が好きでやった事だもの」

 

 

「それでも、アタシは感謝してるんだ。それでさ、ユーリってほら……色々あったじゃない?」

 

 

「え、ああうん。まぁ確かに色々とあったね、でもそれが?」

 

 

「それを聞いた時から決めてたんだ、何時か恩返しに今度はアタシがユーリを護ってあげるって!」

 

 

そう強めに宣言しながら、鈴は拳を突き出した。

 

 

「………ふふ、まさかそんな事を告げられるとは思ってなかったよ」

 

 

「ちょ、笑わないでよ!? これでも真剣なんだからね!」

 

 

急に気恥ずかしくなったのか、鈴がたまにやる猫がシャーッってなる感じで怒り出した。

 

 

「いやごめんごめん、まさか私の性格や矜持を知っていてそんな事言われるとは思わなかったから」

 

 

「アタシだって無謀な事言ってるとは自覚してるわ。ユーリが自分が身内と決めた相手なら何を懸けてでも護る奴だって事も、その為に実力を認めていない人には決して危ない真似はさせない事も」

 

 

「そこまで解っててのさっきの言葉、私にもやった行動にもそこまでの価値は無いと思うけど……」

 

 

「あんたがどう思おうが、アタシは決めたの。見知らぬ土地に来て不安で心細くて、周りの子達の嫌がらせに強がって見せてもホントは凄く辛くてさ」

 

 

その時の気持ちを思い出したのか、鈴の表情が辛そうに見える。

 

でも直ぐに笑顔になって続きを口にした。

 

 

「周りはそんなだったのにあんたは席が隣になった最初から優しくて、当然みたいにアタシを助けて護ってくれて、そしてあったかい居場所と安らぎをくれた」

 

 

そう嬉しそうに言われて、今度はこっちが恥ずかしさでK.Oされそうになる。

 

夕日が無かったら多分顔が真っ赤って笑われてたんだろうな。

 

 

「そこまでされたら恩返しの一つでもしないとバチが当たるじゃない、だからアタシは……何時かあんたを認めさせられる位強くなって護ってあげるって決めたのよ!」

 

 

そこまで叫んだ所でズビシッと音がしそうな勢いで指をさされた、ドヤ顔で。

 

 

「ふう……分かったよ。ならこっちはそんな強くなった鈴でも護れる位、もっともっと強くなって待っていようかね」

 

 

「言うじゃない、約束よ?」

 

 

「ああ、約束だ」

 

 

「「親友!」」

 

 

そうして互いに満面の笑みでハイタッチをして別れ、鈴は中国に帰って行った。

 

 

「―――まさかあの約束をこんな形で果たしに来るとは思ってなかった、たった一年で代表候補生になるって相当な無理をしたんじゃないの?」

 

 

「いやまぁ確かに苦労はしたわ、勉強とかホント色々……」

 

 

その苦労を思い出したのか鈴がちょっとげんなりした。

 

 

「後ちょっと気になってたんだけど、どうして入学から来なかったんだい?」

 

 

「あーそれはね。元々IS学園に行った方が良いんじゃないかって上の人から言われてたんだけど、アタシはこのまま軍とかで鍛えてる方が良いかなって思っててそれとなく断ってた。それで仕方なく専用機は無いけど、他の代表候補生から誰か出すってなってたみたいなのよね。でもあの一夏とユーリのテレビでの発表あったじゃない、あれ見たからもう大慌てで候補生管理官経由で上の人に掛け合ってもらってごたごたしてたら数日遅れたって訳」

 

 

鈴はざっくりと、しかもえらい早口で説明してくれた。

 

 

「それはまた無茶をしたね、まぁ専用機持てる実力が有ればこそ通ったんだろうけど。ってもしかして二組のクラス代表も、無理やり交代させたなんて言わないよね?」

 

 

今後の鈴の学生生活の為にも、そんなクラスメイトと仲悪くしそうな真似はしないで欲しいんだけど。

 

 

「いやそこはちゃんと頼み込んだわよ、アタシの実力や交代した方が色々有利……特に半年デザートフリーパスが手に入る可能性とかを熱く語ったら納得してもらえたわ」

 

 

「皆スイーツに釣られたかー、まぁ抗えないのは分かるから仕方ない。もし鈴が優勝出来なかったら身内の無茶のお詫びに、二組全員に一回学食メニュー食べ放題をご馳走しよう」

 

 

「ちょっとアタシが負けるとかさらっと言わないでよ、でもその時はよろしく頼むわ」

 

 

「………もしかして負けても一回食べ放題あるならいっかなー、とか思ったな?」

 

 

「う゛っ?!」

 

 

図星だったようで、鈴はダメージ受けた顔して胸を押さえた。

 

 

「ま、まあとにかく! クラス対抗戦見てなさい、それでアタシの実力認めさせてあげるわ!」

 

 

ダメージから回復した鈴は、一年前と同じ様にズビシッって効果音付きそうな勢いで私を指さした。

 

 

「そこまで言うなら期待しよう、そしてクラス対抗戦で一夏に勝ったら私と勝負だ。その時には私の愛機も解禁してるから全力全開でやらせてもらうよ、それで私に勝てたら認めよう」

 

 

「ふっふっふ、期待して待ってなさい」

 

 

そう言いあって、互いにニヤリと笑った。

 

 

「所で話は変わるけど、ユーリと一夏って部屋何番?」

 

 

「ん? 私は1060、一夏は1025だよ」

 

 

「おっけー、ちょくちょく顔出すわ。一夏とルームメイトにも伝えといて」

 

 

「おいおい……まぁ問題は無いだろうけど。私の方はそういうの多分気軽に許してくれる娘だし、一夏の方は昼に話してた箒がルームメイトだからね」

 

 

「あー、まぁ一夏の性格上見知らぬ他人よりはマシでしょうね。にしても噂では聞いてたけどホントに二人別々の上、女子と相部屋なのね」

 

 

そう言うと鈴は少しムッとした表情になった、何故?

 

 

「まぁいいわ、ユーリなら間違いは無いだろうし」

 

 

「んー、確かに間違いを起こす気は無いけど。って言うかその思った事口に出す癖治って無かったんだ」

 

 

「あ………う、うっさい! とにかくこれからまた宜しくね!」

 

 

「あ、ああ、こちらこそよろしく」

 

 

そう言って二人で手を振り上げて歩み寄り―――

 

 

「「親友!」」

 

 

また満面の笑みでハイタッチをした。

 

 





ちょっとした小ネタ。



鈴「そういえば話してる途中のユーリのニヤッて笑顔、相変わらずおっかなかったわねー」


ユーリ「やっぱり怖いんだ、ってか昔から怖かったんだ………ションボリ」


鈴「ああごめん! そんなに気にしてると思わなかったから、元気出して! ほらそんな隅っこでイジケないでよ、もう!」
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