日曜に一休み取って月火水と訓練の締めを行い、木曜はスライムになりそうな程でろ~んと休息を取らせ万全の状態でクラス対抗戦当日を迎えた。
一夏にはウォーミングアップに私と生身で一勝負してもらい、身体も程よく温めさせた。
これなら鈴が相手でも簡単に負けるような事は無いだろう。
だがその安心感とは別に少しの緊張が私の精神を尖らせていく、その原因は―――
「さてさて、何が起きるか……」
そこでウサミミをぴょこぴょこさせている束が、ひょこっとやって来て言った言葉の所為である。
それは試合がある度恒例になっていきそうな、千冬に連れられて管制室にやって来た時だった。
「やぁやぁ遅かったね、束さんはもう待ちくたびれてたよー」
「あわあわ………」
そこには思いっきりうろたえてる真耶ちゃん先生と、凄い退屈そうな表情の束が待っていた。
「……何故居る」
それを見た千冬が心底うんざりした顔になってそう呟いた。
「それはいっくんがこの一ヶ月でどこまで成長したかを見る為なのだーぶいぶい♪………ってホントは言いたかったんだけどね」
千冬の呟きに律儀に答えた束がいつものポーズをやってそう言った後、急に真面目な表情になって言葉を足した。
「どういう事だ?」
「私の所にちょっと嫌な情報が入ってね、今回のイベントに襲撃者が現れるかも知れないって」
「襲撃者だって? 工房側からはそういう情報は入ってないけど……束が言うならホントなんだろうね」
ウチの情報網に引っ掛からない相手か……少し強めに用心した方が良いか?
「それで状況に応じて対応する為に出向いたという訳さ、私とユーちゃんとちーちゃんが居れば大抵の事はどうにか出来るだろーから」
「事情は分かった、もしもの時は力を貸せ」
「おっけーだよちーちゃん、その為に来たんだから」
千冬がいつもの仏頂面でそう言うと、束はニカッと笑ってウインクを返した。
「姉さん……その、本当に大丈夫なんですか?」
そこまでやりとりを聞いていた箒が、不安げな表情で声を上げた。
「んー? 箒ちゃんは私とユーちゃんとちーちゃんが信じられない?」
「いえ、そんな事は! ですが一夏達には伝えてませんし、万が一の事もあるかも知れません……わぷ?!」
束の言葉に慌てて頭を横に振る箒だったがそれでも不安げな表情のままなので、少し荒っぽく頭を撫でてからこっちを向かせる。
「大丈夫さ箒、一夏は何かあっても必ず無事でいてくれる。あいつは約束を破ったりしないし、試合中に来たら傍に鈴も居るだろうしね。それに不確定情報で二人のやる気の妨げにはしたくない、だからこそ何かが起きたら護ってみせるさ……信じろ」
そして真っ直ぐに箒の目を見てそう告げた。
「………はい、師匠!」
すると少しは安心してくれたのか、いつもの調子で私の言葉に答えてくれた。
「良し!………所で真耶ちゃん先生、二回目なんですから落ち着いて下さいよ」
「あう……で、でもあの篠ノ之博士が目の前に居るんですよ?! それで緊張するなって言う方が無茶ですよ!」
「あーまぁ世間的にはそうかも知れませんけど。でも本人をざっくり言ってしまえばちょっと捻くれてて、他人に殆んど興味が無くて、自分のやりたい事の為ならエラい事でも平気でやっちゃうような駄目な娘で……」
「ユーちゃん、泣くよ?」
私の言葉に束が頬を膨らませながらこっちを見て呟くけど、構わず続ける。
「でも妹と友達を何より大切で大好きに思ってて、無邪気でいつも楽しそうで、でもどこか寂しそうで、根は意外と優しくて、だからとっても可愛らしい普通……では無いけどただの女の子ですよ?」
とここまで全部を言い終わったら束は顔を真っ赤にして部屋の隅で転がってた、ホント可愛いもんである。
「えーと、まぁ何となくは伝わりました」
その転がってる光景を見た真耶ちゃん先生は、まぁまぁ納得してくれたようだ。
とまぁそんなやりとりがあって、今私達は管制室からもうすぐ試合が始まるアリーナ内を少し真剣な表情で見つめている。
因みにセシリアも管制室に誘ったが「今回は遠慮しておきますわ」とふられてしまったのだぜ。
―――
side 一夏
慣れてきたカタパルト発射でアリーナに飛び出すと、もう鈴は待ち構えていた。
その手には大きな青龍刀が握られ、それを肩にトントンと当てながらこっちを見据えている。
「遅いじゃない」
「遅刻はしてない筈だぜ、試合開始にもちょっとある」
雪片を取り出し、肩に担ぎながら鈴に答える。
「そうなんだけど、待ち時間が暇じゃない」
「ああ、それは分からなくもないな。待ってる間嫌でも緊張も興奮も高まってくる、正直言えばさっさと始めたいな」
「アタシは緊張はしてないけどね、早く始めたいのは同意だわ」
そう鈴と話してたら、唐突にブザー音が響いた。
「お? もう始めていいのか?」
「そうみたいね、どうする?」
「そりゃもちろん、俺から行くぜ!」
声を張り上げ、雪片を構えて一気に距離を詰める。
その勢いのまま雪片を振り下ろすが、鈴の青龍刀に受け止められる。
でも先ずはそれで良い。
「結構重いじゃない、でも……」
「鈴、これが挨拶代わりだ!」
鈴の言葉を遮り競り合う状態のまま、瞬間的に溜められる分のエネルギーを雪片で撃ち出す。
「っぐ?!」
鈴は顔に喰らった事で絶対防御が発動したのか一瞬怯んだけど、追い打ちを掛ける前に飛び退かれた。
「調べた情報よりチャージが早い……って訳じゃ無さそうね、普通より少ないチャージ量でも撃てるってとこかしら」
「ああ、訓練で色々試したからな!」
雪片を構え直し、もう一度鈴に斬り掛かる。
「ならこれはお礼よ!」
が鈴がそう言った次の瞬間センサーに反応が出たと思ったら、何かが顔面に直撃して吹っ飛ばされた。
「ってぇ?! んだよ今のは!」
「これがアタシの専用機・甲龍(シェンロン)の武装が一つ、龍砲よ。目に見えずどの方向にも撃てるのがウリね、さあ一夏……アンタはどこまで耐えられるかしらね?」
「マジかよ……うぉ?!」
ヤバイ、これは止まったらボッコボコにされかねない。
小刻みにスラスターを噴かせ、出来るだけデタラメな軌道になるよう動く。
でもこのままじゃどうにも出来ないし、瞬時加速で一気に詰めるか。
雪片にもエネルギーを溜めながら、瞬時加速を発動させて鈴の目前まで迫る。
「せぁああ!」
「くぅ!」
さっきより勢いが乗ってるから、斬り掛かる力も強くなる。
その押し込む勢いに乗せてもう一回雪片からエネルギーを放つ、が。
「んがっ?!」
「あぁっ?!」
同時に鈴も龍砲を撃ったんだろう、お互いに壁際まで吹っ飛ばされた。
「痛ってぇ……考える事は一緒だったか」
「痛……残念ながらそうだったわね」
俺達は二人して軽く頭を振って意識のふらつきを飛ばし、調子を戻して向かい合う。
「さてどうする? このまま何回も繰り返しても良いが、それじゃどっちが勝ってもあんま楽しく無いぜ?」
「そうね。どっちかのエネルギー切れか、シールド切れまで撃ち合い続けるのも芸が無いわね」
そこまで言って、二人同時に溜息が出る。
「まぁ……それでも真っ向勝負しかないだろ」
「ふーん……言っとくけど、近接戦だってアタシなりに相当鍛えたんだからね」
「斬り合えば勝てると思って言ったんじゃないさ、単にその方が俺達向きだろ?」
そう言ってニヤリと笑う。
「まぁ、ね」
すると鈴もニヤリと笑い返してきた。
「そんじゃあ……」
「行くぜ!」「行くわよ!」
同時に声を張り上げ、瞬時加速で相手に向かう。
そのまま体当たりするようにぶつかり、互いの武器から火花が散る。
「ぉお!」
「らぁ!」
鍔迫り合いから互いの刃を流し、そこから幾度もぶつけ合う。
「ギア上げて行くわよ!」
「なんの、それでも!」
途中から鈴がもう一本青龍刀を取り出して二刀流で攻めてくるが、そんなもんユーリ兄相手で慣れっこだっての。
俺の一太刀を二刀で受け止められ、そのまま一刀で抑えられながらもう一刀で斬りつけられる。
お返しにと抑えられてる一刀を押し払い、返す刃で薙ぎ払う。
「ふん!」
「このぉ!」
刃をぶつけ合う音を響かせながら、互いの隙を見つけては、又隙を作らせてはそこに攻撃を加えていく。
スラスターの勢いを乗せて斬り上げ鈴の防御を崩し、そのまま回転斬りで装甲を斬り裂く。
鈴が二本の青龍刀を連結させて斬りかかってきて、一撃目を防いだ瞬間反対方向から二撃目がきてダメージを喰らう。
そんなやりとりを暫らく続けてから、互いに大きく後退する。
そして俺は雪片でエネルギー波を、鈴は龍砲を撃って二つのエネルギーがぶつかり、花火みたいに音を響かせて輝いた。
「はぁ……はぁ……次で決まるか?」
「ふっ……ふぅ……でしょうね、アンタもアタシもシールド残量が赤でしょ」
「ああ。ならこの一撃に全力を籠めるぜ、受けてみな!」
「上等じゃない、こっちも全力でいくわよ!」
お互いの顔を見据えてニヤリと笑い、手にした武器を構え直す。
そして動き出そうとした瞬間、それは起こった。
視界に映し出される警告、そして上からの反応。
「なっ?!」
「きゃあっ?!」
慌てて飛び退くと直後に凄い爆発音が響き、視界を土煙が覆った。
そしてそれが晴れると俺達の間、丁度アリーナの中央に多分ISだと思う物が佇んでいた。
何で多分かって言うと、そいつが全身装甲……フルスキンって言うんだったっけ?でロボットみたいなちょっと生き物っぽい様な不恰好な姿をしてたからだ。
その両腕は嫌に巨大で足は俗に言う逆関節ってやつだ、ってか絶対人入って無いだろあれ!
っていうかこの敵は理由が言葉にしにくいけど……おっかない。
頭だと思う部分に鈍く煌く一つ目が、まるでホラー映画の枯れ井戸を覗き込む時みたいな恐怖を感じさせる。
「っつか何だってんだコイツは」
『一夏、決着は付けれそうに無いわね。良くは分からないけどこの未確認機、間違い無く危険だわ』
軽く身構えながらそいつを見てたら、鈴からプライベート・チャンネルで通信が入った。
『そりゃいきなり乱入してくる位だから危険だろう』
『バカ、そういう事じゃない! コイツはアリーナのシールドを破って降りて来たのよ、並みのISの武装では先ず破れないようになってるシールドを』
『あ、そういう事か、ならどうする?』
『コイツが観客席を狙おうもんなら、アタシ達で食い止めるわよ』
『おう』
そうして身構えながら未確認機を睨みつけていると、そいつはゆっくりと辺りをきょろきょろし始めた。
そして俺の方を向いた時に動きを止め、少しして俺の方に身構えるような動作をした。
「これってもしかして、不味いやつか?」
嫌な予感がした途端、ロックオン警告が耳に響く。
『一夏、逃げなさい! 今のアンタじゃ一撃喰らっても終わりよ、だから逃げて時間を稼ぎなさい!』
鈴の言う通りか、時間を稼げば千冬姉達が対処を準備してくれるだろう。
なら俺のやるべき事は、とにかく落とされない事だよな。
そう思って距離を取ろうとした時、それは聞こえてきた。
『マッサツ………』
明らかに機械的なのに何処か生っぽい声で、そいつは喋った。
そしてその声が聞こえた次の瞬間、そいつは俺に向かい凄い速さで駆けて来た。
「くっ……考える暇も無しかよ!」
side out