これは……少し早まったかな?
そんな事を思いながら、私は今IS学園一年一組の教室に居る。
全く気が休まる暇が無い、学園に着いた辺りから向けられる視線、視線、また視線。
入学式、教室までの移動、そして教室内と延々360°から向けられるプレッシャーに神経が悲鳴を上げている…自分はニュータイプだったか?とかアホな考えで気を紛らわしてみる。
そして目の前の一夏を見ればあからさまにガタガタと震えている、今だけ君をガタガタ君と呼びそうだ。
私はまだ多少余裕があるけれどガタガタ一夏はもう直ぐにでも倒れるんじゃないかな?…不安だよ。
私もイヤホン付けてシャカシャカ君になろうかなとかバカな事を考えていたら教室の扉が開かれ、眼鏡を掛けた可愛らしい女性が入って来た。
制服では無いから恐らく教師なんだと思うのだけれど、失礼ながら大人っぽさがまるで無い、制服を着れば今すぐ生徒側に混ざれそうな位。
その(多分)先生は空席が無い事を確認しながら教壇まで進み、納得したのか一度頷いて生徒側に向かい口を開いた。
「全員揃っていますね、それではSHRを始めますよー。まず私はこのクラスの副担任、山田真耶です。これから一年間、よろしくお願いしますね」
「はーい…あれ?」
山田先生…硬すぎるから真耶ちゃん先生と呼ぼう、がそう挨拶してきたので返したら、私以外は誰も言わなかったので直後に気まずい沈黙が。
「…え~、一人でも挨拶を返してくれたので先生頑張ります! それでは皆さんにも自己紹介をしてもらいましょうか」
嫌に目立った私を気遣ってくれたのか強めにそう言った真耶ちゃん先生は、次に学生生活スタートのお約束を要求してきた。
出席番号順、つまりあいうえお順にと一人づつ言ってゆきあっと言う間に私の目の前、つまり一夏の番になった。
「織斑君、あの~、聞こえませんか? 織斑君!」
余程この状況が辛いのか、一夏は自分が呼ばれ続けている事に全然気付きそうに無い。
「織斑君、気付いて下さいってば!」
「っは、はい!? なんですか?」
いくら声を掛けても反応しない事に痺れを切らしたのか真耶ちゃん先生は一夏の肩を揺すり、それでやっと一夏は正気に戻った様だ。
「今自己紹介の途中であ、から始まって今お、なんです。それで織斑君の番なんですけど、そんなに自己紹介したくないですか? どーしてもダメですか?」
「え、いや、えと…っだ!?」
正気には戻ったが状況を飲み込めずおろおろする一夏をシャキッとさせるために、とりあえず後頭部にデコピンをくれてやった。
「気持ちは解るが落ち着いて。今は自己紹介の真っ最中だよ、何をすべきか分かってる?」
「お、おう。すみませんすぐやりますから」
何時もの顔に戻った一夏は真耶ちゃん先生に一言謝ると急いで教壇の横に向かい振り返った。
「えーと、織斑一夏です。色々あってこの学園に入る事になりました、特技は家事全般です。なんとかやって行きたいと思いますので、皆さんよろしくお願いします」
そう言って一夏は深く頭を下げた、まぁ及第点かな?
「やっぱりテレビで見るよりカッコいいなー、それに特技が家事って家庭的ー♪」
「良い声してるしね、耳元で愛の言葉とか囁かれたいなー」
「どうやってお近づきになるかが問題ね…」
とかそんなひそひそ声が周囲から聞こえてきた。
教室内から軽く拍手も上がっているし、これならこの先大丈夫だろう…多分。
「…まともにやれるか心配していたが、どうやら大丈夫そうだな」
ふと拍手に交じり聞こえた声に目を向けると、そこにはとても見知った相手が立っていた。
「あ、織斑先生。もう会議は終わられたんですか?」
「ああ、すまなかったな山田君。結果的にクラスへの挨拶を押し付けてしまった、本来なら自分が担任なのに申し訳ない」
「いえそんな、織斑先生が出なければいけない会議だったんですから仕方ないですよ」
そこに居たのは織斑千冬、一夏と私の頼れる姉上である。
まぁ此処の教師やっているのは知っていたけれど、まさか自分達のクラスの担任になるとは思ってなかったよ。
しかし千冬と話す真耶ちゃん先生凄く嬉しそうだね、まぁ世間的に見ればISを纏う大体の人の憧れの的だろうからねー。
「え? 千冬姉ここの教師やってたのんがっ!?」
「学園内では織斑先生だ、分かったな織斑」
一夏が千冬に気付き声を掛けるが、直後に出席簿で脳天を叩かれた。
そして他の生徒達が千冬の存在に気付きはじめ、数秒経った瞬間それは起こった。
「「きゃああああぁぁぁぁぁぁぁ! 千冬様よ、生千冬様!」」
「千冬様に会う為に入学しました、札幌から!」
「感動です、握手してください千冬様!」
「どうしよう、千冬様の担当するクラスに入れたなんて、嬉しくて死んじゃうかも!?」
とか何とか私と一夏と後教室に入る時気付いた箒と、工房の情報で見たイギリスの娘以外の生徒が物凄く騒ぎ出した。
女子って凄いね、まるで音響手榴弾でも炸裂したかと思ったよ……いやホント。
「はぁ…去年に続き今年もか、これからも毎年こうだと思うと此処の教師にという話しを受けた事を後悔しそうになってくるぞ」
千冬が軽く頭を抱えながらそう漏らした、ああ去年もこうだったんだね。
まぁこれは千冬が慕われ過ぎているが故だし、人目に付く場所で働く限り付き纏う問題じゃないかな?
「って今織斑君千冬様を姉って呼んだ? え、もしかしてご兄弟?!」
いや苗字で気付こう、多分日本でもかなりレアな苗字だよ?
「ちふ…織斑先生、久し振りに会ったけどちゃんと御飯食べてるか? 掃除や洗濯めんどくさがって無いか? 体調とか…」
周りに心の中でツッコミを入れていたら一夏の相変わらずの対姉過保護スキル発動、大切なのは分かるけど子供じゃないんだから。
でも千冬確かに色々面倒がるからなー、しつこく気にしてあげる位で丁度良いような気もしてくる。
「えーと、弟?」
「オカンの間違いじゃない?」
「お、だけ合ってるね」
周囲の女子からそんな声が聞こえ始めてきたよ。
一夏よ、このままじゃ君の主夫度の高さが知れ渡っていくぞー?
「良いから席に着け、時間が足りなくなるだろうが。次も織斑か、悪いが急いでくれ」
「ねえ千冬。姉弟なのは知られたし、私と一夏の二人織斑が居るんだから名前で呼んでも良いんじゃないかな? この先ややこしくなるし」
「む…まぁ仕方ないか、それは良いが織斑先生と呼べ」
「はーい、千冬先生」
返事をしつつ席から立ち上がり、千冬の出席簿をかわして一夏と入れ替わりに教壇の横に立つ。
「ユーリ・E・K・織斑です、千冬先生の弟で一夏の兄をしています。特技は武術全般と料理です、血は繋がっていませんが大切な弟ですので皆さん一夏と仲良くしてやって下さい。後千冬先生は怒らせてはいけませんよ、さっきの一夏みたいな目に遭いますからね? それと私はちょっとした持病で偶に発作を起こしてそこらへんで呻いていたりするので…出来れば見捨てないで下さいね?」
まぁこれで良いかな?と思いながら自分の席に戻ると、また周囲からひそひそと話す声が聞こえてきた。
「そういえば苗字一緒だった、ユーリ君も織斑姉弟の一員だったんだね」
「って言うかホントに男子だったんだ、テレビで見た時から男装っ娘だとばかり…」
「いやいや顔立ちは可愛いし線も細いけど、性別なんてそうそう偽れないでしょ、このご時世じゃする意味あんま無いし」
「ぬふふ、次の新刊は決まったわ。ユーリ×一夏で決まりね! 細身の子が体格の良いイケメンを攻める、BLの定番シチュよね♪ 更にユーリ君は眼鏡男子、鬼畜眼鏡的なのもイケる!」
「何言ってんのよ。定番より王道、一夏×ユーリに決まってるでしょうが! あの男の娘な美少年をしっかり系のイケメンが組し抱いて無理やり…オマケに弟から兄へという背徳、近親相姦要素もプラス! 更に病弱で弟に看病されたりからの甘々展開も出来るとか! これはもらったわね!」
…ああ後半の人達のは聞こえたくなかったな~、いや前半のもちょっとだけ凹むけど。
いや個人的には今が良いのだけど、自分流の戦闘に必要最適な筋肉付いてれば。
フンッ!てしてムキャッ!とか、死んでもなりたく無いですし。
そして大体のジャンルはイケる口だけど、流石に自分がモデルにされるのはちょっとキツイものがあるのですよ…オマケに相手が弟とか。
って聞き耳を立ててショック受けていたらもう皆の自己紹介が終わってたよ、ホントに巻きでやらせたのかな千冬。
「よろしい。それではSHRの最後に言っておく事がある、私はお前達を一年でまともに使える様にするつもりだ。出来る限りなどと甘い事は言わん、必ず指導に食らい付いて来い、それがこの学園を選んだお前達の将来の為になる…以上だ。では授業を受ける準備をしておくように、此処は初日から授業を行う上にSHR後の休憩時間は短めだからな」
そう千冬が言い終わるやチャイムが鳴り、千冬は真耶ちゃん先生と教室を出て行った。
多分授業の教材の準備だろう、私もサクサク用意しておこうじゃないかと。
慌てて用意を始める目の前の一夏に苦笑いしつつ、時間割を見て必要な物を机の上に広げて行った。