オルコットとモメた以外は問題も無く授業は進み、あっと言う間にお昼だよっと。
「だはぁ~、やっとゆっくり休める」
「お疲れ一夏、午後の授業に備えて脳を冷ますんだよー」
机に突っ伏してでろでろになってる一夏の頭を撫でつつ労ってやる。
「二人共、お疲れ様」
そこに箒がやって来て、一夏を見て苦笑いになりつつ労ってくれた。
「おー箒、ホントに疲れたよ」
「師匠に入学前の予習はしてもらったのだろう、そこまで頭を抱える部分があったか?」
「ある程度の知識は頭に詰め込みはしたさ、でもそれを授業聞いて整理するのが大変なんだよ」
「まぁ一夏は思考するより反射で動くのが合っているからね、でも中々良くやっていると思うよ」
そう一夏が書き留めたノートを見ながら評価する。
箒にも見せてみると、全くの素人にしては上出来かと言った。
「まぁそれはそれとしてだ、昼食は食堂で食べるのか?」
「そうだね。初日だからお弁当なんて作ってないし、直ぐに必要だろう身の周りの品を学園まで運ぶので精一杯だったしね」
「そうか、なら施設の場所の把握も兼ねて一緒に行くか」
「おう」
「分かった」
そうして三人パーティ結成、そして食堂へ。
とか魔王でも倒しに行きそうなボケを思いつきつつ食堂に向かおうと廊下に出た所で、ポケットの携帯が震えた。
学園内では放課後とか以外はマナーモード、これ基本。
「ありゃ。仕事の電話かもだし、待たせるのは悪いから先に行ってて」
「だが、場所は分かるのか?」
「うん、学園内のMAPなら一般に記載されてないとこまで把握してる」
「それは…いや師匠なら知っててもおかしくは無いか、では一夏と先に行っている」
「うん」
二人を見送ってから人の少なくなった教室の隅に行って、画面を確認し着信をとる。
「どうしたの束、急に掛けて来て」
【急にユーちゃんの声が聞きたくなったー、じゃダメかな?】
「それなら嬉しいけどホントは違うでしょ、掛けてきた用は一夏の件かな」
【流石ユーちゃん、話が早い♪ いっくんなんだけど、今度試合するんでしょ?】
「うん、色々あってね」
【だから後々の事も考えて束さんが専用機をプレゼントしちゃおうと思うのだー、ぶいぶい♪】
「あー、まぁ確かに後々を考えればその方が良いか。でも直接束があげたりしたら大事になるよ、どうするの?」
【そこは知り合いに役立ってもらうのさ、倉持技研って知ってるかな?】
「あーあそこねー、もちろん家の技術供与先の一つだから知ってるよ」
【あそこに学生時代の同級生が居るんだけど、そこに何か零落白夜を再現しようなんて愚かな事考えた輩が居たよーで、結局匙を投げちゃった機体があるって言うんだ】
「輩って…いやまぁ、それでその機体を魔改造してその人に倉持技研製として一夏に渡させると」
【魔改造ってヒドイなーユーちゃん、でもまぁ大体今ユーちゃんが言ったとおりかな?】
「それなら大丈夫かなぁ、倉持は大騒ぎになるだろうけど。所でその同級生って?」
【んー? えっと…そうそう篝火ヒカルノって名前だったかな、なんか所長やってるらしいけど】
「あーヒカルノか、本人からそんな話聞いた事も無かったよ」
【それで来週には用意出来ると思うんだけど、多分倉持から学園に連絡が行くんじゃないかな】
「分かった、それに合わせて諸々の予定を組んでおくよ」
【おーけーだよ、んじゃちーちゃんにもよろしくね】
「あ、ちょっと待って。学園に来て直ぐ箒と再会したんだ、しかも同じクラスだよ」
【あ、そーなんだ…箒ちゃん元気にしてるみたい?】
「うん、相変わらず私は師匠って呼ばれたよ」
【それも変わらないねー、ユーちゃんと箒ちゃんが出会って暫らくしてからだっけ?】
「うん、そう。それより聞いておきたいんだけど、ちゃんと連絡取り合ってる?」
【私からはよく掛けるよ、箒ちゃんからも偶に掛けてきてくれる】
「そう、ちゃんと話してる?」
【ちょっとぎこちないけど話せてるよ、安心して】
「なら良かった。それじゃあ一夏と箒を食堂で待たせてるから、そろそろ行くね」
【うん、またねー】
通話が切れたのを確認して携帯をポケットにしまい、小急ぎで食堂に向かった。
――――――
……いや豪い目に遭った、正しくは遭いかけた。
なんで食堂に向かおうとしたら女子の壁に行く手を遮られるのだ、いや珍獣見たさなんだろうけど。
面倒だから窓から飛び出してしまったけれど、見てた人達に私は更に変な者に見えてたんだろうな~。
やっぱり二階から軽々と飛び下りるのは不味かったかなー。
まぁそれは良いか、さくさく注文して御飯にしよう。
「おばさーん、これお願いー」
券売機で買った食券をカウンターで渡し、出て来た料理ON・THE・トレイを持って先に来てる筈の二人を探すと、なんか凄い表情でテーブルに着いて呆けていた。
「お待たせ二人共、何かあったの?」
「女子校って…怖い」
「逃げて…追い払って…疲れた」
「あー、うん、大体解った」
つまり私と同じ目に遭ったんだね、まぁ私だけって事は無いよねそりゃ。
「二人共お疲れ様、それじゃあ食べようか」
「おう、そうだな」
「うむ、そうしよう…久しく見ないとやはり驚くな」
気を取り直した二人は正面を向き食事を始めようとするが、箒が私の前の料理を見て呟いた。
私の持って来たトレイの上にはカツ丼大盛りと唐揚げ定食大盛り、そしてもう一つのトレイには本日のケーキセットと温かい緑茶とミルクティーが載っている。
「師匠の華奢な身体の何処にそんな量が入るのか、未だに不思議でならない」
「さーねー、私にも分からないよ」
「俺は何時も見てるから何とも思わないしな」
「…慣れとは恐ろしい物だったのだな、これを当たり前と思って見ていたとは」
「なはは。んで待たせていた私が言うのは悪いけどホントにお腹ぺこぺこなんだ、早く食べよう?」
「そうだな、すまない。頂きます」
「頂きます」
「頂きまーす♪」
御飯、御飯♪
―――
side 箒
箸を進めながら、私は一夏と師匠をチラチラと横目で見てしまっていた。
一夏はとても格好良くなっていたし、師匠は…多少背が伸びたのだがやはり顔が可愛らしいままだった。
特に食事をする時の幸せそうな表情は全く変わらない。
「はぐはぐ…どうかした箒?」
「あ、いや、食べる時の雰囲気が全く変わりなくてホッとしたというか…」
「んー、そんなに変わって無いかな?」
「そうだな、ずっと傍に居た俺から見ても全然変わらないと思うぞ」
「むう、じゃあそうなのかな。まぁどうでも良い事さ、御飯が美味しければ」
そう言って師匠はまた幸せそうに食事を再開した、それを見ていると自然と昔を思い出す。
初めて会ったのは一夏と千冬さんに連れられて家にやってきた時だったか、最初の印象は随分と落ち着いた子供だと思ったのだったな。
それから暫らくして気が付けば姉さんがその子供…ユーリをいたく気に入っていた、理由を聞けば「だって私の発想についてこれるなんて素晴らしいじゃないか~♪」と言われた。
何でも姉さんが研究している所を初めは静かに見ているだけだったのが、少しの間に色々な事を覚えて手伝うようになっていたそうだ。
私はあまり進んで話したりはしなかったが、別に嫌っているとかでは無かった気がする。
今思えば姉さんや母さんと話したり家の事を手伝っていたり、それ以外では縁側でぼーっとしていたりと話しかける切欠が取り辛かったんだ。
因みに家で偶に一緒に食事をする時に、何時も幸せそうな表情で御飯を食べていたのを覚えている。
更に暫らくして小学一年生になった頃か、一夏が私と父さんに剣を教えてくれと言い出してきた。
偶に見ていて興味が湧いたのかと思ったら、一夏は「ユーリ兄みたいに強くなってヒーローになるんだ!」と言った。
その言葉を聞いた時私は少し驚いた、千冬さんではなくユーリみたいになりたいと言った事に。
ユーリの事はよく見ていたが一夏がそこまで言う程、いやそれどころかまるで戦えるとは思っていなかったのだ。
なのに一夏はユーリを強いと言い切った、だから私は気になって試してみようと思ったのだ。
結果がどうあれそれを切欠に少しは話しやすくなるかな、位の軽い気持ちだった。
「その…ユーリ、私と勝負してくれないか?」
「…ん? どうしたの箒、そんな急に」
「一夏がユーリみたいに強くなってヒーローとやらになりたいと言い出して、それでユーリは本当に強いのか気になったのだ」
「なるほどね。それじゃあお相手しましょう、楽しもうね」
そう言って笑った時のユーリの顔が、少し怖かったのを覚えている。
そして実際に勝負してみれば、私の完敗だった。
どう打ち込もうと捌き、流され、かわされる。
そしてその隙を突かれては一本取られる、何回もその繰り返しだった。
二十回程やってどうやっても勝てないと諦めて終わりにし、防具を解いた所でユーリの言った言葉に私は本気で凹まされた。
「いやー、防具って着けると凄い邪魔なんだね。身体が動かし難くて思うように闘えなかったよ」
「あれで十全の動きじゃないなんて……」
正直を言えば勝てると思っていた、少なくとも同じ歳で今まで私に勝った相手は居なかったから。
そんな自信も驕りもあっさり打ち砕かれた、それがとても悔しかった。
「楽しかったよ箒…どうかした?」
「うるさい、放って置いてくれ!」
我慢しようとしても、悔しくて涙が零れ出てくる。
それを見られたくなくて、俯きながらつい怒鳴ってしまった。
「…箒は凄く強かったよ」
「どこが! 一太刀すら入れられなかったのだぞ」
「今回私が勝てたのは気持ちの問題だったんだよ、心構えとも言う」
「心…構え?」
「そう。私はこの闘い、ただ思い切り勝負を楽しむ為に闘った。でも箒はどこか油断していた、もしかして自分なら勝てるだろうと思っていた?」
「…ああ」
「その気持ちの差だよ、今回一番大きかったのは。常にどんな小さな勝負でも全力で挑む、そして心に何時も揺らぐ事無いように構えるんだ」
「…なんて?」
気が付けば私は顔を上げ、ユーリの言葉に聞き入っていた。
「やるからには…勝つ。相手が自分より強いとか弱いとかそんな外の事は放り捨てて、どんな状況や相手でも真剣勝負であれば絶対に勝ちにいくって気持ちを構える事。自分の心が曲がらず、折れず、倒れぬようそれをしっかりと胸に刻む事が大事なんだよ」
「やるからには勝つ、それを胸に刻む事…」
何となく分かった、ユーリがどうして強いのかが。
この人は凄く真っ直ぐなのだ、だから揺るがないんだ。
私ももっと強くなりたい、その為にも………よし決めた!
「ユーリ、いや師匠! 私にその強さの持ち方を教えて下さい!」
「え、師匠!? あー…まぁ良いか、私に教えられる事なら何でも教えるよ」
「ありがとうございます!」
そうして師匠と呼び始めたのだった。
それから小学二年の時に色々あって助けられてから一夏を…その…好きになり、それに気付いてたのだろう師匠はあれこれと世話を焼いてくれた。
そして小学四年の時に姉さんの所為で引っ越さなくてはいけなくなり、別れが辛くなると挨拶もせず行こうとしたのに師匠は家の前に来ていた。
あの時師匠と話さなければもしかしたら今も姉さんを恨み、憎み続けていたかも知れない。
思い出してみればずっと世話になりっぱなしだ、何時か礼をしなければ。
それに…い、何時かは私も兄さんと呼ばなくてはいけなくなる日が来るかも知れんからな!
とか考えてしまいながら師匠を見れば、頬にご飯粒が付いていた。
「む。ご飯粒が付いているぞ、兄さん」
紙ナプキンを取りさり気なくご飯粒を取ってやる、って今私は何と言った!?
「あ、ありがとう箒……ほえ?」
「こら箒! ユーリ兄は俺の兄ちゃんだぞ!」
「あ、いや、今のは…ええい! 何時かそう呼ぶ日が来るかも知れんではないか!」
「は? 何でだよ?」
って、今の言葉で何故分からん!?
師匠を見れば物凄い苦笑いを浮かべているし、ああもう!
「もう知らん! さっさと飯を食ってしまえ!」
はぁ、頭が痛くなってきた。