昼食を挟み、只今五限目の授業中。
因みにお昼休みの間に千冬に束と話した内容を伝えておいたら「まぁそうくるとは思っていた、それに合わせて予定を組むか」と言っていた、流石の長い付き合い故か予想していた事態らしい。
まぁ私も束なら言い出すよねとは思っていたけど。
「―――この俗に"白騎士と黒騎士事件"と呼ばれる出来事により、ISは世界中の注目を集めました。そして瞬く間に兵器、世界の在り方を変え今日に至ります」
今は真耶ちゃんがISに関する基礎の延長で軽く関連事項に触れている所だね、また懐かしい事を久々に聞いたなー。
ふと教室の隅に控えている千冬の方を見ると目が合った、向こうも同じ事を考えていたらしい。
諜報に長けてる国の偉い方々や極一部の人達は知ってるけど、この教室に白騎士の中身が居ますよって知ったら皆驚くだろうね。
黒騎士は…まぁ、置いとこうよ。
何か一部の噂では白騎士がもし千冬だとするなら黒騎士は束自身か?とか囁かれてるみたいだけど、本人を知る者としてはそうだったとしても納得していただろう。
だって何時ものふわふわした笑顔で当たり前のように千冬と互角で渡り合えるんだもの、そりゃ同じ位の戦闘力でも驚かないよ私は。
…あの時に束を止められなかった事は今でも後悔しているけど、遅かれ早かれISの性能が世界に知られた時点で今の状況になっていただろう。
だから出来る限りは私はサポートに回っているんだれけど、御陰で苦労は絶えないが退屈しないからある意味幸せだったり。
「…あふ」
イカン、何か急に眠気が襲ってきた。
ダメだよユーリ、授業中になんて寝たら千冬のお仕置きが来ちゃう。
ああ…でも…ねむ…ぐぅ―――
「馬鹿者」
「おぷすっ!?」
意識が落ちかけた瞬間頭に鋭い衝撃を感じ、僅かに遅れて鈍い衝撃音が耳に届いてから痛みを感じた。
うん、痛みの範囲的に出席簿の縦で叩かれたね。
「授業中に寝るな、基本だ」
「っ痛、はーい」
…不覚だ、周りからくすくすと抑え目の笑い声が聞こえてくるよ。
はぁ、気を取り直して集中集中。
――――――
叩かれて眠気は飛び、五限目も終わって休憩を挟みLHRへ。
三限目に決めた通り、今回は私と一夏とオルコットの試合について話す事になりました。
「さて……予定通り代表選出の為の試合をどうするかだが、先に言っておくと最低でも明々後日からでなければアリーナは押さえられない事が決まっている」
「はい。一夏に起動と操作に必要な事を叩き込みたいので来週までは時間を貰いたい、構わないかなミス・オルコット」
「仕方ありませんわね、わたくしもただの的となんて戦いたくありませんし待って差し上げますわ」
「ってちょっと待ってくれ! 俺は別にそんな情けなんて掛けられたくないぞ!」
私とオルコットの会話に一夏が勢い良く立ち上がって咆えた。
「一夏、酷な事を言うがこれは情けとかじゃなくて必要な提案だよ。そもそも代表候補生相手にただの素人が勝負を挑むのだから、最低限の準備はしなければ見ようによっては相手に失礼にすらなる。剣技を習った身として例えば一夏は、自分の腕を鑑みて達人級の剣士に無策で挑むような真似はしないだろう?」
「あ……分かった、その時間は使わせてもらう」
私の説明に渋々だが納得してくれた一夏は、オルコットにそう言って席に着いた。
「では一夏とオルコットの試合は一週間後、来週の月曜日として諸々の調整をする。それでユーリ、お前はどうする?」
「私は出来るならこの後直ぐでも良いんだけれど、さっき最低でも明々後日からって言ってたね、なので明々後日で」
「分かった、明々後日だな。それで場所は取って置くが機体はどうする?」
「打鉄でもリヴァイヴでも、用意できる方で良いよ」
「良し、ならどちらか確保出来た方を用意させよう」
「ってちょっとお待ちになって!? 先ほど話した事をもう忘れましたの!」
私がサクサクと予定を決めた事が気に入らなかったのか、今度はオルコットが立ち上がって抗議してきた。
「忘れる訳は無いけれど、あれは一夏の場合で私はまた別の話だよ」
「ですが同じ様なものでしょう! どうせ試験官を倒したからといい気になってわたくしに挑むつもりでしょうが、不愉快ですわ!」
「いやいや、そんな事はこれっぽっちも思ってないですよ。私は闘うなら何時でも全力を出せるようにしているだけで、ミス・オルコットを甘く見ている訳じゃなく簡単に勝てるなんて思ってない。そうじゃなく、ただただ早く…闘いたいんだ」
そうニコッと微笑んでオルコットに告げたら、何故か少し表情が青ざめ怯えられた。
周りを見ると私を見ている娘達も何故か怖がってるし、何で笑顔なのに怖がられるのだろう?
後何故か一部の娘は熱っぽい視線でうっとりしてるのは何で?
「…ねえ一夏、私の笑顔ってそんなに怖い?」
軽くショックを受けながら、凹みつつも正面に向いて一夏に聞いてみる。
「えっとな、怒らないで聞いて欲しいんだけど笑顔自体は可愛いと思うぞ。んで問題はその…闘気っていうか雰囲気がおっかなくなるんだ、闘う事が絡んでる時のユーリ兄って気配がやたら鋭くなるから」
「な、何だってー!? まさか高揚した気分がそんな風に見られてたなんて…orz」
心から落ち込みそうになるんですけど、誰か慰めて。
「だ…だとしても貴方だって素人と大差ないのでしょうに! それで直ぐにでもわたくしと戦いたいというのが失礼ではありませんの?」
あ、状態異常恐慌から復帰したオルコットが噛み付いてきた。
どうしよう、今から説明すると長くなるしなー。
「えーと…多分エヴァリエス工房、公式発表で調べてもらえれば納得してもらえると思うから今は我慢しておいてもらえないかな?」
「はい? 何故そこであの工房の名前が出ますの?」
「ヒント、私のミドルネームのEは開くとイヴリースと読む。まぁとにかくこの場は流してもらえると助かるのだけど…」
「イヴリース………あ!……分かりましたわ。この場は引き下がって差し上げます、ですが調べた上で納得出来なければ試合の時に覚悟していただきますわ!」
「うん、その時は好きにしてくれて良い。後私をどう見ても構わないけど一夏には余計な考えを持たず真剣に対峙する事を進める、この子は何時か千冬を越える男だよ」
「うぇ!?」
その私の言葉に教室内が一瞬揺れた、多分生徒達のざわめきで。
そして一夏はそんな恐ろしい事を言うなと目で訴えてきたけど今は無視。
「い、今の発言は本気ですの?」
「うん。とは言え今は経験値ゼロのレベル1、でもそれはIS操縦者としての話だけ。ISの動作は飛ぶのと一部の武装や機能以外の部分、主な事は生身の延長だよ。故に戦い方を知る者がISを纏えばそれまでの経験が生きる、ただISを動かせた素人だと見る油断は自らの慢心と敗北を招くだろうね」
「…その時は、その程度の差が意味を成さないと見せ付けるまでですわ!」
「そうなるならそれも良いんだ。試験は抜いて初めての正式な試合で代表候補と闘える一夏は、勝てても負けても最高級の経験でIS乗りとして踏み出せるんだから」
「な、いえ、あ、おう?」
一夏は最早状況について来れないご様子、ごめんね…ただ自分の教え子であり自慢の弟が甘く見られた事に我慢の限界が来てついやっちゃったZE!
オルコットの方は私の言葉をどう受け取ったかは分からないけれど、納得してくれたのか静かに席に着いた。
「ふ…くく、話は終わったか? ならユーリとオルコットの試合は明々後日だ、二人共準備を怠るなよ。では後は今後の予定や必要な準備について話しておく」
そうして試合の日取りは決まり、その後は普通の連絡事項をややニヤけた千冬と真耶ちゃんが話すだけだった。
――――――
LHRの後鞄を整理していたら、放課後になったからかまた女の子達に囲まれる事になった。
因みに箒は部活の入部の手続きとかで急いで出て行った、つまり見捨てられたのだぜ。
まぁ急いでいる訳でも無いし、それに自分の部屋に行こうにも寮のカギを貰っていないんだよね。
理由は何となく分かってるけど、いきなり男の操縦者が云々で、どうせ学園の偉い人か日本政府が何たら間たらとかだろう。
一夏はまだ日本国籍だからともかく私は色々あって無国籍なのだけど、どうしてこう面倒な思惑に巻き込まれるかな?
…まぁ良いや、そんな事を考えつつ女の子達と話し込んでいたら、気が付けば結構時間が経っていた。
女の子達は「そろそろ帰るねー」って言って皆自分の部屋に戻るんだろうけど、私達はどうすれば良いんだろうか?
千冬に部屋のカギまだー?って聞きに言ってみようかな、って思ったら真耶ちゃんが急いだ様子で教室に入って来た。
「ああ良かったです、二人共まだ教室に居てくれて」
「まだっていうか戻る部屋がまだ無いっていう状況です、でその件ですか真耶ちゃん先生」
「真耶ちゃんは止めて下さいユーリ君、授業中にも言うから早くもクラスで定着してしまいそうじゃないですか!」
「すみません、苗字で呼ぶと堅すぎて呼び辛くって」
「ならせめてちゃん付けは止めて下さい、教師の威厳がピンチなんです」
真耶ちゃんが涙目になって訴えてくるんだけど、何故かそれが潤んだ目の小動物に見えてくるよ?
「でも真耶ちゃん先生良い意味でも悪い意味でも教師に見えなくて、今からでも制服着てこっちに混ざりません?」
「勘弁して下さいよ~、ただでさえ子供っぽいと言われ易いんですから。ってそんな事を話しに来たんじゃ無いんです、寮の部屋が決まりました」
「あ、やっぱり」
「え、俺ユーリ兄と一緒の部屋か一人部屋じゃないんですか?」
「えっと、お二人共急な事だったので事前の部屋割りに無理やり挟み込んだ形になったんです。それで諸々の調整が済んで準備が整うまでは女子生徒と相部屋という事に…」
「えぇ!? そ、それって何時までですか?」
「大体一ヶ月程の予定と聞いてます、問題の無いよう先生は信じていますから!」
そう言って真耶ちゃんは胸の前で拳をぐっと握った。
そんな説明を聞いた一夏は頭を抱え、次の瞬間には机に突っ伏したよ。
そこでさり気なく真耶ちゃんにそっと近付き、一夏に聞こえないようにそっと呟いてみた。
「それで、どっかから何か言われました?」
「え? あの、えと…」
「大丈夫ですよ、誰にも話しませんから」
そうにっこりと満面の笑みで言ったつもりだったんだけど、何故か真耶ちゃんは少し怯えた後ぼそっと話してくれた。
「その、偉い人から何か指示が在ってこうなった…らしいです。詳しくはその、分からなくてすみません」
「そうですか。気にしないで下さい、真耶ちゃん先生が悪い訳は何処にも無いんですから」
そう微笑んで言ったら今度はホッとされた、やっぱり私の笑顔はどこかおかしいのだろうか?
「ええっと、それじゃあ残りの説明をしますね。夕食は六時から九時までで、寮の一年生用食堂で取って下さい。ちなみに各部屋にはシャワーがあり、それとは別に大浴場もあります。因みに学年ごとに使える時間が違うんですけど…えー、今の所はお二人共使う事は出来ません……」
「え、何でです…ってあーそうか」
「気付いた? そう此処は本来女子校、男子の入浴可能時間なぞ存在してないんだ」
「そうだった、残念」
「え、今の発言って…まさか一夏君、女子生徒さんと一緒に入りたかったんですか!?」
「うえ!? いや違いますよ! 単に俺は風呂好きなんです、だから大浴場って聞いて入りたかったなーってだけですってば!」
「え、あ、そうですか。それなら良かったです、ホッとしました。もしそこで入りたいって言われたら織斑先生に言って、何とか部屋割りを変えてもらうかしないとって焦っちゃいました」
「誤解が直ぐ解けてホント良かった、でなきゃ千冬姉に殺されてたぜ…」
「あはは、全くだ。それじゃ真耶ちゃん先生ありがとうございました、行こうか一夏」
「気を付けて帰って下さいね、それと真耶ちゃんは止めて下さいってばー!」
「なはは、諦めて下さいな」
そうして困り顔の真耶ちゃんに見送られつつ、教室の隅に置いといた荷物を持って一夏と寮の部屋を探しに向かった。
――――――
「1060…1060…5の…あった」
寮に来て少しで部屋の離れたっぽい一夏と別れ、番号をなぞり廊下を進む。
因みに寮までの短い距離で一夏に凄く怒られた、LHRでの発言の理由を言ったら「恥ずかし過ぎたわバカ兄貴!」って頬を思い切り伸ばされた。
その後「でもちょっと嬉しかった、ありがとな」って笑って、互いに笑顔で挨拶して其々の部屋に向かう為別れた。
その一夏とのやりとりを思い出していたらカギに書かれた番号へ辿り着いたよ。
テレッテッテー!…ああ違う、これはレベルアップだった。
まぁともかく、先ずは数回ほどノックをしてと。
コンコン、ちょっと待つ…コンコン、もちっと待つ…コンコン、これは留守かな?
多分大丈夫だろうと信じて渡されたカギでドアを開けてみる、すみませんと声を掛けつつ入ってみたけどやはり返事は無かった。
「同室の娘はまだ帰って無いか、とりあえずよいしょ」
どちらのベッドを使いたいとか聞いてないし勝手に使われたら迷惑だろうから、荷物を隅に置いて一旦備え付けの机の椅子に腰掛ける。
椅子だけなら未使用の方と交換すれば良いだけだし、これで仮に同室の娘が潔癖症でも大丈夫。
っていうかよく考えたら私と一夏はともかく他の娘達は事前に準備をしてるだろうからどっちかのベッドを既に使っている可能性すらある、そう考えるとちょっと部屋の匂いで興奮してきそう。
…いやいや私は変態では無いぞ、確かに多趣味で守備範囲広いタイプのオタクでも、だからと言って変態では無いと強く主張しなければ!
…とかバカな事を考えてないで、ついでに挨拶しておこうかな?
「状況的に仕方無いので監視は許可しますけど、その代わり何か起きたら助けて下さいよ監視者さん」
と普通位の声量で仕掛けられてる盗聴器に聞こえるよう、監視カメラと視線を合わせながら言った。
「さてと、今は五時か…夕食までちょっとあるね」
備え付けの時計を見てそう呟いたら、次の瞬間ドアが開く音が聞こえたのでそっちを向く。
「あれ~? カギ掛け忘れて出ちゃったかな~」
そんなゆっくりとした口調でそう言って部屋に入って来たのは、クラスメイトのえーと…ああ布仏ちゃんだ。
何か一夏はのほほんさんて呼んでた気もするけど。
「あれ? ゆーりんなんでここに居るの~?」
「それは布仏ちゃんのルームメイトが私だからだね、迷惑だろうけどこれからよろしく」
「お~、ゆーりんと一緒だ~♪ よろしくね~」
そう言って布仏ちゃんはとてとてと傍に寄ってきて腕に抱き付いてきた、思えば教室で話してる時とかも私か一夏の腕にくっついてたような。
まぁ可愛いから良いか。
にしても布仏ちゃんに付けられた愛称はゆーりんか…ゆーりんゆーりん!……うん止めよう、恥ずかしさで死にたくなる。
人生で初めての愛称がネタっぽかった、でも布仏ちゃん可愛いから許す。
「改めて聞くけど、男と同室なんて大丈夫かな? もし不安だったら千冬に言って相談してくるけど?」
「ん~ん~、問題無いよ~。むしろこれからわたしのお世話をよろしく~」
「あー…まぁ人の世話には凄く慣れてるから構わないけど、とりあえず受け入れてもらえて良かった」
「えへへ~、ゆーりんて心配症だね~」
そう言って布仏ちゃんに頭を撫でられる、やだ恥ずかしい。
「そ、それはよく言われる。それじゃあ今後の為にも、色々なルールを決めようか」
少し顔が赤いかも知れないので見られないように反らしつつ、頭に添えられた手をそっとどけて会話を進める。
「ん~、例えば~?」
「先ずはシャワー室の使用時間とかかな、やっぱり布仏ちゃんが先の方が良いでしょ?」
「別に順番はそんな気にしないけど~、実習のある日は早く浴びたいかも~。それ以外の日とかは~、お風呂入りに行くし~」
「なら私は基本は布仏ちゃんに確認を取って後に使うようにするよ、早めに浴びたい時とかはアリーナのとかのシャワー室使いに行くから」
「そこまで気にしなくても良いよ~? 早めに浴びたい時とかは好きに使っちゃっても~」
「んむ…ならそこはお言葉に甘えておくよ、後は着替えの時とかは仕切りを使うより私は外に出るかシャワー室で着替えるかするよ」
「も~、そこまで気を使わなくても大丈夫だってば~」
私が遠慮し過ぎなのを御気に召さないのか、布仏ちゃんは眉毛をへの字にしてそう言った。
「これは性格だから諦めて欲しいかな、小さい頃からずっと気ぃ使いなんだよ」
「む~、ならしょ~がないか~。あとゆーりんものほほんって呼んで良いよ~?」
「ん? もしかして気に入ってもらえてる?」
「結構ね~」
「なら良かった、もし嫌なんだったら一夏に改めさせないとって思ってたから。じゃあ私ものほほんちゃんって呼ぶよ、思えば愛称としては間違って無いもんね」
「そうだよ~、わたしの名前を縮めると~のほほんになるよ~」
「それじゃあ改めて、よろしくのほほんちゃん」
「うん、よろしくゆーりん」
そんなこんなでその後ベッドは未使用の壁側を私が使う事に決めたり、夕食の時間まで他愛ないお喋りで時間を潰して一緒に食べに行ったりした。
戻って来た後は交替でシャワーを使い(もちろん待っている間は部屋から出ていた)、明日の準備を済ませて眠りについた。
そういえば夕食の時一夏に会わなかったな、何かあったかただ行き違ったか。
初日から学園内で何か起きるって事も無いだろうから心配は要らないか、しかし慌しい初日だったね。
とか色々な事を数メートル先から聞こえてくるのほほんちゃんの寝息に反応しないように考えつつ、これ眠れるかなと不安になりつつ瞼を閉じた。