午後は特に問題も無く放課後になり、箒が部活を終えてから連絡をもらい一夏と剣道場に来ていた。
目的はもちろん一夏の訓練の為、剣の試合で勘を取り戻しておいてもらおうとね。
それはそれとして、漂う女子高生達の汗の香りくんかくんか………ハッ!?
「それで、剣道だが最近はどの位やっていたのだ?」
「あー…中学は帰宅部でバイトとかで忙しかったし、この前までは受験勉強でそれ所じゃなかったしな。でもユーリ兄にずっと相手してもらってたし、素振りもトレーニングも毎日欠かさなかったぞ」
「む、どうして剣道部に入らなかった」
「あぁそれはね、一夏が私と千冬の世話になりっぱなしは嫌だから自分の食費とか位は稼ぐって言い出してさ」
「なるほど、確かに一夏らしい理由だ。まぁ師匠と鍛錬を続けていたならそこまで腕は落ちてないだろう、先ずは一勝負するか」
「おう。これでも町内大会じゃ優勝してるんだ、簡単には負けないぜ」
そうして一夏と箒の二人でとりあえず試合する事に。
―――ピッポー(十分後)
「…二人共、開始一分位からフルドライブでやり合ってたけど大丈夫?」
そう言って見下ろす私の前には、面を外して汗だくでひぃひぃ言ってる二人が転がっている。
「はぁ…ふぅ…まさか…休み無しでやって、一勝二敗とはな」
「ぜぇ…はぁ…へへ…だから、簡単には負けないって言っただろ?」
「二人共楽しそうだねー……私を除け者にして」
「「う!?」」
用意しておいたタオルを二人に放り投げ、道場の隅でいじけてみる。
「わ、悪かった師匠。ついその、本気でやってしまって」
「俺も、久し振りの勝負だったから熱くなってつい」
「…まぁ良いよ、じゃあ休んだら次は私ともやろうか」
「おう、分かった」
「私も折角だから師匠と試合たい」
「ん、じゃあ十分ほど休憩してからね」
そうして軽く休憩を挟む事にし、道場という場所で思い出して箒に一つ尋ねてみた。
「そういえば箒、剣道の大会優勝の話しをした時どうして浮かない顔になったんだい?」
「あ、確かにあんま嬉しそうじゃなかったよな」
「それは……」
箒はまた俯いて、言うべきかを迷っているのか暫らく口をパクパクさせ、やがてゆっくりと話し始めた。
「………あれは、決して良い試合では無かった。あの時の私は環境などのストレスや、日々溜まる不満を抑えて生活するのに苦労していた。大会に出たのは正直に言えば憂さ晴らしがしたかったからだ、それを表すように私の剣筋は思い出しても醜い物だと感じる」
そうポツポツと話す箒は後悔の念からか、とても辛そうな顔をしている。
「それに気付いたのは大会の決勝、私が優勝を決めた時だった。優勝出来た事にも大した感慨も無く特に相手の事も気にしてなかったのだが、私に敗れ崩れ落ちる相手を見た時自分の行いに気付いたのだ…その相手選手が涙を流していたから」
淡々と語る箒の拳は、気付けば痛々しい程に強く握り締められている。
「それで自分への憤りや恨めしさで一度剣を置き、此処に来るまでは一度も握っていなかったのだが…二人をテレビで見てIS学園で再会出来ると分かり、実際に会って師匠にまた教えを乞いたいと思った時に決めた。もう一度剣を握ろう、今度こそ真っ直ぐに向き合い己を磨こうと」
そうして全てを言い終える頃には、箒の顔は何時もの凛とした表情に戻っていた。
「そうだったんだね…当然の事だけど、私だって普段二人とかに色々言ってても誰かを羨んだり妬んだりはするよ? だからそれ位当たり前の事じゃないか、人間だもの」
「はは、師匠も人間だものな」
「そりゃもちろんね…人である以上理性で割り切れない感情はもちろんあるさ、でもそれを省み、次への糧と出来るのも人故の強さの形じゃないか。箒は自分でそれを出来たんだ、それで十分じゃないかな。二人に教導してるなんて言っても私だってまだまだ未熟な身、互いに精進していければ嬉しいな」
「うむ、承知した!」
「俺だって、二人に負けないように…そんで何時か二人を護れる位になってやるぜ!」
「「…ほほう」」
一夏がバッと立ち上がってそう宣言したので、箒とちらりと視線を合わせてから同時にニヤリと笑った。
「それなら、先ずは私が毎日やっているメニューを一緒にこなしてもらおうかな」
「え?」
「それから毎日私と師匠の両方から、十本取れるまで試合をするのも良いだろう」
「ちょ!?」
「「まぁその前に…とりあえず二対一で試合でもしようか(するか)?」」
「……カッコつけ過ぎました、だから処刑は勘弁して下さい」
そう言いながら一夏は立った状態からこれまた綺麗なジャンピングDOGEZAを披露してきた。
「ぷ、くく」
「ふふ、くふ」
「………ん? あ!? もしかして俺毎度同じくからかわれた?」
私と箒がくすくすと笑い出したのに気付いて顔を上げた一夏は一瞬キョトンとした後、ハッとした表情になって自分が嵌められた事に気付く。
「大正解…ぷぷ…あははは」
「お前も本当に変わらんな、ふふふ。心から安心する反面、こうも変わって無いと心配になってくるぞ」
「うるせえ! ちくしょう、何で毎回引っ掛かるんだ」
「それだけ私達を信頼してくれてると思えばこっちとしては嬉しいんだけど、でなければここまであっさり釣れないからね」
「ああ、私達を全く疑わないほどの信頼とは嬉しいな」
そう箒と二人でフォローなのか追い撃ちなのか分からない事を言いいつつニヤニヤしていると、一夏はふくれっ面で立ち上がり黙々と防具を纏い始めた。
「あら、やり過ぎた。まぁ予定より長く休憩してたし、そろそろ再開しましょうかね」
「そうだな、今の師匠の強さも見ておきたいので楽しみだ」
「そう過度の期待はしないでね。やり過ぎてごめんね一夏、機嫌直して一勝負といこう?」
そう言いながら竹刀を構え、準備を終えていた一夏の前に立つ。
「…さっきの仕返しに今日こそは勝ち越してやるからな!」
「その意気や良し、楽しもう」
そう言って私はにやりと笑って踏み出し、一夏は引き締めた表情でかかって来た。
―――ピッポー(今度は二分)
「だぁ~くそっ! また負け越した!」
「何時も通り三本勝負して二、一で私の勝利だね…ふぅ~」
倒れこんで愚痴る一夏を見下ろしながら面を取りつつ、今日の結果を再確認しつつ腰を下ろして溜まった熱を大きく吐いた。
「はぁ…これで俺の通算二百十勝四百二十七敗かよ、全然差が縮まんねぇ」
「って戦績を覚えているのか一夏!?」
「余程意地になってるのかそんなどうでも良い事はしっかり覚えてるんだよね、その意地を勉強にも向けてくれれば良いのに…」
「一夏の好きな事や熱中する事にだけ優れた能力を発揮する所、師匠に似たのではないか? 師匠はやりたい事だけ特化する人だしな、師匠に教えられている一夏が似ていくのは仕方ないような気がするぞ」
「うぐ…それを言われると否定出来ない」
「よっと、その理屈なら箒も似てるんじゃないか?」
身体の熱が落ち着いたからか立ち上がって、一夏は箒にそう言った。
「私は一夏ほど毎日四六時中一緒に居た訳では無いからな、教わった期間も三年強だったし」
いやいや四六時中は居ないよ?付き合いたてのバカップルじゃあるまいし。
「いや流石に四六時中はいねぇよ。んで、次は箒とユーリ兄で勝負か」
私と同じ反応をした一夏にだよねぇ?と同意しながら立ち上がる。
「そうだね、やろうか箒」
「うむ」
そうしてお互い面を着けて向かい合い、更に互いの竹刀の切っ先を合わせる。
「参る!」 「行くよ!」
そして同時に声を張り上げ、切っ先を弾かせた。
―――ピッポー(そして五分後)
「っぷはぁ…熱い」
「ふぅ…私の負けですね」
「でも凄く強かったよ、今回は私の調子が上だっただけさ」
一夏と同じく三本勝負で結果は私の二勝一敗。
「んー…そうだなー、今度はお互い二刀でやろうか?」
「それは互いに体得している流派の技で、という事ですか」
「うん。剣道の試合方法でも全力は出しているけど、折角お互い二刀流の剣技を身に着けているんだし。だから箒は篠ノ之流の二刀で、私も如月流の二刀で」
「因みに悔しいけど二刀で戦うユーリ兄にはまだ一本も取れてねぇんだよな、その分はさっきの勝敗の数には入れてないけど。ユーリ兄が条件を合わせてないのは数えるなって言うんだよな」
「ふむ。そういえば…一夏は二刀ではいかないのか? お前も篠ノ之の剣を学んだ身なのだ」
話している中一旦考える素振りをして、箒がそんな疑問を一夏にぶつけた。
「どうにも俺に二刀は合わないんだよな、構えても振るっても全然しっくりこねぇ」
「まぁ一夏はただ一振りに全てを籠めるのが似合ってると思うよ。いずれ力、技、速のどれかが更に高まれば私の二刀にも対抗してくるだろうしね」
「ああ、何時かはユーリ兄の本気の全力にだって勝ってやるさ」
「ふふ、楽しみだよ」
「んでさ。それはそれとして、ユーリ兄の二刀での本気対俺と箒で勝負してみないか?」
そんな会話の流れの中、何か一夏が凄いニヤってしてそんな提案して来た。
「え?」
「ああ、それも面白そうだな」
「ちょ」
「じゃあ面着けてと、行くぜユーリ兄」
「私も、行くぞ師匠」
箒もノリノリなんだけど、これってちょっとピンチかな?
っていうかこれさっきの仕返しなの一夏…勘弁してよ~(汗)
「二人共私が一対一特化だって知ってて言ってるよね」
「ああ。だがそれは一刀での場合だろう師匠」
「二刀でも苦手だなんて聞いてないぜ?」
「う…せめてお手柔らかにね?」
その後、三本勝負して一本取れた私は頑張ったと思う。
だって二人の連携が容赦無さ過ぎるよ!