いろは「先輩、私いいこと思いついちゃいました」   作:ランタン

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 ハルノさんとかユキノンがオリキャラが結ばれる話はあるけど、いろはさんの話はないなって思って書きました。
 ちなみにガイルで1番熱いカップルは八雪です。異論反論は認めません。


第1話

 図書館ではかりかりと紙とペンが触れ合う音が流れる。

 進学校の総武高校では図書館は主に放課後の勉強部屋として機能するから、それも必然といえよう。

 比企谷八幡もまた時々利用することから、そのことをよく知っていた。

 だからこそ、この状況に違和感を覚える。

 それは女子と対面していることだ。それもかなり可愛い。男ならば一度振り返り目に焼き付けようとするレベルの別嬪さん。

 放課後に可愛い女の子と図書館で2人。ラノベのような展開だが、現実はマッカンのように甘くない。

 この状況には理由がある。それは一つ依頼だ。比企谷八幡が、目の前の女子こと一色いろはを生徒会長にしない依頼。

 そうしない、だ。

 一色いろはは生徒会長になりたくない。

 しかし、生徒会長は普通立候補制。なりたい人間しかしないという選択肢は生まれない。

 なのに何故彼女は立候補したのか。  

 簡単な話だ。第三者に勝手に立候補させられたのだ。

 

 一色いろははその恵まれた見た目を生かして男の子から絶大な支持がある。しかもそれを利用していい思いもしていた。それが他の女子の反感を受けたのが理由らしい。

 当然そんなイタズラをした生徒はこっぴどくお叱りを受けた。

 後は間違いでしたと立候補を取り下げて終わりのはずだったのだが、ここで担任がその願いを退けたのだ。生徒会長になれるか不安になっている生徒を無事立派な生徒会長にしてみせるという自分に酔ったサクセスストーリーを紡ぐために。

 そもそも一色いろはが生徒会長をやりたくないとは一ミリも考えず。

 色々不運である。

 

 そんなわけで一色いろはの生徒会長回避策を色々と練っていると、

 

「先輩、私いいこと思いついちゃいました!」

「ん? 何だ?」

 

 こういう時のいいことは大抵ろくでもないことだと予想しつつも、八幡は聞き返す。

 

「先輩が生徒会長をやってみるとかどうですか?」

「却下。無理に決まってんだろ。俺だぞ?」

「そうですね。能力以前に視認されてるかも怪しいですもんね」

「流石に視認はされてるだろ。え? されてるよね?」

「あれ? どこからか声がする気が……」

「嘘だよね? 嘘って言ってください」

 

 泣きそうな八幡の声に、いろははイタズラっ子のような笑みを浮かべた。

 

「さてストレスも発散できましたし、続けて考えましょう」

「本当にやめろよな。一瞬小学校の時の透明人間ってあだ名思い出して泣きそうになったわ」

「でも、違う候補を擁立するっていい案じゃないですか?」

 

 八幡のトラウマ話を流して、話を進める。

 八幡はさらにテンションを落とした。

 

「奉仕部内で話し合った時もその案は出た。だが、この時期まで立候補してない時点で現実的じゃないから、却下になった」

「と思うじゃないですか? 実は1人だけ心当たりがあるんですよ〜」

 

 あざとさ100%の笑みを浮かべながら言う。

 何となく嫌な予感がした八幡は一応釘を刺しておく。

 

「言っておくが、さっきみたいにふざけたら俺は帰るからな」

「違いますよー。ちゃんと私のクラスメイトです」

「ほーん。で、誰?」

「港北 湊(みなときた みなと)君です」

「ふーん」

 

 言われたところで知らない。なんなら、クラスメイトですら半分ほどしか知らない八幡が一年生のことなど知るはずがない。

 ただ、名前的に男なのは分かった。

 そして男を虜にするのはいろはの得意技である。

 

「じゃあ後は一色がお願いすれば、解決じゃね? クラスの男ならお前の下僕だろ?」

「それが、そうでもないんですよね……」

 

 困ったようにように呟く。

 

「実は私その子とあまり話したことがなくて」

「意外だな」

 

 クラスの男子にはすべて粉かけてそうなのにと八幡は思った。

 

「私だって話しかけようとしましたよ。でも話しかけようとしたら、悪いけど君とは話したいと思わないって言われたんですよ! 酷いとおもいません!? 初対面ですよ!?」

「お、おう。そうだな」

 

 あまりの剣幕につい合わせてしまった。

 男の前では常に笑顔を崩さない彼女が、ここまで怒りを露わにするということは相当冷たい応対をされたのだろう。

 

「そんな態度をされた男になぜ生徒会長に立候補する可能性があるんだ? 今の話を聞いてるとかけらも分からんのだが」

「……港北君は中学時代生徒会長をやっていたらしく、今回の選挙も会計で立候補してるんです。だから、可能性はあると思います」

「なるほどな」

 

 経験者ならば会長の責任への重圧に比較的なれている。しかも高校でも生徒会に入る意欲があるなら、生徒会長への打診を断るとは考えにくい。

 が。

 

「悪くない案だが、さっきの話を聞いた限りお前は相手に拒絶されてるんだろ? なら、相手もお前からの頼みなんて願い下げなんてこともあり得るんじゃないか?」

 

 八幡は自分の嫌いな人間からの頼みなんて絶対に聞かない。なんなら、無視するまである。

 相手の男が聞く耳を持つかが不明だった。

 とはいえ、だからこそいろはもギリギリまでその案は提案しなかったのだろう。可能性が低いから。

 

「だからこそ先輩の協力が必要かなんじゃないですか! 私1人なら門前払いかもしれませんが、先輩だって一応先輩なんですから。目上の人間がいれば、申し出を無下にはされませんよ」

 

 要は先輩権力で圧をかけろという意味らしい。

 猫背で目が腐っている八幡にその役目が務まるかは微妙だが。なんなら、小学生に呼び捨てにされた前例がある。あまり上下関係を気にしない人間ならあっさり蹴散らされそうである。

 とはいえ、チャレンジしてみる価値はある情報である。上手くいけば万事解決なのだから。

 

「保証はできんぞ」

「はい、期待してません」

「君協力してもらう気ある?」

 

 八幡は目から出る汗を手で拭った。

 

 □

 

 翌日の放課後。

 生徒たちがわらわらと教室を出て行く中、いろははいそいそと帰り支度をしている男子に近づく。

 

「港北君。この後時間あるかな?」

 

 港北と呼ばれた生徒は表情を変えずにいろはの顔を見る。

 あの時の嫌悪を隠さない目で見られるのではないかと思うと少し怖い。

 

「ああ。1時間ぐらいなら大丈夫だよ」

「え?」

「どうした?」

「う、ううん。じゃあ、ここじゃ話しにくいから図書室でもいいかな?」

「承知した」

 

 承知した。彼の口癖である。

 一度クラス内でおもしろいとプチ流行したことがあるから知っていた。いろはは拒絶された屈辱で乗らなかったが。

 本当ならここで一度断られて、図書室で待機している先輩を呼び出してどうにかする手筈だった。意外にもあっさりと誘い出すことに成功し拍子抜けである。

 

 図書室に到着すると、中では八幡がぬぼーとした様子で本を読んでいた。

 自分が心かき乱されているのに呑気な様子に理不尽だが苛立ちを覚える。八つ当たりに冷めた手を首筋につけた。

 

「うひぃぃ!?」

 

 受付の女の子からじとりとした視線を向けられ八幡は気まずそうに下を向く。

 

「連れてきましたよせんぱーい♡」

「いきなり何してくれてんの? 受付の人にめちゃくちゃ睨まれてるんですけど。そういうスキンシップはリア充同士でやってくれない?」

「何ですか、口説いてるんですか? 先輩とカップルとか想像しただけで寒気がするのでごめんなさい、無理です」

「何かふられてるんですけど……」

「仲がいいんだな」

 

 一連のやり取りを見て湊が感想を呟く。

 

「違うから。本当に違うからやめて」

「マジトーンで否定するのやめてくれない? 心折れそうだから」

「はじめまして、港北 湊です」

「マイペースかよ……比企谷八幡だ」

 

 呆れつつも自己紹介を返す。

 

「それで話とは?」

「ああそうだったな。ほら、一色」

「ええ!? 私が話すんですか?」

「お前のことだろうが。自分で説明しろ」

「……先輩のいじわる」

 

 別に八幡が説明しようと変わらないのだが、冷えた手を入れられて変な声を出させられた仕返しを含んでいる。

 その意図を理解したいろはは、じとっとした瞳を向ける。しかし、自分に部がないのは理会しているので渋々説明することにした。

 そしてある程度の事情を話し終え……

 

「なるほど。要するに一色さんは不本意にも選挙に立候補させられたので、その代わりの生徒会長として俺に立候補してほしいということでいいのかな?」

「うん」

「承知した。俺も生徒会長になるのは来年と思っていたが、そういう事情なら話は別だ。協力するよ」

「ほ、本当!?」

 

 これは僥倖だ。話すら聞いてくれないと予想していた人間が、ノリノリで自分に協力すると言ってくれたのだから。  

 これで面倒ごとから解放されると笑顔になるいろはに、湊は言う。

 

「ただ、一つ問題が残ってる」

「問題?」

 

 意味が分からないいろはは首を傾げる。

 

「選挙後の一色さんのクラス内での立場さ。結局のところ立候補させた人間は一色さんが選挙に落選しようが、入選しようがどちらでもいい。いや、むしろ落選した方が都合がいいかもしれないね。それを理由にこけおろすことが出来るんだから」

 

 それを聞いて八幡は大体のことを察した。

 

「要するに一色が落選したらしたで、二次災害が起きることが目に見えているということか」

「ええ。ここまで手の込んだ嫌がらせをしてくるんですから、相手は一色さんのことを相当目の敵にしてるでしょうし。俺たちの想像を超えることもするかもしれません。女の嫉妬は恐ろしいですから……」

 

 実感の篭ったセリフに、八幡は戦慄した。

 いろはも想像したのか若干顔を青くしている。

 

「なら別の手を考えるべきか」

「はい。なので俺から提案があります。一色さんを生徒会に入れるというのはどうでしょう?」

「ええ、私がですか!?」

「俺が会長に立候補するなら、会計の席が空くからそこに入ればいい。それに生徒会のメンバーなら、俺も表立って庇うことができるからね」

「なるほど……」

「無理強いはしないよ。最後は一色さんの意思次第だ」

 

 正直生徒会に入るなんて嫌だ。面倒だし、サッカー部に顔を出す時間が減って葉山先輩へアピールする時間が減ってしまう。

 しかし、先程湊が言ったことは現実に起こるうることだ。証拠に首謀者の女子からは未だに恨みがましい目を向けられている。今は自分の方が立場的に優位でも、学生間の立場など簡単に揺らぐものだ。多少の妥協は必要かと、いろはは諦めた。

 

「分かりました。その案に乗ります」

「じゃあ、決まりだな。後は一色の担任の説得と港北の推薦人の確保だが……」

「担任には俺から言っておきますよ。適当に未熟な自分を成長させてから改めて挑戦しますとでも言っておけば、納得すると思います。あの人少年マンガ大好きなので」

 

 意味が分からないが、要は成長パートを経てから挑戦するということにするらしい。

 

「あと推薦人についても30人くらいなら問題ありません」

「お前何でも出来るのな……」

「何でもはできません。できることだけできます」

 

 某眼鏡巨乳委員長のようなことを言う。

 

「とはいえ、万が一もあるので2人にも協力お願いします」

「おう任せろ。頑張るぞ、一色が」

「そこで人任せにするあたり、先輩のクズっぷりが露呈してますよ」

「ほっとけ。そもそもボッチの俺に人集めの手伝いなんてできるか」

「その辺で裸踊りでもすれば集まりますよ」

「うんそうだね。ついでに青い服を着たおじさんがやってくるね」

 

 そのやり取りを見ていた湊は、顎に手を当てて。

 

「やはり仲がいいな」

「「よくない(です)」」

 

 声を揃えてつっこまれても説得力がなかった。

 

 

 

 

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