雄英襲撃の元に集ったヴィランたちが黒霧が生み出したゲートをくぐり抜けるとそこには先ほどとは違う景色が広がっていた。
どこかのドームのように見えるがかなり広くテーマパークのような場所だった。
そこに現れた黒いゲートから出てきたのは雄英高校襲撃の首謀者、死柄木弔。
それに続いて側近の黒霧に対オールマイト用怪人脳無も姿を現す。
ゲートから次々にヴィランたちが現れていく中、当然ピトフーイとタウロスの姿もあった。
「何ここ?テーマパークみたいだけど…飛ばす場所間違ってない?」
「いや、間違いなく雄英だ。ここは救助訓練を行う施設の1つらしい」
「えっ!?これが学校の施設!?うっわぁ、税金の無駄遣い……」
流石はエリート高校というだけあって施設も完備であるが、ピトフーイはやり過ぎだと言わんばかりに呆れてしまう。
もっと税金の使い道が他にあっただろうにとピトフーイが愚痴を溢していると黒霧が階段の上にいる多数の人影を見やる。
「あれは13号にイレイザーヘッド…先日いただいた教師側のカリキュラムでは、オールマイトがここにいる筈なのですが…」
どうやら死柄木たちは事前に調べていたらしく、オールマイトがここに来ることを想定した上でゲートを開いたようである。
しかし実際にいるのは『抹消ヒーローイレイザーヘッド』に『スペースヒーロー13号』、そしてこれから授業に参加する筈だったであろう数十人の生徒たちしかおらずオールマイトの姿がなかった。
何か変更があったのかと黒霧が考察するも死柄木は落胆してしまう。
「何処だよ…せっかくこんなに大衆引き連れて来たのにさ……オールマイト…平和の象徴…いないなんて………子供を殺せばくるのかなぁ?」
しかしすぐににやけ顔になり一旦標的を雄英の生徒たちに切り替えることにした。
それを皮切りにヴィランたちはゾロゾロと雄英生たちへ歩みを進めていく。
しかしピトフーイとタウロスは死柄木たちの近くにおり動こうとはしなかった。
「行かねぇのか?」
「取り敢えず様子見はしとかないとねぇ」
「………つーかお前飛び入りで参加したけどよ、準備できてんのか?」
「常にフル装備だから問題なし」
経験豊富が故に無作為に動かず呑気な会話をしていると向こうで動きがあった。
イレイザーヘッドが1人で飛び出し階段から落ちるように向かってきた。
「射撃隊いくぞ!」
「情報だとオールマイトと13号だけじゃなかった?誰よ!」
「知らねぇな!」
広場へ着地したイレイザーヘッドが走ってくるのを迎え撃とうと3人のヴィランが前に出る。
遠距離からの攻撃ができる個性を持っているのだろうが情報が伝達されていないのかイレイザーヘッドを知らない口振りだった。
「けど1人で真っ正面から突っ込んでくるとは!」
『大間抜け!!』
向こうは1人に対してこっちは3人。
数で優位であるこちらに分があると踏み一斉に襲いかかろうとした時だった。
「あ、あれ!?個性が!?」
「使えねぇ!?」
自分たちの個性が発動されず射撃隊がたじろいだ。
何が起きているのか理解できずにいると、イレイザーヘッドが首に巻いていた布を射撃隊目掛けて伸ばし各々を縛り上げたかと思いきや、一ヶ所に集めて頭をカチ合わせ気絶させる。
それを見た他のヴィランたちは驚いてしまうもピトフーイとタウロスは当然と言わんばかりに頷く。
「まぁそりゃあプロだから対応できるのも当然だよね~」
「あれがイレイザーヘッド。視界に入ったヤツの個性を消せるヒーローか」
『抹消ヒーローイレイザーヘッド』
視界に捉えた相手の個性を封じ捕縛する戦闘を主流とするヒーロー。
メディアを嫌っておりあまり知られていないがそれ相応の実力を兼ね備えている。
「個性に頼らない戦闘スタイル…加えてゴーグルをしているから誰の個性を消しているかも分からないから連携が崩れる…寄せ集めなんて造作もないってことかぁ…どうするビーフくん?」
「決まってるだろ。数で押しても無意味なら…………1対1で蹂躙するまでだぁぁぁ!!」
ピトフーイに促されたのか、タウロスが雄叫びを上げながらイレイザーヘッドへ駆け出した。
「どけぇ!」
「うわぁ!?」
「ちょっ!?タウロス!?」
「何やってんのアイツ!?」
タウロスは進行方向にいるヴィランたちを気にもせずタックルで吹き飛ばしていく。
そもそもタウロスは報酬目当てでこの襲撃作戦に参加したため敵連合への仲間意識というものが無いのである。
ヴィランたちは巻き込まれないようにタウロスとイレイザーヘッドとのラインを開く。
突っ込んで来るタウロスにイレイザーヘッドは布を伸ばし両腕を拘束する。
このまま同じ要領で投げ飛ばそうとした時だった。
「ふんっ!」
「!!」
タウロスは力を入れて拘束していた布を無理やり引きちぎった。
動揺したイレイザーヘッドの隙を逃すまいとタウロスは拳を繰り出す。
しかし流石はプロヒーローというべきか、タウロスの拳を流すように身を翻して着地する。
「中々やるじゃねぇかイレイザーヘッド…少しは楽しめそうだなぁ」
「タウロス…!厄介なヴィランも来たもんだな…!」
金のためならどんなことでもするバウンティハンターのタウロスにイレイザーヘッドは本格的に身を引き締め対峙するのだった。
◆◆◆◆◆
一方その頃、雄英の生徒たちは13号と共に避難を開始していた。
「すごい…!」
全員が避難する中、生徒の1人『緑谷出久』は階段の上から広場で戦うイレイザーヘッドに歓喜の声を漏らす。
相手の個性を封じ連携を乱し、その隙を突いての制圧。
正に多数の敵に対して友好的な戦い方である。
「多対一こそ先生の得意分野だったんだ…!」
「分析している場合じゃない!早く避難を!」
「う、うん…!」
クラスメイトの『飯田天哉』から注意された緑谷は我に帰りみんなと避難を開始する。
イレイザーヘッドと対峙している牛のヴィランが気になるが今はここから避難することが大事だと自分に言い聞かせクラス全員が出入口まで辿り着こうとした時だった。
「させませんよ」
『!!??』
その目の前へ行く手を阻むように黒い霧が姿を現した。
突然のことに13号も雄英生も立ち止まってしまう。
その正体は黒霧。
避難がてらに応援を呼ばれたら面倒だと踏みイレイザーヘッドの隙を突いてワープしたのだった。
動揺している13号共と雄英生を無視して黒霧は目を光らせながら声を発する。
「初めまして、私は黒霧と申します。そして我々は敵連合。僭越ながらもヒーローの巣窟である雄英高校に攻め込んで来たのは………平和の象徴であるオールマイトに息絶えていただきたいとのことでして」
「………は?」
それを聞いた雄英生たちは目を丸くしてしまう。
突然現れたかと思いきやNo.1ヒーローを殺害すると余裕綽々で発言した故に理解が追いつかなかった。
動揺を隠せない雄英生たちにお構い無しに黒霧は淡々と言葉を繋げていく。
「本来なら、ここにオールマイトがいる筈…ですが、何か変更があったのでしょうか…?まぁいいでしょう、それは一先ず置いといて、私の役目はこれ…」
『うらぁぁぁ!!』
その時、黒霧に2つの人影が向かったかと思いきや激しい衝撃音が起こり辺りが煙に包まれた。
「ペチャクチャとうるせぇぞモヤモブがぁ!」
「その前に俺らにやられることを考えなかったのか!?」
黒霧に攻撃を浴びせたのは『爆豪勝己』と『切島鋭児朗』
余裕そうな黒霧に痺れを切らし13号の許可も得ずに飛び出したのだった。
しかし、
「ふぅ、危ない危ない」
『!?』
煙の向こうから声が聞こえそれが晴れると、黒霧が何もなかったかのように漂っていた。
「未熟な生徒とはいえここは名高い雄英高校…優秀な金の卵が集っていますね」
「効いてねぇのか…!?」
確かに殴った筈なのにまったく効いている様子がないため切島は驚愕する。
ワープゲートに加えて物理攻撃が効かない黒霧に雄英生が動揺した時だった。
「そうやって前ばかりに気を取られてると後ろが疎かになっちゃうよ~」
『!!??』
今度は後ろから能天気な女性の声が聞こえ全員が振り向くと再び目を見開いた。
いつからいたのか、全身黒いコンバットスーツを身に纏っているSATのような雰囲気がある女性だった。
追いつかれてしまったと一部が慌てる中、緑谷は声を上げた。
「麗日さん!」
最後尾にいたクラスメイトの『麗日お茶子』がコンバットスーツの女性に肩を組まれていた。
コンバットスーツの女性は左腕で麗日の肩を掴み抱き寄せ右手に握っている拳銃をその頭に突きつけていた。
拳銃を突きつけられることなど生まれて初めての経験に麗日は顔を青ざめている。
雄英生や13号が動揺する中、黒霧は呆れた声を出す。
「ピトフーイ、またそうやって勝手な行動を…」
「何言ってんの黒霧。こういう状況は人質をちらつかせて動き封じるのが上策っしょ」
ピトフーイと呼ばれたコンバットスーツの女性はケラケラと笑い反省している様子を見せなかった。
生徒を人質に取られてしまっては迂闊に手を出すことができない13号は悔しがりながらも個性を発動するのをやめた。
窮地に追い込まれ動くことができない中、緑谷は必死になって頭を回転させていた。
(考えろ!今の状況を!どうやったら麗日さんを助けられるか…!出入口にはワープゲート、麗日さんを人質に取っているヴィランの個性は分からないけど武器は拳銃………)
頭の回転がいい緑谷は作戦を立てるのが人一倍のため必死になって打開策を考えるも一向に思いつかない。
助けに向かったとしてもまだ個性の調整ができていないため高確率で失敗してしまう。
他の人と連携しようものなら作戦を伝える様子をピトフーイに怪しまれてしまう。
もう活路がないのかと諦めかけた時、緑谷の脳裏にある疑問が過った。
(待てよ…?そういえば…?)
緑谷は冷静になってピトフーイと麗日の方を見る。
(どうしてアイツは麗日さんを人質に取ったんだ?)
ただ単に最後尾だったから人質に取ったと普通なら考える。
しかし緑谷はどうも納得できなかった。
オールマイトを殺すことを企てている連中が麗日を人質に取るなど"絶対にあり得ないことだと"
(もしそうだとしたら…麗日さんを助けられる!)
自分の考察に間違いがなければこの状況を打破できるかもしれないと思った緑谷はすぐに行動に移し声を上げる。
「麗日さん!ソイツに触って!」
「え?」
「ん?」
突然声を上げた緑谷にその場にいた全員の視線が集まる。
当然ピトフーイもポカンとなる中、麗日はハッとなりピトフーイに触れた。
「そういうことね!」
「うぇ!?なになになにぃ!?」
するとピトフーイの足が地面から離れてその場でフヨフヨと宙に浮いた。
麗日の個性は無重力。
触れたものの重力を無くすことができる能力。
しかし使いすぎると酔ってしまうデメリットがある。
それを見た緑谷はやはりと言わんばかりの顔になる。
「やっぱりそうだ!向こうは僕たちの個性を分かっていないんだ!」
もし敵が自分たちの個性を把握した上で今のように人質を取るとしたら麗日を選ぶ筈がない。
もし選んでしまえば触れられて宙に浮かされて身動きなど封じられてしまうからである。
オールマイトを殺すことにそれ相応の準備をしているなら当然自分たちの個性も把握している筈。
それなのに人質として選ぶには相応しくない麗日を人質に取った。
つまり、連中は自分たちの個性を理解していないということなのだと緑谷の考えは答えへ導いたのだった。
「麗日さん早くこっちに!」
「う、うん!」
人質から解放された麗日はクラスメイトたちの元へ駆け出す。
しかしピトフーイがそれを許すワケがない。
「成る程ね~無重力の個性ってことか。けどこのまま逃がすと思ってんのかなぁ?」
背を向けている麗日にピトフーイは銃口を向ける。
無重力なのは体だけのため弾丸は普通に放たれる。
このままピトフーイが引き金を引こうとした時、目の前に爆豪が突っ込んで来た。
「とっととくたばって死ねやぁ!サバゲー女がぁ!」
「えぇっ!?ちょっ!?待っ!?」
そしてそのまま自信の個性の爆撃を掌から放出しピトフーイを吹き飛ばした。
更に無重力の効果でかなり遠くへ吹き飛ばされた。
それを見た麗日はいいことを閃いた。
「そうだ!解除!」
自信の能力の解除法である両手の指を合わせると重力を取り戻したピトフーイはそのまま広場へ落下していった。
「あんがとね緑谷くん!爆豪くんも!」
「麗日さんが無事でよかったよ!」
「ア"ァ"!?テメェを助けたワケじゃねぇ!俺はあのサバゲー女を仕留めただけだ!」
相手が自分の個性を知らないことを教えてくれた緑谷とピトフーイを吹き飛ばしてくれた爆豪に麗日はお礼を言うも、口と性格が悪い爆豪は相手をやったまでだと言い切った。
「いけませんねぇ。今度は向こうに気を取られてこちらが疎かになってますよ」
『!!』
その時だった。
クラスメイトたちの周りを黒いモヤが取り囲み出した。
その正体は黒霧。
ワープの個性で雄英生たちを分断させようとする。
「私の役目は…あなたたちを散らしてなぶり殺す!」
◆◆◆◆◆
数分前、広場にて。
「くそっ…!」
「よそ見してんじゃねぇよ!」
タウロスと対峙しているイレイザーヘッドは苦戦を強いられていた。
とてつもないパワーに加えてデカイ図体とは裏腹の身のこなし。
異形系の個性を消すことができないためパワーは封じられない。
布で動きを封じようものなら千切られるか引っ張られるかのどちらか。
それ相応の実力を兼ね備えているタウロスにイレイザーヘッドは手も足も出せずにいる。
「流石はプロヒーロー、一筋縄じゃあいかねぇな…」
しかしそれはタウロスも同じ事。
力では圧倒的に有利であるにも拘わらず一撃もイレイザーヘッドへ攻撃を与えられていない。
何か決め手がほしいとタウロスが考えた時だった。
「ああああああああ!!」
「?」
聞き覚えのある声がタウロスの耳に入り何事だと上を見上げると、先ほど爆豪に吹き飛ばされ無重力を解除されたピトフーイがこちらへ落下していた。
「ピ、ピトフーイ!?何で空から!?」
「ビーフくん退いてぇぇぇぇぇ!!」
そしてそのままピトフーイはタウロス目掛けて落下したと同時に砂ぼこりが舞った。
突然のことにイレイザーヘッドは呆気に取られてしまうも砂ぼこりが晴れるとそこには、仰向けに倒れているタウロスの背中にピトフーイが立っていた。
「いや~まさかこんなところまで吹き飛ばされるとは…流石は雄英!優秀な子ばっかりだねぇ!」
爆撃ではなく爆風だけで飛ばされたためダメージは無いもののここまでとは予想外だったためまるで我が子のように喜んでしまう。
「テメェ…いい加減降りろぉ!!」
一方倒れていたタウロスは一向に降りようとしないピトフーイに怒りを露にしながら立ち上がると同時に、ピトフーイは華麗に地面へと降り立った。
「どうしたんだいビーフくん、そんなに怒って?カルシウムが足りてないんじゃない?」
「人をクッション代わりにしてよく言えたもんだなぁ…!」
一向に詫びる様子がないピトフーイにタウロスが怒りでプルプルと震える中、イレイザーヘッドはかなり警戒していた。
(ピトフーイ…!こいつまで来てたのか…!未だに敵の戦力は把握しきれないが、コイツとタウロスだけはこの場に留めておかねぇと!)
もし目の前にいる2人を野放しにして生徒たちと鉢合わせたら確実に生徒を殺しに掛かる。
なんとしてでもこの場で仕留めなくてはと、ヒーローとして、教師としてイレイザーヘッドが動こうとした時だった。
「お前にはたっぷり礼をしてやりたいところだが、今は我慢してやる……俺らも行くぞ」
「えっ?いいのイレイザーヘッドは?プロヒーロー殺せばボーナス出るんじゃないの?」
「確かにそうだがコイツは仕留めるのに時間が掛かりそうだ。そうなったら他を総取りされちまうからな」
「なるほどなるほど…それじゃあ私も移動しよっかな~。あの中に面白そうなのわんさかいたし~」
敵連合の作戦のためなのか、ピトフーイとタウロスはイレイザーヘッドを放置して移動しようとする。
「ッ!?待て!」
そうはさせまいとイレイザーヘッドが駆け出した時だった。
ピトフーイが腰に取り付けられていたものを手に取ると、それは手榴弾だった。
ピンを引き抜くとそれをイレイザーヘッド目掛けて投げつけると爆発を引き起こした。
「くっ!?」
爆風と粉塵で視界を奪われてしまい目を開いた時には、ピトフーイとタウロスの姿はなかった…