『山岳ゾーン』
登山で遭難した人や転落して重症を負った人を救出することを想定して作られた施設の1つ。
黒霧のワープゲートにより飛ばされたのは雄英生の『上鳴電気』と『耳郎響香』と『八百万百』の3人と数十人のヴィラン。
状況を見れば圧倒的に数の唆でヴィラン側が有利。
数の暴力とは正にこのこと。
しかし現実はそう甘くはなかった。
「な、なんだこのガキども!?」
「普通に強いじゃねぇか!」
「ぐはぁ!?」
雄英生たちは個性を上手く利用して立ち回っていた。
壁へ追い込んでいるにも拘わらず高校生とは思えない身のこなしにヴィランたちはたじろいでしまう。
「オイオイやべぇってこの状況!完全に袋叩きにされるパターンじゃん!」
「ごちゃごちゃ言ってないで集中しなって!」
「お二人とも真剣に!」
しかし雄英生たちが不利であることは確か。
戦闘経験が浅いが故に上鳴は慌てふためいてしまう。
男の癖に情けないと耳郎は呆れてしまうも当然かと思ってしまう。
一方で八百万はヴィランを寄せ付けさせずにこの状況を打開する策を考えている。
互いに一歩も譲らず均衡した空気が漂っている時だった。
「やぁやぁ諸君!随分と手こずっているようじゃないか!」
突然誰かの声が響き渡りその場にいる全員が声が聞こえた崖の上を見上げると、1つの人影があった。
『ピトフーイ!!』
「あはっ♪」
その正体はピトフーイ。
面食らっているヴィランたちにピトフーイは笑顔でウインクをする。
「アイツ確か…爆豪にぶっ飛ばされたヴィランだよな…!?」
出入口付近で麗日の無重力と爆豪の爆撃により吹き飛ばされた筈のピトフーイが無事だったことに上鳴は驚いてしまい、耳郎と八百万はピトフーイを警戒する。
全員の注目が集まる中、ピトフーイはまるで舞台に立っているパフォーマーのように立ち振る舞う。
「さぁさぁ皆さんご注目!今ここにいるのは大勢のヴィランに囲まれながらも勇猛果敢に迎え撃つ3人の若者たち!一体彼らをどうすれば倒せるのか!?そういう時はこうすればよいのだよ!」
いい終えるとピトフーイは近くの岩場でゴソゴソと何かの準備を始める。
一体何をするつもりなのだろうと全員が思った時、ピトフーイが大きな何かを担いで姿を見せる。
それを見た上鳴や耳郎に八百万、そしてヴィランたちは目を見開いてしまった。
何故ならそれは………
『ロケットランチャーーー!!??』
ビル1棟を崩壊させかねない『対戦車ロケットランチャー』を担いでいるピトフーイを見て全員が声を上げてしまう。
映画でしか見たことない武器に上鳴は更にたじろいでしまう。
「どどどどうすんだよ!?まさかアイツ味方ごと吹き飛ばすつもりか!?」
「嘘でしょ…!?どうするヤオモモ!?コイツら突破して逃げる!?」
「今から逃げても間に合いませんわ!」
奇跡的に切り抜けられるルートを見つけて逃げ出したとしてもロケットランチャーの爆風に巻き込まれるのは目に見えている。
どうにかして策を考えているのも束の間、ピトフーイはロケットランチャーを構えた。
「んじゃいくよー」
「ま、待てピトフーイ!」
躊躇もなく発射しようとしたピトフーイをヴィランたちが声を上げて止めようとする。
「お前そんなことしたら俺らまで巻き込んじまうじゃねぇか!」
「ふざけんなよ!」
「そーだそーだ!」
このままでは自分達も巻き込まれてしまうためピトフーイにロケットランチャーを下ろすように説得を始める。
しばらくピトフーイは唸りながら考え込むと…
「ゴッメンね~!何かを成すためには犠牲を踏み台にしないといけないんだ~!ということで、みんな私の犠牲になってね!あはっ♪」
そしてそのまま躊躇なく引き金を引いてロケットランチャーの弾を発射した。
「に、逃げろぉーーー!!」
それを合図にするようにヴィランたちは蜘蛛の子散らすように逃げ出すも時既に遅し。
とてつもない爆発が起こりその場は爆炎に呑み込まれてしまった。
ヴィランたちは爆発に巻き込まれほとんどがすぐ近くの崖から転げ落ちていった。
「よっと」
まだ爆煙が立ち込める中、颯爽と飛び降りたのはピトフーイ。
使い終えたロケットランチャーを投げ捨てて辺りを見渡すと地面に気を失っているヴィランたちが倒れおり爆煙で視界を制限されている。
「ん~思ったより火力がいまいちかな?手榴弾放り投げた方が派手だったかもなぁ…」
どうやらもっと派手に吹き飛ばしたかったようで不満そうな声を出してしまう。
すると足元にヴィランが持っていたであろう1本のサバイバルナイフが落ちていたためそれを拾う。
しばらくそれを眺めていると、
「そりゃっ!」
急に振り向いて持っていたサバイバルナイフを投げる。
一見何をしているのだろうと思ってしまうも爆煙が晴れるとそこには…
「ア、アブネェ~…!マジで三途見えた…!」
壁を背にしている上鳴の姿だった。
しかしその顔面の右3センチにはピトフーイが投げたサバイバルナイフが壁に刺さっており紙一重だった。
危機一髪を乗り越えて涙目になっている上鳴の近くでは耳郎と八百万が身構えていたが、ピトフーイは近くに落ちていたものに気がつく。
「成る程ねぇ、そういうことか…」
落ちていたのは防弾盾。
これでロケットランチャーの衝撃を防いだのかとすぐに理解した。
八百屋の個性は『創造』
生物以外のものを何でも造り出すことができる。
ピトフーイのロケットランチャーを見て体内で防弾盾を作っていたのだった。
これにはピトフーイも驚き混じりに笑ってしまう。
「あんな短時間での冷静な状況判断で適したものを生み出すなんて………ヤオモモだっけ?凄いねモモちゃん!驚いちゃったよ!ホントに高校生?」
「…ヴィランにそのように呼ばれたくありませんわね」
八百万の戦い方や個性に加えて高校生とは思えない頭の回転にピトフーイはつい八百万を『モモちゃん』と呼んでしまう。
当然八百万はそのように呼ばれて喜ぶワケがなく睨み付けてしまう。
「そんなこと言わないでよモモちゃん、仲良くしようよ~!気に入っちゃったんだからさ~!」
「私は貴女と仲良くするつもりはありませんわ」
「それは残念」
「…随分とお喋りだねアンタ」
するとピトフーイと八百万の会話に割り入るように耳郎が口を開いた。
「ん?まぁね。だって年の近い子たちと話せる機会なんて滅多にないからね~」
「そうなんだ……そんな余裕かましておちゃらけてるからさっきみたいに吹き飛ばされるんじゃないの?」
「じ、耳郎さん…!?」
「オイオイ!?煽るんじゃねぇよ!」
「………」
会話をする中、耳郎はピトフーイを煽るように出入り口でのことを思い出させる。
突然の発言に八百万と上鳴は戸惑ってしまうも耳郎には考えがあった。
耳郎の個性『イヤホンジャック』は自身の耳朶がプラグになっており相手に差し込んで爆音を流すことができる。
コスチュームのブーツのスピーカーに差し込むと超音波のように放出させることが可能。
ノーモーションで攻撃ができるため敢えてピトフーイを煽らせ突っ込んできたところを爆音でお届けしようとする算段である。
「年が近いって言ってもさ、アンタの方が年上じゃん。年下にいいようにやられて面子が丸潰れ」
「もしかしてわざと怒らせようとしてる?」
「!!」
更に煽ろうとする耳郎の言葉を遮りピトフーイが口を開く。
作戦を見抜かれたことに耳郎は少し動揺してしまうもピトフーイはケラケラと笑いながら答える。
「浅いんだよねぇ~そんな見え見えの挑発に乗るとでも思ったのかな~?………けどいいよ」
そして次の瞬間、ピトフーイは一気に耳郎との間合いを詰めた。
「なっ!?」
「敢えてその誘いに乗って上げるよ」
呆気に取られた耳郎の細い腹にピトフーイの重い膝蹴りがめり込んだ。
「あぁっ!?」
「ほらほらどうしたの?この距離なら攻撃できるよ!」
2回、3回と膝蹴りを食らわせると耐えきれなくなった耳郎はその場に倒れてお腹を抱え踞ってしまう。
「う、うぅ…!」
「それで?私を怒らせた次は何をするのかな~?」
「てめぇ!」
苦しんでいる耳郎を見下しているピトフーイに逆に上鳴がキレてしまい個性の『帯電』で殴り掛かろうとするも簡単に避けられてしまう。
「危ない危ない。流石に感電したらひとたまりもないよ」
「くそっ!よくも!」
「上鳴さんしゃがんで下さい!」
激昂して襲い掛かろうとした上鳴の耳に八百万の声が聞こえたため反射的にしゃがむとピトフーイ目掛けて何かが飛んできた。
「うわっ」
咄嗟にピトフーイはそれをよけるとそれは地面へ落ちた。
何が投げられたのか確認すると、それは缶状の何かだった。
そして次の瞬間、それから白い煙が吹き出して一気に辺りを呑み込んだ。
「スモーク弾…!さてはモモちゃんだな…!この隙に遠くへ逃げるつもりか………怪我人させいなければの話だけどね」
◆◆◆◆◆
「耳郎さん、大丈夫ですか…!?」
辺りが白い煙で蔓延する中、近くの岩場に身を隠しているのは八百万と上鳴と耳郎。
スモーク弾を投げ込んだ直後、八百万と上鳴は耳郎を抱えてピトフーイから一時的に距離を取ったのだった。
「ケホケホッ…!だ、大丈夫…!ゴメン、ウチが余計なことしたから…」
「無理して喋るなって!」
ピトフーイの蹴りがかなり効いている耳郎は上手く立ち上がれず岩に背もたれして座り込んでいる。
このままの耳郎を連れて逃げたとしてもピトフーイに追いつかれてしまう。
しかもスモーク弾の煙もあと少しで効果が切れてしまい見つかれば終わりである。
「どうするヤオモモ?」
「……………」
危機的状況の中、八百万は何とかして全員が助かる方法を考える。
そしてしばらくすると八百万は覚悟を決めて口を開く。
「…上鳴さん、耳郎さんを連れて逃げて下さい。その間に私があのヴィラン、ピトフーイを食い止めておきます」
「なっ!?何言ってんだよ!?」
八百万の無謀すぎる作戦に上鳴は反発してしまう。
相手は容赦なくロケットランチャーを撃ってくるヴィラン。
そんなヤツをたった1人で迎え撃つなど明らかに無謀である。
しかし八百万は続けて言う。
「この状況で私たち3人が無事に逃げ切れる方法は限られてます。私と上鳴さんでピトフーイに立ち向かえば取り残された耳郎さんが危険です。このまま耳郎さんを抱えて逃げても追い付かれるのは明らか。ですから私が食い止めている間に上鳴さんは耳郎さんを連れてここから逃げて下さい」
「それなら俺が足止めを!」
「ピトフーイは私に興味を持っています。私が残ることが効果的なのです」
ピトフーイの好奇心を利用して上鳴と耳郎を逃がす八百万はあまりにも危険だが怪我を負っている耳郎を逃がせるかもしれないと思ってしまう。
しかし耳郎は八百万を止めようと声を振り絞る。
「ダメだってヤオモモ…ウチを置いて、上鳴と一緒に逃げて…」
「……耳郎さん」
友達として心配する耳郎に八百万は笑顔で答える。
「私たちは人を助けるヒーローです。ですから今は私というヒーローに頼って下さい」
「ヤオモモ…」
ヒーローを志しこの雄英高校へ入学したからにはどんな状況でも乗り越え人々を助ける。
しかし今は目の前にいるヒーローを信じようと耳郎と上鳴は腹を決める。
「…分かった。けど絶対無茶しないで」
「危ないと思ったらすぐに逃げろよ」
「えぇ」
◆◆◆◆◆
一方、ピトフーイはというと何もしないで立っていた。
この煙幕は時間が経過すれば直に晴れると予測したからこそハレルヤまで待っていたのだった。
もちろん不意打ちも警戒していたが、ついに煙幕が晴れ視界が広がった。
「やっと晴れた…さ~てモモちゃんたちは?」
八百万どころか上鳴も耳郎の姿もなかったため辺りを見渡すも見つからない。
耳郎にはダメージがあるためそう遠くへは逃げることはできないだろうとピトフーイが右手のハンドガンを握りしめた時だった。
近くの岩場から人影が飛び出しピトフーイは反射的に銃口を向けて弾丸を放つ。
弾丸を受けた人影はそのまま地面へ落ちてしまうもそれを見たピトフーイは目を見開いてしまった。
「これって…マネキン…?」
岩場から飛び出したのは木製の等身大のマネキンで胸には弾痕が残っていた。
人ではない別の物が飛び出してしまいピトフーイの思考は一瞬止まってしまう。
その一瞬の停止をヒーローは見逃さなかった。
「やぁぁぁ!」
「えっ!?」
再び岩場から人影が飛び出しピトフーイに向かって行く。
その正体は八百万。
両手には長いサスマタを持っておりU型の金具でピトフーイの脇腹を押してそのまま走り続ける。
「ちょっ!?モモちゃん!?」
急に身動きを封じられてその拍子にハンドガンを落としてしまいピトフーイはどうすることもできずにいると八百万はそのまま坂のある場所まで押して2人一緒に転げ落ちてしまう。
「うわぁっ!?」
「きゃぁっ…!」
そのままピトフーイと八百屋は平らとなっている地面まで転げ落ちていき、ピトフーイはようやくサスマタから解放され身動きが取れるようになった。
辺りを見渡すと先ほどいたところよりも1つ下の場所で岩場がいくつもある。
「敢えて1人残って時間稼ぎってことね…さっすがモモちゃん!ヒーローってやっぱカッコいい!」
立ち上がりながら身構えている八百万を見てピトフーイは歓喜の声を漏らしてしまう。
今まで暗殺だのという単純な作業ばかりで刺激が欲しかった所に雄英襲撃の話。
そして今自分と対峙しようとするヒーロー学生。
体験したことのない展開につい感情が込み上げてしまうのであった。
「ピトフーイ!貴女たちヴィランをこれ以上好き勝手指せるワケには参りませんわ!」
「やってみなよモモちゃん!果たして君に私を殺せるかな?」