Wがストレステストをうける話

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Wの一部プロファイルとアークナイツのストーリーのネタバレを含みます


プルプル、僕は悪いドクターじゃないよぉ…

1.

 

殺す

私の脳内にはそんな単語によって彩られている。

頭は常に怒りによって沸騰し、脳は目の前の存在を八つ裂きにするための策略を常に思案し、視界は殺意によって赤く染まっている。

だがそれでも私は引きつりながらも笑みを絶やさず。目の前の小さなぬぐるみの頭を撫でる。

 

はたから見たら、机に乗せられた可愛らしいぬいぐるみを椅子に座って甲斐甲斐しく世話をするサルカズというトチ狂った光景が見えるだろう。

 

しかもそのぬいぐるみはロドスのジャケットを着て、マスクとフードで顔を隠す姿、全身黒ずくめ。

つまりは私にとって憎きドクターの姿をしている。

 

ドクターの姿をしているだけなら、いつも実物を見ているだけだから耐えることができるのだが問題は別だ。

 

ぬいぐるみが小さく震える。

中のスピーカーが起動した音だ。

 

再びくる私の心身をえぐり取るような一言に私は積もり積もった怒りを宥めながら顔に笑顔を貼り付ける。

 

私はW、サルカズ傭兵団の長だった女。

生半可な言葉では私の心境を動揺させることは叶わない……

 

 

「Wちゃん! もうちょっと優しく撫でてよ!爆弾扱っているくせに不器用だね!!」

 

ああああぁあああああああああぁあ!!!

 

ドクターの声によって語られる癪に触るセリフ

それは私の筋肉が憤怒とおぞましさによって痙攣し目の前のぬいぐるみを爆砕せんと動くが、気力でなんとか押しとどめる。

 

早くも、このテストを受けた事を私は後悔していた。

 

 

 

2.

 

「ねぇアーミヤ、このテストなら受けてもいいわよ?」

 

書類のある一項目を指差しながら私が何気なしにこぼした一言に、目の前のコータスから血の気が引いて行っているのが良く見える。

 

いつもはロドスの長として常に大人びた行動を念頭に置いて、あの人に近づこうとしている彼女がこんなわかりやすい反応をしたことに私は愉悦を覚えた。

 

 

ロドスに入隊してから数週間がたったある日。私は自分の書類が気になった。

 

ロドスのオペレーターの書類には様々なことが書かれている。例えば能力測定や個人履歴、そして健康診断である。

だが、私は個人履歴を言うつもりは一切ないし、その他の能力測定や健康診断などまともに受ける気は無かった。

 

だからこそ、まともに検査や測定を受けていない自分の書類が気になったのだ。

 

思い立ったら吉日と私は思い、その日のうちにロドスのデータバンクを勝手にあさり自身の書類を見つけた。

書類の申請をしなかった理由はそれでは権限などでみることができない情報があると踏んだからだ。

 

読んでみると、わずかな情報から感心するほどしっかりと調べられており、あれだけ煽っても仕事をしようとする医療部門のオペレーターたちに感心と呆れの感情を抱いた。

そんな時、ある一つの項目を見つけたのだ。

 

【ストレステスト】禁忌

このオペレーターに対してストレステストを行うことは、このオペレーターの心身に強い影響をもたらすと思われるので私の権限で禁忌に指定する……ドクター

 

 

へぇ…

 

嫌う人間から『余計なお世話』とも言うべき一言を見つけ胸中から澱んだものが浮かび上がるのを感じる。

長年傭兵生活をしていきた私たちサルカズにとって苦痛や差別を伴う状態は、とうに慣れたものだ。

なのにもかかわらず、テストごときで私の心身に強い影響を及ぼすと?

 

随分と舐められたものじゃない…

 

私はそんな思いを抱き、休憩所にいたアーミヤに書類を突きつけたのだ。

 

 

 

「え、えっと。そのテストに関してはドクターが禁忌にしているので無理です…」

 

青い顔をしながら狼狽えるアーミヤが目を回しながら必死に答えている。

私の胸中に加虐心が湧き上がりこのままいじくり回したくなるが、今の目的は別だ。

 

「あら?あなたも私がストレステストごとき耐える事ができないと思っているの?ひどいわよねぇ…」

 

「いや…そういうわけでは…」

 

「思っていないのなら受けさせてくれるわよね……あなたも今のドクターと同じかそれ以上の権限をもっているのでしょう?」

 

必死にアーミヤが断ろうとしているが、こんなわかりやすく狼狽えた相手をどうにかできないようでは傭兵なんてやっていられない。

 

ズルズルと後ずさりするコータス。

ズンズンと追い詰めるサルカズ。

 

そしてついに下がりきれなくなりアーミヤの背が壁にぶつかる。

私は壁を背にしたアーミヤの脇に手をつき、腕で覆われるように顔が接近させた。

 

「ねぇ…お願いよ?」

 

加虐心たっぷりな笑顔をアーミヤに向けてお願いをする。

見下ろされたアーミヤが何か思案するように目を瞬かせる。

 

だがそこで私は気がついた。

そんな彼女の瞳に追い詰められたことへの怯えは一切ない。

 

むしろ……私を心配している?

 

 

…………………へぇ

 

 

胸中にさらに澱んだものが溢れてくるのがわかる。

この子も私を『心配』するのね。

 

 

そろそろ分からせてあげるべきなのかしら?と思い口を開こうとした時、後ろから気に食わない声が聞こえた。

 

「いいじゃないかアーミヤ。そのテストを受けさせてやれ」

 

振り返るとそこにはケルシーがいた。

彼女はいつもと同じように何を考えているか分からない表情で私たちを見つめている。

 

「で、ですが…」

 

「オペレーターの自主性を信じてやれ。それにあのテストは今のドクターが作ったテストだ。安全性は保たれているだろう?」

 

カチンときた。

まるで親が子に言い聞かせる言葉。そしてその内容は姉に向かって妹のわがままを認めてあげるように諭すような言葉。

しかも今ケルシーは何て言った?

今のドクターが作った?安全性が保たれている?

にもかかわらずドクターは無理と言ったの?

 

随分と舐め腐っているじゃない。

 

「ほら、アーミヤ。ケルシーもこう言っているわけだから、私にそのテストを受けさせなさい」

 

私はアーミヤに顔を近づけ語り変えた。

はたから見れば、この時の私の表情は本当に『いい笑顔』だっただろう。

 

「……では、後日テストを行います」

 

孤立無援の状況についにアーミヤが観念した。

その姿に私は軽い達成感を覚えたのであった。

 

この時私はもっと周りを見渡すべきであった。

私の後ろにいるケルシーが珍しく笑みを浮かべていたのだから。

 

 

 

 

3.

 

後日。ロドスアイランドの個室にて。

 

 

やめとけばよかった。

それが今『ドクター君人形』を撫でている私の心境だ。

 

テスト前にアーミヤとドクターが必死に止めて来たのをあしらったまでは良かったが問題はテストが始まってからだった。

 

テストの内容は簡単だった。

テストを受けるオペレーターを、対象がストレスを感じる物と同室に閉じ込めいくつかのミッションをクリアすると言うもの。

この個室にはオペレーターの心理的ダメージを考慮して、マジックミラーが取り付けられ個室の向こう側にはテストの採点者がテスト対象を常に監視し、問題があれば途中でテストを終了させる事になっている。

 

スタンダードなテスト内容。これがなぜ私にとって禁忌なのか分からなかったが、このテストを作ったのはドクターなのだ。

味方だけでなく敵すらも手足のように動かし完璧に理解し、決められた物語のように敵を破滅に導く指揮官。

記憶を失い味方への被害を最小に止めるようになったとはいえ、その理解度と戦い方は変わってはいないことを私はロドスに来てから知っていたはずだった。

 

そんなドクターが私のために用意したストレスを感じさせる物とミッション。

それが、この目の前にある『ドクター君人形』であり、行うミッションは『ドクター君人形』のお世話をして『ドクター君人形』のお願いを聞くことであった。

 

『ドクター君人形』にはクロージャが作った簡易AIが取り付けられており、人形内部に取り付けられたスピーカーでドクターが設定した言葉を発するようになっており、その声はドクターの音声が使われている。

 

まさに真に人を理解してなければ行えない所業。冗談抜きでブチ切れる地雷をギリギリで避けながら最大限にストレスを与える最大限の方法。

 

やはり、あいつ記憶喪失なんて嘘なんじゃない?

そんなことを思う私は間違っていないだろう。

 

 

「お腹すいたよ!Wちゃん!料理を作ってよ!なんで気がつかないの!」

 

「あ?」

 

ナメくさった物言いに思わず私の口から溢れる言葉。

 

しまった。と思った時にはもう遅かった

 

部屋のスピーカーからケルシーの淡々とした声が聞こえる

 

「怒りを確認。減点1」

 

「ぐっ……わかったわドクター」

 

「呼び方が『ドクター君』ではない。減点1」

 

「ぐ、ぎ………わかったわドクター君」

 

「わぁい。僕Wちゃんに料理を作ってもらえて、そこそこ嬉しいなぁ!」

 

「そ、そうかしら?」

 

「そうだよ!あ、そうだ!僕の呼び方はドクターでいいよ!」

 

「それは助かるわドクター」

 

「呼び方が『ドクター君』ではない。減点1」

 

ぐちゃぐちゃにしてやろうか

ケルシーの採点と『ドクター君人形』の煽りによって頭が怒りで、さぁ〜んしそうになる。

だが、それでも耐えなければならない。

自らテストを受けてその結果が最低評価では笑い話にもならないのだ。そんなことは死んでも避けなければならない。

 

 

最悪の結果を想像し私の頭が急速に冷えていき思考する。

 

おそらく一々ミスをした時に報告されるケルシーの採点もストレスを与える物なのだろう。

だから、気にしてはドクターの思う壺だ。

一刻も早くミッションをクリアしてこの地獄の坩堝から逃げ出さなければならない。

 

私はそう思うと足早に、あからさまに用意されていたキッチンに歩いていき、そこに置かれた食材、そして調理方法が書かれているメモを手に取る。

 

食材と書いてある内容からして、卵料理。

難しい工程はなく失敗する心配もない。

 

早速フライパンに火を入れ手際よく工程を進めていく。

今までの人生の中でここまで手際よく料理を行った記憶はない。それほどまで私の動きはさえ切っていた。

 

このままいけばすぐに料理は作られるだろう。失敗する事はない。しかしこれで終わるとは思えない。

これは料理のテストではなくストレステストなのだから。

 

ならば考えられるのは一つ。

 

「ねぇねぇWちゃん!」

 

ほら来た。『ドクター君人形』の煽りだ。

 

癪に触る人形の声を聞きながら私の脳内は戦場にいる時並みに回転する。

考えられる煽りは「実は卵料理が嫌い」「作るのが遅い」「不味そうな料理の匂いがする」「料理をしている姿が致命的に似合わない」などだろう。

煽りは先に心構えさえしていればその効果は半減する。

そしてケルシーの採点は機械的な採点だ。気にしなければ害はない。

 

私はどんな言葉が来てもいいように無理やり口角を上げながら『ドクター君人形』に向かって笑顔を向けた。

 

「なにかしら。ドクター君?」

さぁ来い、私はこれ以上貴様の思い通りにいくと思うな

私は強い決心とともにドクターの精神攻撃に備える。

 

ジジッ、というスピーカーが起動する音ともにドクターの声が部屋に響いた。

 

「僕卵料理は好きだけど苦手なんだ!」

 

「…?」

 

何を言っているのかしら?

予想外な一言。私は怒りではなく疑問が浮かび上がる言葉に困惑する。

続きの言葉を待とうにも『ドクター君人形』はうんともすんとも言わない。

 

疑問に思いながら、ボールに黄卵を入れるため卵を手に取る

 

「『ドクター君』の言葉に返事をしない。減点1。子供に返事をする事は大事な事だぞW。それとも君もまた子供だったか?」

 

グシャリと卵が手の中で潰れた。

砕けた黄卵と卵の殻がボールにこぼれ落ちていく。

 

「『ドクター君』への料理に異物混入、減点1。卵の殻は料理には使わない。それもメモに書いてあったほうがよかったか?」

 

怒涛のケルシーによる採点。しかも今度は小言付き。

1手2手先をいくドクターとケルシーによる精神攻撃。

 

思い起こすはバベルの時の二人の姿。

記憶が変わろうとも組織が変わろうともやはりあの二人は変わらない。

そんなわかっていたことを再度認識する。

 

怒りで視界が滲見ながら、ケルシーの言う通りに私は口を動かした。

 

「それは…何でかしら、ドクター君?」

 

「ドクターでいいよ?」

 

「……私がドクター君って言いたいのよ」

 

「融通がきかないね!」

 

「………それでッ!何でかしら!?ドクター君!?」

 

とっくのむかしに怒りの限界ラインは超えていた。

だがそれでもサルカズとして誇りと意地が私を支えている。

この今の私の状況は、いつも私が敵を煽り扇動していたこと。敵を知らなければ自分も知る事はできない。

これは自身の原点に帰る訓練なのだ。

私はそう言い聞かせ人形の返答を待つ

 

そんなギリギリの私に対して『ドクター君人形』は声を発した。

 

「それはね!」

 

「…それは?」

 

「だって卵割ったらヒヨコが死んじゃうじゃないか。生まれてこれなくて可哀相だよぉ〜」

 

「…………」

 

 

語られる今まで聞いたことのないようなドクターの猫なで声。

その音程は的確に人の怒りの琴線に触れるものであった。

 

つい喉から

日夜戦闘を指揮して敵を殲滅している人間のセリフ!?

 

 

というセリフが出かかる。

 

…だが。それでも私は耐えた。

握っていたボールが握力によりひしゃげるのがわかるが、それでも私は怒りを耐えた。

俯き私は今まで生きて来た血と肉にまみれた人生を思い起こす。

 

私はサルカズ

忌み嫌われ、恐れられる種族なのだ。

 

こんなところで、これ以上ドクターの手のひらで踊るわけにはいかない。

 

私は顔を上げ『いつも』の笑顔で答えた。

 

「そうなの、可愛いわねドクター君」

 

感情と切り離された私の口が動く。

そして私の体が淡々と料理を作り始める。

 

マジックミラー越しに驚くような雰囲気が現れた。

テストを見ているものたちが困惑しているのだろう。と言う事はあのドクターとケルシーも困惑しているに違いない。

あの二人を困惑させた

そんな導き出された予測に私の内心に愉悦が生まれる。

 

見てなさい、これ以上思い通りに行くとは思わないことね。

私は甲斐甲斐しく動く私の体を客観的に俯瞰しながら内心で嗤う。

 

ドクターとケルシーによる予想外の方法に戸惑ったが、こうやって感情と行動を切り離せばもはやこっちのもの。

もはや敵に私の心を乱す事はできない。

 

「ねぇねぇ。Wちゃんは僕をどうおもっているの?」

 

人形からの問いかけが来る。

私の体は笑顔で答えた

 

「味方からしたらとても頼りになるいい子。敵からしたら恐ろしい悪い子かしら?」

 

 

カシャンと音がした。

それは部屋の扉が開いた音。

 

私はそちらに顔を向けた。

 

 

そこには、足を組んで椅子に座ったケルシーとドクターがいた。

ケルシーはサングラスをかけポップコーンが入ったカップを持っている。

ドクターはドリンクを持ちながらケルシーの持っているポップコーンをつまんでいる。

 

二人と視線が交わる。

 

するとドクターは何を言っているのかさっぱりわからないと言いたげなジェスチャーをしながら喋った

 

 

「プルプル、僕は悪いドクターじゃないよぉ…」

 

 

キレた

 

 

 

 

4.

 

「ドクター。Wをこのまま医務室に運ぶがいいな」

「もちろんだケルシー。ついでに健康診断をしておいてくれ」

 

限界を超えた怒りで気を失ったWが医務室に運ばれて行っている。

このままいけば、彼女が今まで協力を拒んでいた健康診断が本人の意思を無視して行われることになるだろう。

 

そんな彼女を見つめながら語る二人のロドスのトップ達。

 

 

私はそんな二人に声をかける。

 

「もしかして……最初からこれが狙いですか?」

 

 

二人は振り返りながら行った。

 

「それは違うアーミヤ」

「いいや違うよアーミヤ」

 

 

そうですよね、違いますよね

 

 

だって二人ともすごい笑顔ですよ….

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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