仮面ライダーゼロワン─オレノミライズ─   作:げむおば

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第一節 俺が社長で…?

プロローグ

 

 

 

人工知能搭載人型AI、ヒューマギアと共に生きる新時代。

 

彼らを制作した会社、飛電インテリジェンスの元社長、飛電 或人は、衛生アークやザイアによる様々な事件に仮面ライダーゼロワンとして立ち向かってきた。

 

人間の悪意からヒューマギアを守るため、そしてヒューマギアを利用して及ぼされる危険から人類を守るため、仮面ライダーは今日も戦っている。

 

 

 

 

「.......俺は諦めない」

 

 

 

 

飛電 或人はひとり、いつも通り動く街の中で、固く拳を握りしめて立っていた。

 

──────────────

 

 

:第一節 俺が社長で.......?

 

 

──────────────

朝7時。時計の針が進む音が静かに部屋に響く。

 

秒針が長針に重なった瞬間。世界が変わるようなけたたましいアラーム音が鳴り響いた。

 

「うっ.......あーもう朝かぁ.......ふあぁ。よくわかんない夢見たなぁ」

 

生活感溢れる寝巻きで、ベッドからのそのそと起き上がる飛電 或人。

 

平日の朝といえば、出勤。或人は立ち上がると、掛けてあるスーツ.......ではなくこだわりの私服を手に取り、シャワールームへと足を運んだ。

 

「最近色々考えちゃってうまく眠れないからなぁ、寝不足の分はシャワーでスッキリしないと仕事できないよねぇ」

 

或人はつい最近の戦いの日々を思い起こす。

 

滅亡迅雷.netとの戦い、協力。衛星アークの復活。散々事件を起こし続けた男、仮面ライダーサウザーこと、天津 垓との和解。そして、新たな力.......。

 

ひとつひとつが大きな出来事すぎて、今後のこと、つまりは近い未来のことを考えると、不安で夜も眠れない。

 

「.......考えても仕方ないか」

 

ガチャンとシャワールームのドアを開けると、更衣室に女性が立っていた。

 

「おはようございます。或人さま」

 

「うわぁっ!?い、イズ!?どうして俺の部屋に!?」

 

女性は或人の社長秘書型ヒューマギア、イズだった。

 

彼女は鏡を見て自分の顔を確認し、青緑のメッシュの入った自分の髪を確認する。

 

「或人さま。もしよければ、寝癖をなおしてセットして差し上げましょうか?

或人さまはよく、朝シャワーで長居しすぎて遅刻する傾向でございます。本日は私が、朝シャワーの代わりに寝癖直しを提案しに来ました」

 

「あぁー.......ご、ごめんなさい.......。でも!!今回からはちゃんと間に合うようにするからシャワーは浴びさせて! 俺の朝の充電みたいなものなの!.......そう!!朝ひげそりもするから!日頃はひげそり遅れてしまってソーリー!

はい!或人じゃ〜.......」

 

「ないです。

或人さまは直近でカミソリを使用した形跡がありません。残念ですが今回はきちんと出勤に間に合うようにサポート致しますね。

あと、今のはひげそりと英語の謝罪のソーリーをかけた面白いギャグですね」

 

「あぁ!!お願いだからギャグを解説しないで〜!!あと、俺のシャワータイムを返してぇ〜!!」

 

こうして、或人は本日、イズとともに予定どおりの出勤時間を迎えたのだった。

 

──────────────

 

その後、或人は乗せられるがままに社用バイク、ライズホッパーに跨り、イズとは別々に出発していた。

 

数分後に、或人はしゃきっとした表情で自身の立ち上げた会社、今は壊れ果てた飛電製作所へ颯爽と現れた。

 

入口のドアの前には先回りしているイズが立っている。飛電製作所さえ壊れていなければ、これがいつもの光景だ。

 

「おはようイズ。今日のスケジュールは?」

 

「はい。例によって本日も何もありません」

 

「そっか。.......って、なんにもないのかいっ!!!でもとりあえず、使える備品は回収しないとな.......」

 

或人が軽くずっこけながらツッコミを入れる。

 

そのずっこけの前進に合わせてイズは入口のドアを開け、或人を入室させた。

 

「ですが、今後もアークによる活動は要注意です。

.......それに、どうやら天津 垓氏が社長の時に飛電インテリジェンスの方では対策のためか分かりませんが、新たなプロジェクトを開始していたと情報が入っています」

 

「そうか、アークが.......なぁイズ。それって俺たちも見に行ってみることってできるかな」

 

「?.......問題ないですよ。天津 垓の辞職した今、或人さまが社長の立場です」

 

「あっ、そっか。俺が社長.......か」

 

或人は感慨深そうに腕を組み、飛電インテリジェンスのある街の方角を見つめて頷く。

 

イズはその或人の横、一歩後ろに並び立ち、同じ方向を見て同じように頷いていた。

 

「そうです。そもそも、或人さまが社長としての権利がない限り、ゼロワンに変身することができません。

アークによって飛電製作所が壊滅し、本来であれば職場のない会社の社長として継続する予定にしようと思っていました」

 

「何その悲しい社長.......ゼロワンってゆーかもはやゼロだよそれは.......。

と、とりあえず俺、この辺の使えるものとか探すからさ、イズは予定とか立ててくれるかな」

 

或人は忙しそうに崩壊した跡地をあちこち探し始める。イズはその様子を見て一度首を傾げながらも、キュルキュルと音を鳴らしつつ今後の予定を組み始めた。

 

「ここの探索はお昼には終わる見込みで、昼食、その後真っ直ぐ飛電インテリジェンスに向かいます。

.......それにしても、本日はどうして飛電製作所に足を運ばれたのですか?」

 

イズが疑問を投げかけると、或人は優しい笑顔で振り向いて答える。

 

「探し物があってさ.......あればいいなぁと思って。最悪見つからなくても大丈夫だから、イズは心配しないで!」

 

「そうですか.......」

 

イズの質問が終わると、或人はまたいそいそと探し物を始める。イズはただその姿を静かに見守っていた。

 

素体ヒューマギアの残骸を押し退け、引き剥がすようにその下を見る或人は、どこか余裕が無いように見えた。

ほんの数分後、或斗突然手を止める。

「.......うん、だめだ!見つからなかったよ。

じゃあイズ、このまま飛電に向かおっか」

 

作業を中断し、パタパタとバイクの元へ早歩きする或人に、イズは駆け寄って共に歩き始めた。

 

「捜索、物資搬入、諸々で時間がかかると見込んでおりましたが、早かったようなのでスケジュールを更新します。昼食はよろしいでしょうか?食べなかった場合はもしかすると、昼食が遅い時間になってしまうかもしれません」

 

「あぁそっか!スケジュールね.......でもいいや!とりあえず向かおう!なんか今日はいてもたってもいられないんだよなぁ〜!」

 

いつものような軽い雰囲気ではあるが、或人はいつもよりもいそいそとヘルメットを被り、直ぐにアクセルをふかす。

 

「或人さま、今日はなんだか慌ただしいですね。

アークのことはもちろん承知ですが、もし他になにか不安事があれば、お聞かせください。

社長の悩みを理解し、不安やプレッシャーを少しでも和らげることも、社長秘書である私の務めです」

 

焦燥している様子の或人を気にかけて言い寄るイズ。しかし、或人は聞く耳持たず、ただ一度頷いただけで直ぐに出発してしまった。

 

その後ろ姿を、イズはただ一礼して見送ることしか出来なかった。

 

「.......行ってらっしゃいませ。或人さま」

 

──────────

一方その頃、飛電インテリジェンスでは、三人の男女が会話をしつつ社内を歩いていた。

 

「な、ナノマギアぁ???」

 

変顔ともとれる困惑の表情をうかべる男性。彼は不破 諫。また、仮面ライダーバルカンの変身者である。

 

その隣には、元上司で仮面ライダーバルキリーの変身者である刃 唯阿が立っていた。

 

二人を引率をする形で、仮面ライダーサウザーの変身者、天津 垓が誇らしげな表情で振り返った。

 

「あぁ。私がヒューマギアの代わりになるものを開発しようと、飛電の過去の提案物を探していたら見つけたものでね。

ナノサイズまで小さく設計したAIマシン、それがナノマギア。ヒューマギアのような欠陥は無いことをこの私が1000%保証しよう」

 

自信満々に謳う垓だったが、唯阿はフン、と鼻で笑った。

 

「ザイアスペックを何度もハッキングされて、それでも売り出した男の1000%は、信用していいのか?」

 

垓は一瞬不機嫌な顔をしたが、それを引き攣らせた笑顔で返す。

 

「あれはヒューマギアの欠陥が招いたものだ。だから私はヒューマギアを撲滅すべく、飛電の社長になり、レイドライザーまで着手した」

 

「ヒューマギアの暴走の原因の元は悪意のラーニング.......その原因は元を辿ればなんだったか.......?」

 

垓の意見を、唯阿は元から洗い出すように鋭く否定する。事の発端は“衛星アーク”に人間の悪意をラーニングさせたことに起因しており、それもまた彼が飛電インテリジェンスに憧れ、超えたいと願うことからの行動であった。

 

垓はそれ以上弁明する事も諦め、顔をしかめる。

 

「むぅ.......。

ともかく、このナノマギアプロジェクトは発案以外の体制、開発等が全て新規に作られたもの。アークも関係の無い人類の新たな希望だ。

.......私も、ヒューマギアは認めないが、AIは多少認めることにしたよ。あの時、さうざーが私に教えてくれた」

 

その出来事を思い出しながら微笑む垓に、不破は呆れたように詰め寄る。

 

「どうだかな。アンタは分かったようで分かっちゃいない。今後の動きや、そのナノなんたらが何かによってよっぽど世界が良くなったらちゃんと話を聞いてやるよ」

 

その後ろで、唯阿が少し笑いながら不破に向けて呟く。

 

「お前は何の話をしてるか分かってないだけだろう」

 

「う、うるさい、そんなことないぞ。.......とにかくなんかちっちゃいんだろ?」

 

「これだから不破は」

 

「.......くっ」

 

不破と唯阿の会話を聴きながら、垓は話の輪に外れたような感覚を察し、静かに背を向けた.......。

 

垓はコツコツとわざとらしく靴音を鳴らして歩き、二人を引率する。

 

二人も垓に置いていかれないよう、同時にため息をひとつ吐きながらもついて行く。唯阿はそのついでに詰め寄り、質問をなげかけた。

 

「そもそものことだが、どうして私達を連れてきた?こんなに外部が危険な時に、そんな単独で進めていた計画について説明するためにわざわざ呼び出すなんて、共謀者として責任転嫁でも考えているのか?」

 

「まさか。責任転嫁などしない。むしろ私は君たち二人を信頼して話しているんだ。

後ろめたい隠し事なんてないという証明にもなる。

さぁ、着いた。この扉の奥だ」

 

扉は重厚な鋼鉄製の両開き型で、垓が壁面のセキュリティに暗証番号を入力することで解錠され、押すとゆっくり扉が開いた。

 

その先には、多くの円柱型成型装置が備え付けられ、垓の信用する部下達が装置に接続されたコンピュータをカタカタと操作していた。

 

作業をしているうちの一人が振り向き、立ち上がると一礼し、垓のもとへ早歩きで駆け寄った。

 

「社長!お疲れ様です。あぁっ刃 唯阿!社長の忠実な駒まで連れてきていただけるとは作業が捗ります!」

 

「ま、まて、一旦黙ってくれ。.......唯阿、サン、これは違うん.......ですよ」

 

「帰るぞ不破。もう要件は済んだだろ」

 

「あ、あぁ.......そうだな?」

 

唯阿が不破の肩を掴んでぐるりと逆を向かせて出ようとすると、垓はさらに二人の肩を掴み、場に留めようとした。

 

唯阿は垓を蔑むような眼で見ると、舌打ちをして一言言い放つ。

 

「セクハラだぞ。もしくは上司や部下の関係でもない女性の体に不意に触るなんて最低だな」

 

不破は何もそこまで言わなくてもというような微妙な表情で唯阿を見るが、垓は落ち着いて後ろ手を組み、余裕の表情で後方へ下がり、先程の失言をした部下の元へならんで立った。

 

「社長.......?いかが、しましたか.......?」

 

「このたびは.......」

 

垓は部下の背中に手を当て、無理やり頭を下げさせ、自分も頭を下げる。

 

「部下があなたに不快な思いをさせてしまい、大変申し訳ない。1000%の謝罪の気持ちを持って、私からも謝らせて頂こう」

 

「社長!?私らがこの施設に籠ったまま、外の状況ではどういう変化が....... 」

 

「いいから謝れェ!!」

 

そのやり取りも筒抜けのまま、二人に謝罪を受けた唯阿は、見下すように一言吐き捨てた。

 

「これもパワハラだな」

 

戸惑いつつ頭を下げる部下とあくまで責任を背負う形を貫く垓。ピリピリとし始めた空気に耐えかね、不破は間に入って口を開く。

 

「とりあえずだ。そのナノマギアとかいうやつの話をしに来たんだろ。そんな話は後で刃にみっちり怒られればいい」

 

「すまなかった。彼らはしばらくの間この場所で、私の指示の元住み込みで働いていたんだ」

 

とんでもない恐ろしいことを爽やかに言い放つ垓に、驚いて目を丸くする唯阿。次の瞬間には血気迫った表情で距離を詰め、怒鳴り始めた。

 

「とんだブラック企業だな!!住み込みで外部を遮断して、さらにはお得意のザイアスペックもなしに人間を働かせ、こきつかうとは!!

所詮貴様は社員を.......人間を道具としか思っていないんだろう!!」

 

唯阿は怒りのあまり、変身装置“ラッシングチータープログライズキー”をくるくると宙で回転させながら取り出し、バシッと手に取る。

 

その様子に「私が怒らせてしまったのでしょうか.......」と怯える部下。彼を垓は宥め、右手を唯阿にかざして静止した。

 

「落ち着いてもらいたい。彼らは自分の意思でこの研究もとい、プロジェクトを進めているんだ。

彼らは.......」

 

 

 

 

「深刻なエラーが」「深刻な」「深刻「深刻なエラー」酷なエラ「深刻なエラー」深刻なエラーが発生」「発生」「深刻なエラーが発生」

 

 

「「「!?」」」

 

突然、室内の作業をしていた人間達が口々に「深刻なエラーが発生」と言って立ち上がり、静止した。

 

さらには、垓の隣にいた男すらも棒立ちで「深刻なエラーが発生」と同じように呟き、静止する。

 

あまりに異様で、奇妙な出来事に、唯阿や不破、さらには垓までもが驚く。

 

「な、なんだ.......?説明しろ!天津 垓!!」

 

「いや.......」

 

唯阿が垓に質問をなげかけ、返答に迷う垓は沈黙する。

 

静寂の続いた次の瞬間。彼らは目を疑った。

 

彼らは、ザァァァ.......と静かに音をたてて粒子のように細かくばらけ、空気の中に吸い込まれていくように消えていってしまった。

 

垓の部下であろう彼らがいなくなり、静かになった空間で、垓は絶句していた。

 

「不破。見たか。

天津 垓は超えてはいけない一線を超えた」

 

唯阿は垓に一歩距離を置くと、ついにプログライズキーを起動し、さらには専用のアイテム、エイムズショットライザーまでも取り出した。

 

──SHOT RISER. ──

──DASH!──

 

「手を貸せ、不破。奴は危険だ」

 

「.......何が起こったのか理解出来なかったが、一度こいつにはお仕置が必要なのは分かった」

 

不破も迷いがありながら、エイムズショットライザーと“シューティングウルフプログライズキー”を取り出すと、プログライズキーをバキィッという壮絶な破壊音とともにこじ開け、起動した。

 

──BULLET!──

 

そして、二人は有無を言わさずプログライズキーをエイムズショットライザーへ同時に叩き込む。

 

──AUTHORIZE──

〜♪Kamen Rider.Kamen Rider.

 

「「変身!!」」

 

二人のエイムズショットライザーからエネルギーの凝縮された弾丸が発射され、オレンジの弾丸が唯阿の目の前で弾け、不破は弾ける前に青の弾丸を拳で破壊して弾き飛ばし、それぞれの装甲がまとわりついた。

 

──ラッシングチーター!!Try to outrun this demon to get left in the dust.

──シューティングウルフ!!The elevation increases as the bullet is fired.

 

電子音が部屋の中で響き、唯阿はオレンジと白を基調にした仮面ライダー、バルキリーへと変身し、不破は青と白を基調にした仮面ライダー、バルカンへと変身した。

 

彼らを目の前に、垓は頭を抱えつつ、少し悩んでからため息を吐いて、変身装置“ザイアサウザンドライバー”を露出し、二つのアイテム、“アウェイキングアルシノゼツメライズキー”と“アメイジングコーカサスプログライズキー”を取り出した。

 

「.......誤解だ。君達が聞く耳を持たないのなら、一度無力化しなければならないか.......。

多少手荒だが、無礼をお許しいただきたい」

 

──THOUSAND・DRIVER──

 

そして、アウェイキングアルシノをザイアサウザンドライバーの左にセットすると、エネルギーが増幅し、起動音が響き渡る。

 

──ZETHUMETHU・EVOLUTION──

〜♪

 

その状態で、アメイジングコーカサスを起動して一文字に腕を開くと、「変身」と呟いて叩き込んだ。

 

──BREAK HORN!──

──PERFECT RISE!When the five horns cross,

  the golden soldier THOUSER is born.

〜♪Presented by ZAIA.

 

変身装置の中心ユニットが開き、溢れ出る黄金のエネルギーが装甲を形成し、大きな角を持つエネルギーで出来た二匹の猛獣が垓の元で合体し、金の眩い光が収まる頃に、その場所には黄金の仮面ライダー、サウザーが佇んでいた。

 

「.......」

 

押し黙るサウザー。彼に向けて二人のエイムズショットライザーの銃口が向けられ、空間は静まり返った。

 

「.......ハァッ!!」

 

最初に発砲し、動き出したのはバルキリーだった。その後方、少しずれた軸で援護射撃を行うバルカン。

 

サウザーはただ身構え、銃弾を受けながら耐えるだけであった。

 

「散開戦術だ!不破!やれるな!」

 

「.......ああ!舐めるなよ!」

 

「「うおおおおお!!!」」

 

バルキリーの指示に合わせ、バルカンは同時に散開し、二人で輪を描くように右、左に広がり、取り囲んだ輪の中心でサウザーに回避困難の弾丸を叩き込む。

 

「くっ.......相変わらず手強い」

 

サウザーは専用武器“サウザンドジャッカー”を精製して手に取ると、強烈なエネルギーを纏った斬撃を周囲に振るう。

 

しかし、その斬撃もバルキリーは跳躍して回避し、バルカンはスライディングして回避する。

 

バルキリーはその跳躍のまま凄まじい勢いで右脚に重点を置いた突進キックをお見舞した。

 

「たぁっ!!」「ぐっ!!こ、小賢しい.......」

 

サウザーがバルキリーの脚を掴もうと手を伸ばすが、衝撃で反発して宙返りし、距離を取られる。

 

体制を崩したサウザーに向けて、その後ろではしっかりと身構えたバルカンが必殺の準備を完了していた。

 

「.......悪いな。残念だが俺たちのチームワークには勝てない」

 

「なにをっ.......くそっ!」

 

バルカンはセッティングされたシューティングウルフの起動ボタンを押し、エネルギーが溜まった瞬間に発射ボタンを押し込んだ。

 

──BULLET!──

──SHOOTING BLAST!──

 

サウザーはバルカンの必殺を阻止すべく、即座にサウザンドジャッカーを操作しようとした所、その背後からの起動音に驚き、振り向いてしまった。

 

──THUNDER!──

 

「ッ!!?」

 

──ライトニングホーネット!Piercing needle with incredible force.

 

「私達を過小評価するな!喰らえ!!」

 

──THUNDER LIGHTNING BLAST FIVER!──

 

前方には蒼き装甲のバルキリーが放つ必殺の一撃、後方にはバルカンの放つエネルギー光線。

 

「ぬぅう!!」

 

サウザーは自身のアメイジングコーカサスプログライズキーを引き抜き、サウザンドジャッカーに装填すると、必殺技のエネルギーを周囲に撒き散らすように放ち、せめてもの抵抗を試みる。

 

──HACKING BREAK!──

 

バルカンの光線は弾き飛ばしたものの、バルキリーの右脚に集まるエネルギーが二つの打ち消したエネルギーを吸収して纏い、容赦なくサウザーを突き刺して爆発させる。

 

「ぐわああぁあ!!!!」

 

サウザーがとてつもない速度で入り口の扉へと吹き飛ばされていく。

 

重厚な扉はサウザーを受け止め、跳ね返って地面に叩きつけられたサウザーは、バチバチとショートした火花を放ちながら強制的に変身を解除させられて跪いた。

 

「くっ.......まさかこんな!力量を見誤った.......」

 

ガクガクと膝を震わせながら立ち上がる垓。

 

垓に向けて、変身解除した唯阿がコツコツと近寄る。

 

その時、背後の扉が開いて、何者かが垓と唯阿の間に立ち塞がった。

 

「.......お前は!?」「君は!?何故ここに!」

 

「「飛電 或人!!!」」

 

垓と唯阿は声を合わせて驚く。

 

唯阿は垓に指を指し、或人に状況を説明し始めた。

 

「飛電 或人!こいつは、ついさっき自分の部下を事故で謎の消滅に追いやった!

ヒューマギアのモジュールもついていなかった!あれは紛れもなく人間だった!!

さっさと連行すべきだ!」

 

「違う。ね、垓さん。

今なら説明出来るんじゃない?俺も止めに入ったことだし」

 

或人が垓に笑顔を向ける。当の垓は困惑の色を隠せなかった。

 

「どういうことだ.......飛電 或人にはまだナノマギアについての情報は流れていないはず.......。

.......まぁいい。説明しよう。

唯阿。先程消えた私の部下たちは全て.......いや、彼らこそがナノマギアだ」

 

「何.......!?」

 

続けて説明しようとする垓を遮って、或人は続ける。

 

「そういうこと。彼らはすっごく小さなAIの集合体で、人間を高度に再現した無機生命体、つまりはものすごく人間によく似たヒューマギアってこと」

 

「或人.......なぜ君がその事を知っている!?」

 

「垓さん、このこと、俺は今日イズから聞いたからさ、協力するよ。

要するに失敗しちゃったんだろ?またやり直せばいいって!

諦めなきゃ、あ〜〜キラめく未来が待っている!!

はい!!或人じゃ〜ないとぉ!!!!はーやっと決まったぁ!!」

 

「がはぁっ!ぶふっぐふふふ.......あっ、あきらめない、あーきらめく.......」

 

「どうした不破!?さっきの戦いでどこか痛めたのか!?」

 

「いや、いや.......!なんでもない、なんでもないんだ.......ひー、ひー.......」

 

抱腹絶倒する不破を唯阿は心配していたが、垓は疑問でそれどころではなく、ただ頭を傾げていた。

 

或人は、三人に争う気配が無いことを悟ると、垓を気遣って微笑みかけ、そのまま退出して行った。

 

「それじゃあ、とりあえずみんな、ここで話したナノマギアの件は社外では内密に!俺はまだやる事あるから、お先に!!」

 

或人がいなくなり、静まり返る部屋。

 

唯阿はエイムズショットライザーを力無く下ろすと、ぼそりと呟きはじめた。

 

「.......ナノマギアだったから、問題無かったのか?」

 

「.......!」

 

唯阿の呟きに不破は驚いた反応を見せる。

 

「その通りだ。彼らは生命を持った人間ではなく、AI.......」

 

「ならヒューマギアと何が違う?彼らも自我を持ち、革新までしようと世間に抗う心を持ち始めている。

貴様らの言うナノマギアは、その道徳性から考えて、消えてよかったのか!?」

 

垓は唯阿の主張に半ば押されつつ、苦しげな表情で続ける。

 

「.......ヒューマギアは道具ではない。そう言いたいんだね?

ナノマギアもまた、人間のような感性をもちあわせた新たな“個”。

そう思い、疑問に感じるのなら、飛電 或人に直接尋問した方がいい。

彼の言葉を聞いただろう?

“ナノマギアは人間によく似たヒューマギアだから消えても大丈夫”だと。

さぁ、その意味を聞きに行こうか。ヒューマギアを誰よりも信じた、飛電の現社長の元へ」

 

垓は二人に背を向け、重い扉を開けて外へ出ていった。

 

唯阿は顔をしかめ、拳を握りしめると、コツコツと早い足どりで垓の後を追う。

 

その後ろで、不破は首を傾げつつ着いていく。

 

「.......今日の刃は機嫌が悪いな。天津 垓と一緒になっちまったからか、それとも遊園地の予定を潰されたからか.......どっちもか」

 

────────────

 

 

「いやぁ〜イズのおかげで今日は早くに来たなぁ〜!ふぁあ〜.......」

 

飛電インテリジェンスの社長室で、或人は安堵からか大きく背伸びしながらあくびをする。

 

その後ろから着いてきたイズが、どこからともなく山積みの資料を運んできた。

 

「えっえっなに、なにそれは!?イズ!?!?」

 

「はいこれ、それとこれも、これもこれもです」

 

ドン!ドン!ドン!と大量の資料でデスクに山を作り上げる。

 

「ええええ!?!?これ全部今日の仕事!?」

 

「はい、その通りです。ある内通者から、本日天津 垓元社長、不破 諫、刃 唯阿が我社に来ているとの情報がありました。この後聞かれるかもしれないことも書いてある資料ですので、目を通してください」

 

「読むには読むけど多すぎ.......」

 

或人は山積みの資料の裏でがくりとデスクにもたれかかる。対してイズはいつも通りの笑顔のまま一礼していた。

 

「大丈夫です。今彼らが来られても、こちらの資料は全て私がラーニング済みです。質問は全て、私がお答えします」

 

「あぁ〜さすが!そうだ、流石イズ!!こんな突然の事でもサプライズ!でラーニングしておいてくれるなんて、流石イズ!!の〜サプライズ!!はいっ!!!或人じゃ〜」

 

「ないです。或人社長は少しでも内容についていけるように、資料の熟読をお願いします。

それと、今のは突然という意味のサプライズと、私がすごいというサスガ、イズを掛けた.......」

 

「あぁー!また言わせてくれなかった〜!そしてギャグを詳しく解説しないでぇ〜!

.......っていうかイズ今日なんか新しい対応してくるね!?」

 

或人が改めて資料を片手にしながら問いかけると、イズはグッドサインで答える。

 

「はい。私は本日、ちょっとだけバージョンアップテストをしています。

昨日までのイズがver.1.1なら、本日の私は.......」

 

「私は.......?」

 

イズは右手に人差し指、左手に人差し指と中指を立て、1と2のサインを作って掲げ出した。

 

「ver.1.2(イってんズー)。です!はいっ!或人じゃ〜ないと!!!」

 

バシィッ!!と腕を真っ直ぐ天に掲げるイズ。それに合わせて反射的に同じように腕を掲げる或人だったが、すぐさま突っ込んだ。

 

「ないとぉ〜!!.......ってそれ俺のギャグぅ〜!!」

 

「或人社長.......私がつかっちゃ、ダメですか?」

 

「いいけど!!もちろんいい、いいんだけど!!」

 

困り顔で指摘を続けようとする或人だったが、その最中に入口の階段からノックが鳴り、ドアが開いてコツ、コツ、コツ、と音が響いてくるのが聞こえ、慌ただしく席に座って背筋を伸ばした。

 

「おっと来客.......タイミング悪いなァ〜」

 

「おそらく、例の三人と見受けられます。少しでも資料に目を通してください」

 

「うーんわかったけどこの量は.......せめてゼアに接続出来れば一瞬なんだけどなぁ」

 

衛星ゼアは現在、アークに乗っ取られている。こういった大量の情報は電子化し、短時間でラーニングしたい所だが、アークの管理下ではそれも悪用されかねない。

 

そうこうしているうちに、階段の奥から唯阿が顔を覗かせ、ずんずんと或人の前に進んできた。

 

「飛電 或人!ナノマギアについて知っている情報を私に教えるんだ!

ナノマギアとは一体なんなんだ!?」

 

「か、開口イチバンそれですか.......今資料を.......」

 

或人は資料の山に身を隠すように縮こまるが、唯阿はその山からにゅっと顔をのぞきこませる。

 

「資料!?まさかこの大量の資料全部がナノマギア関連なのか!?」

 

唯阿が資料の一部を真上から叩いて質問すると、或人は自信なさげに答える。

 

「た、多分そう.......」「いえ。違います」

 

「.......イズ?」

 

或人は改めて困惑しつつ、イズを見上げる。或人がたまたま持っていた資料の表紙は、『ナノマギア重要書類』と書いてある。

 

唯阿と或人の疑問に答えるように、イズは話し始める。その時丁度、遅れて垓と不破も階段を昇り終わるところであった。

 

「こちらの書類の多くは今までの衛星ゼアが停止してしまって一度にラーニングすることが出来なかった書類の山でございます。

その中に一部、ナノマギア関連書類があることは確かですが。

質問があれば社長秘書である私がお答え致します」

 

「イズぅ〜!助かる!」

 

或人はイズにキラキラと輝く視線を送って喜ぶ。しかし、唯阿はそれをよしとしなかった。

 

「イズに説明してもらうのはいいが、その先の『真意』は飛電 或人、お前に答えてもらう。

.......それじゃあイズ。ナノマギアについて知っていることを教えてもらおうか」

 

唯阿が腕を組んでイズに向き合うと、その少し後方で垓と不破が横並びになった。

 

全員が聞く姿勢で黙るのを確認すると、イズは淡々と説明を始めた。

 

「ナノマギアは正式名称ナノヒューマギア。

無数のナノサイズのAIが人間の機能をラーニングし、集合体となることで、より機能の優れたひとつのヒューマギアとなります。

もちろん、生体スキャンすることによってどんな生き物にでも変化することができます」

 

その説明を聞いた唯阿は驚いて言葉を挟む。

 

「なんだと!?それでは、まさかあの天津 垓の部下たちは.......」

 

「天津 垓の.......部下たちですか?」

 

イズは困惑した様子で垓を見る。すると、垓は得意気に歩み寄って話し始めた。

 

「あぁ。イズには情報は届いていなかったようだね。

そう。私は飛電の没資料を調べ、このナノマギアプロジェクトを発見した。

そうして計画通りに完成したナノマギア試験体こそが、あの場所にいた私の部下たちだ。

しかし、奇妙だな。飛電 或人。君は既に知っているようだった。そうだね?」

 

垓の質問に少々困惑しながらも、或人ははぐらかすように答えた。

 

「えぇ?あぁ、は、はい.......?」

 

「或人社長が.......?知っていたのですか?」

 

「いや、知らないけど.......?」

 

或人とイズの会話を聞いて、さらに困惑する一同。不破は頭を掻き毟ると、背中を向けてしまった。

 

「あーもうどういう読み合いなのかさっぱりだ!!ここで他に誰かに聞かれるリスクがあってしらばっくれてるのか!?

知らないわけがない!俺はあの時この目でお前を見たんだ!そして聞いた!お前はナノマギアのことを知っている!」

 

「だから知らないって!俺はたった今.......」

 

不破と或人が口論になるその瞬間、イズはその間に入り込んで静止し、一瞬考え込んでから口を開いた。

 

「.......今日のところはお引き取り下さい。私にも整理がついておりません。

日時は私からお知らせします。明日社長と全てをお話しましょう」

 

不破が首をかしげながら距離をとると、入れ替わるように唯阿が前に出て質問する。

 

「納得がいかないな.......それなら最後にひとつ聞かせてもらおう。

飛電 或人にとって、ヒューマギアとはなんだ」

 

「ヒューマギアとは.......。

俺の夢を託した、信頼すべき仲間です」

 

「.......そんなことをよく言えたものだな」

 

────────────

 

三人が納得いかないような反応をとりつつも退室すると、或人は立ち上がってイズの目の前に立った。

 

「イズ.......俺はナノマギアのことは何も知らない」

 

「わかっています。私の方ですこし調べ物をしますので、退出させて頂きます。

或人さまはそのまま資料のラーニングをお願いします」

 

「ええっ!?.......分かった。行ってらっしゃい、イズ」

 

「はい。では、行ってきます」

 

イズは一歩下がって一礼すると、そのままスタスタと退室してしまった。

 

或人はひとつため息をつくと、半ば投げやりに資料を手にし、椅子に座り込んだ。

 

「俺が何かを言った.......?俺はなにも知らないのに.......」

 

考え込みながら見る資料は、しばらく時間が経ってもページが進まない。あまりに頭に入っていかない資料に憤りを感じ、閉じてまたも立ち上がった。

 

「あーーー!もう!!!わからーーーーーん!!!!落ち着け!!俺!!!」

 

その時、ドアのノック音が鳴り、反射的に大声で返事をした。

 

「はいどうぞぉ!!!!!」

 

「失礼します。.......どうしましたか?」

 

「えっ!?!?」

 

或人が驚くのもそのはず、そこにいるのは、先程調べ物をすると言って出ていったイズであった。

 

「イズ!!忘れ物!?し、資料はまだ読み込めてないんだけど〜.......」

 

「資料ですか?たしかにすごい量ですね。

私は或人社長を追って先回りしたつもりでしたが、まさか私より先に着いているとは想定外でした」

 

イズはデスクの山積み資料の一部を手に取ると、興味深そうに眺めた。

 

不思議に思った或人はイズをまじまじと見つめ、問いかけた。

 

「.......ほんとにイズ、だよね?これなんの資料だかわかってる?」

 

或人が疑惑の視線を向けると、イズは首を傾げて資料をスキャンし、キュルキュルと考えると、結論を述べた。

 

「こちらの資料のタイトルは“社用トイレのウォシュレット故障の件”。他にも多種かつ些細な問題が浮き彫りで資料化されているようですね。

問題は文字通り山積み、のようですが間違いないでしょうか」

 

「.......わかった。じゃあこうしよう。

スゥー.......」

 

或人が大きく息を吸い込んで静止すると、イズは資料を置いて頷き、笑顔になった。

 

そして、或人は突然大きな声、大きなアクションを始める。

 

「あ〜、こんな資料が山積みじゃあ、誰でもぉ〜っ、参っちマウンテン!!!」

 

「「はいっ!!アルトじゃ〜ないと!!!!」」

 

その時、二人は同じアクション、同じ方向に指さし、ビシッとギャグをしめたのだった。

 

或人は、イズにゆっくりと視線を向け、感動していた。

 

「イズ、やっぱり.......」

 

「今のは、資料の山、それに参っちまうってという砕けた言葉と英語のマウンテンを掛けた、面白い.......」

 

「あ〜!!だからギャグを解説しないでぇ〜!!」

──────────────

 

その後唯阿、不破、垓は解散し、或人とイズもそれぞれいつも通りの帰路で一日を終えようとしていた。

 

──その時。

 

或人はテレビを流しながら資料を見つめる時。

「ん?このニュース.......」

 

唯阿はお気に入りの飲食店にて食事を楽しんでいる時。

「うーん美味しい!!!やっぱりマスターのオムライスは最高だな!!.......むぅ?マスター、これは今日出た号外か?」

 

不破はインターネットで動画を見ながらバナナを食べている時。

「フン、この配信者で稼げるなら俺が配信始めた方が面白そうだな。.......しかしなんだ、この話題、なにかひっかかる」

 

垓は帰宅してなお、ナノマギアについての作業を続けていた時。

「こんな時に電話か.......なんだ、今忙しいんだ!!.......は?

 

 

絶滅したはずの動物が蘇る.......?」

 

 

 

この日。世界的に話題となったニュース。

 

ドードーが群れで走り、ロッキートビバッタが大繁殖し、巨大なマンモスが地上を闊歩する。

 

絶滅したはずの生き物たちが現代に姿を現す。前代未聞の事態である。

 

生態系を破壊する彼らを討伐、あるいは駆除すべきか。保護すべきか.......。

 

突如原因もなくそこに突然現れ目撃されたこの問題は、“ナノマギアの特性”を知った彼らにとって確かな違和感となっていた。

 

ニュースの直後のこと。

 

或人のケータイは突然愉快な着信音を鳴らして震え出した。

 

手に取って、発信元を見る。そこには『刃 唯阿』と書いてあった。

 

「唯阿さんか......。もしもし」

 

「飛電 或人。今日の号外を見たか?」

 

「ニュースのことですか?.......絶滅動物の」

 

「そうだ。イズは言っていたな。ナノマギアは生体スキャンによって、人間以外にも、どんな生き物にでも変化できると」

 

或人は手元の資料の、ちょうど今話している内容のあるページを開くと、確信を持って返事をした。

 

「はい。そうです。ナノマギアはどんな生き物にでも変化する.......。資料にもそう書かれています」

 

「そうか。なら、私から一つ仮説がある。

お前も知っているとおり、天津 垓の部下はナノマギアだったが、消滅した。その後、ナノサイズの粒子となって空間を彷徨い、どこへ行ったのか。

おそらくその答えこそが、今回の絶滅動物だと私は睨んでいる」

 

「ナノマギアが、絶滅動物に姿を変えた.......っていうことですか」

 

「そうだ。私は明日にでもマンモスの調査に出向く。不破にはドードーの調査を、天津にはロッキートビバッタの調査をしてもらおうと思っている。

だから悪いが、せっかく用意してもらった明日の昼の予定はキャンセルさせてもらおう」

 

唯阿は或人が当然知っているかのように昼の予定の話を持ち出し、或人は首を傾げていた。

 

「昼の予定.......ですか?

もしかして、イズから連絡がありました?」

 

「ん、そうだが?」

 

「はぁ、やっぱりそう、ですか。

すいません、その昼の予定の話、詳しく聞かせて貰えますか。

大事な話があるんです」

 

「どういうことだ?まるで意味がわからないぞ」

 

困惑する唯阿を説得し、或人は明日の昼の予定を聞き、新しく提案し直すことになった。

──────────────

 

そして次の日.......。

 

「もうすぐ正午です」

 

飛電インテリジェンスの社長室で静かに座る或人に、イズはそう告げる。

 

「じゃあもう来るか。上手くいくかな」

 

「雲行きはよくありません。こうして私たちが揃ってしまったのですから」

 

「じゃあまずいか〜」

 

或人は不安を隠すように頭を掻きむしる。

 

手元にはたった一冊の資料。ページを一枚開くと、びっしりと文字が走り書きしてある。

 

「イズ、俺、変じゃない?大丈夫?」

 

「.......ちょっと変かもしれません。私がサポートしますよ」

 

「そう言われると不安になってくるなぁ」

 

「私を信用してください」

 

「してるよ」

 

或人とイズは目を合わせ、静かに見つめあった。

 

沈黙も束の間。ノックの音が鳴る。或人が「どうぞ」と答えると、ぞろぞろと複数の階段を登る足音が響いてきた。

 

或人は目を瞑り、フゥーッと口をふくらませて大きく息を吐く。そして、パンパン!と両手で頬を叩くと、イズに笑顔でサムズアップを送る。イズも同じようにサムズアップを返し、二人は厳かに正面へ向き直った。

 

しかし、次の瞬間目にした光景に二人は驚き、立ち上がった。

 

 

 

『第二節へ続く』

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