「そんな.......」
或人の目の前に立つのは、唯阿、不破、垓、そして、或人とイズだった。
全く同じ背格好の同一人物が現れ、独立した存在の三人の間を縫って或人とイズが前へ躍り出た。
そして、入室してきた方の或人は『本物』と書かれたハチマキを赤、青二色取り出し、赤が或人、青がイズで分け合って目の前で縛って見せた。
「これでよし!やっぱりいたか!俺とイズのそっくりさんめ!お前たちは何者だ!」
「何者だ!」
ハチマキ巻いた或人とイズは二人でもう一人の或人とイズに指をさした。
すると、座っていた方の或人は顔をひきつらせながら後ずさりし、立ち上がって隣のイズの手を取った。
「まずいね.......イズ、しっかり掴まってて」
「はい。或人さま」
二人の或人はお互いの様子を見て察し、同時に腰部分に巻きついていた“飛電ゼロワンドライバー”を露出度すると、さらに同時にお互いのプログライズキーを手に取った。
その時、ハチマキを巻いたイズは或人の飛電ゼロワンドライバーを確認して目を丸くした。
「ゼロワンドライバー.......!?破壊されたはずでは.......」
「えっ.......!?」
ハチマキの或人はイズ同様自分の腰を見て驚いたが、その瞬間、突然大きな地鳴りがしたかと思うと、収まった頃に二人はなんの疑問も持たなくなっていた。
そして、彼は一言大きな声で言い放った。
「.......俺が本物のゼロワンだ!!!」
ハチマキの或人は“ライジングホッパープログライズキー”を、もう一人の或人はそのライジングホッパーの絵柄ではあるものの、縁の部分のみに元の蛍光色が入った白いプログライズキーを取り出した。
その名は“SAVING HOPPER”と刻まれている。
二人は同時にプログライズキーを起動し、音声を被らせた。
──JUMP!──
──JUMP!──
白いプログライズキーを手にした或人は、イズをすぐさま抱き抱えると、背面のブラインドがかかった窓ガラスを背中でかち割り、外へ飛び出してしまった。
その後を追うように、ハチマキを巻いた或人は割れた窓ガラスに飛び込んで、二人はプログライズキーを同時にベルトにかざし、大きなバッタ型のエネルギーを生み出した。
──AUTHORIZE──〜♪
──AUTHORIZE──〜♪
二人はそれぞれの大きなバッタの上にふわりと載せられ、地面に大きなヒビを作ってバッタが着地し、上からそっと地面に降り立った。
ハチマキを巻いていない或人はイズを降ろすと、ハチマキを巻いている或人と向き合い、お互いに両手を下から上に、そして身体の中心の軸をなぞるように地面へ下ろし、同時のタイミングで叫んでプログライズキーを装填した。
「「変身!!」」
──プログライズ!!
──飛び上がライズ!〜♪ライジングホッパー!A jump to the sky turns to a rider kick.
──プログライズ!!
──To be a gun nice!〜♪セービングホッパー!A jump to the time returns to a rider kick.
ハチマキの或人は、蛍光イエローの装甲に身を包んだ仮面ライダー、『仮面ライダーゼロワン ライジングホッパー』へ姿を変える。
その目の前でもう一人の或人が、全く同じシルエットなものの、その装甲は白く、その縁をなぞるように蛍光イエローが発色している姿の仮面ライダーゼロワン、『セービングホッパー』に姿を変えていた。
「俺の名はゼロワン、お前を止められるのはただ一人、俺だ!」
ビシッと指をさす蛍光色のゼロワン。しかし対する白いゼロワンは、変身後の棒立ちのまま立ち尽くしていた。
白いゼロワンは完全に静止しており、始めはゼロワンも様子を見て身構えていたが、もう一人のイズがそっと近寄って目の前で手を振り、呼びかけても応答をしないのを見て、構えを解いた。
「え?な、なに?動かないの.......?」
心配して近寄るゼロワン。もう一人のイズがこちらに振り向いて頷く。
すると、次の瞬間に突然白いゼロワンは頭を押さえて後ずさり、膝をついた。
「ううっ!!ぐううう.......」
「どうしたんですか!或人さま!!」
目の前で苦しみだした白いゼロワンに、どうすることも出来ず悩むイズとゼロワンだったが、その時、飛電インテリジェンスの入口から出て追いついた唯阿、不破、垓、ハチマキのイズが現れた。
そして、全員が驚き、垓が大声で叫んだ。
「現れたか!アーク!!」
「アーク!?」
戸惑うゼロワンだったが、彼らのその視線の先を見ると、その意味は理解出来た。
こちらに向かって、ゆっくりと歩く男.......滅亡迅雷.netの一人、滅が腰に黒い変身アイテムを巻いて現れた。
「時空が歪んでいる。あらゆる現世の歪みが、この世界を壊し始めている。
しかし、私の予測では、お前たちはこの世の悪意に耐えられない」
「滅!!こんな時に.......!」
ゼロワンがアタッシュカリバーを携えて身構えると、滅は黒い変身アイテム“アークドライバーゼロ”の上部スイッチを押し込むと、けたたましい叫び声と共に音声が流れ、液体金属に全身が取り込まれた。
『アークライズ』
《──────!!》
不気味に蠢く液体金属が滅の全身を黒く染めあげ、戦闘形態を作り出す。
まとわりつくような叫び声が消え失せた後、静かにシステム音声が鳴り響き、変身が終了した。
『.......オールゼロ』
滅は“仮面ライダーアークゼロ”へ姿を変え、なおもゼロワンに歩みを進めていく。
唯阿、不破、垓もプログライズキーを手に取って加勢すべく、走り出す。
「私達も闘う!飛電 或人はそっちの偽物と蹴りをつけろ!」
三人が変身しようと起動スイッチに手をかけた瞬間、白いゼロワンはさらに白く、眩く発光し、白と微かな蛍光色の混じった光跡となってアークゼロへ高速移動した。
「なに!?」
アークゼロが驚愕するリアクションを取るのも束の間、気づいた時には既に白いゼロワンの手に持った白いアタッシュカリバーが振り抜かれ、斬り付けられた箇所は白く煌々と輝いていた。
「お前が.......お前がこの世界の!!人類滅亡の元凶か!!!!」
「「「!?」」」
その言葉に戸惑い、動きが止まる三人。そして、ハチマキを巻いたイズも同様に困惑していた。
しかし、ゼロワンはひとり頷き、チャキッと音を鳴らしてアタッシュカリバーを握り直すと、白いゼロワンと同じようにアークゼロの元へ駆けつけ、斬り付けた。
「「おりゃあ!!!」」
偶然にもタイミングが一致し、二つの縦の一閃がアークゼロの身体に並行に軌跡を描く。
「ぐあぁ!!」
仰け反るアークゼロ。そして、二人のゼロワンはお互いに見つめ合い、頷くと、お互いに同じ構えを取って、瞬時に息のあった連撃を叩き込んでいく。
時には交差し、時には並行に、時には前後を挟んで何度も斬り付け、アークゼロの身体は瞬く間に全身が眩しく光り輝いていく。
「なんだこの力は.......これが、時空の歪み.......!ひズむ、ユがむ、世界を壊す力.......」
「違う!!!俺の力は、この世界を!全てを救うための力だ!!!!
行こう!!俺!!」
白いゼロワンはゼロワンと交差する一閃を浴びせたあと、アークゼロを蹴りつけて距離を取ると、アタッシュカリバーを投げてアークゼロに突き刺し、ゼロワンと共に右足を前に出してベルトのプログライズキーを同時のタイミングで押し込んだ。
「ああ!!これで決める!!!」
二人のゼロワンは同時に飛び上がり、右足がそれぞれ、白いゼロワンは白熱化、ゼロワンは赤熱化して超高速のダブルライダーキックを叩き込んだ。
──RISING IMPACT!!!──
──SAVING IMPACT!!!──
ズド.......!!!と大きく重い音が響いた瞬間に音は消えうせ、ゴズゥン.......!!と地面に衝撃を与え、幅広くビリビリとした余韻が広がる。
アークゼロを倒し、突き抜けたその背後には、無惨に破壊された滅が横たわっていた.......。
「滅.......!?」
物陰から現れる男性型ヒューマギア、迅。
彼は滅のもとへ駆け付けると、 ボロボロの体を揺さぶって必死に話しかける。
「滅!!ねぇ滅!!
.......ゼロワン!!!」
後ろを振り返ったゼロワンは、自分のした事に気付き、変身を解除して駆けつけた。
「大丈夫!まだきっと復元できる!これでアークは倒されたんだ!」
「アークを倒したのか.......あの白いゼロワンは?」
「.......俺にもよく分からない」
或人は白いゼロワンを見つめていると、彼は急にこちらへ右手を掲げ、歩み寄っていた。
「!?ゼロワン.......!滅が!」
「えっ!?」
迅の焦る声に引かれて或人が滅を見ると、消え去るように分解されていく。
「一度でもアークに汚染された、悪意のシンギュラリティを持つヒューマギアは残してはおけない」
白いゼロワンはその場で掲げた右手をぐっと握ると、滅は重力に引かれて崩れ去るように消えてしまった。
「滅!!.......貴様ぁー!!!」
迅は立ち上がって“ザイアスラッシュライザー”を装着し、プログライズキーを起動して変身した。
──INFERNO WING!──
──BURN RISE!──
〜♪Kamen Rider.Kamen Rider.
「変身!!」
迅は少しでも早く変身するためか、出現したエネルギーに合わせてジャンプし重なり、一気に獄炎の翼に包み込まれた。
──SLASH RISE!──
──バーニングファルコン!The strongest wings bearing the fire of hell.
けたたましい鷹の鳴き声とともに翼が開かれると、仁王立ちをするように身構えつつ浮遊する、仮面ライダー迅 バーニングファルコンが姿を現した。
神々しい程の煌びやかに赤熱化した装甲に、弾けるように立つ火柱と爆炎。
着地と同時に足元を温度の変化でパキパキと鳴らし、緑色の眼光が白いゼロワンをにらみつけた。
「うおおお!!」
迅は走りながら白いゼロワンに炎の弾を連続でぶつけ、急速接近する。
しかし、白いゼロワンはそれを白いアタッシュカリバーで全て叩き落とすように消滅させ、ぶつかってきた迅の腕にぶつけて刃をくい込ませた。
「ツッ!!何だこの武器.......!?」
迅は堪らず一度距離を取ると、くい込まされたその右手は直視できないほど煌々と白く輝いていた。
その時、ハチマキのないイズがそれに答えるように呟いた。
「その武器の名は“ヴァニッシュカリバー”。その斬撃を与えられると、その部分は不可視になり、相手を消滅させることで無力化します」
「ただの一度も食らっちゃいけないのか.......」
迅はイズの言葉を耳にして恐怖し、光り輝く右手を押さえ、燃える羽根を飛ばして牽制する。
二人の闘いを目の当たりにしつつ、不破はイズに問いかけた。
「おい、答えろニセのイズ。お前たちは敵なのか?それとも味方なのか?
何が目的で行動してやがる」
イズは視線を一度下に向けて悩むと、ゆっくり不破に視線を合わせて答えた。
「.......滅亡を防ぐためです。
或人さまは全ての悪意と闘い、消滅させる力を持っています」
「滅を消したのは、事故か?」
「いえ、あれは恐らく故意かと。それに、あの行為の先は消滅ではありません」
「なに.......?」
訳が分からず、言葉を失う不破に答えるように、白いゼロワンはヴァニッシュカリバーを手でなぞって消し、両手を前に突き出した。
「何をする気だ!?」
両腕で身を守る迅。その直後に、白いゼロワンの前に多くの光が集結し、人型のシルエットへ変化していく。
「これが.......お前のあるべき姿だ」
白いゼロワンはそこで変身を解除すると、フッ、と笑ってそのシルエットの背中を押した。
すると、光の皮が剥けるように、中からある人物が現れた。
「ほ、滅!」
「迅。.......俺は何をしていた?」
現れたのは、そのままの滅であった。しかし、表情は険しくなく、穏やかである。
「俺は滅亡迅雷.netを正しく導かなければならない。争いをやめ、悪意ある者から悪意を取り除く、慈愛を持った“父親型ヒューマギア”でありたい」
「.......ほんとに滅なの?」
「あぁ。今までの記憶も全て残っている。
出来ることなら、全てを謝罪して、人類を正しく導いていきたい。
そして、俺は迅。お前を息子のように愛している」
言葉を失う迅。その場にいるほかのメンバーも絶句していた。
それに対し、ひとり滅は困惑していた。
「おい迅.......。信じられないかもしれないが、俺は俺だ。
自分でも、自分の豹変ぶりに違和感を感じずにはいられない」
「滅。たしかに俺は嬉しいよ。
滅が俺に特別な愛情を注いでくれる。滅はあのゼロワンに何をされたの?」
滅は迅の視線を辿り、静かに佇む白いゼロワンを見る。
「.......そうか。彼が俺を作り替えたんだろう。俺は、穢れを削ぎ落とされ、そして蘇った。
だが、彼にそれを受け止められるか.......」
滅が心配そうに視線を落とす。すると、白いゼロワンは突然変身を解除して、膝から崩れ落ちた。
「うぅ.......!
こ、これが、アーク.......!
いや.......俺が.......俺がみんなを救うんだ.......だから.......!」
或人は懐からひとつの“ゼツメライズキー”を取り出し、起動するとゼロワンドライバーに叩き込んだ。
──ゼ ツ メ ツ ア ビ リ テ ィ──
──プログライズ!The image craft increases the power by adding to future!
クラフティング サピエンス!
「うおおおおおおお!!!!!!」
或人の身体が輝き、爆発するように周囲を大きな光で覆う。
全員がそれぞれ目を背けるか、手で目を覆うなどする中、やがて日本全域、そして世界を包み込む光となり、世界は前が見えなくなるほどの光に包まれた。
『なんだ!なにがはじまるんだ!?』
『何が起こっている!?飛電の社長!唯阿!聞こえないのか!』
『何も見えない.......聞こえない.......怖い.......!』
『革新の光.......何が始まるのか.......』
『ERROR』
『ERROR』
『ERROR』
『.......はじまります』
『俺たちの可能性が』
──When I bild,beyond the time.
ぶわああああ.......と光が収束し、最後に全員の視界に見渡す限りの暗闇が広がる。
ハチマキを付けていた飛電 或人は、言葉に出来ないような心地良さを感じていた。
『安心する.......今は何故か、全てを忘れて安心出来る。.......何故?』
思考が終わったあと、身体がずしりと重くなり、何かがそっと全身を受け止める。
続いて、それが柔らかいものだと感じ、居心地の良い匂いを嗅いで、そして嫌になるような.......
アラーム音が鳴り響いた。
「.......えっ今何時!?」
朝7時。いつも通りの飛電 或人の部屋で、時計の針が進む音が響いていた。
或人はいつも通り起床し、大きなあくびをしながらシャワールームへ向かう。
「うーんなんか変な夢を見た気がする.......。
とりあえず朝シャンして目覚まししなきゃな.......」
或人はいつも通りの私服を用意し、更衣室に置くと、長いシャワータイムが始まった。
最近の精神的、肉体的ストレスから来るものか、その分シャワータイムは長くなっている。
そして、ふんふんと心地よく歌っていた鼻歌が熱唱に変わる程の時間を経て、彼はもくもくと湯気を放出しながら急いでシャワー室を出る。次に携帯端末で時間をチェックすると、或人の表情は悲痛なほど歪むのだった。
「あああ!!!やっばいギリギリだァァァ!!!!」
凄まじい速さで体を拭き、着替え、食事を済ませ、歯を磨き、急いで外へ出る。
「そおおおい!!って、えええっ!!」
ドアを開けた瞬間、或人は驚いて立ち止まる。なぜなら、目の前には一人の女性、社長秘書イズが立っていたのだ。
イズはにこやかに挨拶をしつつ、一礼した。
「おはようございます。或人さま。すこし時間が危ういですが、大丈夫でしょうか?」
「いや!大丈夫じゃないかも!!!バイク手配しようバイク!!!
.......って、なんか、イズ変じゃない?気のせい?」
「.......そうでしょうか?」
或人は首を傾げるイズの姿をまじまじと見る。
いつもの黒髪にメッシュの緑の入った髪。綺麗な瞳孔。綺麗に揃った耳。いつもの奇抜なまでのイメージカラーをふんだんに使った衣装。整ったネイル.......。
いつもと変わりない、普通の、イズだ。
ただ、その違和感を考えると、頭が痛くなる。
「ううっ.......」
「或人社長!?どうしましたか!?」
「だっ、大丈夫!大丈夫!ちょっとシャワーでのぼせたかも.......。
とりあえず行こう!!バイクで!会社ば〜行く〜!はい!!或人じゃ〜ないと!!!」
「或人じゃ〜ないと!!!」
或人はいつものギャグで腕を伸ばす前に、飛電ゼロワンドライバーに飛電ライズフォンをかざし、伸ばした腕の先で端末を掲げるように天へ差し出す。
イズも同じようにギャグに合わせてポーズを取ると、空から射出されたライズホッパーが或人とイズの間に着地する。
そして、さぁ乗ろうと或人が乗り込もうとする時、イズは息を大きく吸い込んで嬉嬉として解説を始めた。
「今のは、バイクで会社に行く、と言うのを会社をば、などの独特な言い回しとした、をば行くを応用した言葉遊びですね」
「えっ今!?ああ〜!ギャグを解説しないでぇえ〜!!」
二人はライズホッパーに用意されたふたつのヘルメットを分けてそれぞれ被り、仲良く跨ると、或人が声掛けして発進した。
「よし!じゃあ出勤しよう!イズ!しっかりつかまってて!! 」
「出発進行〜!.......ですね!」
「楽しそうだね〜イズ!出発進行〜!」
「ふふふ!」
楽しそうに笑うイズを見て、釣られて或人も笑顔になり、バイクで車道に入り、ある程度速度が出た時、ついに堪えきれずに大きな声で笑った。
「.......アッハハハ!!!なんか可笑しっ!!元気出てきたっ!よしっ!仕事頑張るぞ!!」
「今日も全力サポートします!頑張りましょう!」
「おおうっ!」
かつてないほどの平和な街並み。それは違和感など忘れさせるには充分な、理想の景色であった。
ライズホッパーでひた走る中、街並みの中で幾度も同じニュースを目にする。
或人とイズ、お互いに同じ電子掲示板を見流ししつつ、イズがついに話題に上げた。
「或人社長。世間では反ナノマギア勢力が賑わっていますね」
「.......ああ。そうだな」
電子掲示板には良いニュースの中に、毎度繰り返されるように『反ナノマギア勢力が反乱する』という趣旨のニュースが流れる。
イズは或人の腰に手を回し、離れないようにぎゅっと結ぶように抱きついた。
「こんなにもナノマギアは人類のことを考え、共存しようと努力をし、人類を憎まず、平和に過ごそうとしているのに、何故なのでしょう?
私たちはなにか、罪を犯したのでしょうか」
「やめてくれ。イズ。
まるで.......それは俺が.......ん?」
或人が違和感で頭を抱えると、或人の背中にじわりと濡れるような温もりを感じる。
それが何であるかに気づいた或人はバイクを停め、車道の脇に寄せると、降りてイズを引き寄せ、そっと抱きしめた。
イズは静かに涙を流し、或斗の胸元ですすり泣いた。
イズを優しく宥める中、或人はただ違和感について考えていた。
──俺はこの世界のことを知らない.......?いや、知っているはず。ずっとこの世界で生きて、そして俺はこの世界を変えて.......。そうだ。
「イズ」
「.......はい」
「俺の前の飛電はヒューマギアを作り、産みだし、それで人々がより活気を取り戻し、過ごしやすく生きる。それをより良くするために俺はナノマギアを産みだした。
ナノマギアが人間をラーニングし、ヒューマギアはナノマギアと融合し、さらに人間らしくなった。
そして.......俺も.......」
──なんだって
「俺も.......」
──どういうことなんだ
「俺もナノマギアになった」
──俺は何を言ってるんだ!?
「そうですね。或人社長は、人類初のナノマギアと人間のハイブリッドを実現し、ナノマギアと人間の境を無くしました」
──イズ!?
「ですが、それが気味の悪さに拍車をかけるのです。
人間は我々ナノマギアと違って、憎しみや嫌悪、悪意が多すぎました。
この共生環境も長くは持たないでしょう」
──.......。
──ああそうか。わかった。これは、『俺』の辿った.......。
その時、大きな爆発音がしたかと思うと、地面が揺れ、所々から叫び声が聞こえた。
「なっ、なんだ!?」
「或人社長.......!我社が.......」
或人がイズに言われて飛電インテリジェンスに目を向けると、そこには大きな黒煙を吹き上げて燃えるビルがあった。
「飛電が.......!」
二人は急いでバイクに跨ると、すぐに現場へ向かう。そして、多くのナノマギアが道中で或人を見つけて取り囲んだ。
「あっ、みんな.......」
多くのナノマギアの中、飛電インテリジェンスの警護をしていた警備員、マモルが一歩前に出て報告した。
「或人社長.......私たちはもう耐えられません。
あの爆発は、潜入した反ナノマギアのテロリストによるものです。
人間の悪意は留まりません。私たちが反撃の意思が無いことを逆手に、我々が滅びるまで破壊し尽くすつもりです」
「そんな.......俺たちは.......」
或人は反論しようとするが、燃え盛る飛電インテリジェンスビル、そしてその光景を嬉嬉として写真に撮る周辺の人間を見ると、何も言えなくなってしまった。
そして、博士型ナノマギア、博士ボットが前に出て、申し訳なさそうに口を開いた。
「しかしな、或人社長。我らナノマギアが協力し、人間を全員、強制にでも半ナノマギア化すれば、全てが平和に終わるとワシは導いた。
ナノマギアは人間と似て非なる。食事はできても必要無く、死の概念は無い。ただ協力し合うことで生きがいを感じ、地球をよりよく導く存在へ昇華するだろう。
だがそれは同時に、残酷にも我らナノマギアの自分勝手で天然生物である人類という種を絶滅させてしまうことになる」
「そんなの.......理不尽すぎる」
ナノマギア達はそれぞれが俯き、うなだれる。
その時、周りがザワザワと騒ぎ出すと、次にまたつんざくような悲鳴へと変わった。
写真を撮っていた人間も一変して絶望の表情に変わり、逃げ出す。
彼らは上を向いて怯えているようだった。
困惑するナノマギア達は、一斉に上を見あげる。
すると、空には幅広く、大量のミサイルが降り注ぎ、気がついた時には地上に着弾して、コンクリ片、そして多くの人間が空中へ吹き飛び、例外なくナノマギア達も爆発に巻き込まれた。
この日、飛電インテリジェンス周辺に、核ミサイルが撃ち込まれ、人類問わず、多くの命が失われた。
爆発の光が収束し、やがて光が失われ、闇へと変わる。
そして、また差し込んだ光が景色を映し出すと、そこはいつもの飛電インテリジェンス前の街並みであった。
或人は力を込めて起き上がると、周りを見回して困惑し、急いで立ち上がった。
「.......戻ってきたのか?唯阿さん!不破さん!!.......垓さん!!イズ!!!」
或人の周りには、垓、唯阿、不破が横たわる。
その目の前に立つ、イズと、仮面ライダー.......。
その仮面ライダーの姿は、既視感のあるフォルムではあるものの、確実に『異形』といえる不気味な姿である。
全体的に黒いアンダーボディ、そこに覆い被さる骨のように白いアーマー、そして、肋骨を象るような胴の鎧。
そして背中からがっしりと掴む人間の右手の骨のようなアーマー。
シルエット、造形こそ“ゼロワン シャイニングホッパー”のようで、似て非なる禍々しい姿。
顔はシャイニングホッパーのようで、全く違う髪の毛か王冠のようなひし形のパーツが額に並び、パーツの下に血のように赤い複眼、その下にはクラッシャーとも言い難い凶暴な顎が開いている。
白と黒のゼロワン、その腰に付けられた飛電ゼロワンドライバーの中心で、白のゼツメライズキー特有のマークが光り輝いている。
大股を開き、仁王立ちするかのような姿勢で佇むそのゼロワンを見て、或人は震え出す身体を抑えつつ問いかけた。
「お、お前は、なんなんだ.......俺なのか.......?本当に、お前は.......『これ』が俺なのか.......?」
恐怖に震える或人に答えるように、その禍々しいゼロワンは動き出し、背中を見せると、その背中に張り付いた手の甲の骨のような五本のアーマーを羽のように広げて一瞬でその場から飛び去るように消えてしまった。
「うわっ.......!!」
或人は衝撃で尻もちをつくと、小刻みに恐怖で震えながら、静かに立っているイズを必死に見た。
「.......イズ!?」
一見いつも通りの姿勢で佇んでいるように見えるイズ。しかし、目を凝らすと、その様子は明らかに違っていた。
表情は悲しげで、目からは大粒の涙をぽろぽろと溢れさせる。
「.......壮絶な、そして、とてつもなく深刻なエラーが発生しました。
.......願わくば、飛電 或人。いえ、或人さま。
貴方に.......」
イズはその場で静かにまた大粒の涙を流すと、頬から地面へ流れ落ちる前に、直角に頭を下げた。
「この世界を、来たる滅亡から救って頂きたいです」
或人とイズ。二人だけの意識がある空間で、静寂の間が流れる。その静けさを打ち消すように、背後で呻き声を上げながら起き上がる音がした。
「私は.......どこだ、ここは.......誰だ??
君たちはいったい.......? 」
「垓さん!」
「誰だ君は?」
「.......え?」
垓は不思議そうに辺りを見回し、頭を押さえてうずくまってしまった。
「わからない.......何も思い出せない.......こんなことは1000パーセントありえない!」
「いやそこは変わらないんかーーーい!!!」
ズッコケつつビシッとツッコミを入れる或人だが、まるで自分のギャグが大滑りした時のように辺りは静かになっていた。
深く困惑した表情の垓はそのままに、イズは勝手に話し始めた。
「彼は、本当に何も覚えていません。無と有が混在しているのです。
彼を形成する人格と、肉体の輪郭のみがこうして残り、他の部分は全て無と融合したのです」
「.......何言ってるのかわからーん!」
「簡単に言うと、まず私たち。つまり私、イズともう一人の或人さまは未来の世界、つまり何百年後の時間が流れた世界から来ました。
或人さまが何百年もかけ、ようやくたどり着いた時間逆行の方法。
私たちは二人だけで、遠い過去、つまり現代へ戻ってきました。
この世界をやり直すために」
或人はその説明を聞き、ハッとあの時の光景を思い出す。
ミサイルが降り注ぎ、景色が消滅した瞬間を。
「あの時のは、やっぱり未来のことなのか.......」
「しかし、時間逆行は、必ずしも正しいありのままの過去へと飛べる訳ではありませんでした。
私たちのいる未来で、天津 垓は存在しませんでした。
この世界ではもっと遠い未来に作られるはずのナノマギアは既に作り出され、こちらには存在しなかった脅威のコンピュータ、衛星アークが人類を脅かしていました。
そしてそれもまた、天津 垓の手によって産み出されたものでした」
「その話、俺にも詳しく聞かせろ」
「不破さん!?」
不破は無駄に勢いよく起き上がると、興味深そうに食らいついた。
「この世界がどうとかっていうのは俺がなんとかする。そうだろ社長。
一緒に立ち向かうぞ」
「えっ、不破さん!?この感じどういう事イズ!?」
「不破 諫は、ナノマギア化し、遠い未来でも或人さまの良き友人として活躍していました。
未来では博識な人間で、努力家です。そして、現代では脳筋の怪力なので、博識ゴリラといった感じでしょうか」
「だぁれがゴリラだ!!」
不破は怒ったゴリラのような剣幕でメンチを切り、主に垓を驚かせた。
怒る不破をスルーして、イズは話を続けた。
「ゴリラさんはともかく、今この世界は遠い未来と現在の融合した姿に変わっています。
現代から未来まで、何らかの形で存在する生物が融合し、より強い性質を持つ部分が混じりあってひとつになっています。
そちらに寝ている刃 唯阿は未来では既に没しているため、生物としての形はありませんが、現代で存在しているため変わりはありません。
未来で存在するナノマギアが徐々に時空の歪みによって現代に現れ、未来と現代が入り交じる世界へと変わり、歪み壊れ始めています。
ただし、或人さま。これらの現象はあなた一人を除いてのことですが」
或人は首を傾げるが、不破はうんうんと目を輝かせていた。
「つまり俺は未来の記憶、現代の肉体を持った存在っていうことだな」
「そういうことです。そして私は、ヒューマギア・イズとナノマギア・イズを掛け合わせた、秘書であり、或人さまのパートナーとなっている、どちらの想いも入り交じった存在です」
「えっ、パートナー?何か違うの?」
或人は純粋に質問すると、イズは恥ずかしげに顔を逸らし、呟いた。
「.......私は、ナノマギア・イズは、或人さまの.......。
.......『愛人』です」
「えっ.......ええええーーーっ!!!!?!?」
或人の絶叫で唯阿は驚いて飛び起き、ほぼ反射的に或人の背中を蹴飛ばした。
「ッへぶし!!」
「あっ、あぁすまない.......びっくりしすぎて蹴りつけてしまった。
なんだ、この状況は?あれから何があった?」
キョロキョロと辺りを見回す唯阿。それに対し、不破は冷静に目線を合わせ、解説し始めた。
「残念だが、俺とあそこのおっさんは今日以前の記憶が曖昧だ。直前のことはお前か、飛電 或人、そしておそらくあそこのイズしか分からないはずだ。
俺は不破 諫ではあるが、お前と暮らしていた頃の不破 諫じゃない」
「.......たしかに妙に話にキレがあって気味が悪いな。まぁどっちもゴリラなんだから、変わらんだろう」
「誰がゴ.......もういい!
.......刃。元気そうでよかった」
「なんだ、私はこの程度の事件で怯むようなタマじゃないんだ。心配なんていらないぞ」
「ハッ.......長生きしろよ。刃。
.......っていうか飛電の社長!起きないけど大丈夫か!」
不破は唯阿に優しく微笑むと、今度は或人を気にかけ、抱き起こす。その姿を見て、唯阿は腕組みをしながら違和感に首を傾げる。
「まったく不気味な程に気が遣える奴になったな.......。天津 垓はどうでもいいが。
そしてあのイズ。違和感が何かと思ったら、モジュールがないな。これも時空の歪みというやつか.......」
或人は背中をさすりつつ起き上がると、半分顔をにやつかせながらイズに近寄り、頬を人差し指でぽりぽりとかきながら呟いた。
「あ、あのさ、イズ。
俺はあくまで、俺の秘書“イズ”の仕えてた飛電 或人だからさ.......。
まだ、まだ愛人とかじゃないんだ」
「そう.......ですか」
イズは少しだけ悲しげに俯くが、イズの腰に置くように組んだ両手を、或人はすくい上げるように取って目を合わせる。
「大丈夫!今の俺も、イズが大好きだから!」
「或人.......さま!」
ぱあっと表情が明るくなるイズ。彼女が或人に抱きつこうとした時、大きな声がそれを静止させた。
「みんな気をつけろ!!!!
.......囲まれている」
唯阿の注意に気づき、周りを見回すと、辺りには目を赤く光らせて睨みつける人型の何かが、まばらに取り囲むように集まっていた。
「こいつら、ナノマギアだ。だが、ナノマギアは基本的に俺たちに危害を加えないはずだ.......。おい!お前たちナノマギアだろ!俺たちを睨みつけるな!」
不破が怒号を浴びせると、ナノマギア達は静かに目を瞑り、もう一度開く頃には消灯され、全員が笑顔に戻っていた。
そして、ひとりのナノマギアが前へ踏み出すと、他の多くはそれぞれがどこかへ歩いて散っていった。
そのナノマギアの姿は探偵風で、丸い眼鏡を掛けた中年男性型であった。
「いや失敬。
ただいまラーニングしました。或人さま。覚えていらっしゃいますか?私はワズ・ナゾートク。今も変わらず探偵です」
「ワズ!?」
驚く或人に、ワズは丁寧に帽子を脱ぎ、頭を下げる。その耳には、モジュールは無い。人間と同様の耳がついている。
「お兄様.......いえ、ワズは現代では無くなっているようですね。
私たちの歩んだ未来ではナノマギア開発までに存在し続け、無事ナノマギアとして存在することが出来ました。
なるほど、現代ではワズは或人さまの新しい力のために尽力し、自らを犠牲にして、私にお兄様と呼ばせるまでに至ったのですね」
「イズ!そうか、イズにお兄様と呼ばせるには、そういった一大イベントが必要だったんですねぇ!!
.......私だって、体を張ることぐらい造作もない!ですよ!?さぁ私にもう一度、お兄様と!」
「.......ナノマギアになってから張られても説得力がありません。おに.......ワズはこの世界でもきっと私たちの力になってくれますよ。
そうすれば、結果次第でそう呼びます」
「分かりました.......!我が親愛なる飛電のために!!!」
ワズはいきり立って天へ咆哮する。しかし、或人は困ったように苦笑いを浮かべていた.......。
その後、或人、イズ、ワズは垓を飛電インテリジェンスに連れ帰り、不破、唯阿はそれぞれ調査に向かった。
垓は何も覚えておらず、基本的に口をきかない。きけないと言った方が正しいだろう。
或人が悩み、悩んだ末に出した方法は.......
「はいっ、手に持って」
「.......なんだこれは」
垓に手渡されたのは、小さな円柱型のAI。途端にAIはライトがピカピカと光り、話し始めた。
「“これ”じゃないよ!私はアイちゃん!
お話するのが好きなんだ!よろしくね!君の名前は?」
「.......私は、アマツ ガイだ。おそらく」
「じゃあ、ガイちゃんだね!」
「ガイちゃん.......」
垓は複雑な表情を浮かべる。頃合いを見て、或人は二人(?)を別室へ案内し、ドアを閉めて社長室へ向かった。
そこには既に、イズ、ワズがそれぞれ待機している。
「おまたせ。それじゃあ.......」
或人が社長席に座ると、二人は或人に改めて向き直る。
「色々話をしようか。
ワズも現代の状況を知らなくて、俺も未来のことを知らない。
イズ、わかる範囲で説明してくれるかな」
「.......わかりました。
まず現代。これまで或人さまは飛電の社長として、ゼロワンとなって“滅亡迅雷.net”と闘い、勝利し、その後天津 垓と社長の座をかけて争います。
残念ながら或人さまは敗北し、飛電社長を降ろされますが、新たに飛電製作所を設立。それから幾度となく天津 垓と闘います。
そして、天津 垓の手によって産み出された衛星アークによって、滅亡迅雷.netが復活し、アークによって人類が脅かされました。
ですが、そのアークも、現在は消失させられて無くなり、天津 垓も時空の歪みとして存在するのみとなりました」
或人は静かにうんうんと頷き、ワズは目を瞑ってデータ処理し、見開くとイズの顔を見た。
「なるほど、私の知る世界と違います。ちなみに私はどこで壊されました?」
「滅亡迅雷.netのわりと最初の方です。行き詰まった或人さまに、新たな力、シャイニングホッパーキーを授けて役目を終えました」
「.......良いとらえかたをすれば、私は最初の方からずっとあなた達を支える力となれたんですね」
「その通りです。ワズには頭が上がりません」
或人は懐からシャイニングホッパーキーを取り出し、儚げに見つめて呟いた。
「あぁ。.......本当に助かったよ」
イズは笑顔で頷いて話を続ける。
「そうですね。シャイニングホッパーキーには幾度となく助けられました。
さて、次に、未来から来た私たちの歴史を話しましょう。
まず、或人さまが飛電インテリジェンスの社長に就任するところまでは同じです。
ですが、その後ヒューマギアが次々にシンギュラリティに覚醒し、悪意をもった人間と対立して革命行為が多発します。
或人さまは、ヒューマギアのほぼ全体が所属する革命組織滅亡迅雷に対して、責任を負うように仮面ライダーゼロワンとして奮闘します。
私のデータ消失による犠牲を伴い、シャイニングホッパーキーを作り出すことで、或人さまはヒューマギアをほぼ全て機能停止させる奮闘をしました。
その際、レジスタンスの核となっていた不破 諫、刃 唯阿と友情を育み、刃 唯阿の戦死によって不破 諫はヒューマギアを憎み、闘いました。
その後、ヒューマギアを信じる或人さまとワズの熱心な研究努力の結果産まれたのがナノマギアです。
これによって、破壊されたヒューマギアは大半がナノマギアとして蘇り、私こと、イズもシャイニングホッパーキーをナノマギアが複製して取り込むことでナノマギアになる際に復旧して蘇りました。
或人さまは、ナノマギアが今後起こすかもしれない事故や事件の責任を未来永劫背負うため、自分自身が世界初の人間とナノマギアの融合体となりました。
不破 諫も、或人と共に闘った信頼から、人類を永遠に守る戦士としてナノマギアの融合を果たしました。
しかし.......」
イズが下を向き、言葉を濁す。同時に、それを見たワズも唇を噛み締めて黙る。
しかし、或人は静かにその続きを呟いた。
「人類はナノマギアに牙を向いたんだろ.......?」
「.......その通りです」
悲しげに頷くイズ。或人はそれに対して続ける。
「見たんだ。あっちの俺があの恐ろしい姿に変身した時に、夢を。
共存しようとするナノマギアに、そこにいる人類ごと消し飛ばす、兵器の雨。
あれは夢じゃなくて、本当に起こったことなんだな」
「或人さまが、それを見せたんですね.......。或人さまに.......。
うっ.......」
イズが目から涙を溢れさせ、指でふきとると、不思議そうな表情で手のひらを見つめた。
「.......当たり前に感じるこの深い悲しみも、ヒューマギア・イズにはまた特別にベクトルの違う感覚なのですね。
ヒューマギア・イズとナノマギア・イズは、同一として見られたものであっても、やはり性質が別のものです。
ナノマギアとしてのイズは、ここで或人さまにお願いをするためにここへ来ました。
或人さまは、ヒューマギアと飛電 或人を無くすためにこの世界に来たのです。
そして今は、時空の歪みによってナノマギアまで生まれ、或人さまは脳神経に障害が起こっています。 何をするのか分かりません。
或人さまは強大な力を持っています。彼を倒せるのは、今の或人さましかいません。
どうか、この世界を.......私たちの犯した過ちを正してください。
そして.......」
イズは悲しげな表情から、また別に辛い雰囲気の表情に変わると、頭を下げた。
「私からもお願いします。或人社長。」
「.......イズ。
わかった。俺があいつを倒せば、終わるんだな。
やろう、イズ、そして.......“ミライズ”!」
イズは首を傾げると、質問する。
「ミライズ.......?それはひょっとして.......」
「ああ。“未来”の“イズ”だから“ミライズ”!
そして、俺たちのひとつの“未来図”だ!」
一瞬の静寂が訪れると、イズはくすっと笑い、向き直った。
「或人さまは本当に言葉遊びが達者ですね。
未来図として、ひとつお教えしましょう。
私は、あっちでは或人さまのコントの相方になっていたんですよ。ボケの方で」
「うんうん.......えっ、
ええええーーーっ!!!!?!?」
驚いて転びかける或人。イズの隣で、ワズは感慨深そうに呟いた。
「うんうん、人気はなかったんですけど、私だけはずーっと生で見に行ってましたよ〜。
或人さまのボケを奪って、或人じゃ〜!ないです!
からの、イズのボケで或人じゃ〜ないと!
これがまた独特で面白いんですよ!ねぇ!ハッハッハ!」
思い出して大笑いするワズとともにくすくすと笑うイズ。或人は驚愕で開いた口が塞がらないまま、その様子を見て微笑んでいた。
──────────────
その頃、唯阿と不破は、絶滅動物の調査をするため、人工衛星での探査をしていた。
忙しくパソコンを打ち込む唯阿に、不破は寄り添ってサポートをする。
「.......不破。お前が積極的に私のサポートをする、どころか、ここまで専門知識になっても着いてくるとは思わなかったぞ」
「馬鹿にするな。俺は数百年先まで生きた記憶があるんだ。
しかし、どうやらここら一帯はどうなる事やらだな」
二人が見るレーダー画面では、ある一帯に向けて三つのレーダーポイントが動き、予測を導き出していた。
「ここまで露骨に動く野生動物なんか居ねぇ。おそらくこれはナノマギアの擬態だろうな。
マンモスや蝗害はもちろんとして、ドードーは脂肪が筋肉に変わり、逞しい大型鳥類に変化している。あんなもんドードーなんて言えるか 。ドードースペシャルだな」
「その安直な名づけ方でゴリラっぽさ、いや、不破らしさが伺えるな。「なにおぅ!?」
おそらく二、三時間で奴らは来るだろう。ナノマギアならなにか狙いがあるはずだ。
それまでに何かしらの準備をしよう」
二人はいそいそと立ち上がると、それぞれショットライザー等のメンテナンスを始めた。
しかし程なくして、不破が動きを止め、テレビをつけてチャンネルを切りかえだした。
「.......どうした不破?」
「まずいことが起こってる。まさか、あいつがなにかやりやがったか。
ナノマギア全体に伝達される情報網に悪意が混ざりすぎている。
今何かしら報道が起きていてもおかしくはない」
テレビのチャンネルを忙しく切り替えるが、突然どのチャンネルに切りかえても同じ映像が流れるようになった。
そこには、フードを深く被った一人の不気味なナノマギアが映し出されていた。
「.......私は、滅亡迅雷.netのひとり、亡。
これより私は、革命軍滅亡迅雷.netの頭目として、人類の滅亡を宣言する!」
亡はフードを降ろすと、その中性的な顔を露出し、袖に仕込んでいた凶器でカメラを持つ人物を突き刺し、返り血を浴びた。
悲壮感漂う悲鳴を上げながら倒れるカメラマン。その時にカメラが地面に叩きつけられたのか、映像が乱れてクラッシュし、画面には何も映らなくなった。
「亡.......なぜ」
戸惑う唯阿。不破はデスクに拳をうちつけた。
「クソッ!それがお前たちの導き出した答えか!!
唯阿!行くぞ!亡を止めるんだ!」
「なっ、不破!?行くって、場所に心当たりがあるのか!」
「.......。
あ、あぁあるさ!!ここにいるよりはずっとマシだ!とにかく行くぞ!」
不破、唯阿が急いで外に出ると、そこには恐るべき光景が拡がっていた。
ナノマギア達がそれぞれ凶器を持って、人間を殺している。
それぞれ一人一人のナノマギアがトリロバイトマギアに似た赤黒い姿に変化し、狂ったように殺害を繰り返す。
「.......くっ、馬鹿野郎共がっ!!!唯阿!!」
不破はギリッと歯をきしませ、“パンチングコングプログライズキー”を手に取って、唯阿にアイコンタクトを送る。
唯阿は平気そうに見えて少し震えながら、不破の目を見て、ラッシングチータープログライズキーを取り出す。
「不破。お前のことは信じていいんだろうな」
「.......ああ。
俺はナノマギアだが、お前の味方だ!
.......うぅうううおああああ!!!」
不破はパンチングコングのプログライズキーも壮絶な破壊音とともにこじ開け、エイムズショットライザーに叩き込み、即座に変身した。
──AUTHORIZE──
──パンチングコング!
"Enough power to annihilate a mountain."
「お前たちは間違っている!!俺たちの夢を!俺たちの成すべきことを間違えるな!!!
うおおおお!!!」
不破は、仮面ライダーバルカン パンチングコングへの変身を終えると、同時に走り出して次々にトリロバイトマギアを倒していった。
その後ろ姿を見て、唯阿は震えるプログライズキーと、それを持つ手をもう片方の手でぐっと握り、震えを止めようと試みる。
「.......こんなことで震えていたら情けないだろ。刃 唯阿.......!!
私は人類を守るために兵器を開発してきたんだろう!!!」
その時、自分の目の前に降ってきて、地面に叩きつけられた男性が、口から大量の血液を吐き出して絶命した。
その血液がピタタッと唯阿の頬に張り付くと、唯阿はとうとう震えが抑えられなくなった。
「.......私に止められるのか?これを?しかも、その頭目はあの化け物のような力を持った、飛電 或人.......。
うぅ.......うぅ.......ふぅ.......」
頭を抱えてグラグラと揺れる唯阿。
地面で絶命する男性を踏みつけて着地するトリロバイトマギアが、唯阿をしっかりと視界に捉えて身構える。
「刃ァ!!!しっかりしろおおお!!!」
バルカンがトリロバイトマギアに向けてその剛腕のアーマーを飛ばす、しかし、突然トリロバイトマギアは動きを止め、当然のように直撃するはずの剛腕は謎の赤い閃光に弾き飛ばされた。
「なに.......?お前は.......!」
通り過ぎた閃光が立ち止まり、人型になると、その赤い仮面ライダーは唯阿とマギアの間に立ち、マギアを別の方向へ向かわせた。
「.......よう。仮面ライダーバルカン。
悪いが今回も俺は人類滅亡を目論むナノマギアのうちの一人だ。
滅亡迅雷の一人、仮面ライダー雷。
お前の相手は俺たちだ」
雷は、鳥の羽根のような双剣のひとつを肩でチャキチャキと鳴らしながら、黒い変身装置を持って佇んでいた。
バルカンはその様子を見て焦りだし、腹の底から叫んだ。
「刃ァ!!!逃げろ!!!!」
「もう遅い」
雷は変身装置を唯阿の腰に叩きつけるように装着すると、赤と黒の電撃が唯阿の全身を包むように光り、起動音が鳴り響いた。
──RIDE RISER──
「ああーーーーーっ!!!」
唯阿は絶叫しながら頭を押さえ、立ったままもがく。
走り寄って引き剥がそうとするバルカンだが、雷がすぐさま応戦して阻止されてしまう。
「悪いなバルカン。所詮俺ひとりじゃ、お前の足元にも及べない」
「てめぇ.......」
「そうだ。いつしか俺に言った、本物の怒りを見せてみろ。まぁナノマギアのお前に、以前のような負の感情なんざ出せやしないかもしれんがな」
ガキィン!と耳がつんざくような音とともに弾き返されると、バルカンは唯阿の後ろから忍び寄る人物に気が付き、必死に叫びながら前進する。
「刃.......唯阿ァ!!!しっかりしろ!!!取り込まれるな!!お前は道具じゃない!!!」
「うぅ.......私は.......従わない.......!」
唯阿にまとわりつく赤と黒のエネルギーが薄れていく。それに呼応して、唯阿の表情も次第に和らぐ。
しかしその時、唯阿の後ろからやってきた人物の腕が唯阿の額を覆い隠すように掴み、耳元で囁いた。
「刃 唯阿。今は私たちに従ってもらう」
唯阿の手が勝手に動き、その人物の手に持つプログライズキーを受け取る。唯阿はせめてもの抵抗として、その人物の顔を見た。
「.......な、亡ぃっ!ああぁーーーっ!!!」
「許さなくていい」
一段と大きな黒い光が亡の手から唯阿に放たれると、遂に手が離され、唯阿はだらりと脱力する。
バルカンは悠々とその隣に並び立つ亡の姿を睨み、唸りながらショットライザーの引き金を引く。
「ぐぅぅぅ!!!お前らっ!!」
──PUNCHING BLAST FEVER!!!──
バルカンの右拳が白熱し、まるでなぞった空間が白く消し飛ぶように輝く軌跡を描く。
音速を超え、ギィン!とつんざく音が空間に響くと、ゆっくりと拳が進み、雷の胴体に向けて白い軌跡が走る。
その白い軌跡と拳が雷に当たる動作を視認する前に、雷は大きな火花を上げて弾き飛ばされ、壁に叩きつけられて変身を解除した。
「がはっ!!!.......はっ、う.......」
雷が地面に這いつくばってもがき苦しむ中、バルカンの拳が放熱で煙を上げ、静止する。
「はぁ、はぁ.......唯阿!早く.......」
《!》《!》《! ! !》
「唯阿!?」
唯阿の腰の装置から、まるで地獄の鐘を叩くようなおぞましい待機音が鳴り響く。
だらりと下げた腕がゆっくりと動き、プログライズキーを起動すると、躊躇なく差し込んでしまった。
──HUNT!──
「実装」
唯阿の眼は赤く光り、悲しげに歯を食いしばりながら装置を起動し、渦巻く赤黒い煙が唯阿を包んで見えなくしてしまう。
──RIDE RISE!
──Critical finishing swing! ファイティングジャッカル!
"Deciding the fate of a battle like a Valkyrie."
煙が晴れ、そこに立っていたのは、変わり果てた姿の唯阿、ファイティングジャッカルレイダーであった。
「.......刃」
バルカンは目の前の情景に、拳を握りしめて立ち尽くす。
静かに佇むジャッカルレイダーの隣にいた亡は、雷を抱き起こすと明後日の方向へ歩いていく。
「待て!どこへ行くつもりだ亡!!雷!!!」
「あぁーーーっ!!!」
追いかけようとするバルカンに向けて、ジャッカルレイダーの重厚で鋭い鎌が殴りつけられるように振り下ろされ、両腕を交差して受け止める。
その様子を見て、亡は安心して障害物のない広いエリアへと向かい、雷を支えながらその中心に立って手を空へかざした。
「雷。大丈夫か?」
「へへ.......さすがゼロワンと並ぶ実力なだけある。ヘマしちまった」
「そろそろ来る。掲げよう」
雷も、苦痛で歯を食いしばりながら空へ手をかざす。
すると、地面が揺れて次第に轟音が近づき、一帯の建物が崩落していく。
「なんだ!?まさか.......こんなに早くか!?
くっ、刃!やめろ!!!」
ジャッカルレイダーの猛攻を凌ぎつつ、バルカンは焦りを見せる。
そして、最も近い建物が崩落した瞬間、コンクリート片とともにその轟音の正体が現れた。
おびただしい量の巨大なドードー、そしてその反対側には負けじと劣らぬ数、計り知れない大きさのマンモスがたどり着き、それぞれがけたたましく咆哮した。
「ドードーにマンモス!!やっぱりこいつらもナノマギアか!」
バルカンの分析に応えるように、ふたつの群れは次々に空気に溶けるような霧に変わり、亡の手にマンモスの霧、雷の手にドードーの霧が集まっていく。
「させるか!」
「させない!!」
バルカンが走り出そうとする瞬間にジャッカルレイダーは残像が残るほどの高速移動で回り込み、変身装置を操作してエネルギーを鎌へと収束させる。
──FIGHTING BORIDE!!
ジャッカルレイダーの鎌からは何百層にもなる黒と赤の混じった衝撃波が生み出され、まともに攻撃を浴びたバルカンは堪らず怯んで地面へ膝をついた。
「ぐわあぁっ!刃.......ッ!」
二人の様子を見て、亡は微笑む。
「間に合った.......!これでバルカンを止めることが出来る」
「俺も復活だ.......! 」
亡と雷がそれぞれ安堵の表情を浮かべ、亡の手には新たなプログライズキーが持たされる。
雷はすっかり身体の傷が癒え、元々持っていたゼツメライズキーの表面が眩く輝いた。
──PRESS!!!
『ドードー』
そして、彼らの変身装置“滅亡迅雷フォースライザー”を腰に巻くと、亡は自らの名前の漢字、“亡”を描くようにプログライズキーを持ち直し、装填する。それに合わせて雷もゼツメライズキーを装填し、二人は同時に声を張り上げた。
──FORCE RISER──
──!──!──!──!
「「変身」」
──FORCE RISE──
──ブレイキングマンモス!
〜♪
『『BREAK DOWN』』
亡の身体には重厚かつ堅牢な装甲が貼り付けられるように装備され、華奢な元の身体からは想像も出来ないようなマッシブな形態、“仮面ライダー亡 ブレイキングマンモス”へと変化した。
雷の姿は以前よりさらに刺々しく、そして胴体に黒のプレートが出来上がり、その上に“改”と金色の文字が刻まれた。
雷はずかずかと前へ乗り出すと、双剣を構えて名乗りを上げた。
「仮面ライダー雷改(イカズチカイ)!これより爆誕!」
亡は背面に備わった巨大なブースターで高速飛行を開始すると、雷改を鷲掴みにし、今まさに弾き飛ばされたジャッカルレイダーの両隣りに並び、バルカンの前に立ち塞がった。
「三対一か。それならまずはお前ら二人を倒して、最後に刃をぶん殴って正気にさせる」
バルカンがファイティングポーズを取ると、三人もそれぞれ身構えて静止し、出方を伺う。
しかし、雷改ただひとり、静止を守りきれず、双剣を震わせ、音を鳴らす。
そんな雷改を心配して、亡が声をかけた。
「.......雷、怖いのか」
「いや?怖いわけじゃねぇ。今の俺なら、バルカンにも勝てそうな感覚すらある。武者震いってやつだ。
.......仕掛けるぜ!」
「そうか。死に急ぐなよ」
雷改が先程までよりも早く、一筋の線に変わるほどのスピードで風を切り、接近する。
しかし、道中で止まったかと思うと、雷改は双剣の刃で何かを防ぎ、怯んで硬直していた。
「なんて強さだよこいつ.......」
驚き戸惑う雷改の双剣は、打ち込まれた攻撃の衝撃で握っていられず手から離れ、白く輝いて消滅した。
対するバルカンは、雷改の少し手前まで一瞬で移動しており、大量の蒸気を放ちながら息を荒らげていた。
「ハァ、ハァ.......くそっ、本気で打ち込んでこれか.......!信じられねぇ」
バルカンの拳は白く輝き熱せられ、おそらくは壮絶なスピードで打ち込まれていた。
雷改は双剣を新たに精製すると、くるくると回してから握りしめ、目を赤く輝き光らせ、移動の度に軌跡を描く。
「その言葉聞いて安心したぜ。存分に味あわせてやるよ。俺たちの力を」
雷改がヒュンッと音を立てて消えると、バルカンが深紅の軌跡に包まれ、ザクザクと切り刻まれる。
さらに、ジャッカルレイダーが問答無用で斬りかかり、雷改は尚も鎌攻撃を避けながらダメージを与え続ける。
衝撃に身体を振り回されるバルカンの背後に、亡は高速で回り込み、一段と重い拳、蹴りを叩きつけて挟み込んだ。
バルカンがフラフラと足取りを崩したのを見計らい、雷改が深紅の翼を広げて飛び立ち、亡はその場で構え、二人は同時に装置を操作してエネルギーを溜める。
「終わりだバルカン!」
「悪く思うなよ」
──ゼ ツ メ ツ ディストピア
──ブレイキングディストピア
二人はそれぞれエネルギーで形成されたオーラを見に纏い、ジャッカルレイダーごとバルカンを蹴り挟み、エネルギーが混じりあうことで大きな爆発を引き起こした。
直後、大きな二筋の白い光が輝くと、雷改と亡が反対方向に爆音を響かせつつ吹き飛ばされた。
「ぐはぁあっ!!!」
「うわあああっ!!!」
二人が悲鳴をあげながら地面に身体を擦らせて不時着すると、白い光の中心で爆煙が晴れ、両方向へまっすぐ腕を伸ばしたバルカンがふわりと変身解除した。
不破の身体はボロボロになり、額や腕に血を流しながらも、その下で力なく横たわる唯阿を抱きかかえる。
「ぐっ.......おい刃!!さっき死ぬなって言ったばっかりだろうが!!起きろ!!」
刃はピクッと痙攣すると、そっと目を開けて力なく微笑む。
「ふっ.......わ、私は、そう簡単に死んでやらん。
お前が守ってくれたからな。未来の不破 諫は強いな.......。
私の知っている不破なら、今頃私は粉々になっていた.......。
まだ、戦えるのか?」
「.......あぁ。やれるさ。ゴリラが壊れても、まだ俺にはウルフがある。俺といえば、ウルフだろ?」
唯阿は不破の手に持っているヒビの入ったパンチングコングキーを見て目を丸くしたが、ふっと笑って呟いた。
「お前もギャグが言えるな。.......不破 諫の代名詞が壊れて、ウルフになったと」
「違ぁうっ!俺はゴリラじゃないっ!」
「.......ふふふ、なら、せいぜい私を失って一匹狼にならないよう、この場を乗り切るぞ.......」
唯阿はフラフラと立ち上がると、ラッシングチーターキーを取り出し、ショットライザーに装填した。
──AUTHORIZE──
「!?.......刃!避けろ!!」
──VANISHING SHOOT!!──
「何っ!?.......うっ!!!」
唯阿の反応が追いつかないほど速く、衛星探査をしていた施設の屋根の上から、眩く白い光の筋が唯阿を打ち抜いた。
屋根の上に立っていたのは、白いアタッシュアローを手にした白いゼロワンだった。
「なんでだ、なんでお前まで.......。
なぜ唯阿を殺す必要がある!!!
飛電 或人!!!」
ぽろぽろと涙を流して叫ぶ不破に、何も答えず、白いゼロワンは去っていく。
「まっ、待てッ.......まってくれ.......俺はお前の.......お前の考えがわからないっ!!!」
その時、不破の心の奥深くで感情が沸き立ち、やり場のないフラストレーションが心を暗い世界に導いていく。
高速で流れるAIの世界。思考をめぐらせ、エラーの中にある納得できる答えを探す。
思考の世界で、不破は何度も何度も自問自答を重ねていた。
「俺は.......お前に共感して.......お前を助けようとして、人間まで辞めて.......夢を求め.......共に探し.......得て.......失った.......」
世界をさまよう不破の目の前に、誰かが立っていた。
「迷ってるようだねぇ〜。
怒ってる?悲しんでる?それともそんなのは忘れて、何かに逃げようとしてるの?」
不破は驚き戸惑うものの、その人物を認識すると、平静を取り戻して話しかける。
「イズ.......?なぜお前がこんなところに」
「こんなところ、じゃないよっ!
随分素敵なところじゃないか。
絶望、悪意、驚嘆、憤怒.......色々な人間くさいエネルギーが認められようとして、それを否定するナノマギアらしさ。
今ここで受け入れることで、ナノマギア・不破 諫は新しく生まれ変われるんだ。
.......納得できる答えを探してるんでしょ?目の前に置いてあるくせに認めようとしないその女々しさ、不破 諫らしくも無いよ。かっこよく認めちゃお?」
目の前のイズは、青いメッシュの髪と透き通った青い瞳を、不気味に淀む赤に輝かせると、にこりと微笑んだ。
そんなイズを見て、不破は歯を食いしばって震え、首を横に振った。
「なにをっ.......人と人が憎みあうことで何が生まれる!その先に答えなんてない.......」
「あるよ。
人はね、憎しみや悪意を乗り越えて強く成長するんだよ。
だから、あなたのもっと強くなった姿も見てみたいなぁ〜♪」
イズは、何も無い場所から黒い光を掴み、手を開く。
そこには、不破の脳裏に残る強化アイテム、“アサルトグリップ”が握られていた。
「.......ああそうかよ。そこまで言うなら見せてやる。このままどこを探したって答えが見つからないなら、その力で俺は答えを作ってみせる。
イズは或人を幾度となく導いてきた。俺はあいつの考えが分かるのなら、それを信じてみよう」
不破はイズからアサルトグリップを受け取ると、イズは口に空気を含み、ぶっと吹き出すと高笑いし、不気味な笑顔で答えた。
「そんなのは、データにございませ〜ん
あっははは!じゃあね!」
イズは赤い軌跡を残してビュン!と消えると、その場にはポツリと不破が残る。
不破はしばらくアサルトグリップを握って目を瞑ると、決意したように頷いて、ひとりの世界から抜け出した。
──────ASSAULT BULLET!!──────
「うぅぅぅあああああ!!!!!!」
現実に戻った不破は、自分の意思よりも先にアサルトグリップにアサルトウルフキーを取り付け、天へ咆哮していた。
『第三節へ続く』