火神に憑依したっぽいのでバスケの「王様」目指す   作:Dice ROLL

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東京三大王者、キセキの世代のせいでほぼ死に設定と化している


15話 封切

「キャプテン、予選のトーナメント表コピーしてきました」

 

インターハイ予選、夏の全国大会を目指す戦いである。東京都はまずトーナメント戦から始まる。AからDの4ブロックに割り振られ、それぞれのブロックで頂点に立った4校によるリーグ戦で全国大会出場が決まる。300校以上の中から最終的には3校がインターハイ出場の切符を掴むのだ。

 

「このトーナメントを勝ち進んで、リーグ戦でも勝って、そうして選ばれた『1%』が立てる舞台。それがインターハイだ」

 

「…選ばれたっすか。違いますよ、勝ち取るもの、ですよね?」

 

「…だな。火神の言うとおりだ」

 

昨年、誠凛は決勝リーグで一勝もできずに敗北している。そのトラウマからか弱気になる日向であったが、そんな雰囲気を火神が変えた

 

「去年は後一歩及ばなかったが、今年は絶対いくぞ」

 

「キャプテン、東京で強いところってどの辺なんすか?」

 

「…東京都には三大王者と呼ばれる3校がある。北の正邦、東の秀徳、西の泉真館。過去10年間、東京都代表はこの3校が独占してきた。…だが、今年までだ。確実に今年、新たな東京代表が生まれる」

 

「俺たちが勝つから!」

 

「いや、違う。コガ、ちゃんとトーナメント表見ろ」

 

「…えっ!?秀徳と正邦が両方うちのリーグじゃん、なんで!?」

 

「普通、強豪校は予選別グループになりますよね?」

 

「ああ、火神の言う通りなんだが…」

 

「今年は事情が違うのよ」

 

「「「「「カントク!!」」」」」

 

監督兼マネージャーのような仕事をしているリコ。ついさっきまで初戦の相手のデータを取りに行っていたのだ

 

「偵察お疲れさん。…でどういうことだ?」

 

「強豪のグループが分散するのはもちろん予選で潰し合わないようにっていうのもあるけど、観客の動員数も少なからず影響してるわ。その点、今年の東京は王者よりも注目度が高い高校があるの。だからこういうグループ割りになったわけ」

 

「王者よりも上?」

 

「うん。『桐皇学園高校』他県からも有望な素材を引っ張ってきてて毎年力を伸ばしていた高校よ。そして今年はついに、『キセキの世代』青峰大輝を獲得したわ」

 

「まじかよ…。てことは、秀徳の緑間と合わせて同じ地区に二人いるのか、『キセキの世代』」

 

「結局全員倒すから同じっすよ。それに、うちにもいるじゃないっすか、「幻の六人目』が。ビビるとこじゃないっすよ」

 

「火神…。お前は本当に年下か?頼りになりすぎるなまったく」

 

日向のジョークに思わぬ形で図星をつかれたが、黙っていればバレるわけもないのでここは黙秘を決め込む火神であった

 

「…で、初戦の相手はどうだった?カントク」

 

「新協学園、去年までは中堅校って感じだったけど今年は違うわ」

 

「何かあったのか?」

 

「とりあえず写真見せるわ。名前はパパ・ンバイ・シキ、セネガル人の留学生よ」

 

「でかっ!長っ!」

「名前なんつった?パパガンバルンバ?」

「はっ!パパイヤ伊藤…」

 

「話始まんないわね…、黒子君、なんかあだ名つけて」

 

「じゃあ、お父さんで」

 

「お父さん…」

「なんつーセンス…」

「はっ!お父さんがお、倒産」

「伊月、つまんなすぎる…」

 

「話、聞け」

 

「「「「「ハイっ!」」」」」

 

部員全員の背筋が伸びた

 

「彼は身長2m、体重87kgと恵まれた体を持っているわ。…火神君のが大きいんだけど」

 

「でも、見た感じウイングスパンは相当ありそうっすね」

 

「ウイング?」

 

「手を横に伸ばした時の端から端までの長さのことだ」

 

「おー、流石キャプテン」

 

「そういうこと、正確な数字は分からないけど215cmはありそうね」

 

バスケにおいて、ウイングスパンは身長同様かなり重要な身体的指標である。守備においては、スティールやブロック、横方向の守備範囲など様々な点で優位性があり、攻撃においてもシュートのリリース点が高くなるというだけで有利である。そして、一般的にウイングスパンは身長とほぼ同じになると言われている。つまり、お父さんはバスケをやる上でかなり恵まれた腕の長さを持っているということになる

 

「でも火神も結構腕長いよな?そのウイングなんたらいくつくらい?」

 

「7フィートなんで213cmちょいくらいっすね」

 

「「「かわんねーじゃねーか」」」

 

そう、火神大我もまた恵まれた側の人間である

 

「高さは互角でも、身体能力やスキルでは正直火神君の足元にも及ばないわ。普通にやったらまず大丈夫よ」

 

そして、お父さんも結局のところ本場からは声のかからなかった選手である。試合中にダンクを見せたことはなく、タフショットを決め切るほどのシュート力は無い。対する火神は、肉体的にもスキル的にも、長いバスケットボールの歴史で頂点を狙えるだけのポテンシャルを持っているのだ。負ける道理がない

 

「試合は5月16日!油断なんて絶対するんじゃないわよ!」

 

「「「「「おう!!!」」」」」

 

こうして、彼らの夏の戦いが始まった

 

◆◇◆

 

試合当日、誠凛はこの日の会場の一試合目である。だが、アップをしている新協学園の中にお父さんの姿は見えない

 

「なんかあったんすかね?」

 

「さあな…」

 

噂をすればなんとやら、会場の入り口に頭をぶつけた音とともにお父さんが現れた

 

「日本、低い、なんでも」

 

「たっく、何やってんだ!」

 

「すいません!遅れました」

 

「なんでそこだけ流暢なんだよ…」

 

新協ベンチでは漫才のようなやりとりが行われていた。ちなみに、誠凛側はと言うと

 

「んだよ、ただ遅れただけか…。いい度胸してやがるな…」

 

火神、怒りのボルテージが上がっていく。さらに

 

「ねえ、おたく海常に勝ったってマジ?」

 

「まあ、練習試合っすけど」

 

「なんだ、大したことないんだな『キセキの世代』ってやつも」

 

「キセキの世代、負け?そいつらに勝つために呼ばれたのに、こんながっかりだよ、弱くて」

 

火神の怒りのボルテージ限界を突破した

 

「Shut the fuck up」

 

「!? Who are you?」

 

「Taiga Kagami. This is the name of the one who beats you.」

 

「…カントク、翻訳お願い」

 

「『黙れよ』、『誰だお前?』、『火神大我。お前を倒す人間の名前だ』…って感じね」

 

「なんだあいつ、カッコいいこと言うじゃん」

 

学年二位の頭脳を持つリコは完全に通訳係と化していた

 

「火神君、ありがとうございます。正直ボクもイラッときてました」

 

「だろうな、お前も大概負けず嫌いだよな」

 

こうして、お父さんにとっては悪夢でしかない試合が始まった

 

◆◇◆

 

ジャンプボールは珍しく競った。結果は誠凛ボール

 

(パパが負けた!?あの23番、なんて高さだ…!)

 

しかし、これに黙っているお父さんではない。誠凛のファーストプレーは日向の3P。しかしこれをブロック。叩き落とすどころかキャッチして見せた

 

「たっか!」

 

「なんだあれ、ズルかよ」

 

誠凛ベンチの声である。火神がいながらお前らが言うなという話だ

 

「あれ?誠凛さんってスポコン系?」

 

「何?」

 

「よくいるんだよね。助っ人外人ズルい、みたいなさ。何が悪いのって感じ。別にルール破ってねえし」

 

「まあ、二人までならベンチ入りOKだしな」

 

「そゆこと。楽だぜ?アイツにボール入れてたら勝手に点入るんだ」

 

「なるほどね、そういうポリシーなら、文句言うなよ?」

 

「あん?」

 

「楽かは知らねえけど、うちにもいるから、ズルみたいなやつ。別に呼んだわけじゃないんだけどな」

 

「はあ?」

 

一人の選手に依存したワンマンチーム新協学園、そのキャプテン谷村祐介。彼がこの言葉の意味を理解するのにそう時間はかからない。新協の攻撃、当然のようにお父さんにボールを入れる。1on1、マークは火神

 

(オレと、同じくらい、身長ある…)

 

しかし、彼にできることは、そう多くない。ワンフェイク入れてからのジャンプシュートを選択。しかし、シュートを放つ前に火神がボールを奪い取った

 

「スティール!?」

 

新協は、お父さんが止められた時のことなど考えてもいなかった。考えていたとしても、火神には追いつけなかっただろうが

 

(公式戦一発目、名刺代わりに景気いいのいっとくか!)

 

下手投げでボールをバックボードに向かって放る

 

(お、火神、あれをやる気か?)

 

ミニゲームで既に見ているため、誠凛の選手ある程度察していた。ただあの時のダンクとは高さが違う。火神のフルジャンプから繰り出されたワンハンドトマホークは、会場を熱狂の渦に突き落とした

 

「なんだありゃあ!?」

「高…すぎるだろ!」

 

「見てたか日向?顎がリングの高さまで来てたぞ」

 

「見てたよ。派手にいったな」

 

これには新協学園、盛大に取り乱していた

 

(ふざけんな、なんだ今の…。パパは止められるし、一体どうすれば…)

 

あえて言おう、どうにもならない。この後の試合は火神劇場に終始した。黒子は出番すらなく、終盤は火神も体力温存。理想的な試合運びで一回戦を突破した。火神のスタッツはというと

 

46得点 12リバウンド 5アシスト 2スティール FG71%

 

(スリーも二本決めれたし、こんなもんだろ)

 

本人も余裕綽々といった態度である。一方お父さんは

 

5得点 4リバウンド FG29% 4ターンオーバー

 

彼にとって日本で初の公式戦はほろ苦いものとなった。だが、これをきっかけにバスケをやめるようなことはないだろう。なぜなら

 

「もっとパワーつけてこいよ。またやろうぜ!」

 

「日本、バカにしてた。ごめん」

 

ライバルができたから。力の差を見せつけど、常に全力で楽しむ火神のバスケは決して心を折ったりはしない。奮い立たせて、また強くなる

 

 

100-27

誠凛高校勝利

 

◆◇◆

 

ここから誠凛高校の快進撃が始まった。二回戦、対実善高校136-42で圧勝。三回戦は昨年ベスト16、攻守のバランスの良さに定評のある金賀高校と当たるも113-62で一蹴。ちなみに黒子は初戦を除き一秒も出ていない。目立ってはならない彼の特性上仕方ないのだが、本人はずっとウズウズしている。これにはリコも

 

「順調…ね。知ってたけど」

 

この反応。そして四回戦

 

「四回戦か、ここまで来ると苦戦するかもな」

 

「おいおい、今日の相手は誠凛だろ?」

 

「去年の決勝リーグはボコボコにされてたもんな」

 

「余裕だろ、新設校がまぐれで勝ち進んだだけだよな」

 

なんの因果か、先日黄瀬と共に粉砕したストバスコートの不良集団である

 

「今年は俺たちがボコボコに…」

 

「よう、あれから練習したか?」

 

(((((されますね!!!!)))))

 

142-21で瞬殺。慈悲はない。今しがた倒した名城高校には悪いが、本日のメインイベントは他にある

 

「来たぞ、三大王者」

 

「秀徳高校…!」

 

ギャラリーを埋め尽くさん勢いで応援をするオレンジのジャージ、観客も待ってましたとばかりに大歓声をあげる。同日同会場で、秀徳の試合があるのだ

 

「て、こ、と、は…いたいた!緑間。ちょっと挨拶いってきます」

 

「ああ…え?おい!」

 

あまりにも自然に立ち上がったので反応が遅れた

 

「よう、こないだぶりだな」

 

「…火神か、順調なようで何より…いや、お前ほどの選手に黒子もいれば、負けるはずがないか」

 

「絶対に負けない試合なんてねえよ」

 

「かもしれないな。だが、俺は常に人事を尽くしているのだよ。万に一つも油断はない」

 

「いいねえ、先輩達のリベンジもかかってんだ。そんくらいじゃなきゃ困る」

 

「リベンジ…か、お前に負けることはあっても、他の有象無象が力になることはないのだよ」

 

「…なんだと?」

 

ここに高尾が割って入る

 

「誠凛さんでしょ?先輩から聞いてないの?去年、おたくの高校は三大王者全てにトリプルスコアでズタズタにされてるんだぜ?」

 

「はっ!そんなことかよ」

 

「?」

 

「過去の結果からできるのは予想までです。勝負はやってみるまでわからない」

 

「よく言った黒子!そういうことだ。先輩達だって去年のままじゃないぜ?それに…」

 

「…それに?」

 

「今年の誠凛には俺がいる」

 

緑間と高尾の背筋に寒気が走った。火神が加入したことによる戦力の増加、文面だけで見ればただそれだけだが、他の意味が込められていることを、二人は直感的に理解した

 

「…やはり、面白い!決勝で会おう」

 

「まだ試合残ってるだろ?」

 

「さっきも言ったろう?万に一つも敗北は無い。それはお前達もなのだよ」

 

「だからわかんねえって言ってるだろうが」

 

王と天才は握手を交わした。お互いに、相手の勝利を微塵も疑っていない

 

「火神、黒子、見ていくといい」

 

「言われなくても」

 

「そのつもりです」

 

◆◇◆

 

「前半残り四分でもう30点差か…」

 

「しっかりしたバスケだ。基礎に抜かりがない」

 

強豪になればなるほど、基礎基本の精度が高い。投げる、走る、取る、バスケにおいての根が強固でなければ、全国で戦うことなどできない。そして、その舞台で勝利するためにはそれ以上の武器がいる。去年までの秀徳にとってのそれは、インサイドを支配する絶対的な得点源の存在

 

「うおお!また大坪のダンクだ!!」

「本当に高校生かよ…」

 

「去年はアイツ一人で手に負えなかったもんなあ」

 

「また一段とパワフルになってるわね」

 

加えて今年は、『キセキの世代』No. 1シューターがいる

 

「今んとこ5/5か」

 

と火神がつぶやく、これに小金井が反応した

 

「マジ!?やっぱ凄いな、絶好調じゃん。な、黒子」

 

「そうなんですか?」

 

「え?いや俺は分かんないけど…、黒子ならわかるんじゃないの?」

 

「さあ、彼が外したところ見たことないので」

 

「…は?」

 

大坪を止めるべくインサイドを固めた相手に、容赦なく6発目の長距離砲が放たれる。芸術的な高いループを描いたシュートは寸分違わずリングのど真ん中に着弾した

 

「はっはあ!しかも入るの確認せずに守備に戻ってやがる。自分でも落ちるとは思ってねえなアイツ」

 

「緑間君は、フォームを崩されない限り100%決めます」

 

結局この日の緑間のスリーは17/17。単独で51点を叩き出し、チームも153-21で勝利した

 

「外はもはや中以上の得点源、去年までが可愛く見えてきちゃうわね」

 

リコにそう言わしめるほど、圧倒的だった。外を警戒すれば中が手薄になり、中を警戒すれば外が空く。シンプルでいて最も止めづらいオフェンスである

 

「うっし!俺たちもダブルヘッダーだし、準備すっか」

 

そうダブルヘッダー、東京都予選の四回戦と五回戦、準決勝と決勝は同日に行われるのだ。…まあストリートで一日中バスケをしていた火神にとっては大したことではないが。当然のように五回戦も相手を圧倒した誠凛、108-49で勝利し、準決勝に足を進めた

 

次回、王者へのリベンジ

 

 

 




次回は今回より短めになるかもしれませんが正邦戦やってその次で秀徳戦突入の予定です

今後の黒子はどうしていくべきだと思いますか

  • 原作初期通りの「幻の六人目」
  • 原作終盤の自力で攻めれる攻撃フォルム
  • あえて守備にブッパしたスティール王
  • それ以外(メッセージかTwitterで)

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