火神に憑依したっぽいのでバスケの「王様」目指す 作:Dice ROLL
正邦高校、東京三大王者の一角にして守備力は最強と呼ばれている。そのカラクリだが…
「なんつーか、体の使い方にひねったりとかが無いっすね」
「うん、火神君の言う通り。これは古武術を応用したバスケよ」
「古武術?」
「例えば、ナンバ走りと呼ばれる右手と右足、左手と左足を同時に出す走り方があるわ。最高速度は出ないけど、その分疲れにくいのよ。他にもドライブの始動も独特ね。聞いた話だけど重力を使うイメージだとか」
「なるほど。独特な体捌きと疲れにくい走法による平面の守備力が武器って訳っすか…、あとは11番いいディフェンスしますね」
「一年生の津川君ね、あんまりデータはないんだけど…」
「中学の頃に対戦したことがあります。彼は一軍上がりたての頃の黄瀬君を抑えました」
そうして分析をしている間に試合が終わった。71-12、バスケットボールというスポーツにおいて、失点12は異常な数字である。全てが2点のゴールだったとしても6本しかゴールを許していないのだ
「派手なブロックとかはないが、その分安定した守備力。その上ディフェンシブエース候補のルーキーが入ってんのか」
「そう聞くとやばいな」
悲観的な言葉は口にしても、二年生達は諦めたような素振りは一切見せない。去年の雪辱を果たす。だが、後輩におんぶに抱っこというわけにはいかないという先輩の意地。ちなみに意地では一円も稼げない。酷使の被害にあったDVDは擦り切れ、プレイヤーは何も映さない置物に成り下がった
◆◇◆
試合当日、しかもダブルヘッダーで初戦を突破したとしても『キセキの世代』が待っている
「なにこのボスラッシュ」
「何言ってんだコガ」
入念にアップを行うが、やはり他所も気になるらしい。対戦相手の正邦はもちろん、対面では秀徳もアップを行っている。気にするなというのが酷な話だろう。それは向こうも同じらしい。火神と緑間の目が合った。緑間は不敵な笑みを浮かべるとシュートを放つ。当然成功。これを受けて火神も魅せる。スリーポイントラインから3歩ほど下がると、その位置から決めてみせた
「ダァホ!喧嘩売る相手違えだろ!」
「すんません!キャプテン!!」
足早に通常のアップに戻る火神。ちなみに緑間は一日3回の権利を行使した。この試合前の喧騒に、正邦も参加する
「お!君が火神君でしょ?」
「ん?」
「へえ〜、髪赤え〜!キャプテン!こいつっすよね?誠凛クソ弱いけど一人だけやばいのいるって」
「あ゛?」
火神の喉からドレッドヘアーの天才アメフトマンのような声が出た。すかさずキャプテン岩村、津川の後頭部に一発入れる
「すまんな、コイツは空気読めないんでな。すぐ本音が出る」
「あ゛?」
「謝んなくていいっすよ。勝たせてもらうんで。去年と同じだと思ってたら泣くっすよ」
火神が何か言う前に日向が遮った。これは俺たちの喧嘩だと言わんばかりである
「それはない。お前らが弱かった、それだけだ。木吉のいないお前達に負ける気など毛頭ない」
火神にもいくつか地雷があるが、日向にとって、いや誠凛二年生にとって最大の地雷を踏み抜いてしまった
(木吉さん…去年ファーストオプションだった7番のCか…。ミニゲームの時にキャプテンが怪我したって言ってたな)
「お前ら、勝つぞ」
「「「「「おう!!!」」」」」
「…試合の前に一個、言っときたいことがある。正邦は強い、ぶっちゃけ去年の大敗で心折れたし、もうちょいでバスケ辞めるところだった。…でも!去年と同じには絶対ならない。それだけは確信できるくらい、強くなった自信があるからな。それに、頼りになりすぎるルーキーも入ったんだ、後は勝つだけだ!いくぞ!!」
開戦の笛が鳴る
誠凛は様子見から入ることにした。というのも津川のマークが誰につくかを確認したかったのである。ここまでの試合はエースとのマッチアップを担当してきた彼だが身長は180cmと流石に火神に付くには心許ない。とはいえチーム最高身長はキャプテン岩村の187cm。であれば割り切って津川が来る可能性もあると踏んだわけである。当然ダブルチーム以上も考えられるだろう。豊富な運動量を誇る正邦であればゾーンディフェンスも考えられる
(ゾーンじゃない…入りはマンツーできたか。なら!)
司令塔伊月の選択は、最強の矛でぶち破ることだった。火神の1on1、相手は津川
「その身長で俺とやろうってか?」
これは身長を鼻にかけた発言ではない。どうしても身長で劣るプレイヤーがディフェンスしきることは難しい。1on1なら尚更である
「うん!止めるもんね!」
火神は思考する
(なんだ?止める可能性が1%もないと思っているならわざわざ最初のワンプレーを犠牲にするのはあり得ねえ。てことは、少なく見積もっても『ひょっとしたら止められる?』くらいの何かがあるはずだ…。向こうもノーデータで来てるってことはねえだろ。パワーでもスピードでも高さでも負ける相手を止める方法…まてよ?コイツは始めたての黄瀬を止めたんだったな。なら、初心者じゃ対応しにくいやつがあるってことだろ!)
火神は津川の狙いに当たりをつけた。そして、ボディフェイクを交えつつドライブ…と見せかけてステップバック、3Pを放つ
「まじ!?」
そのシュートはバンクショット(バックボードに当たって入るシュート)になり、見事3点を得た
「大方、チャージング狙いだろ?ファウルアウトさせちまえばどんなエースも怖くねえし、それならバスケに慣れてなかった頃の黄瀬に初見殺しかませるよな」
(あのスピードからステップバックって、しかもバンクショットのスリーとか…どんな体幹と筋力してたらできるんだよ!?しかもオフェンスファウル貰いに行こうとしてたのバレてるし…)
現代バスケにおいて、必殺技のように使われているステップバックスリー。ダブルステップバックなどの荒技もあるが、火神のそれの特徴はフィジカルの強さと一歩の大きさ。パワープレーを警戒しているところで一歩で距離を引き剥がす。これに火神の天賦のバネが組み合わされば、正史においてはもう少し後に日向が身につける『不可侵のシュート』をも凌駕する
「すんません!こいつ、一人じゃ無理っす!」
「諦めるの早いな!?…だが、お前が言うならそうなんだろう」
正邦のオフェンス、副キャプテンにしてPGの春日がコントロールする。独特なリズムのカットにドライブ、結局一番通してはいけない相手、岩村をフリーにしてしまった。簡単なゴール下を許す。攻守交代
「伊月先輩、ゾーンディフェンスは多分ないです。体力に任せて激しめのマンツーでくるっすよ」
「だな、どうしたい、火神?」
「…このまま1on1でもいいっすけど、手の内晒すのも体力使うのもダブルヘッダーなんで良くないっす、連携ガンガン使っていきましょう」
「OKだ」
誠凛の攻撃、再び火神で来るかと思いきや、伊月がボールを運び、トップの位置から指示を出している。そして、彼の『鷲の目』が完璧なタイミングを捉えた
「行かせるかっ…!スクリーンか!?」
火神がスクリーンをかけ、春日を突破する。ちなみに彼は後に
「ぬりかべかと思った」
と語っている。それはさておき、伊月のレイアップを阻止すべく、岩村が跳ぶ。だが、それが狙いである。シュートではなくロブパス、津川の平面ディフェンス力がいかに優れていようが、空は火神の支配領域である。豪快なアリウープダンクが炸裂した
「くそっ!アリウープ…その前の動きはピックアンドロールか…!」
ピックアンドロール、バスケットボールの連携としては最もよく見る基本的なプレーにして、その実破壊力はかなりのものである。ボールハンドラーのマッチアップの選手にスクリーンをかけ、空いたスペースにドライブ。ゴールが空いていればそのままシュート、チェックにきた場合はスクリーンを担当した選手にパスが通る
「見ましたか?笠松先輩。いい連携だったっすね」
海常から黄瀬と笠松が偵察に来ていた。自分たちを負かした誠凛と、東京三大王者の試合を見に来たのである
「ああ、誠凛の5番と23番、ピックアンドロールにおいては最強のコンビかもな」
「なんでっすか?」
「ピックアンドロールを行う上でハンドラーに求められるのは視野の広さとタイミング、スクリーナーに求められるのは決定力の高さだ。前回の対戦でなんとなく分かったが、あの5番はどうもコートを俯瞰しているようなプレーをしやがる。23番の決定力についてはお前が一番知ってるだろ?」
「なるほど、それは手強いっすね」
そして、試合は誠凛ペースで進んでいく。守備が売りの正邦だが、現状火神と伊月の連携を止められない。なんとかインサイドを固めても、二人揃ってパスの名手だ。外がガラ空きになることは死を意味する。現状、古武術の独特なリズムに対応できていないため、ある程度点は取れているが、誠凛を上回る効率を叩き出すことは至難の技である。ジリジリと点差は開く。しかし、ディフェンスの統率が乱れたその時、正邦を影が襲った
「どうなってんだよ!?」
「ボールが空中で曲がってる!?」
ただのピックアンドロールも黒子が絡めば変幻自在のオフェンスに早変わり。某マヨネーズの会社びっくりの高速クッキングで、そこからはひたすらに突き放し、前半を67-34で折り返した
「うん!上出来!黒子君、火神君、後半は休んで貰うわ」
「っ!なんでっすか?」
これに日向が割って入る
「体力温存もそうだが…、あんだけリベンジマッチだって息巻いて、後輩の力で勝っても喜べねえだろうが。つまるところ、先輩の意地だよ」
こう言われては、後輩諸君は何も言えまい。後半戦は二年生オンリーで戦うことになった
◆◇◆
「あらら、二人ともいなくなっちゃったか…。ちょっと物足りないけど、いっか!」
「ガタガタうるせえぞ茶坊主が」
「ひぃ!?」
「今からてめえに先輩への口の利き方を教えてやる」
後半最初の誠凛のプレー。先程トラッシュトークであったまった日向がレイアップ…と見せかけてパス。これを水戸部がダンクでフィニッシュ
「ナイスダンク水戸部!」
「…おい、聞こえていたぞ。秀徳を倒すつもりらしいな。うちも舐められたものだ。『キセキの世代』だかなんだか知らないが、ポッと出の奴らにシード枠を奪われた挙句、無名の新設校に負けるなどあってはならないのだ!!」
そう、彼らにもプライドがある。王者として、過去10年間東京代表を務めてきた。それがどうだ?まだ実績を残していない高校に凄いらしいルーキーが入ったと言うだけでシード枠を追われ、あまつさえ昨年できたばかりの高校に負けようとしている。そんなことは、許されない。…だが
(チクショウ、控えの雑魚かと思ってたが…こいつら!)
「ナイッシュー、コガ!」
小金井はどこからでもシュートが打てるという能力に加え、火神からのアドバイスでシュートの成功率を向上させていた。スリーにミドルに縦横無尽の活躍である。さらに…
「まじか!あの9番、岩村を止めやがった…!」
正史においては、リバウンドが得意、以上!という選手としてはかなり残念なキャラ付けだったが(代わりにめちゃくちゃ可愛い彼女がいる)、この世界においてはリバウンドの嗅覚や、ポジションどりのセンス、パワーを見た火神にディフェンダーとしてのセンスがあると煽てられ、徐々にその力を向上させていた。ちなみに彼女はちゃんといる
「どうだオラァ!」
ちなみに何故か性格が少し荒くなる。火神は
(なんかパレスとかの方で騒乱起こしそう…)
と、その未来を危惧していた。守備のスタイルもよく似ている
(まずい…。点差が縮まらない…ここまでか)
万事休す、正邦の勝ちの目は、消えた
「冥土の土産だ、受けとりやがれ」
試合終了直前、日向がディープスリーを放つ。その軌跡は見たものに入ることを疑わせないような、美しいものだった。試合終了112-79、圧勝である
「火神大我、名前覚えたからな」
「俺は最初っから知ってるぜ、津川智紀。またやろう!」
ベンチでは感動に瞳を潤ませるリコ。去年の雪辱を果たした二年生は、いっそう頼もしい表情をしていた
「…あっちも、終わったな」
113-38、秀徳の勝利。こうして、役者は揃った
次回、開幕秀徳戦
土田先輩のキャラ崩壊が…
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