火神に憑依したっぽいのでバスケの「王様」目指す 作:Dice ROLL
最終4Q、その開幕を告げたのは『キセキの世代』緑間真太郎の長距離砲。この試合で初めて見せたクイックリリースは0.5秒だったが、今のシュートは0.46秒。確実にその速度も進化していた
「これで点差は一桁。来るとこまで来やがったぜ秀徳!」
「そうっすね、緑間っちがいることも考えればスリー三本で同点ってなると現実的に逆転もみえてるっすよ」
だがそう簡単に勝機を見出させてくれるほど、火神大我は甘くない。ドライブで緑間を引きちぎると、大坪からファウルを貰いながらもシュートをねじ込み三点プレーを成立させる
「…いつになったら疲れ始めるのだよお前は」
「48分間だってやり切ってやるさ。それがエースだ」
「8分はどこから持ってきたのだよ」
「…いけね、気が早かったぜ」
両エースの死闘。3Qは5/6で決めていた緑間のスリーも、4Qでは既に二本外して3/5。対する火神は、帰ってきた黒子との連携を中心に全てのFGを成功させていた。ただし、その全てが3Pであるため4/4で決めている火神と総得点は変わらない
「何をどうしたら一試合でスリーが11本も入るんだよ。ふざけやがって」
試合終了まで残り5分を切った。二人のエースが得点を奪い合い、周りの選手はそれを全力でサポートする。地区大会の予選とは到底思えないほどの熱気が会場を包んでいた。しかし、そんな白熱した試合は唐突に終わりを迎えた
「っ!真ちゃん!!!」
「緑間!!」
「緑間君!」
長距離砲を沈め続けていた天才がコート上に崩れ落ちた。緑間真太郎の身体が限界を迎えたのだ。彼にとっては、初めて真の意味でチームを背負い、今までにないシュートを幾度となく沈めてきた。だが、彼の才能に、まだ身体は追いついていなかった。前半もシュートの試投数こそ少なかったとはいえ、かつて無いほどの好敵手と争っていた。更に長らく経験してこなかった敗北の香りは想像を絶するスピードで彼の体を蝕んでいた
「…不甲斐ないな。最後まで立っていることすらできないとは…」
「不甲斐ない訳あるか!最高だったよ緑間真太郎。まだ試合は終わってねえんだ、ベンチから応援してな。それに、これから三年間、同じ地区で幾らでも対戦の機会はあるんだ。今日負けたとしても、またその手でリベンジしに来い!」
「…お前は敵だろう、なぜ俺に肩を貸す?」
「水臭えこと言うなよ。ライバルだろうが、こんな時くらいいいだろ」
「最後までコートに立っていた方が勝者だ。最後の瞬間を迎えることすらできないとは、自分に嫌気が差すのだよ」
「…分かってんじゃねえか。だから強くなるんだよ」
緑間真太郎の地区予選決勝はここで終わった。33得点、11/14。王者秀徳のエースの名に恥じない活躍だった
「…おい、まだ終わってねえぞ。火神!」
「当たり前だ。試合終了の笛が鳴るまで何が起こるか分からないのがバスケットボールだ。な、黒子?」
「はい。ひょっとしたらこっちのベンチに隕石が落ちるかもしれません」
「…流石にそれはないだろ」
とはいえ、緑間抜きでやりあえる程誠凛は甘くない。今までゴール下を支えてきた大坪を火神が完封した。得点源を失った秀徳が残った5分弱であげた点数は、高尾の2点のみに終わった。
「試合終了!!」
白熱した戦いだった。それでも残された結果はまた一人、天才の手が火神の背中に届かなかったと言う事実だけだ
「結局、誠凛の勝ちか…」
「98-75…。内容からはあり得ないくらいの大差っすね。しっかし、緑間っちがけちょんけちょんにやられるか〜。遠いっすね、火神っち。黒子っちもまだ出してないやつあるしな〜」
「おいおい、10番もまだ本気じゃないってのかよ…。黄瀬、火神のボックススコア、どうだった?」
「38得点、7リバウンド、17アシストっすね。FGは12/15でぴったし80%っす。あとは0ターンオーバー」
「40点近く取りながら17アシストか…。末恐ろしいな」
「この試合は明らかに司令塔に徹してたっすからね。どっちかっていうと17アシストあげながら38点とってるんすよ」
「…バケモンが」
◆◇◆
試合後の会場の外で、緑間真太郎はやまない雨に打たれていた。久しぶりの敗北の味。全力以上をぶつけても超えられなかった相手
(まるで、俺の心情を写しているような雨だな)
頭脳明晰な彼ならではの感想である。かつてのチームメイト達では、一人を除いてこんな考えは浮かばないだろう
(いや、黒子も読書家だったな)
不意に、彼の携帯が着信を知らせる。感情に任せて切ってやろうかとも思ったが、理性がそれを止めた
「はい」
『あー!みどりん?ひっさしぶりー!どうだったー試合?勝ったー?負けたー?ねえ、どうだったの?あのねー、こっちはー、んにゃっ!?』
今度こそ切った。懐かしい、心当たりしかない声の主。今は聞きたくない声だった。桃井さつき、かつて帝光中の男子バスケットボール部でマネージャーを務めた経歴を持つ。そして、もう一度コール音が響く
「なんなのだ…いいかげんに…」
『んだよ、暗ーなぁー。さてはあれっしょ、負けちゃった?』
「…青峰か。…そうだ、せいぜい決勝リーグでは気をつけるのだよ」
『はーいー!?何言ってんだよ、キモイって!オレを倒せるやつなんざ、オレしかいねーよ』
傲岸不遜。青峰大輝、『キセキの世代』ナンバーワンスコアラーにしてエース。黒子テツヤのかつての『光』である。緑間としては、火神の存在を伝えてもよかったが、何かと馬が合わないこの男が驚く様を見たいと言う思いが過った
「…相変わらずだな、青峰。分かっているのか?つまり決勝リーグで黒子と戦うと言うことなのだよ」
結果、隠した。まあ、桃井がいる以上時間稼ぎにしかならないことは分かっていたが
『なんか勘違いしてるぜ、昔がどうでも関係ねーよ。今は敵だ。…じゃあ、切るぜ』
『みどりーん!落ち込んでる時にごめんねー!元気だし…んにゃっ!?』
切った
「お前もせいぜい天狗の鼻を折られるといい。上には上がいるのだよ、青峰」
緑間は一人ごちた。雨はまだ止まない
◆◇◆
「よしっ!お疲れ様、帰るわよ!はい支度!!」
「うっす!」
火神は元気よく返事をしたが…
「…いや、ちょっとごめん…まじ待って」
ゾンビ…もとい日向の声がした
「二試合やってんだぞ、しかも王者」
「あ、ごめん…でも、いつまでもここにはいれないし、どこか近くのお店に入ろうか」
◆◇◆
結果、お好み焼き屋に行くことになった
「すいませーん」
「あれ?お客さん多いね」
「11人なんですけど…」
「ちょっと多いかな…」
リコが席の確認をしているその時、火神は見知った顔があることに気づいた
「よう、黄瀬に…笠松さん、ですよね?」
「火神!?なんだお前らも来たのか」
「うぃっす」
「あれ?お客さん達知り合い?相席してもらえたら席足りるけど…」
こうして、黒子、黄瀬、火神、笠松と言う世にも奇妙な卓が出来上がった…さらに
「おっちゃん、席空いてる?…ってあれ?」
「高尾と緑間!?」
神様の悪戯か、秀徳一年コンビ参戦。店を変えることも考えたが、外からはどう考えても危険な雨音…もとい暴風雨音がした
「…あれ?もしかして海常の笠松さん?」
「なんで知ってんだ?」
「月バスで見たんで!全国でも好ポイントガードとして有名人じゃないっすか!同じポジションとして話聞きてえな〜。ちょっと交ざっていいっすか?こっちの席で話しましょうよ〜」
高尾が笠松を誘導して別卓へ。結果として空いた席に緑間が座る運びになった。笠松アウト、緑間イン。こうして世にも奇妙な卓は、一層カオスになった
「あの席パネェ!!!」
「お前…あれ狙ったろ?」
「え〜、まっさかぁ〜」
白々しい高尾の演技である
「緑間、身体大丈夫か?」
「ああ、万全とはいかないが自力で歩けるくらいにはなったのだよ」
「ちょっと緑間っち!機嫌悪過ぎっすよ。昨日の敵はなんとやらっす」
「負かされたのはついさっきなのだよ!むしろ、お前がヘラヘラ同席している方が理解に苦しむのだよ」
「そりゃあ…当然リベンジするっすよ、インターハイの舞台でね。次は負けねえっすよ」
「はっ!望むとこだよ。あれからちゃんと練習してんのか?」
「もちろんっすよ。それに最近、海常のみんなとするバスケが、楽しいっす」
「前にも言ったけど、気づくの遅えよばーか」
「酷いっすよ!?」
黄瀬は確実に成長していた。そして何より黄瀬のオールラウンダーな才能は、海常の総合力を格段に高めていた
「…お前がどう変わろうが勝手だが、俺は楽しい楽しくないでバスケはしていないのだよ」
「…試合中に楽しませてくれるなっつってただろうが」
「うっ…」
「ははっ!緑間っちそんなこと言ってたんすか?…でも分かるっすよ。こいつとやってると、自分のやってきたバスケがいかに小さかったか、分かるっすよね」
「珍しく同意なのだよ。俺も間違いなく成長できた。今日は先に帰らせてもらう。次は青峰だな、お前が負けるとは思わないが、頑張るのだよ」
「俺、たち、だ。お前もずっと黙って飯食ってんじゃねえよ黒子」
「すみません。美味しかったので」
「…そうだな。金は置いていく」
「緑間君。また、やりましょう」
「…当たり前だ。次は勝つ」
誠凛高校、決勝リーグ進出。その過程で倒した敵も敗北を知りまた強くなる
次回、桃井の偵察
先に言おう。青峰はボコすと。早くピュア峰に戻すのだ。
今後の黒子はどうしていくべきだと思いますか
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