火神に憑依したっぽいのでバスケの「王様」目指す   作:Dice ROLL

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どうして多重人格という設定はこうも厨二心に刺さるのか。今まで根武谷を全部根武屋にしてました。申し訳ない


35話 日本一

タイムアウト明け、洛山高校ボールでの再開

 

(なんだ?何か違う…赤司の雰囲気が…、『ゾーン』はたしかに切れてる…これは?)

 

今日何度目かも分からない二人の1on1。赤司のレッグスルーしながらのクロスオーバー、火神もこれに反応する。しかし

 

「スピン!?ここまで一度もなかったろうが…!」

 

この日初めて見せたスピンムーブで火神を突破する。しかし、そう簡単にゴールは譲れない。すぐさま体勢を立て直し、ブロックを狙う…だが

 

「パス…こんにゃろ、急にどうしたってんだ!」

 

根武谷への芸術的なパス。流石の火神もこれには追いつかない

 

「よっしゃあ!」

 

「いいダンクだ根武谷。ポジショニングも完璧だ」

 

(!?、赤司が俺にエールだぁ?しかも今のパス、位置もタイミングも完璧じゃねえか…ノらせてくれるぜ!)

 

「久しぶりだね…黒子」

 

「!?」

 

「久しぶり?何言ってんだアイツ…」

 

「不味いかもしれません…。恐らく、昔の赤司君に戻っています」

 

「昔の?どういうことだ?」

 

「話すと長くなるので手短にいきますが、あのパスファーストのスタイルが元々の赤司君のスタイルなんです。ある出来事があってからまるで人が変わったようになって、さっきまでのスタイルになっていたんですが…」

 

「このタイミングで戻ったってことか…。同じ司令塔として嫉妬しちまうくらいのパスだったぜ。でも、アイツにしかできねえこともあれば、俺にしかできねえことだってあるよな。黒子、頼むぜ」

 

「はい、行きましょう。火神君」

 

赤司の変化に気づいたのは黒子だけではない。かつてのチームメイト達も同様に驚愕していた

 

「うっわ、今のパスで気づいちゃったっす」

 

「あれは…俺たちが受けていたパス」

 

「赤ちん、ひょっとして元に戻った?」

 

「さつき…気づいたか?」

 

「うん。昔の赤司君みたいだった…」

 

「だな。テツ、火神、こっからが本番だぜ」

 

誠凛のオフェンス、残り時間と四点差という事実を考えると一つのミスが命取り。司令塔の火神にかかるプレッシャーは並大抵ではない

 

(すっげ、今にも手震えてきそう…。でも、昔の俺じゃ考えられなかった。全国大会の舞台で、優勝候補筆頭相手にエースやってるんだぜ?俺も、俺なりに楽しまなきゃ損だよな!!)

 

「えっと、初めまして、でいいのかい?」

 

「ああ、さっきまではすまなかったね。色々と失礼な言動を許してくれると嬉しい」

 

「お前に怒る道理はねえさ。弟の失態で兄貴に当たるのもおかしな話だろ?」

 

「!?。フフッ、君は本当に面白いね。願わくば中学の時に出会いたかったよ」

 

「ああ。俺ももうちょっと早く帰ってきとけばよかったと思ってるよ!」

 

火神が動く。ドライブを狙うが、先程までのキレが無い。赤司は振り切れず、ヘルプの葉山まで追いついている

 

「ありがとよ、来てくれて」

 

火神得意のビハインドザバックパス。だが、既に『王の時間』に入るだけの体力は残っていない。それでも、同じ司令塔として、『彼』ならそこに来てくれると確信していた

 

「伊月先輩ッ!!」

 

「ああ、任せろ」

 

伊月のミドルシュートが決まる。再び二点差

 

(火神のやつ、俺がここにくると分かってたな。さっきの赤司のパスとはまた違うが、どっちも思わず嫉妬しそうになる…最高のパスだ)

 

「そういえば、こいつもそうだったっすね。ストバスコートで一緒にやった時を思い出すっすよ。一番やりたい動きをさせてくれる赤司っちのパスと、一番やりやすい状況を作ってくれる火神っちのパス…甲乙つけがたいっすねえ〜」

 

「?、何が違うんだ?」

 

「多分、見てるものが違うんすよ。司令塔としての能力とか、パスの技術とかはほぼ互角。だけど赤司っちは『人』を見てパスを出してて、火神っちはその先の『空間』を見てパスを出してる。100%を出させてくれる赤司っちのパスと、80%でも点を取らせてくれる火神っちのパスって感じっすかね」

 

「なるほど…そりゃたしかにどっちが上かなんて決められねえな」

 

二人の超高校生級の司令塔の戦いは、見るものに衝撃を与えた。そして、お互いになんとなく理解していた

 

「「これに勝った方が日本一のゲームメイカーだ」」 

 

ここから、完全に点差が硬直する。残り5分強からお互いにシュートを落とさない。実渕のようなスリーや、葉山のようなドライブ、根武谷のようなダンクは誠凛には無いが、伊月や小金井がミドルレンジで奮闘し、想像もつかないようなパスコースを黒子が作る。当然ながら

 

「勝つのは…俺だ!洛山を討つなど、100年早い!」

 

アンクルブレイクから赤司がシュートを沈める。今の火神の体力では、一度目の切り返しを耐えることすらままならない。それでも

 

「そんなに待ってられるか。100年分前借りで頼む」

 

黒子のリターンを受けた火神のフェイダウェイジャンパー。エース対決すらも譲る気はない両者の対決

 

(凄えな、赤司征十郎。味方の100%を引き出すことで、擬似的にゾーンに近い状態にしてんのか…。とてもじゃねえが真似できないな。司令塔としてはある種完成形に近いぜ)

 

(火神大我、本当に素晴らしいゲームメイカーだ。味方をゾーンに入れる都合上、どうしても体力の限界を見て調整しなくてはいけない俺のパスと違い、味方の体力の消耗を最小限に抑えながら得点を重ねている。司令塔としてはなんとか互角だが、それ以外の要素では敵う気がしない。だからこそ、俺は彼を倒したい!)

 

誰もが、ずっと見ていたいと望むようなこの勝負。だが、時計の針は止まらない。とうとう残り時間は1分を切った。89-89、未だイーブン

 

「そろそろ、止めさせてもらうぜ赤司」

 

「させる訳がないだろう。ここも決めて俺達の勝ちだ」

 

(もう、赤司は1on1に拘る事はない。そのコートビジョンで黒子も捉えてる。なら、超えるしかない、赤司の思い描いた俺を!!)

 

(これは、突破は不可能だな…。だが、必ずパスコースは開く!)

 

赤司から葉山へのパス。そこは、葉山が一番得意とするエリア

 

「俺を止めたかったら火神か9番持ってきな!」

 

伊月が抜かれる。だが、火神の、黒子のヘルプが間に合った。三人で囲う形になるが

 

「だろうな、分かってたよ!レオ姉!!」

 

「ここで…パスかよっ!」

 

三人を引き連れてのキックアウト。実渕がスリーポイントを決めるべくシュートフォームを取る

 

「させるかァッ!!!」

 

日向がこれを防ぐべくブロックに跳んだ…だが日向の顔から血の気が引いた

 

(しまった…!『地』のシュート…、ここで四点プレーなんて決められたら…終わる…ッ!)

 

「なんて心臓してるのよ…実渕礼央…」

 

日向もリコも諦めかけたその時、一人の男が誠凛を救った

 

「嘘…他の選手全員フリーにして、私のところに来たっていうの!?どうして!?」

 

「勘!!」

 

「「「コガ(ねい先輩)!!」」」

 

この二人のマッチアップであれば、普通はブロックなどできない。だが、シュートフェイクの瞬間だけは、身長差は関係ない

 

「戻れッ!!速攻来るぞ!!!」

 

小金井が弾いたボールを日向がキャッチし前線へ運ぶ。だが、日向の走力ではどうしても追いつかれる

 

(チクショウ…俺じゃあ決めきれない…どうする…)

 

「キャプテン!!!」

 

後ろから、エースの声がした

 

「頼んだ!火神ィ!!!」

 

火神も、万全とは程遠い状態。目の前には『剛力』根武谷永吉と、「キセキの世代主将』赤司征十郎

 

「絶対に止める!とうに限界を迎えているお前に決めさせてなるものか!!」

 

「皆の思いを背負って決めんのがエースだ!!限界なんて、幾らでも超えてやる!!!」

 

その火神の跳躍は、力強く、高く、そして美しかった

 

「タイガ…、本当に凄い弟だ。紛れもなく今日一番のジャンプだよ」

 

その跳躍から繰り出されたダンクを前に、二人にできることは何もなかった。ただ、届かない

 

「決まったあああ!!!!」

「すっげえ…ここにきてなんてダンクだ…」

「逆転!ついに誠凛の逆転だ!!!」

「いけるぞ!このまま勝っちまえ!!」

 

残り時間は40秒を切った。洛山、完全に後が無くなった

 

「落ち着け、一本返すぞ!!実渕、スリーを最優先で狙う。最大限の準備を頼む!!」

 

「ええ、任せて征ちゃん!」

 

しかし、そう簡単にやらせる誠凛ではない

 

「絶対止めろ!スリーだけは死んでも撃たせるな!!」

 

ディフェンス強度をマックスまで上げる。絶対に止める『死守』の体制

 

(まずい、実渕はおろかパスコースが開かない…、どうする!?)

 

 

 

『なぜ自分で行かない?』

 

「なっ!?」

 

『僕ならそうする。火神も言っていただろう。皆の思いを背負って決めるのがエースだと』

 

「そう…か!」

 

『決めてこい、僕の分まで全て乗せろ!!』

 

 

 

赤司の選択は、プルアップスリー

 

「打たせるか…しまっ!?」

 

はフェイクだった。スリーポイントでは一点差の逆転。だが、もし四点プレーが決まれば点差は二点。誠凛の再逆転の線が限りなく細くなる

 

「俺は…勝つ!!」

 

赤司がシュートを放つ。そして、ファウルを告げる笛がなった。洛山の思いを乗せた、誠凛にとっては絶望のシュートが…ゴールを射抜いた

 

「赤司ィイイイイイ!!!!」

 

「根武谷、はしゃぎすぎだ」

 

「そうだぜ永ちゃん。気持ちはわかるけど、まだ試合は終わってねえ。最後まで引き締めろ!」

 

「ああ、そうだな。すまねぇ」

 

この一発には、天才達も惜しみない賛辞を送る

 

「赤司っち、エグすぎるっすよ…。こんなもん決められたらどうしろって言うんすか…」

 

「ここで決めるか…赤司!流石、なのだよ」

 

「赤ちん、メンタル強いね〜。普通そのまま打っちゃうでしょ」

 

「赤司の野郎…!とんだ大勝負にでやがった!外したら終わりだったんだぜ!!」

 

「これは…タイガ達には厳しい状況だね…」

 

この局面で、赤司征十郎がフリースローを落とすはずがなかった。四点プレー成立。誠凛、最後のタイムアウトを使った

 

「…ハハッ!一周回って笑えてきたぜ…。勝ちたかったから決めてこいって事だろ、チクショウめ!」

 

「キャプテン、すいません。ファウルさえしなけりゃ…!」

 

「まったく、今日の試合内容で一個や二個くらいファウルしたところで、お前を責める奴なんている訳ないだろう」

 

「伊月先輩…」

 

「そうだ、俺はお前達が羨ましい。こんな試合ができて、そのコートに立ててるんだからな。だから、最後まで出し切ってこい!!楽しんでこーぜ」

 

「木吉先輩…!!」

 

「鉄平の言う通りよ!泣いても笑っても、次がラストワンプレー!!全部ぶつけてきなさい!!!」

 

「「「「「おう!!!」」」」」

 

「正直、延長になったら勝ち目は無いわ。狙うはスリー一本!!外したって死ぬ訳じゃ無いんだから、死ぬ気で決めてこい!!」

 

「いやどっちだよ」

 

全てが決まるラストワンプレー。勝利の女神が微笑むのは、誠凛か、洛山か

 

「火神と日向を全力でマークしろ!絶対に打たせるな!!」

 

下手に時間を残せば、再度洛山に攻撃の機会を与えることになる。故に、誠凛は限界まで時間を使う。狙うは逆転の長距離砲

 

(ダメだ…俺は絶対打たせてもらえねえ…!伊月先輩も小金井先輩もピュアシューターって訳じゃない…こんな状況じゃシュートは打たせられないッ!!もう…あの人しかいないッ!!)

 

日向はどこか違う場所にいるような感覚を覚えていた。火神へのマークの厚さを見て、ラストショットは自分だと直感していた

 

(あー、なんかフワフワすんな。緊張しすぎて頭おかしくなったか…。俺だってマークが薄い訳じゃねえ。俺に、決められるのか?普通にやったら無理だ…。こんな時、俺より凄い奴ならどうする?実渕なら、三種のシュートか…あんなもん咄嗟にはできねえな。火神なら、きっと誰も届かない打点でジャンプシュートを決めるんだろうな。あー、今から背伸びねえかな…。どっちも、俺には出来ない。じゃあどうする…、いや、まだいるだろう!アイツなら、あの『天才』…日本一のシューターなら!!きっとこうするッ!!!)

 

「…は?」

 

実渕礼央の思考が止まる。目の前のシューターは、自分をかわすために左右に揺さぶってくるはずと身構えていたところに、あろうことか全力でスリーポイントラインから遠ざかって行ったから

 

(何を…考えてるの…?まさか、あそこから打つ気じゃ!?)

 

「日向先輩ィッ!!!!」

 

火神は迷う事なく日向に託す。クラッチシューターとして知られる日向だが、ここまでの状況は流石に初めてだった。彼がシュートを打つべくフォームを取った場所は、センターサークルの丁度ライン上。ハーフコートラインの1.8m前

 

(遠ッ!遊び以外で打ったことねえぞこんな距離…)

 

だが、憧れと嫉妬混じりにビデオで、試合で、合宿で、脳裏に焼きつけたそのフォームを、日向の体は自然と取った。そして、全てが決まる運命の一発が放たれる。普段の彼からはありえない程高いループ、笛が鳴る。試合終了を告げる笛。もう、後は結果を待つのみだ。日向はフォロースルーをそのままにボールの行方を見守る。他の全ての選手が、観客が、固唾を飲んでシュートの描く軌跡を見つめていた。そして、ボールがリングに当たる。跳ね上がったボールは人々を嘲笑うかの如く、二度、三度とリングの上で弾む。…そして、ボールはゆっくりと、リングの内側に転がっていった。日向はフォロースルーのまま上げていた右手で、そのままガッツポーズを作った。試合終了、94-93。勝利の女神が微笑んだのは「誠凛高校」

 

「「「「「うおおおおおおおお!!!!!!!!!」」」」

「「「「「日向ァアアアアア!!!」」」」」

 

誠凛ベンチから全ての人間がコートに飛び込む。日向はポカンとした顔で自らに迫り来る人の波を眺めていた…が

 

「ちょっと待てぇ!殺す気かグボォ…」

 

飲み込まれた。会場も、熱狂の渦に包まれ始める

 

「…赤ちん、負けちゃった」

 

「タイガ…よくやったな。俺達も行くぞ、敦!」

 

「まじ…すか、なんかもう言葉出ないっすわ…」

 

「最後のシュート、みどりんみたいだったね」

 

「咄嗟に出たんだろうな、なんかムカつくけどよ」

 

「日向順平、一人のスリーポイントシューターとして、心の底から称賛しよう。素晴らしいシュートだったのだよ」

 

(俺は…負けたのか…)

 

赤司征十郎にとって、人生初の敗北の味は、ちょっとやそっとでは飲み込めそうにない

 

「…黒子、おめでとう。お前達の勝ちだ」

 

「赤司君…、ありがとうございます!またやりましょう」

 

「オイ!火神、大丈夫か!?」

 

「すんません…立てねえっす…」

 

疲労困憊、立ち上がることすらできない有様である。だが、そこに肩を貸す者が一人

 

「いい筋肉だったぜ、チームとしても筋肉としても、完敗だ」

 

「…根武谷さんもですよ…。プロテイン、何使ってるんですか?」

 

「海外から取り寄せている」

 

「後で聞け!先ずは整列だ!!」

 

インターハイ二回戦、大波乱が起きた。今後も語り継がれていくだろう『帝王』と『王様』の激戦は幕を閉じた

 

次回、黄は青に挑む

 

 

 

 

 

 




とうとう終わりましたよ。プロローグを投稿する前からこの試合の結末だけは決めてました。お気に召すといいんですが…

今後の黒子はどうしていくべきだと思いますか

  • 原作初期通りの「幻の六人目」
  • 原作終盤の自力で攻めれる攻撃フォルム
  • あえて守備にブッパしたスティール王
  • それ以外(メッセージかTwitterで)

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