火神に憑依したっぽいのでバスケの「王様」目指す 作:Dice ROLL
新しい予備のゴールが運び込まれ、試合が再開した。誠凛の攻撃は火神と伊月が連携で攻める
「洛山戦で見せた、コートを俯瞰できる二人のパスワークか。厄介じゃのう…」
最終的にキックアウトから日向のスリーが決まる
「おっと、火神が紫原に付くのかい。…物は試しだ、一回チャレンジしてきな」
中断中に予定していた通り、火神が紫原を抑えにかかる
「さっきの分は返すよ」
「それはゴールぶっ壊した分で十分だろ」
現状、紫原にゴール周りでのステップワークなどの卓越した技術は無い。よって、マークが誰だろうが紫原との戦いはどちらがパワーで上回るか、あるいはその差を技術で補えるかに収束する
「マジか…紫原でも押し込めねえか」
だが、今回は火神のパワー勝ち。ゴール下のダンク以外に得点パターンを持たない紫原にとっては、この時点で負けである
「ちぇ、本気でやってんだけどな」
「ダメだ!敦!!」
ここで外の氷室に渡そうとしたが、そのコースは黒子が張っていた。スティールを決めて速攻の展開を作る
「そう簡単にはいかせないアル!」
「うおっ、どいつもこいつもでけえ癖に戻りも速いな…」
日向がボヤくが、まだ誠凛には陽泉には見せていないプレーがある
「なっ!ボールが曲がった!?」
黒子テツヤの魔法のパスで敵陣を切り裂き、火神にパスが通る。紫原を背負った形でポストプレーに入る
「行かせないよ…!」
「押し通ってもいいが、悪いな」
パワーで押し込んだかと思いきや、ショルダーフェイクを入れてターンアラウンドジャンパー。フェイダウェイ気味に放たれたシュートは紫原の手の上を通過した
「むぅー…」
「唸っても止めらんないぜ?お前とはテクが違う」
本人の言う通り、紫原と火神は平常時のパワーは互角と言っていいが、『ゾーン』に入っている以上今は火神に軍配が上がる。その上でテクニックは雲泥の差、1on1では勝ち目が無かった
「敦、やはりタイガを一人で止めるのは厳しいな。ここはダブルチームで…」
「室ちんごめん。もっかいやらせて、次はなんか行けそうな気がするの」
「…、分かった。言ったからにはかましてこいよ!」
返す陽泉の攻撃はシンプルに氷室を使う。火神のヘルプを意識したクイックリリースでゴールを射抜いた
「すいません!間に合いませんでした!!」
「謝るのはこっちの方だ。二回戦から任せっぱなしで、情けねえ…」
日向の呟いた言葉は誰にも届かなかったが、チームの総意であることに間違いはなかった。それでも、火神以外に『イージスの盾』とも称される陽泉鉄壁のディフェンスを突破できる選手がいなかった。黒子のパスで守備を掻き乱しても、結局フィニッシャーになれるのは火神しかいない
「またやるか?紫原…。へぇ、きたか、お前も!」
紫原敦の雰囲気が、立ち込める空気が変わる。二回戦でずっと味わってきた、これは…
「紫原のやつ、入りやがったな」
「入りやがったって…『ゾーン』!?」
「ああ、赤司は『ゾーン』に入ってタイマンじゃいい勝負してたが、紫原はどうだろうな」
(集中しろ…隅々まで見逃すな。全神経を注げ。一瞬でも遅れたら火神は止められない…!)
間違いなく高校の中でもトップ中のトップの守備力を持つ紫原。そんな彼が今までの人生で一度も無いほどの集中力でこの1on1に臨んでいた。何よりも負けることが嫌いな彼にとって、自分が負けっぱなしという現状は許せない。そんな意思で『扉』をこじ開けた
「…は?」
だが、それでも火神大我は止められなかった。火神のドライブを止めるべく極限まで集中していた紫原が一歩も動けない。ガラ空きのゴールにダンクを叩き込んだ
「…なんだ、今の?赤司分かるか?」
「Up beat drive だね」
「あっぷ…?なんだそれ?」
「日本語にすると『裏拍』と呼ばれるリズムの取り方の事だ。葉山、君は通常、ドライブを仕掛けるならどのタイミングで行く?」
「どのタイミングってのは?」
「では、ドリブルを突いてるボールがどの位置にある時に仕掛ける?」
「そりゃ手に収まった時だろ」
「そう、それが『表拍』だ。ボールが手に収まっている状態を『0』、跳ね返って戻ってきたタイミングを『1』としよう。基本的にドリブルを仕掛ける時、スピードを上げて突破を狙うタイミングはこの『0』か『1』の時になる。だから守る側もそこに合わせて止める体勢を作ろうとしているんだ。これは今までバスケをやってきた経験による、半ば反射的な現象だね」
「なるほど…言われてみれば。スピードで引きちぎりに行く時は『0』、クロスオーバーなんかを狙う時は『1』のタイミングで行くな」
「しかし、そのセオリーの逆をつくのがUp beat、『裏拍』だ。つまりは『0.5』のタイミングで仕掛けるということだね。ボールが地面に付いた瞬間に身体が始動し、地面から跳ね返ったボールを拾った頃にはトップスピードに乗っている。だから反応できないし止められなかったんだ」
「理屈はわかったが、なんで赤司はやらねえんだ?お前ならできそうなもんだが」
「俺の場合は相手のタイミングが分かるからね。自分のタイミングをずらして相手を引っ掛ける『裏拍』に頼る必要がないんだ」
「そりゃそうか、俺も『裏拍』にしてみっかな」
「全てをそうすればいいという訳ではないぞ。あくまで予想をしていないタイミングで仕掛けることが重要なんだ」
観客席で赤司がしていたものと同様の解説を氷室がしていた
「…うーん。じゃあ俺にはキツイかも。悔しいけど1on1じゃ勝てないね」
「いや、敦が『ゾーン』に入ったことはかなり大きい。これでタイガの選択肢もある程度絞れるはずだ。このままいこう」
インターハイが開幕してから既に三度目のエースによる殴り合い。堅守を信条とする陽泉だが、こうなってしまっては点差を保つべく攻撃に集中するほかない。誠凛は火神が得点を量産し、陽泉は『ゾーン』に入った紫原が火神を引きつけ、氷室を中心に得点を重ねる。しかし、黒子や伊月によるスティールが度々決まり、じわりじわりと点差は開く。前半終了時点で46-40。誠凛高校は6点のリードを手にしていた
「6点差か…どうかな、大ちゃん?」
「やばいだろ。火神の『ゾーン』でやっとこの点差だ。あいつがいかに優れていてもこんなペースで一試合持つわけがねえ。このまま行ったら終わるぜ誠凛。陽泉は『ゾーン』が無くてもある程度形になりそうだしな」
◆◇◆
(こんなに疲れてる火神君は初めて見た…。まだ前半なのに、本当に大丈夫なの?)
栄養や糖分を補給しつつも、肩で息をする火神。明らかにオーバーペースであった
「火神君…大丈夫?」
「正直キツイっすけど、…勝つためなら全然大丈夫っすよ!まだまだ行けます!折角来た全国の舞台で、出しきれないまま終わるなんて最悪じゃないっすか」
「本当に、無茶だけはしないでね…」
「俺たちも気合入れ直すぞ。火神がこんだけやってくれてんだ少しでも負担を軽くする、やるぞお前ら!」
「「「「おう!!!」」」」
(タツヤにも、陽泉にも、どこにも負けたくねえ。何より優勝できないなんてまっぴらごめんだ。俺達は勝つ。相手が誰だろうが、ベスト8なんかで終わらねえ)
◆◇◆
後半開幕、ガス欠を危惧する青峰をよそに、火神の凄みは増していく。
いきなり氷室をブロックするとそのままダンク。これを皮切りに三連続得点で6-0のラン。気づけば12点のリードを作っていた
「たまったもんじゃないのう…」
「切り替えていきましょう。岡村先輩」
「ああ、作戦通りには進んどる。まずは一本決めよっかい」
陽泉はここまで負け続きの紫原を使う
(コイツ…、どんどんパワーが上がってきてねえか!?)
前半は圧倒されていた紫原だったが、ここにきてパワーだけは拮抗するようになってきていた
「けど、ボールの持ち方がなってねえな!」
「っ!」
しかし、得意なポジションを取る前に火神がスティール。そのまま自身で持ち上がり得点を奪う
「3Qで突き放してこのまま勝っちゃうんじゃ…」
「いや、それはねえな。少なくともこのまま終わることはないぜ」
青峰が桃井そう告げたまさにその時、それは起きた。火神大我の身体がコート上に崩れ落ちる。両チーム時が止まったようだった
「っ!タイガ!!」
「火神君!!」
「とうとう来たか…限界だ」
「そんな…さっきまであんなに動けてたのに」
「『ゾーン』に入ってなんとか繋いでたが、それもここまでだったってだけだ。俺が言えたことじゃねえが、これがワンマンチームの限界だ。誠凛のスタイル的には違うのかも知れねえが、このレベルが相手だとそうならざるを得ない。テツも結局単体で強い選手じゃねえからな。…黄瀬と緑間と俺があいつの情報を集めて、『ゾーン』に入った赤司が体力を削って、同じく『ゾーン』に入った紫原ともう一人のスタープレイヤーがいて、やっと『王様』を攻略できたな」
いくら火神大我が素晴らしい選手と言えど、彼とてまだ高校一年生。そして、入学してから日本を代表する天才達と戦い続けてきたのだ。このままのスタイルでいつまでも持つはずが無かった
(やべぇ、全然体が動かねえ…。クッソ、急にスイッチが切れたみたいだ)
「誠凛、メンバーチェンジです」
「土田先輩、すぐ戻るんで…お願いします」
「あぁ、任せろ。すぐ戻る必要なんてない。ゆっくり休んでくれ」
火神は唇を噛み締める。勝ちたかった、誰が相手でも負けたく無かった。それは、己がではない。チームとしてである。その力に自分はもう成れない。その現実が何よりも悔しかった
「火神君。ごめんなさい、監督失格ね」
「そんなことないっす。…俺の責任です」
「…たっちん、大丈夫かな?」
「少なくとも、この試合はもう無理だね。タイガには悪いが、今日は俺たちの勝ちだ」
氷室の言う通り、火神抜きで陽泉に勝つには14点では足りない。勿論それを理由に諦める者は誠凛にはいなかったが、実力差というある種残酷な壁はそれを拒んだ。誠凛高校の夏はベスト8で終わった
次回、夢の舞台
誰だって、敗北を知って強くなる
今後の黒子はどうしていくべきだと思いますか
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原作初期通りの「幻の六人目」
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原作終盤の自力で攻めれる攻撃フォルム
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あえて守備にブッパしたスティール王
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