製薬会社の職員さん達   作:haguruma03

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ウィーディが調理室でチョコ作れない話


ありがとうウィーディ (ウィーディ)

1.

 

「やった…!」

つい口から感嘆の言葉が漏れる。

 

私の視線の先、端末の映されたメールボックスには一通のメールが届いていた

 

メールの内容は『オペレーター ウィーディ:調理室Cの利用を許可します』

 

 

初期の頃からこのロドスに勤めているので、この時期に調理室を借りるのは至難の技であり毎年抽選になるとは知っていた。

 

なぜ至難なのか。その理由はヴァレンタインだ。

 

ヴァレンタイン。それはいつの頃かロドスで流行り始めたお祭り。

親しい人にチョコを渡すという可愛らしいお祭りである。だがこのチョコを渡すという行為には日頃の感謝や好意も込められる事があるという。

 

そんなヴァレンタインにチョコを渡すために多くのロドス職員がチョコを作ろうと調理室を使おうとするのだ。

調理室はいくつかあるが、そのどの調理室も一度に使える人員の数は決まっている。

だから毎年抽選を行っているのだ。

 

なので、こうやって借りられたことは本当に幸運であった。

 

 

これで調理室は借りられた、材料はすでに購買で購入しており、あとは何度か練習して、一番うまくできた物を渡せばいいだけ。

 

渡す相手はドクターである。

 

チョコを渡す理由は、私が晴れて戦闘オペレーターになった際、すぐにドクターが率先してスキル訓練や作戦記録を見せてくれたことへの感謝だ。

 

おかげでわずかな短期間で昇進してしまい、まるで贔屓されたようで少し居心地が悪かったが、ドクターが「君の力がすぐに必要になるんだ」と必死に言ってくれたためその居心地の悪さはいつのまにか消えていた。

 

ただ気になるのは、一部のオペレーターが私を可哀想な目で見ていたことだろうか?

その理由はわからず、私と同じ時期に同じように一気に昇進したリスカムも疑問に思っていたが、まぁ大丈夫だろう。

 

私はそう思い、ぐいっと伸びをしてベッドに倒れこむ。

そして作る予定のチョコレートに思いをはせた。

 

初めて他人に作る料理がここまで胸を踊らせるものとは思いもしなかった。

故郷のイベリアでは他者に手料理を振る舞うことはなかった。だから今回のチョコが初めての他者への手料理。

少し緊張するが、しっかりと清潔を保ち、美味しいチョコレートをドクターに振る舞えるように気合をいれる。

 

そんな子供のようなワクワク感を私は胸に抱きながら、端末でヴァレンタインまでの予定を確認する。

 

調理室を借りることができる日にちは明後日からヴァレンタイン前日まで。

明日からは危機契約。場所は廃工場。

それに加えて明日の早朝にはLN2キャノンの最終強化が終了する。

危機契約に参加するのは初めてだけど、私とリーフ、そしてドクターや仲間がいるから大丈夫

 

そして作戦が終わったら帰ってきてからチョコを作ればヴァレンタインには間に合うだろう。

 

私はそう思いゆっくりと瞼を閉じて睡魔に体を任せることにした。

 

 

 

 

2.

 

瞬きする瞬間すら惜しい。

 

「みんなあっち行ってぇええええええええええええええ!!!」

喉が枯れ果てるような私の声と共にLN2キャノンが噴射され夥しい量の水流が目の前の敵を押し流す。

普通の敵ならば一発で倒れるような凄まじい水圧。

 

だが…

 

ガシャンガシャンというマンティコアのアジトキシンの音に紛れて、ズシンズシンという足音が聞こえる。

 

水しぶきによって起こった煙が晴れるとそこには奴らがいた。

 

重い武装を揃えゆっくりと近づいて来る重装兵N型

アーツが付与された剣で物理装甲を無視して正面突破を目論む術剣士

体から真っ赤なオーラを放ち、刀を持って私を斬り殺さんと足を進めるヴェンデッタ

 

あの水圧を虫に刺されたのか?というように屁ともしていない彼らの姿目の前に現れる

 

私はこの世の地獄を味わっている。

横では無限に拳闘士崩れ達の攻撃を受け続けているリスカムがいる。

彼女の目はすでに虚ろではあるが、それでも的確に私の補佐をしてくれているため最速でLN2キャノンを放つことができている。

 

だがそれでもギリギリなのだ。

いまもまさに目と鼻の先、ヴェンデッタが刀を振り上げ一撃必殺の攻撃を振り下ろさんとするギリギリのタイミングで私はLN2キャノンのチャージが溜まるのを確認した瞬間に放射している。

 

そのおかげで致死の一撃は目の前から後方へと押し出されて行く。

生死を分ける紙一重の一瞬。

 

しかしそれは一回だけではない。

再び敵がマンティコアのアジトキシンを受けながらこちらに歩いて来るのが見える

 

こんなことを私は数秒間の間に何度も何度も何度も行なっている。

 

一体いつからこうなったのか、もう思い出す余裕もない

着実にダメージは与えているはずだ。しかし終わりが見えない

あと何回この敵を吹き飛ばせば終わるのだろうか

 

いくつも考えが脳内に瞬いては消えて行く。

 

 

もはや私の頭にチョコやヴァレンタインのことなど少しも存在していなかった。

 

 

 

3.

 

「……流石に疲れた」

 

ありえないような激戦を終えて、やっとロドスの自室に帰宅した私の口から疲れた声が零れ出る。

 

今にもベッドに倒れて眠りたくなるが、仕事帰りで汚れた体を洗わずに寝るのは不衛生でありそんなことは私自身が認められない。

 

1秒でも早く眠りたいが、体を清潔にするために疲れた体を押しながら自室のシャワールームへと這うように進む。

 

いちいち止まって服を脱ぐのも億劫だったため脱ぎながらシャワールームを目指す。

 

そんな私をサポートするようにリーフが脱いだ服を回収し、タオルや替えの下着を取ってくれている。

 

本当にリーフはいい子だ。この子がいなかったらクロージャを叱ることができないような状態になっていたかもしれない。

 

そんなことを思っていると、カタンと何かが落ちる音が聞こえた。

 

そちらの方向を見ると何かが地面に落ちていた。

 

リーフが服を運ぶ際に机に当たって卓上の物が落ちたのかもしれない。

 

落ちたものを確認する。

 

それはただの卓上カレンダーであった。

 

……………

………

…カレンダー?

 

 

「あ!!!」

 

 

私の大声にリーフが驚きひっくり返った

 

 

 

 

4.

 

「やっちゃった!やっちゃった!やっちゃった!」

 

大急ぎで清潔な服に着替え終え、冷蔵庫からチョコの素材を取り出し、私とリーフの二人で調理器具を抱えながら慌てて廊下を早歩きで進み調理室Cに向かって足を進める。

 

危機契約が忙しすぎてすっかりヴァレンタインのこともチョコのこともすっかり頭から消え去っていた。

 

本当にやってしまった。

いくら危機契約が忙しかったとはいえあれだけ前準備をしていたことを忘れるなんて信じられなかった。

 

気分は、変なタイミングでLN2キャノンを撃ってしまい、チャージが明らかに間に合わないタイミングでヴェンデッタが目の前からくるのを確認してしまった時の自らの失敗に後悔が止まらない時の気分だ。

 

しかし、いくら後悔しようが時間が戻るわけではない。

後悔する時間があるぐらいなら今やるべきことをやるべきである。

私はそう考え、内心急ぐ心をなんとか宥めながら時間を確認する。

 

時刻はすでに22時を超えてしまっており、調理室を借りられるのはあと二時間のみ。

よかった、ギリギリチョコ一つ作れる時間はある。

 

そんな事実に私は安堵し、足早に10分ほど進みやっと調理室Cにすぐにたどり着いた。

部屋の中は真っ暗であり、誰も使っているようには見えない、

それはそうだ、こんな時間に使っている人なんてそうそういないだろう。

つまりこの調理室Cを使うのは私で最後であるということだ。

 

私は調理室の扉を開き、入り口のすぐそばにある部屋の電気のスイッチを押した。

 

後から思えば、もう少し心構えをもってスイッチを押すべきだったと私は思う。

私は深く考えていなかったのだ。最後にキッチンを使うと言うことを。

 

 

「…え?」

 

 

私はその扉を開いた瞬間、目の前の光景に絶句した。

 

そこには地獄が広がっていた。

水場やキッチンにはチョコが飛び散り、床にはカカオパウダーや砂糖が散乱している。

それだけではなく床にこぼれた牛乳が拭き取られていない場所がちらほらある。

 

普通の人ならば気にしないような汚れかもしれない。

普通の人なら、ちょっと汚れているな。で済ますことのできる程度なのかもしれない。

だが、だが、私にはどうしても気になった。

汚れが、所々に残る掃除の手が届いてない場所が、私の目に飛び込んでくる。

 

 

甘いものが散乱した地獄絵図。私にはこの光景がそう見えていた。

 

悪夢と思いたいような光景にめまいがする。

だがいくら頬を叩いてもその光景は消えず悪夢ではなく現実であると私の肉眼が訴えかけてきた。

 

「う、う〜ん…」

 

あまりの光景にふらりとめまいがして体がふらつくがとっさに壁に手をつき体が倒れるのを阻止する。

 

———こんなところで倒れるわけにはいかないのよ。

 

そんな想いと共にあまりの汚さに思考が飛びそうになるのをなんとか堪え、じっと現状を再確認する。

 

目の前には汚れているキッチン。

だが普通の人ならば気にならない程度の汚れであると内心わかっている。

今からこの部屋の掃除をしていては、チョコを作る時間が消え去るのは確定である。

 

だから、私がやるべきなのは、この汚れに目をつぶって調理をするべき………………なのだけれど

 

私の手がフラフラとスポンジに伸びていく……ッ!!

 

だめよ、それはダメなのウィーディ!

 

この調理室を使えるのは今日まで、つまり後二時間しか使えないのよ!

 

だから、だから、今掃除器具に手を伸ばしてはダメなの……ダメなのよぉ…

 

 

そんな私の想いが胸中に溢れるが、私の体は言うことを聞かず、ガッシリとスポンジを掴んでしまっていた。

 

 

 

5.

 

「そういうことだ、あとは頼んだぞドクター」

 

「わかったよケルシー」

 

私の返事を聞いたケルシーは頷くと早々と廊下を歩いて言った。。

 

もう夜も遅いから『おやすみ』ぐらい言っても良いと思うのだが、言わないのもある意味ケルシーらしいか。

そんなことを私は思いながらケルシーが私に渡してきた書類に目を通す。

 

 

それは調理室に対する意見書のまとめであった。

 

どうもこの時期になると調理室の利用が少々雑になるらしい、貸し出し用の調理器具が破損していたり、使用後の掃除が行き届いていなかったりと、意見は様々だ。

 

それらの原因は容易に想像がつく。

それは普段調理室を使わないような人が調理室を使うようになるからだ。

 

だから、その事への注意を上の人間が言うべきなのだが、どうもケルシーが「私が言うよりもドクターが言ったほうがいい」と先ほど彼女が話してきたのだ。

その理由が何故かはわからない。

「あげる人間からの言葉ならばよく聞くだろう」というよくわからない事が言っていたが、まぁケルシーにはケルシーなりの考えがあるのだろう。

 

 

まぁとりあえずは、現場を見に言ってみるとしよう

 

私はそう思い、廊下を歩き調理室に歩いていく。

時刻は0時を超えているため昼間と違ってオペレーターの姿があまり見えない。

 

そんな様子に少し寂しさを覚えながら歩いていると目の前に調理室が見えてきた。

 

だがその調理室には明かりがついている。

 

 

調理室の使用後、それが最後の使用者ならば部屋の電気を消すことが決まっている。

だが明かりがついているということは最後に使った人間が消し忘れたのだろう。

 

そのことに私は苦笑いしながら調理室の扉を開けた。

 

 

「へ…?」

 

私の口から唖然とした言葉が漏れる。

その声は危機契約でヴェンデッタにサリアが一撃でやられた時と同じようなの唖然とした声であった

 

 

それはそうだ。なぜなら私の目の前の調理室には、まるで新築のキッチンのような綺麗で輝いている部屋が広がっていたからだ。

 

キッチンには埃どころか汚れも見えない。まるでニスを塗ったかのようにピカピカと光り輝いている

 

意見箱に書かれていた状況とは全く違うような光り輝く調理室。

 

一体誰が….

 

そんな考えをしていると、ふと服の裾を何者かに引っ張られた。

そちらに視線を向けるとそこには見覚えのあるシードラゴンがいた

 

「リーフ?」

 

私が首をかしげると、リーフはまるで案内するかのように私を引っ張っていく。

 

大人しくその行動に従っていると、その人物が現れた。

 

普段の彼女では信じられないことなのだが、なんと地べたに座り、壁に背を預けスヤスヤと眠っているウィーディの姿がそこにはあった。

 

おそらく危機契約の疲れが一気に来たのだろうぐっすりと深い眠りに落ちていた。

 

そんな彼女の傍にはチョコの素材と掃除用具。

 

 

…なるほどね

 

私はこの状況を一目見て、この調理室が何故こんなことになったのか、ウィーディがどういった行動を取ろうとしていたのかを推測することができ、クスリと笑う。

 

自らのチョコ制作を後回しにし、先に掃除を行なってここまで調理室を綺麗にしたウィーディの顔をじっと見つめる。

 

その表情は気持ちよさそうに眠っており、穏やかな寝顔であった

だが、このまま地べたで眠るのは彼女も良く思わないだろう。

そう思い私は彼女を背負い、そのまま彼女の部屋に運ぶことにした。

 

だが潔癖症の彼女に不用心に触っていいのだろうか...

そんな事を思い、戸惑いながらも彼女の小さな体を背負うと、むにゃむにゃと彼女の寝言が聞こえてきた

 

「うーん…ドクター…いつもありが…とう……これが私の…チョコ…」

 

そんな寝言に再び私の口から笑みがこぼれる。

ありがとうはこちらの言葉だ。彼女が遠距離支援に来てくれたおかげで戦術の幅を大きく増やすことができた。本当に感謝の言葉が尽きない。

 

そんな彼女に対して、寝ているから聞こえてはいないだろうが、私も彼女に礼を述べることにした。

 

「こちらこそ、いつもありがとうウィーディ。危機契約も、この調理室の掃除も。本当に素晴らしいヴァレンタインのプレゼントだよ」

 

私はそう言うと、調理室の電気のスイッチをOFFにする。

 

後に残ったのは、綺麗になった調理室とスヤスヤと聞こえるウィーディの寝息。

 

だがそんな寝息も、ウィーディーを背負ったドクターが去った後では、穏やかな静寂が残されたのであった。

 




危機契約で活躍してくれたウィーディへの感謝のSS
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