「んで、すぐに観光済ませて帰ってきたってわけ」
「あはは!優しいねぇ、アオバ君は」
話を聞き終えた幼馴染……ナギが、ヒウンアイスをクーラーボックスから取り出しながら相槌を打つ。お土産として買ってきたそれは、大食感である彼女の手によってみるみるうちに減っていっている。手を止める気配は全くない。流石、胃袋ブラックホールの異名を持っているだけある。マジでどうなってんだこいつの胃袋。というかよくそんなに冷たいものが入るな?腹痛くなっても知らないからな。
「すまんな、折角の休みに」
「急な呼び戻しなんて、いつものことでしょうそんなの。謝るなんて博士らしくないですよ」
「ははは、確かにな。こんな事になるとは思っていなかったから、焦ってしまっているようだ」
白髪を撫で付け、博士が苦笑を漏らす。本当にらしくない。相当参っているのだろうか、と少しだけ心配になる。博士は、はぁ、と重々しいため息をついた後、目を伏せて口を開いた。
「5日前……アオバに電話する数時間前じゃ。新しい相棒と旅に出たハイネ……孫が傷だらけで泣きながら帰って来て、その後すぐに自室に篭ってしまったらしい。どれだけ声を掛けても返事が返ってこないと、息子夫婦が心配しておっての」
「それはお孫さんと、そのポケモンのソリが合わなかった……ということですか?」
「詳しいことは分からんが、そんな感じじゃろうかと予想しとる」
「それならまぁ、可能性としてありえることだと思いますけどね。自分のパートナーとなったポケモンと喧嘩して、骨折する子もいますから」
「誰のこと言ってるの?」
「お前のこと言ってんだよ」
えへ、と笑うナギ。隣の簡易プールで遊んでいたマリルリが、どこか恥ずかしそうにぴゅーっと水を吹いた。見事にそれを顔面で受け止めつつ、ケラケラと笑いながらマリルリの頬をつついている。
「昔のことだもんねぇ?その時のことはもうお互い水に流してるもんねー?」
「るりっ!」
「水タイプだけに?」
「わっ、博士そんなつまんない事こんな時に言えるんだねー。すごーい」
「お前ほんとにお孫さんのこと心配してるか?」
「うぐ、自分の中のギャグセンサーが抑えられなかったんじゃ……!!!!」
どん、と机を叩く博士。しかし今は夜中だ。これ以上騒いだらお孫さんが起きてしまう。しーっ、と口元に人差し指を当てれば、2人は「あ」という顔をして口を塞いだ。
「……そういやナギは、その子のことを知ってるのか?」
「んー、そりゃ私博士の助手っていう形でここにいるし、受け渡す所には立ち会ったけど。初対面の時はそんなに剣呑な雰囲気じゃなかったし、大丈夫かなって思ってた」
「そうなのか……。喧嘩して、仲違いした理由はどこにあるんだろうな」
「さぁね。朝になってあの子から話を聞いたら、ちょっとは分かるかも」
「でも両親の呼びかけにも答えなかったんだろ?じゃあ俺が行っても同じじゃ、」
「あはは、どうだろうねぇ。ま、その辺はやってみないとわかんないじゃん。ね、博士!!」
「うむ。明日はわしとナギも同行して話を聞こうと思っとる」
「はぁ……」
「それにさぁ」
ナギは、くすくすと笑って続けた。
「アオバ君も、似た様な経験してるでしょ?」
怯えた目。震えている小さな身体。か細く鳴く声。
自分がやってきたことの中で、一番最低なこと。
「ま、"似たような"ってひとくくりにするにはあまりにも、」
「ナギ」
よく回る幼馴染の口を止めるために、彼女の名前を呼ぶのが精一杯だった。ナギは俺をチラリと見た後、ごめんと笑う。謝っているが、これは形だけの謝罪だということを俺は知ってる。
……本当に性格が悪い。
だけど。
過去のことを引っ張りだして突きつけてくる幼馴染よりも。
…………"あんな事"をした俺が、1番捻くれてて、性格が悪いと思う。