TIGHTROPE~Broken dolls of the fallen.   作:信濃 一路

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Episode5 虚影 ~ Illusion Vol.Ⅰ

 

 境内に凛とした掛け声が響く。

 社殿の離れに作られた道場。そこで俺は竹刀を構え、一人の少女と対峙していた。藍緑色(シアン)の長い髪をポニーテールに結って悠然と構える皐月さんが不敵に笑う。体の節々が痛かった。

 

(何でこんな事になったんだっけ?)……そうだ、あれは道場で不貞腐れて放った一言が原因だった。入門して数年。陽ヶ埼のおじさんに筋が良いと言われ、天狗になっていた。そんな時、戯れにやった柔術の組手で入門したての菜々星に完敗したのだ。俺が主に学んでいたのは剣術だったとはいえ、ほぼ未経験者である、小柄な菜々星に手も足も出なかった事は、サーキットを持たない無能力者であるという俺の中の自虐感を否も応もなく肥大させた。

 

『――色付き(・・・)に勝てるかよ』

 

 俺を気遣って差し伸べられた菜々星の手を払いのけて放った言葉。それがどれほど彼女を傷つけるのか、幼い頃からの付き合いで知っている筈なのに。大きく見開かれた菜々星の金色の瞳が揺れた瞬間、俺の身体は宙に舞っていた。叩きつけられた衝撃から回復するや竹刀を持たされて叩きのめされる。鬼気迫る皐月さんに呑まれ、あまりの理不尽さに情けなくも鼻をすすりながら必死に打ち込む俺。

 

 やがて辛うじて一本を取れた時、俺の身体を柔らかな感触が包み込んだ。盗み見た皐月さんの頬に流れる二筋の光――それは誰に向けたものなのか。霧散していく心の澱。

 

『もっと自分を信じて、零斗君。能力と可能性は必ずしもイコールじゃないの。……これはある人の受け売りなんだけどね』

 

 耳元で優しく囁く皐月さんの声が聞こえた――

 

 

「遠目から見た時はちょっとばかし期待しちまったんだがよ……」

 

 あの日、小型デザイアの侵入とそれらとの戦闘は、当然ながら此処でもあった。主目標にならなかっただけだ。焼け落ちた神社は、一年半の時間によって静かに朽ち始めていた。そんな中、奇跡的に外観を保っていた陽ヶ埼の道場も、中は酷い有様だ。それを目の当たりにして立ち尽くす菜々星をちらりと見やると、亮は掠れた声でつぶやいた。

 

「わたしは平気だよ、リョウちゃん。覚悟してたもん……あの日から、ずっと――」

 

 懸命に笑みを浮かべようと戦慄く菜々星の唇が溜息のように言葉を紡ぐ。

 

「……帰ってきたよ。お父さん、お姉ちゃん……」

 

 道場の外れのにある黒ずんだ滲み。そこから少し離れた場所に鈍く輝くものがあった。注意して見なければ分からない窪んだ床。近づいて拾い上げると、それは不器用な造りの手製のペンダントだった。俺はそれを菜々星に手渡す。「――!」絞り出すような声とともに漏れ出る嗚咽。皆で探した石で作り、師匠に贈った物。遺体は回収されても、それは想いと共に此処に残っていたのだ。俺達が此処に戻って来るのを待つかのように。

 

「そいつは……あの時の?」

 

 亮の問いに俺は黙って頷くと、

 

「周囲の偵察をしてくる。ナナセは任せた」そう言ってその場を離れた。

 

「――って待てよ、おい!」

 

 呆れと、次いで憤りを含んだ亮の声が背を打ったが、俺はそれを無視して道場の裏へ向かう。デザイアの足止めをするためにここに残った師匠。雪の中出撃していった皐月さん。あの日、三人で身を潜める事しかできなかった己の無力さから逃げ出したかった。我ながら身勝手だと自嘲する。女々しく引きずっているのはどっちだ?

 

 神社の裏からは林を縫って小道が続いており、その先は島の農家の生活を支える里山となっていた。そして雑木を切り開いた広場は子供たちの遊び場だった。野山を駆け回る、なんて本土に住む俺達の同世代ではもうお伽噺のようだけど、長閑なこの島では割と普通の事……ある人物(・・・・)に振り回されていたからともいえるが。

 

 木々が開け、眩しさと共に懐かしい光景が視界に飛び込んできた。しかし――

 

 約二年の間に荒れ放題になっているかと思われたなだらかな傾斜は綺麗に整えられ、秋には背丈ほどに伸びるススキも綺麗に狩り取られていた。ただ、それは敷草を集めるためにというよりは規則的に、余計なものを消しゴムで消し去るかのように無機的に除去されている……そんな風に俺には思えた。

 

(……何だ? これは――)

 

 丈の低い枯草の間から除く、三十センチ程の大きさの石。それが一メートルほどの間隔で規則正しく斜面一面に並べられていた。恐らく神社のある御山の奥にある石切り場から持ってきた物だろう。あそこはかつて孤島である青巒島にとって、貴重な建材の供給地だった。だがこの石群を、何時、誰が、どうやって並べたんだろう。

 

「これはまるで墓場……だな」それ以外の言葉を思いつかず、そう呟いた時、

 

「ひゃう!!」と情けない悲鳴が鼓膜を揺らした。

 

「何やってるんだ、お前は……?」

 

 振り返ると地面にへたり込んでいる真珠色の髪の少女が居た。摩夜は大きな蒼い瞳をさらに大日く見開いて、縋るようにこちらを見つめている。目の端には大粒の涙を浮かべて。

 

(そういや、こいつ苦手(・・)だったよな)やれやれとかぶりを振って手を指し伸ばし助け起こす。

 

「なんだ、ついてきたのかよ? ナナセ達はどうしたんだ」

「……それ、レイトが言える台詞~?」

 

憮然と俺を睨む摩夜。確かに敵地で軽率な事をしている。

 

「大丈夫だよ。リョウが一緒に居るから。思ったよりナナセも落ち着いてる」

「そうか」

 

 平常心でいるなら心配ないだろう。正直なところ強化戦闘服(バトルドレス)での白兵戦はカラーズの菜々星の方が俺より頼りになる。それに狙撃機を愛機としている亮の射撃の腕はかなりのものだ。

 

「それに――」

 

 そう言いかけて摩夜は何かを探る様に周囲を見渡す。

 

「……それに?」

「言ったでしょ、ボクが守るって」

 

 自信ありげに答える摩夜。いつもなら何を根拠に、とぼやきたくなる所だ。しかし島での実戦を経た今となってはこの小学生のような背丈の少女に何か(・・)がある事を、渋々ながら俺は認めざろう得なくなっていた。何せ機関(ラボ)お墨付きの大尉殿なのだ。

 

「そりゃどうも――ってお前……」

 

 何気なくそう答え、精一杯の抵抗として頭でも撫ぜてやろうした俺は、次の瞬間呆然と摩夜の顔を見る事となった。大きな瞳がきょとんと俺を見やる。距離が近い。

 

「……!? どうしたのさ、レイト?」

 

 何を勘違いしたのか飛び退いて顔を赤らめる摩夜。それに対し俺はかぶりを振ると、

 

「いや、何でもない。戻るぞ」

 

 憮然とする摩夜を後目に俺は境内の方へ踵を返した。

 

「……もう、なんなのさ」慌てて後を追おうとする摩夜。

 

(まさかな)改めてかぶりを振る。懐かしい陽ヶ埼の霊域で神経過敏になっているのだろう。小柄な菜々星よりさらに子供っぽい摩夜から、大人びた、まるで別人の存在を感じられるなんて。気のせいに違いない。

 

(そういや一瞬アイツの瞳が赤く見えたような? ……光の加減って奴か)

 

 きっとそうだ。亮なら『それってギャップ萌えって奴だぜ、レイト』とか下らない事を言うんだろう。そして菜々星からジト目で生暖かく睨まれるに違いない。確かに摩夜は世間一般的には可愛い娘だとは思うが、俺は最近までランドセルを背負っていたような娘は趣味じゃない……発育はともかく……筈だ。 ――そんな他愛もない妄想が脳裏をよぎった時。

 

「――隠れて!!」

 

 後ろを歩く摩夜が強く腕を引っ張り、俺を雑木の中へと引きずり込んだ。体躯とは不釣り合いな物凄い力。バトルドレスに覆われた体は無事だがむき身の俺の顔には細かい枝に引っ掛かれて幾つもの傷が出来てしまう。

 

「ったく、いきなり何を――」

 

 顔を顰め悪態をつくが、直ぐに緊張感を呼び覚ます。故郷であろうとここは敵地だ。それも世界に数十柱しかない規模を誇る敵の橋頭保、中型ピラーのお膝元なのだ。この青巒島にさしたる戦略価値が無いからか、デザイアも左程の戦力を配備しておらず、下手な小型ピラーよりも脅威度が低いとされてはいても――

 

(あれは……)

 

 小柄な摩夜の頭越しに様子をうかがう。墓地(・・)の向こう側、石切り場へとつながる山道の方が何かが歩いてくる。ゆっくりと、覚束ない足取り(・・・)で歩いてくる。

 

「そんな……まさか……」

 

 呆然と呟く。ありえない――そう、そんな筈はない。そう信じていた。耳を塞ぎたくなる島の皆の悲鳴。闇に浮かぶ無数の赤い光点。島が放棄されてから一年半。人を狩る機械の悪魔(デザイア)が闊歩する孤島。絶望の渦中に取り残されて、アレから逃れて、今なお。

 

「生存者が、居た……のか?」

 

 今までの上陸作戦で俺達が見たのはヒトというものは打ち捨てられた遺体だけだった。だがそれは島の北側。それもすべてを踏破したわけじゃない。そして今回は初となる南側上陸。そう、可能性は零じゃない――

 

 人影は二つ。フード付きのコートを着ていて顔はよく見えない。何かを抱えていた。広場の、石群の外れにそれを置くと、同時に携帯していたスコップで穴を掘り始める。黙々と、厳かに。それはヒトにとって神聖な儀式を想起させた。

 

 ナノマシンの視力調整を行い、覗き見る。行方不明となった全ての人の顔を知っている訳じゃない。けれど、もし知っている人なら。渇望する期待が現実を覆いつくす。心臓が高鳴る。

 

――じゃあ、行ってくるね。

 

 雪の中で聞いた別離の言葉が蘇った。だがその勝手な期待は直ぐに落胆へと変わる。フードから除く髪の色は二人とも黒ないし茶褐色で、体型も明らかに男性のものだ。

 

(それでも、可能性はあるってことだよな)

 

 元々不自由ながらも自給自足が出来た島だ。身を潜める場所があれば、そして運が味方さえすれば。ここでどうやって生き延びたのか。他にも生存者がいるかもしれない。まずは彼らに話を聞いてみる事だ――

 

「あの――」

 

 藪から立ち上がり、危害を加える心算はないことを示すため両手を軽く上げる。傍らで微動だにせず様子を窺っていた摩夜が息を吞む気配がした。制止の叫びが耳を打った。けれど、目の前の光景に見たい現実を重ね合わせていた俺の耳には届かなかった。

 

「…………」

「……」

 

 黙々と穴を掘っていた二人の動きが止まり、ゆっくりとこちらを向く。海からの風が木々を揺らし、彼らのフードがはらりと肩に落ちた。

 

「――――!」

 

 異臭――かなりの距離があるというのに耐えがたい吐き気がこみ上げてくる。露になった其処にあったのは落ち窪んだ眼窩と鼻腔、肉が溶け始めた黝い死者の顔。

 それでもその顔にはまだ生前の面影が残ってた。確か親父の診療所にもよく来ていた漁師の親子だ。息子の方は俺達より一回り年上で、島では久しぶりの結婚式を挙げたばかりの新郎だった。両親の仕事柄、俺よりは亮の方が親しい相手。けれど旧知の変わり果てた姿は浅墓な幻想に浸っていた俺をフリーズさせるには十分だった。

 

 ――活死体(ゾンビ)。俺の脳裏にゲームのモンスターの名が浮かぶ。馬鹿な、有り得ない。そんなものは空想世界(ファンタシー)の存在だ。だが常識という夢想に縋ろうとする俺を無視してゾンビたちは手にしたスコップを得物にこちらへにじり寄って来る。感情のない知人の顔。模倣義体(ドッペルゲンガー)の存在は知っていた。ヒトに擬態して都市に紛れ込みテロ行為を行うデザイアの一種で、大陸からの帰還者(リターナー)が畏怖と蔑視を受ける要因。こいつもそれと同様にヒトの心理を突いた兵器なのかもしれない。

 

(考えるのは後だ)俺は携帯するサブマシンガンを構え、視界に迫る無残な姿に銃口を向け引鉄に指を掛けた。幾度となく人型戦術兵器(タクティカルドール)での戦闘をこなしてはきたものの生身での実戦……それも直に敵を討つのは初めてだった。それも旧知に向けて。唇を噛みしめ指を――

 

「退いて!!」

 

 引き金に掛けた指が絞られる前に鋭い声が背を打つ。間髪入れずに後方から銃声が響き、ゾンビたちの頭部が西瓜のように破裂した。それでも前進を止めない死者に容赦なく撃ち込まれる銃弾。見た目通りの腐敗した肉体には俊さなどはなく、蜂の巣となったゾンビたちは腐肉をまき散らして沈黙する。呆然とそれを見つめる俺。

 

「全く、デザイアのやる事は一々悪趣味ね」

 

 後方から抑揚のない少女の声が聞こえた。振り返れば摩夜がその身には不釣り合いな大口径の軍用拳銃を構えて立っていた。さすが大尉というべきか。墓場に怯えてさっきまで俺の背にしがみ付いていた娘とは思えない、凛とした物腰。

 

(苦手じゃなかったのかよ)苦笑しながら俺は、状況を把握すべく動かぬ遺体へと歩み寄る。異臭に猛烈な吐き気が襲うが、変わり果てた姿とは言え知人だ。せめて確認位は……そう思い遺体へ手を伸ばした時、俺は思わず硬直した。キラキラ光る何かが無数に蠢いている。

 

(なんだ、あれは――)モゾモゾ蠢く様はまるで蛆虫だ、俺は思わず顔を顰める。

 

寄生タイプ(パラサイト)。ナノマシン型のデザイアよ。遺体に取り付いて活死体(リバーサー)……まぁゾンビでいいか。ああいったのを作り出すの。見た通り戦力として甚だ疑問だけど、ヒトの尊厳を冒涜した最低最悪のユニットと言えるかもね。……ちょっと離れてて頂戴」

 

淡々と説明しつつ、摩夜は俺を押しのけて遺体の前に立つ。

 

「何時まで隠れてるの? 仮にも機械の悪魔(デザイア)なんでしょ。精々足搔いてくれなきゃ」

「え……摩夜?」

 

 俺は違和感を感じる。摩夜の声は氷のように冷たく、嬲る様に挑発的だった。いつもの子犬のように天真爛漫な雰囲気は消え失せ、猟犬のような得物を狩る者特有の酷薄な紅い瞳が爛と輝いている。……紅い瞳だって?

 

(あれは見間違いじゃなかったって事か。それにこの感じ……まるで別人じゃないか)

 

 困惑する俺を尻目に摩夜は遺体に手を伸ばす。その瞬間、それぞれの遺体の首筋あたりから勢いよく何かが飛び出してきた。体長十五センチ程の、蜈蚣の様な悍ましい物体――パラサイトの本体だ。

 

「――摩夜!!」

 

 襲い掛かるパラサイトから守ろうと駆け寄る俺。だがその行動は無意味だった。摩夜は男でも目を背けるそれをあっさり素手で捕えると、

 

「うんうん。悪役はこうでなくちゃね」

 

 クスッと嗤い、無造作に引き裂いて破壊する。悪童が捕らえた虫に対して戯れにするように。

 

「お前は……」

 

 誰なんだ? という問いが喉から出そうになる。無邪気な残虐性。デザイアに対するのとは別の嫌悪感が声音に滲んだ。だが――俺はかぶりを振る。相手は島を襲ったデザイアじゃないか。しかもヒトの遺体を冒涜する様な悍ましい寄生体を壊して何が悪い。

 

「どうしたの、レイト。ボク、何か変な事しちゃった?」

 

 視線を感じる。摩夜がきょとんと此方を見ていた。吸い込まれる様な蒼い瞳(・・・)――

 

「……何でもない。それよりこいつらは何をしようとしてたんだ?」

 

 掘り起こした穴の傍に、彼らが運んできた布の包みが置かれていた。慎重に解く。

 

「これって――」

 

 摩夜が息を呑む。出てきたモノは生後半年ほどの赤ん坊の遺体だった。それもまだ温かい。

 

(この子は死後そんなに経っていない。それは母親か、少なくとも保護できる誰かとついさっきまで一緒に居たって事だ。きっとゾンビたちとは別に生き残りがいるんだ)

 

 再び、仄かな希望が灯った。だが、同時に疑問も浮かぶ。状況から考えるにゾンビたちはこの赤ん坊を明らかに埋葬しようとしていた。この墓地(・・)を作ったのも彼らなのだろうか。異星体であり知性がある事は分かっていてもその実は人類抹殺に傾倒したバーサーカーであり無機体そのものであるデザイア。奴らが攻撃対象である俺達に、そんな感傷めいた行動を取るのだろうか?

 

「生きてる人が居るなら助けに行かなきゃね」

 

 そんな想いを知ってか知らずか摩夜があっけらかんと宣言する。

 

「そりゃそうだが、これ以上の寄り道は作戦時間に支障をきたすぞ……大尉殿」

 

 一応釘を刺しておく。無線封鎖下においての独立行動の権限が俺達にはあるが、時間は有限なのだ。

 

「いいって。元々こういった調査が目的なんでしょ? さっきも言ったけど主任は結果しか見ないし、得られる情報が多ければ榊指令も喜ぶよ。ナナセのお姉さんの事もあるし」

 

「――そうだな」確かにこの状況なら指令も無下にはしない筈だ。島民に生き残りが居るかもしれない。そして、皐月さんは未だ行方不明、なのだ。

 

「それじゃ、何処から探そっか……レイトは何か心当たりはない?」

 

 まるで近所にお使いに行くかのような摩夜。まあ、決定権はそっちにある。島民が隠れていそうな場所には確信があった。恐らく石切り場だ。ここからそんなに離れていない所にある。道中、急な傾斜も多いからタクティカルドールでは進めないけど、それはデザイアも同じことだから強力なデザイアに襲われることも少ないだろう。隠れ家には最適と言える。あのゾンビもそこから来たと思われるのは気がかりだが――

 

「おーい、レイト!」墓場(・・)の入り口でこちらを探す亮の声が聞こえた。作戦中に不用意に大声を出すんじゃない、と言いそうになるが、対デザイアに関しては電子的手段の方が危険性が高いだろう。それに勝手な事をしたのは自分の方だ。軽く手を挙げてそれに答える。

 

「ナナセ達が来たならさっさと行こうよ。行先、分かってるんでしょ?」

「ああ……」

 

 やけに急かす摩夜の言に振り返って、俺は思わず吹き出してしまった。引き攣ったような笑みと目の端に涙、青ざめた顔。極め付きは戦慄いている手足。自分の知る、怖がりな女の子の姿。それでいて大尉らしく振舞おうとしているのだから笑わずにはいられない。憮然とする摩夜。

 

「もう、何笑ってるんだよ、レイト」

「具合が悪いようですね、大尉殿。小官が背負って差し上げましょうか?」

 

 心中ほっと息を吐きつつ、務めて慇懃に上申する。果たして摩夜は顔を真っ赤にして、

 

「そ、そんなことないもん! さあ、作戦開始。行くよっ!」

 

 そう言って見当違いの方向へ歩き出す。……が、墓場を歩く事数歩で足早に引き返してきた。そもそも俺は石切り場(目的地)について何も話してないというのに。堪え切れずにへたり込む摩夜を助け起こす。そんな俺たちの姿を追いついた幼馴染達は何とも言えない微妙な表情で見詰めていた――――

 

 

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