『ヘンゼルとグレーテル』は、長く続いた飢饉によって困ってしまった親が口減らしの為にヘンゼルとワタシの二人の兄妹を捨てるお話。そして、兄妹が仲良く苦難に立ち向かい打ち勝つお話。
けれど、ワタシのお話はそうじゃない。
ワタシがグレーテルなのは合っているけれど、姉様は男ではなく女で、ワタシ達は姉妹だ。仲睦まじいなど気持ち悪い。ワタシの真似ばかりする能無しのクズ女のくせに、姉を名乗りワタシより上だと粋がる姉様。殺したい、とは思うけれど仲良く、なんて嫌。それでも姉様大好き、と仲良くしようとするワタシがいれば、細切れにしてから灰にして、全て消さないと気が済まない。
ヘンゼル姉様は愛しい姉じゃない。
壊したい。ワタシの方が有能と解らせて、地べたに這いつくばらせて、許してって泣く姉様をミンチにして、優しく捏ねてハンバーグにして、美味しく食べてあげたい。
それから、はないからその前に沢山沢山弄んであげる。ステーキもいいな。姉様の前で、姉様のお肉をステーキにして美味しく食べる。ワタシの糧になれるなら姉様も嬉しいと思うの。
姉様は、ヘンゼルは、ワタシを殺そうとしている。あれはワタシにミンチにされたくないからなんかじゃない。死にたくない、食べられたくない、なんていう思いからくる抵抗なんかじゃない。ワタシと同じ目的。そう、ワタシを殺すのが目的。
ワタシと同じ。ヘンゼルはワタシを見て、ワタシを殺したがってる。
ああ、違ったわ。間違えちゃった。ワタシだけを殺したがってた。
ワタシだけを殺したがって、ワタシだけを見てたのに。殺意が籠ったあの目で、ワタシを見てたのに。
それなのにあの目は、今はワタシだけを映していない。
失敗作が集まるこの世界では、ヘンゼルもグレーテルもワタシ達以外に沢山いる。
だから、ヘンゼルはワタシ以外のグレーテルも殺すの。
「うん? 何が言いたいのか、って……? アナタ、ワタシのお話を聞いていたのかしら。ワタシの、ヘンゼル姉様なのよ? 他の女に現を抜かす余裕なんか作らせないわ。ワタシだけを、殺しに来て貰わないと」
ワタシは今までのお話をお菓子の魔女、シロップに聞かせていたの。ワタシにとってはお菓子の魔女、と呼べば充分だけれど一応礼儀だもの。お名前くらい聞くし覚えておくわ。
この頃、ヘンゼルを殺せていないせいでイライラしちゃってたから、気分転換に図書館へと来たらシロップがお茶会をしていた。1人で。
誰かに相談したかったので捕まえて話を聞かせているのだけれど、1人でとか寂しくないのかしら。
「寂しいわよ!! うるさいわね! キントキにお使い頼んでるんだから仕方ないでしょう!? ぼっちみたいに言うなぁーー! あと、デジャブなのよぉ……!」
大人のくせに、涙目で大騒ぎ。ヘンゼル姉様程醜悪ではないけれど、ちょっと引くわ。
「だからうるさいわね!? もう、なんなのよ……ついてない……この前も捕まえられて話聞かされて怖かったのに……またぁ!? なんで、こっちの世界にきてまであの兄妹と同じ存在に関わらないといけないのよぉ!?」
「ちょっと、声が大きいわ。アナタ、相談されやすいって事でしょう、じゃあワタシの相談にも役立つかしら? とりあえず黙って。お話を聞いて」
ワタシを殺しにくるのはいいの。どうせ無能なヘンゼルにワタシは負けない。ワタシはヘンゼルを殺すのだから。でも、失敗するのが解っていてワタシに挑む馬鹿なヘンゼル姉様を嗤わないといけないから。
だから、ワタシ以外を殺す時間なんて作るのは無駄なの。余計な事はせず、ワタシだけを殺そうとすればいいのよ。
「いやいやいやいや、え、ちょっと待って、そういうこと!? うわ、面倒くさ。関わりたくない、関わりたくないぃぃーーー!」
「面倒? アナタ、切られたいの? 違うわよね? なら、協力してくれるわよ、ね?」
チラリと刃を見せれば、涙目のまま首が取れそうなくらい大きく頷くシロップ。少し可哀想な事をしたかしら。でもワタシ自身、良い考えも思いつかなかったのだから許して欲しい。
あのヘンゼル姉様に頭を下げて頼むだなんてごめんだし。であれば、他に案がありそうな人に聞くのが一番な気がする。
まあ、話を戻して。
この頃、ヘンゼル姉様がワタシを殺しに来ない。それがとてもムカつく。このイライラをどうにかしないと、最後にワタシのヘンゼル姉様を殺すという先生との約束を破りそう。
「コホン。とりあえず、どうすればいいか……考えはあるのかしら」
「あー、アンタとよく似——じゃなかった先生と一緒に行動してるヘンゼル、の行動を制限したいのよね?」
「一度だけ、その言いかけた言葉に対しては聴き逃してあげますね? あぁ、ちなみに質問に対しての答えですが、合っていますよ」
あの、ヘンゼル姉様と一緒にされるだなんて気持ちが悪い。まあ、言いかけだし今回は見逃すけれど、危うく相談相手を殺してしまうところだったわ。ここは図書館なのに。危ないわね。
「あ、ハイゴメンナサイ。ってそうだ。聞きたかったのだけれど、アンタ達まだアルター狩りしてるの?」
「達……?」
「あ、違うの、あのアンタよ、アンタ。グレーテルはどうしてアンタのヘンゼル以外のヘンゼルとグレーテルまで殺すのよ。今、それはホンモノになる為の行動じゃないんでしょ?」
「……まあいいわ。質問に答えるわ。相談しているのはワタシだし」
一呼吸置いて、話す。そしてワタシの目に狂気を宿らせ言う。
「ホンモノも、だけれど。他のヘンゼルとグレーテル、気持ち悪いでしょう? ワタシとヘンゼル姉様と同じ名前で、仲良く、睦まじく、助け合っちゃって……気色悪い。気持ち悪い。そんなの……殺したいに決まってる」
そう、ヘンゼルとグレーテル。仲睦まじい兄妹。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。仲睦まじくしてるヘンゼルとグレーテルは殺す。壊す。肉片にして、燃やして、存在ごと無くす。食べたりなんてしてあげない。ぐちゃグチャにしてあげる。
「あ、そうなの。うん、そっかぁ……逃げていいかな……」
「うん? シロップ、何か言ったかしら」
「いえ、なーんにも!? ほらほら、えっと理由も聞いたし分かったわ。ありがとう。えーっと解決策よね? なら、なら、アンタが先に殺しちゃえばいいんじゃない? そしたら、アンタ以外ヘンゼルは殺せないでしょ! それかもういっその事二人で先に二人で殺しあうとか、ほらお互いに同じ思いかもしれないし……」
ワタシが、先に殺す?
ふむ。確かに。姉様よりワタシの方が優れているのだし、ワタシが全て殺せばいい。確かにそうね。
最後ら辺は小さくて何を言っているか分からなかったけれど、いい案ね。
「ふふふっ!」
そうよ。そうね。そうだわ。ワタシが全て殺せばいいんだ。
「ありがとう。シロップ、アナタのおかげで上手く行きそうだわ」
「うぇ!? あ、うん、それなら……ナニヨリ」
「……これは貸しよ。何かあれば助けるわ。それじゃあ、お暇するわね。邪魔してごめんなさい」
そういって、図書館をさっさと出る。答えはもう見つかった。ここにいる、理由なんてない。
でもお茶とお菓子、とっても美味しかった。甘いものは高価だから、食べたことなんてなかったけれど、紅茶もすごく美味しかった。こんなに美味しいのなら、また飲みたいし、また食べたい。少しはワタシのこの飢えも、無くなるかもしれないから。
けれどワタシを怖がっている相手にそれは可哀想。お菓子の魔女はヘンゼルとグレーテルに殺される存在。嫌われていてもおかしくはないし、怖がられてもおかしくはない。ワタシのクロニカでも何も考えず、ワタシはお菓子の魔女をの殺そうとしたはずだ。その前に姉様とやり合って相討ちになったけど。
でも、ここでお菓子とお茶をもらって、相談を聞いてもらって……。だから貸しとして、何かあったら助けてあげる。それくらいには感謝している。
まあ、ヘンゼル姉様との殺し合いを邪魔しなければ、だけれど。
ふふ、これから忙しくなるわね。
「あぁ、ヘンゼル姉様。早く姉様を食べてしまいたい」
私にとってシロップは残念美人だと思って書いています。
次は、ヘンゼル目線です。