わたしは、グレーテル。ここでは、アルター・グレーテルと呼ばれています。
殺し合いまでしましたが、わたしは書き換えられて……罰せられて……それで、それで、わたしはアルター・グレーテルとして先生と呼ばれるアルターの元で過ごしています。
最も愛しいと思っていた最愛の人、ヘンゼル。愛しいはずだった兄様。最低で下劣で、気持ちが悪い、ただのケダモノ。
書き換えられて、生きてきた全てを否定されて、どう生きていいかも分からなくて、それでもすがる先はもうなくて。だから、わたしはまた間違えてしまったのかもしれない。
それが、わたしにとって一番近くにある希望だったから。あるのかも分からない本当の希望は、その希望の後ろにあって見えなかったのかもしれない。
***
お家が無くなったから、住めるお家を適当に見つけてそこを新しいお家にした。
雰囲気はわたしの元のお家とはまた違うけど、わたしはそのテーブルで飲むお茶が好きだった。
殺しあったはずで、わたしの事なんて嫌いなはずのお菓子の魔女、シロップ。彼女にたまに貰うお茶の葉は一級品で、とても美味しい。
お菓子なら分かる。けれど、お茶をどうやって手に入れているのかは分からない。それでも、貰うお茶の葉は毎回違っていて、一つの楽しみになっていた。
そんな少しだけ壊れた気持ちも落ち着いていた時。
ヘンゼル姉様が、わたしのお家に相談に来た。
曰く。
「お前とは違う方の、僕のグレーテルには僕だけを見て僕だけを殺して欲しい」
というのだ。
シロップに相談したが、結局怯えられて満足に質問の答えを得られなかったらしい。
だから、ヘンゼル姉様の頼みなら聞いてくれそうなわたしの所に来た、のだと。
「無関心さは変わらない。嫌なら断れ。だが、ボクがお前に相談なんぞ、これっきりだ。本当はイヤだったけど涙目のお菓子の魔女が、お前なら別の存在とはいえ同じグレーテルであるお前ならいいアドバイスをくれるかも、って言ったから来てやったんだ」
頼んでいるのか命令しているのか。どちらかと言えば命令しているヘンゼル姉様の頼み事にわたしは二つ返事で頷いた。
「はいっ! ヘンゼル姉様のお役に立てるなら、なんだって!!」
「……ふんっ! じゃあ、よろしく。あと、ボクを姉様って呼ぶな。反吐が出る」
「はい。ではご主人様でよろしいでしょうか?」
「よろしくないっ! はぁ、それなら……呼び捨てにされるのも嫌だからヘンゼルお姉様と呼べ」
ふふ。慌てるヘンゼル姉様は可愛い。
でも、悩みは……
「はぁ。改めて、ボクはボクのクロニカのグレーテルを殺したい。でもボクのグレーテルがボク以外を見て、ボク以外を殺すのは嫌なんだ。だから、だから、アイツは、アイツにはボクだけを殺しに来て欲しい。どうしたらいいと思うのか言え」
との事だ。
ヘンゼルお姉様。わたしとは違うグレーテルお姉様。わたしにとって、お二人共は姉と思える存在です。その二人が殺しあって1人でもいなくなるのは嫌。
嫌だけれど。
ヘンゼルお姉様が他でもなくわたしに助けて欲しいと頼む事で、わたしはそれに対して曖昧に答えて濁す訳にはいかない。
でも、やはり思い浮かばない。浮かべたくない。
「ヘンゼルお姉様、少しだけ考える時間を頂きたいのです。よろしいでしょうか?」
「考える、時間?」
「はい。今すぐにと言ってもわたしにはそれを思いつけるだけの学がありません。時間を置けば良い案も浮かぶかもしれないので、考える時間が欲しいのです」
時間が、欲しい。思い浮かべたくないけれど、思い浮かべなければならないのであればせめてもう少し時間が欲しい。
「いいだろう。じゃあ、明後日、会いに来てやる。それまでに考えろ。いい答えを待ってるからな」
案外あっさり頷いてくれたヘンゼルお姉様は、用事は終わったとさっさと帰ってしまわれた。
「……先生に相談してみよう」
私だって一人で悩んでいたら……またヘンゼルお姉様にご迷惑をかけてしまいそうだから。
「それで、自分のところに来たと」
「そうです。先生、わたしはヘンゼルお姉様もグレーテルお姉様も傷付いて欲しくありません。依存……と違うのかは分かりませんが、ただあの二人はわたしとお兄様にはなかった絆があるように感じて、それが羨ましくて。壊れて欲しくないんです」
全て本心。わたしはあの兄と違うヘンゼルお姉様と、わたしと違うグレーテルお姉様が、羨ましくて傷付いて欲しくない。
心からの言葉。
「でも、お望みとあらば叶えたいとも思うんです。先生、これはおかしい事なのでしょうか」
「何もおかしくない。その気持ちは尊重されるべきものだと思う」
その言葉を聞いて、とてもほっと息を吐く。少し緊張していたみたいです。やっぱり、自分の意見が否定されるのは……怖いのでしょうか。でも、ほっと出来たのは、きっと先生に肯定されたから。
先生に肯定されたら、わたしは正解の道を選んでいるのだと思えるから。
「アルター・グレーテル。君が真剣に悩んで自分がしたい事を見つけて、その通りに行動する事が大事だと思う。今の君は、それが出来ると思う」
「そう、でしょうか? またわたしは、望まれたからと……また、また卑しいことを……!」
「そう思うなら、シロップに相談してみたらどうだ? この頃仲がいいと聞く。それにシロップは相談に乗るのが上手いらしいから、いいアドバイスが聞けるかもしれない」
頭の中が、過去で埋め尽くされて、気持ちが悪くて吐きたくなる。それを、先生は頭に手を置いて優しく動かしてくれて、止めてくれた。
撫で、られてる。撫でてもらえてる。それだけで落ち着く。
「ごめんなさい、取り乱しました。はい、シロップの所に行ってみます! ありがとうございます、先生!」
善は急げ、だ。
図書館の中で先生に相談に乗って貰っていたのだけれど、先生にお礼を口にし頭下げ、図書館から去る。
向かう先は、シロップがいるであろう、森の中に新しく作られたお菓子の家だ。
次はシロップのお悩み相談がまた開催されるようです。