アサルトリリィ  LOST FLOWER   作:入江友

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第3話 特別寮にて(3)

 自分の目の前で頭を悩ませているロザリンデに、眞悠理は思うところを述べるべく口を開いた。

 

「一つ言えるのは、結梨ちゃんがG.E.H.E.N.A.の一般的な強化リリィと違う点は、G.E.H.E.N.A.との関係に結梨ちゃん本人の意思がまったく関わっていないことです」

 

 結梨はあのとき海岸で梨璃に発見されるまで、G.E.H.E.N.A.の培養繭の中で誰とも意思疎通することなく胎児のように成長させられていた。

 

 そのため、結梨とG.E.H.E.N.A.の間に、双方の意思に基づく契約関係や主従関係のような取り決め事は何も存在しない。

 

 G.E.H.E.N.A.は結梨の生みの親ではあるが、それ以上でもそれ以下でもないのだ。

 

「つまりG.E.H.E.N.A.という極悪な毒親の娘である結梨ちゃんが、そのくびきを逃れるためにはどうすればいいか、というわけです」

 

 生みの親がG.E.H.E.N.A.である限り、いわゆる親権に相当するものはG.E.H.E.N.A.にあるということになるのだろう。

 

 結梨を見つけた場合、その権利に基づいてG.E.H.E.N.A.は結梨の身柄引き渡しを要求してくると考えられる。

 

 前回は結梨が人ではなくヒュージであるという前提だったので、その根拠となる権利が親権ではなくモノとしての所有権だったということだ。

 

 しかしG.E.H.E.N.A.を結梨の生みの親と認めるとしても、非人道的な虐待を受けるであろうことが明白な状況で、そんな親のもとに子どもを返せるわけがない。

 

「G.E.H.E.N.A.の子である結梨ちゃんは親の言うことに逆らえない。

でも逆に考えると、結梨ちゃんが成人すれば、G.E.H.E.N.A.の親権に服する義務は無くなると言えるのね」

 

「まさしくその通りです」

 

 結梨が成人であれば、親としてのG.E.H.E.N.A.のもとに戻ることを、自らの意思で合法的に拒否できる。

 

「私はG.E.H.E.N.A.には戻りません。自分の意志で自由に生きていきます」と正々堂々と宣言できる日が来るのだ。

 

 結梨が成人年齢である18歳になれば、それが実現可能になる。

 

「実際には、わざわざG.E.H.E.N.A.に宣言しなくても、結梨ちゃんが18歳になった時点で、G.E.H.E.N.A.の言うことを聞く筋合いは、これっぽっちも無くなるわけですが」

 

 それでもなおG.E.H.E.N.A.が手出ししてくるようなら、それは一個人に対するれっきとした拉致犯罪行為であり、正義の大義名分は今度はこちら側にある。

 

 その時こそ、G.E.H.E.N.A.を人道に反する悪の犯罪組織として糾弾し、結梨を諦めるように追い込めばいい。

 

「あとは今の結梨ちゃんの年齢が何歳だと認められるかということですが」

 

 年齢について言えば、培養繭から出てまだ一年も経っていないので、今の結梨は0歳であるともいえる。

 

 しかし繭の中で何歳相当まで成長させていたかの情報を利用すれば、現時点での身体と精神の発達段階に相当する年齢の個人として認められるだろう。

 

 はじめに結梨が海岸で一柳隊に発見された時に、ガーデンの医療施設で身体と知能の両面にわたって一通りの検査は済ませてある。

 

 今はまだ精神が身体よりもやや幼いが、それもやがて外見相応の段階まで発達するだろう。

 

 もし、そのデータと現在の発達状態に基づく年齢が認められなければ、その時は司法の場で正面から争えばいい。

 

 ヒュージではなく一人の人間として認められた時点で、結梨は国際条約と国の法律によって、他のすべての人と同じく人権を保障されているのだから。

 

「ふふ、何か離婚調停みたいで、話が急に庶民的になりましたね」

 眞悠理は苦笑しながらも、どこか安心した口調で言った。

 

「いいのよ、それで。

話のスケールが国家であろうと家庭であろうと、個人の権利に変わりはないわ」

 

「つまり、結梨ちゃんは18歳になるまでの数年間は、公式には未帰還死亡扱いの状態を維持する、というわけですね。

そして18歳の誕生日に、『まったく偶然にも』百合ヶ丘のレギオンによって生存が確認される、と」

 

 あるいはそれまでにG.E.H.E.N.A.に見つかって逃亡していたとしても、18歳になるまで逃げきれば、その時点でこちらの勝利が確定するということだ。

 

「ロザリンデ様、私はこのプランを強く推薦します。

現時点で最も実現性と確実性のある選択肢だと思います」

 

「ええ、こまごまとした課題はたくさんあるでしょうけれど、大枠としては妥当な着地点だと思えるわね。

ありがとう、この内容を一つの試案として、近々に私から理事長代行に説明するわ。

理事長代行がそれに納得したら、ガーデンの方針として採用されることに道が開けるはず」

 

「それについては、まず心配されなくとも良いと思います。

おそらく杞憂でしょうが、もしもこの案以上に優れたものがあるとしても、その場合はそちらを採用すれば良いだけのことですし」

 

 この場での結論として、今できる対応は結梨の存在を18歳になるまで隠し通すこと、もしそれが途中で露見した場合はガーデン外で18歳まで潜伏すること、そこまでだ。

 

 それ以上に踏み込んだことをすれば、規模の大小はともかく、G.E.H.E.N.A.との武力紛争に発展してしまう可能性が極めて高い。

 

「それにしても、私たちって本当にリリィなのかしら。

まるで権謀術数に明け暮れる旧世紀の軍閥にでもなった気分ね。

今回ほど特務レギオンの名前がぴったり当てはまる任務は記憶に無いわ」

 

 そう言ってロザリンデは大きく息をつき、部屋の天井を見上げた。

 

 眞悠理も肩の荷が下りたように表情を緩め、ロザリンデが眞悠理にねぎらいの言葉をかけようとしたその時だった。

 

「私が18歳になったら、梨璃に逢えるの?」

 

 まだ幼さを残した結梨の澄んだ声が、ベッドの上から二人の耳にはっきりと届いた。

 

 

 

 

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