アサルトリリィ  LOST FLOWER   作:入江友

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第3話 特別寮にて(4)

 ロザリンデと眞悠理が声の聞こえた方を振り向くと、ベッドの上で上半身を起こした結梨が二人を静かに見つめていた。

 

 その瞳には純粋な問いかけの意志だけが宿っていて、疑いの感情は微塵も感じられなかった。

 

「起こしてしまったみたいね、ごめんなさい」

 

 ロザリンデは先に謝ってから、いったん言葉を切って、再び口を開いた。

 

「そう、結梨ちゃんが18歳になれば、もうG.E.H.E.N.A.のことを気にせず生きていけるわ。

梨璃さんや夢結さんたちにも自由に逢えるようになる。一緒にいられる。

だからそれまでは、申しわけないけれどG.E.H.E.N.A.に見つからないように生活してもらわないといけないの」

 

 ロザリンデは結梨の不意の呼びかけに驚いたものの、落ち着いた冷静な口調で結梨に答えを返した。

 

「私が18歳になるまでG.E.H.E.N.A.に捕まらなければいいんだよね」

 

「ええ、その通りよ」

 

「私はG.E.H.E.N.A.に見つからないように隠れて、もし見つかった時は捕まらないように逃げ続けるってこと?」

 

「大体そんなところね。

だから明日から隠れんぼと鬼ごっこの訓練をたっぷりしましょう」

 

「ロザリンデと二人で?」

 

「そうよ、私の訓練はとっても厳しいから覚悟しておいてね」

 

「うん、よろしくね、ロザリンデ」

 

 結梨の無邪気な返事を聞いたロザリンデは、微笑みながら右手を結梨に差し出し、結梨とロザリンデは握手を交わした。

 

「結梨ちゃん、あなたをG.E.H.E.N.A.の手に渡したりなど決してしない。

あなたが18歳になるその日に、必ず梨璃さんに逢えることを約束するわ」

 

 

 

 

 

「ところでロザリンデ様、お二人の授業は如何なさるのですか」

 

 ロザリンデと結梨の会話を聞いていた眞悠理は、無粋と知りつつも現実的な疑問を口にした。

 

「私に関しては、卒業に必要な単位はすでに取得済みよ。

だから明日から好きなだけ結梨ちゃんを鍛え上げることができる。

結梨ちゃんについては、ガーデンで履修しないといけない課程はシェリス様が教えてくださるから、私たちが心配する必要はないわ。

それ以外の時間は、基本的にすべて逃走潜伏時のための訓練に充てる予定よ」

 

「それは羨ましい限りです。

都合が許せば私もその訓練に参加したいくらいですが、とてもお二人にはついて行けそうにありません。

ガーデンの片隅からご健闘をお祈りしています」

 

 そう言ってから、眞悠理はロザリンデから結梨の方へと向き直って姿勢を正し、深く一礼した。

 

「結梨ちゃん、ごめんなさい。あの時、私たちは誤った情報に基づいてあなたを拘束しようとしていた。

言い訳になってしまうけれど、その時点では情報を否定できる根拠が無かったために、指示に従わざるを得なかった」

 

「それはあなたたちの責任ではないわ、眞悠理さん」

 

「しかし一歩間違えれば、結梨ちゃんの運命を決定的に狂わせてしまうところでした。

百由さんと楓さんの尽力が無かったら、今頃はどうなっていたことか分かりません。

最悪の場合、結梨ちゃんをG.E.H.E.N.A.に引き渡した後に人であることが判明した上、あのギガント級が出現してガーデンは壊滅、戦死者多数となっていた可能性もあったのですから」

 

 沈痛な表情でそう語る眞悠理に、結梨は穏やかな口調で話しかけた。

 

「梨璃と一緒にガーデンから逃げたとき、私はヒュージで、そのあと夢結たちが迎えに来てくれたとき、私は人だったんだね。

変なの。ヒュージになったり人になったり。

私は私のままで、何も変わってないのに」

 

 結梨のその言葉を聞いて、眞悠理は結梨のもとへ歩み寄り、両手で結梨の手を包み込むように握りしめた。

 

「一柳結梨さん。

もし、この先あなたが窮地に陥ることがあれば、私は何をおいてもあなたを助けに行くことを約束します。

それが私にできるせめてものお礼です。

もっとも、ロスヴァイセの方々と一緒なら、まずその心配は必要ないでしょうが」

 

 そう言い終えると、眞悠理は次にロザリンデの方に向き直った。

 

「史房様と祀さんにも、今日のことは私から報告しておきます。

いずれお二人からも、結梨ちゃんに会いに来られる機会があるかと思います。

お二人とも私より融通が利かない性格ではありますが、今回の一件で結梨ちゃんに頭が上がらないのは間違いありません。

だから多少図々しい頼みごとをしても聞き入れてくれると思いますよ」

 

「そうね、せいぜいあの二人が頭を抱えそうなわがままを考えておくことにするわ」

 

 ロザリンデは悪戯っぽい微笑をたたえながら、そう軽口を叩いた。

 

「眞悠理さん、今日は私の無理難題に付き合ってくれてありがとう、このお礼は必ずどこかでさせてもらうわ」

 

「私こそ、結梨ちゃんが生きていてくれたおかげで、悔いを残すことにならずに済んで、ほっとしています。

私よりも年下のリリィが私たちとガーデンを護るために一人で命を失うなど、耐え難いことですから」

 

 眞悠理はそう言い終えると結梨のそばを離れ、ロザリンデに別れの挨拶をした。

 

「では、そろそろ私は失礼します。ロザリンデ様はこの後のご予定は?」

 

「結梨ちゃんと一緒にお風呂に入ってくるわ、もちろん大浴場には行けないので特別寮の浴場になるけれど。

結梨ちゃん、今から支度できる?」

 

「うん、ちょっと待ってて」

 

 結梨はロザリンデに返事をすると、ベッドから降りて着替えとタオルを用意し始めた。

 

「ロザリンデ様、急に開き直られましたね。

でも、私も結梨ちゃんの前途に希望が見えて、ほっとしているところはあります。

このまま何事もなく時間が過ぎてくれればいいのですが、私たちリリィとガーデンの置かれている状況を考えると到底望むべくもないですね」

 

「ええ、問題や危機は必ず起きる。そう考えておかなければいけない。

大事なのは悲観にも楽観にも偏らず、解決のために必要な情報を集めて分析し、判断し、戦略を構築し、実行すること。

と言っても、まだまだ先は長いのだから、今はこの日常を楽しまなければね。

あなたがさっき言ったように、悔いが残るのは嫌なものだから」

 

「まったくです。願わくばこの日常が一日でも多く私たちと共にありますように」

 

「ロザリンデ、用意できたよ。早く行こ」

 

 結梨がロザリンデの服の袖を引き、二人は今日の話を笑顔で切り上げた。

 

 

 

 




 今回までで、ひとまず結梨ちゃんのセーフティーネットは張り終えたと思っています。
 これ以上このレベルのシリアス回を続けていると、私の駄脳が負荷に耐えられずルナトラを発動しかねないので、今後はあまり重くない日常的な話を増やしていくつもりです。
 しかし例えば思い切りトンデモシリアスな展開にした場合、以下のようになります。


 梨璃のレアスキルであるカリスマをコピーした一柳結梨は、三人の生徒会長とロスヴァイセを自らの配下に置き、理事長代行からガーデンの全権を委任された。
 こうして結梨は百合ヶ丘を裏から操る影の支配者として君臨することとなった。
 そして御台場女学校を始めとする全国の反G.E.H.E.N.A.主義ガーデンとの間で、安全保障に関する軍事同盟関係を結び、G.E.H.E.N.A.および親G.E.H.E.N.A.主義ガーデンに対して全面的な総力戦を展開していくのであった。


 こんな展開にしたら死人が何人出るか分かったものではありませんので、問答無用で却下です。
 まだ内容が固まっていませんが、次回は閑さんが登場するかもしれません。
 閑さんの時点でまた理屈っぽい内容になるのは確定していますが……

追記:梨璃さんのレアスキルをラプラスからカリスマに訂正しました。今の時点でラプラスとするのは勇み足のように思えたためです。

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