アサルトリリィ  LOST FLOWER   作:入江友

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第22話 私立百合ヶ丘女学院理事長(5)

 

「以前に白井さんが直接この部屋に乗り込んできた時にも感じたことですが……」

 

 祇恵良は報告書に目を通し終えると、やや困ったような感情をその顔に浮かべて苦笑した。

 

「この報告書を読んだ限りでは、白井さんは少なからず、自分の力に酔いしれているところがあるようですね」

 

「咲朱はすごく自信満々で、何でもできるみたいに見えたけど……」

 

 半世紀以上を生きてきた祇恵良と違い、まだ年少の結梨にしてみれば、咲朱の言動は強引ではあっても、何かしらの正しさに裏打ちされているのだろうと思っていた。

 

「彼女自身は事実、そう信じ込んでいるのかもしれませんが――」

 

 しかし、祇恵良の発言は、結梨の思い込みを添削するかのように訂正するものだった。

 

「白井さんはG.E.H.E.N.A.の実験体ヒュージであれば、ギガント級でも意のままに操れると報告されています。

それ程の力を持っているという点において、彼女は正に『ヒュージの姫』の頂点に君臨する存在です。

個人の戦闘能力でも、おそらく彼女に敵うリリィは存在しないでしょう。

しかし、それが統率者、支配者、統治者としての適性に直結するとは限りません。

力さえあれば人々が従うわけではないのです」

 

 結梨よりも早く祇恵良の考えに賛意を表したのは美鈴だった。

 

「同感ですね。僕は結梨の記憶を共有して現在の白井咲朱について情報を得ていますが、彼女には互いに理解し合うという姿勢が少なからず欠けています。

策略や武力によって夢結を一柳隊から奪おうとして失敗したことが、その端的な表れなのでしょう。

結局は、梨璃をはじめとする一柳隊のリリィたちの思いが、リリィとしての力では咲朱に到底及ばなかったにもかかわらず、夢結の心を繋ぎ止めたのですから」

 

「その通りです。

――ですから、一柳さん」

 

「う、うん」

 

 咲朱とさほど変わらない年齢に見える容姿の祇恵良は、教育者としての態度を崩すことなく結梨に語りかける。

 

「年長者の発言や行動は、それ自体が無条件に正しいわけではなく、その正しさは『誰が』ではなく、その内容によって判断されるべきなのです」

 

「分かった。でも、咲朱は『高み』を目指すために、私に協力してほしいって……」

 

「彼女が自分の理想を語るのは結構ですが、一柳さんがその理想に付き合うかどうかは別問題です。

彼女の理想は、欲望とほとんど紙一重の、極めて危ういバランスの上に存在しています。

特別な力を持った特別な人間が社会の頂点に立ち、人類の進むべき方向を決定する。

それは一見正しいことのように見えて、その実、とても危険な可能性を秘めています。

彼女が『ヒュージの姫』の力によって世界を変えるつもりなら、私たちはその目論見を阻止するために、彼女と決定的に敵対することになるかもしれません」

 

「私が咲朱を止めないといけなくなるの?」

 

 結梨の問いかけは祇恵良に向けられたものだったが、またも美鈴が祇恵良より先に答えを口にした。

 

「何も結梨一人で問題を背負い込む必要は無いよ。

必要と判断されれば、百合ヶ丘のガーデンが然るべきレギオンに然るべき指示を出すだろう。

百合ヶ丘女学院単独での目標達成が困難であれば、御台場なり聖メルクリウスなり、他の反G.E.H.E.N.A.主義ガーデンと共同戦線を張ることもできる。

――今はそのような認識で必要十分だと思いますが、違いますか?理事長」

 

「そうですね。白井さんが具体的な動きを見せるまでは、一柳さんに対するG.E.H.E.N.A.の出方と同じく、私たちも白井さんに対しては様子見に徹して構わないでしょう。

――そして、もう一点だけ一柳さんに言っておきたいことがあります」

 

 黙って祇恵良の言葉を待つ結梨に、祇恵良はこれ以上なく明快に宣言するように言う。

 

「白井さんが一柳さんに対して行った定義付け――一柳結梨とは何者であるかということは、彼女があなたに押し付けているだけのものです。

自分が何者であるかは、自らの意志と行動によって示すべきことで、一方的に他者から定義付けされるものではありません。

ですから、白井さんの言ったことについては、一柳さんが深刻に考えこむ必要はありません。

それに、あなた自身は自覚していないかもしれないけど、今のあなたは白井さんよりずっと大人ですよ」

 

「えっ……私が?」

 

 祇恵良の言葉の意味を理解しかねて、結梨は思わず視線を泳がせた。

 

 身体的にも精神的にも、自分が咲朱より大人であると思われるところは全く思い当たらなかったからだ。

 

 戸惑っている結梨に、祇恵良は穏やかな口調で、ゆっくりと諭すように説明する。

 

「あなたは白井さんと同じく、一般のリリィとは完全に別次元の能力を持っています。

にもかかわらず、少しも驕らず、尊大になっていない。

それは白井さんが持っていない、あなたの長所なのは間違いありません。

リリィの力は誰かを支配するためではなく、誰かを守り救うためにあると、私は信じています。

ですから、これからも一柳さんの力は、それが直接的なものではなくとも、力無き人々やG.E.H.E.N.A.に苦しめられている強化リリィを助けるために使ってください」

 

「……うん、理事長先生の言ってくれたことができるように頑張ってみる」

 

 結梨の心が落ち着いたのを確認して、祇恵良は話題を咲朱の事から転換するべく、報告書をベッドの脇に避けた。

 

「では、白井さんの話はここまでにして、ここからは一柳さん、あなたの今後についてお話ししましょうか。

さしずめ進路についての三者面談というところかしら」

 

「三者って……?」

 

「せっかくだから、川添さんもこのまま同席を続けていただいていいわね?」

 

「僕は結梨の保護者でもシュッツエンゲルでもありませんが……」

 

 珍しく困惑した表情を浮かべる美鈴に、祇恵良は悪戯っぽい笑みで答えた。

 

「一柳結梨さんの名付け親は一柳梨璃さんで、そのシュッツエンゲルは白井夢結さん。

そして白井夢結さんのシュッツエンゲルは川添美鈴さん、あなたです。

ですから、あなたは間接的に一柳結梨さんと疑似姉妹の関係にあると言えます。

ここまで言えば、もう分かっていただけますね」

 

「……分かりました。僕もお話に加わらせてもらうことにしましょう」

 

 美鈴が半ば観念したように、結梨の顔を見て苦笑いする。

 

「良かったわ。それでは早速始めるとしましょうか」

 

 祇恵良は微笑みながら言うと、先程の報告書とは別の書類を、ベッド横のキャビネットから取り出してページをめくり始めた。

 





 前回の投稿は、「雑念が多い+体内時計が狂い気味」のため集中力を欠き、その結果、質・量ともに不十分な内容となってしまいました。
(今回投稿分についても、文章量はこれまでの半分程度となっています)

 なるべく工夫して良い出来となるように努めますが、当分の間は低空飛行の状態が続くかもしれません。

 かと言って更新の間隔を空けても内容が改善するかは分からないため、毎週更新は継続する予定です。

 もし判断を変更して更新の間隔を変更する場合や休載する場合は、その時点で後書きにてお伝えします。
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