アサルトリリィ  LOST FLOWER   作:入江友

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第23話 生存闘争(1)

 

 結梨が高松祇恵良理事長との面談を終え、百合ヶ丘女学院から御台場女学校へと戻った数日後。

 

 新宿御苑近傍の市街地では、ルドビコ女学院周辺地域の防衛力強化を目的として派遣された一柳隊が、一群のヒュージと戦闘を繰り広げていた。

 

 戦端が開かれてから15分、約60体のヒュージと一柳隊の戦いは、徐々に、だが確実に一柳隊の優勢に傾きつつあった。

 

「鶴紗さん、少し前に出過ぎです。

あと50メートル後退して、左サイドの夢結様をサポートする位置につけてください」

 

 TZで楓とともに指揮を取る神琳が、AZの鶴紗にポジション修正の指示を出した。

 

 それに応えて鶴紗が前方のヒュージを警戒しつつ、俊敏な動きですぐさま方向転換を始める。

 

「了解。右サイドから展開中のスモール級とミドル級は雨嘉の狙撃で阻止して。

私は夢結様が相手にしてるラージ級を、二方向から挟撃する態勢に入る」

 

「頼みます。

――楓さん、ここから見える範囲にはギガント級はいないようですが、ルド女のLGアイアンサイドから情報は入っていますか?」

 

「いいえ、アイアンサイドも別エリアで出現したヒュージの迎撃に出動中で、こちらにはヒュージの戦力に関する情報は届いていませんわ。

二水さん、この周囲の状況はいかがですの?」

 

 楓からの確認を待っていたかのように、双眸を赤く光らせた二水が、前方を見つめたままの状態で答える。

 

「はい、鷹の目を使って索敵したところ、現時点で周辺にギガント級の姿は確認できません。

ですが、前方のヒュージ群の後方300メートルの地点に、複数のケイブが発生しているのを確認しました。

統合司令部にもすぐ連絡します」

 

「速やかに破壊の必要あり……ですわね」

 

「梅様がフリーの状態なので、縮地でヒュージ群の後方へ抜け出して、ケイブの破壊へ向かってもらいましょうか?」

 

 BZからTZへ上がってきた梨璃が提案すると、それにミリアムが賛同した。

 

「そうじゃの。早くケイブを壊しておかんと、いつ後続の群れが出てくるかもしれんからの」

 

「それなら私がAZに残っている梅様に連絡を――」

 

 梨璃が梅に指示を出そうとした時、遥か前方の上空で何かが光ったのが見えた。

 

 その光は瞬時に一直線に地上とつながり、同時にビル群の陰から青白い燐光のような輝きが広がった。

 

 光線の本数は全部で五つ、そして地上で発生した青白い燐光も同じ数だった。

 

 一柳隊がその光を目撃した約1秒後に、重々しい地響きのような爆発音が彼女たちの耳に届いた。

 

「あれ、ケイブのある方角です。さっきの光が関係してるんでしょうか?」

 

 再び鷹の目を使って、その地点の状況を確認しようとする二水。

 

「梅様、聞こえますか?単騎で先行してヒュージ群後方のケイブを――」

 

 改めて梅へ連絡しようとする梨璃の言葉を、楓がやんわりと制止した。

 

「梨璃さん、それには及びませんわ。

たった今、ケイブの破壊に成功したとの連絡が入りましたの」

 

「えっ、私たち以外のレギオンがこのエリアで展開しているんですか?」

 

「いいえ、この辺りにいるレギオンは一柳隊だけですわ」

 

「そ、それならケイブを破壊して楓さんに連絡を入れたのは誰なんですか?」

 

「多分、あれがそうじゃないですか?」

 

 楓に代わって梨璃の疑問に答えるべく、神琳は真上に近い前方の空を指さした。

 

 梨璃が上を見上げると、遥か上空を5つの小さな紡錘形の物体が、円を描くように等速で旋回していくのが見えた。

 

「あれ、空を飛んでるんですか?あれがケイブを破壊したんですか?」

 

「状況証拠的には、『あれ』しか考えられません。

楓さん、ケイブ破壊完了の連絡はどこから入ったのですか?」

 

「御台場女学校のアキラ・ブラントン教導官からですわ。

統合司令部から御台場へ、ケイブの位置情報が連絡されたのでしょうね」

 

 思いもよらなかった楓の答えに、梨璃は返す言葉を失った。

 

 そんな梨璃の肩に楓はさりげなく手を回し、空を見つめている梨璃の耳元で囁いた。

 

「一体どこの誰が操縦しているのか知りませんが、大した腕前ですわ」

 

「あれ、CHARMなんですか?ということはリリィが動かしてるんですか?」

 

 楓の話を聞いていた二水が、すかさず梨璃と楓のところへ駆け寄ってきた。

 

「う、噂では、御台場女学校のLGコーストガードに第4世代の精神直結型CHARM――その実践検証機が配備されたそうです。

 

ですが、最近は御台場の周辺に出現するヒュージが少ないので、他のガーデンの担当エリアへ航空支援に出撃することがあるそうです」

 

「でも、第4世代のCHARMって、すごく使うのが難しいんだよね?」

 

「はい、百合ヶ丘でも実戦レベルで使えるリリィはまだいないはずです。

 

私が知っている限りでは、2年生の長谷部冬佳様が戦技競技会でヴァンピールを操縦していたのを見たのが唯一です。

 

……ただ、私たちがアールヴヘイムと共同で、ガーデン本校舎の屋上から高出力砲を発射したことがありましたよね。

 

あの時も、遠隔地から百合ヶ丘へ向かっていた飛行型のヒュージを、第4世代のCHARMで迎撃したという未確認情報があります。

 

もしかすると、今上空を飛んでいるのと同じCHARMだったのかもしれませんね」

 

「ふーん……世の中にはすごいリリィがいるんだね。

私みたいなへぼリリィなんて、足下にも及ばないよ」

 

 梨璃の言葉を聞きとがめた神琳が、すかさずフォローの言葉を入れる。

 

「あら、梨璃さんだって、もう二度もラプラスに覚醒したじゃありませんか。

 

梨璃さんの他にラプラス持ちは、御台場の司馬燈さんと鈴木因さんしか確認されていないんですよ。

 

そのくらい希少なレアスキルの持ち主だということを、梨璃さんはもっと誇っていいと私は思います」

 

「そ、そうかな。私って、実はすごいリリィだったりして……でも、レアスキルだけすごくても、普段の戦闘やノインヴェルト戦術で役に立たないと意味が無いし……そうだ、もっと私もパス回しとか上手くなって、確実にフィニッシュショットが撃てるようにならなきゃ……」

 

 ぶつぶつと独り言をつぶやき始めた梨璃を横目に、楓は区切りをつけるように、わざとらしく咳払いを一つした。

 

「皆様方、いつまでもここで油を売っていては夢結様たちにどやされますわよ。

ケイブが全て破壊されたのなら、私たちは目の前のヒュージを殲滅することに全力を上げなくてはなりませんわ。

 

二水さんはBZで引き続き鷹の目で周囲を警戒、梨璃さんには二水さんの直掩をお願いしますわ。

 

他のメンバーは攻撃中の夢結様たちのバックアップに回って、残存するヒュージを一匹残らず掃討……で、よろしいですわよね?神琳さん」

 

「ええ、もちろん構いませんよ。

では、最後の仕上げと行きましょうか。

 

私とミーさんはAZまで上がりますので、楓さんはTZの底で梨璃さんと二水さんのサポートをお願いします」

 

「私が梨璃さんの傍にいられるようにとのお気遣い、心から感謝いたしますわ」

 

「いえ、私はそのようなつもりでは……」

 

「さっさと戦いを終えてルド女に戻って、梨璃さんの心も身体も、私が手取り足取り癒して差し上げなくては。うふふ……うふふ……

 

――上空のCHARMも、ケイブ破壊の任務を終えて帰り支度を始める頃でしょうしね」

 

 軽口を叩いた楓が見上げる視界には、もうほとんど点にしか見えない5機のマギビットコアが、雲一つない青空の中を旋回していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「OK、現地で展開中のレギオンから統合司令部経由で、確認完了の連絡が入ったわ。

目標エリアのケイブは残らず破壊できたわよん。

さあ、用事が済んだらさっさと撤収撤収」

 

 妙に軽い口調でその場にいた者たちに呼びかけたのは、御台場女学校のアキラ・ブラントン教導官だった。

 

 日英ハーフの彼女は、長い金髪をなびかせて大学生然とした雰囲気すら漂わせていたが、御台場の教導官らしくスパルタ式の訓練でリリィを鍛え上げるタイプだった。

 

 彼女は今、御台場女学校の校舎屋上で、何人かのリリィとともに新宿エリアへの航空支援任務を指揮していた。

 

 アキラ教導官の言葉を受けて、LGコーストガードの隊長である弘瀬湊が指示を出す。

 

「結梨さん、現地上空のマギビットコアを全機反転。

対地攻撃態勢を解除して速やかに現空域から離脱、御台場への帰投ルートに移行してください」

 

「りょーかい」

 

「ガーデンに到着するまで巡航速度を維持してくださいね」

 

「はーい」

 

「これでケイブの破壊完了、か。遠隔操作できるCHARMってのは便利なもんだな。

御台場のガーデンに居ながら、新宿に発生したケイブを攻撃できるんだもんな」

 

 全く気負いの無い返事をする結梨を見て、何やら感慨深そうな様子で腕組みをしているのは、LGヘオロットセインツの川村楪だった。

 

 屋上では、結梨の他に生徒会長の月岡椛と副会長の川村楪、LGコーストガードの弘瀬湊、岸田(はなぶさ)の計五人のリリィが集まり、アキラ・ブラントン教導官の指揮の下、航空支援の任務に参加していた。

 

 その戦術は以下のようなものだった。

 

 現地から報告された攻撃目標の位置情報を基に、楪のテスタメントで英のファンタズムを増幅し、エインヘリャルのマギビットコアの飛行コースをテレパスで誘導する。

 

 必要があれば椛のレジスタも加えて各メンバーの能力を底上げし、確実に現地の目標を捕捉できるようにする。

 

 現地のレギオンがケイブから出現したヒュージと戦っている間に、上空のマギビットコアがヒュージ後方のケイブを空爆、破壊し、後続を断つ。

 

 マギビットコアによる攻撃は、目標上空からの急降下による一撃離脱の戦術を原則とする。

 

 地上で交戦中のレギオンが苦戦するようであれば、ケイブを破壊した後に群れの背後からヒュージを攻撃し、前後から挟撃する態勢を取ることができる。

 

 航空支援任務全体の指揮はアキラ・ブラントン教導官が取り、それを湊が補佐する。

 

 このような体制で、戦力が手薄な都内各所の戦場に随時出撃し、大型ヒュージやケイブなど、戦略的に優先して排除すべき目標の攻撃に、彼女たちは従事していた。

 

 また、これは第4世代の精神直結型CHARMである、エインヘリャルの運用テストも兼ねたものだった。

 

 航空支援とはいえ、あくまでもテストであるから、ヘオロットセインツやコーストガードが外征やガーデン防衛に出撃する場合は、そちらの任務が優先されることになる。

 

「これが一般的な装備として普及すれば、リリィの犠牲も劇的に少なくできるのにな」

 

 口惜しそうとも、残念そうとも受け取れる口調で楪が言うと、対照的に努めて冷静な物言いで椛が答えた。

 

「現状で使いこなせるのは結梨さん一人だけ。

それを踏まえた上で、最大限に効率的な運用を目指すのが妥当でしょうね」

 

「1機で複数体のラージ級を撃破できるほどの航空戦力が、テスト運用とはいえ確立した……か。

うーん、それだけでも喜ぶべきなんだろうな、本来は」

 

「ゆず、欲張りすぎはだめよ。

一度に何でも解決する方法なんて、あてにしてはいけないわ。

 

遠隔地でも短時間で到達可能で、ギガント級以外はほぼ一方的に空爆で撃破することができる――特に海上のヒュージネストを攻略する際には、非常に重要な戦力になりうるわ」

 

「そうだな、まずは東京エリア全域で、地上からの攻撃が難しい目標をピックアップして――」

 

 楪の話の途中で、鋭い警報音が校舎の屋上にまで鳴り響いた。

 

 続いて、教導官の声が落ち着いた、だが緊張をはらんだ調子で、スピーカーから流れ出る。

 

「ガーデン近傍の廃墟エリアに特型ヒュージ1体の出現を確認。

LGコーストガードは直ちに出撃準備に入り、目標を排除あるいは捕獲せよ」

 

「特型ヒュージだって……久しぶりだね……ギガント級かな~」

 

 その実力に似合わないのんびりとした口調で、1年生の英が結梨に話しかける。

 

「大きさは言ってなかったね。ここからはヒュージの姿は見えないけど……」

 

 結梨は目を凝らしてガーデンの向こう側に広がる廃墟を眺めたが、ヒュージらしきものは全く見当たらなかった。

 

「ギガント級ならビルより大きいから、ラージ級以下だね……」

 

「出現したのが1体だけというのは不自然です。

その1体は陽動か偵察で、後方に群れが控えているのかもしれません。

私と英で先行して仕掛けてみます。

結梨さんはマギビットコアが戻り次第、コーストガード本隊に合流、指示があるまで待機してください。

行きましょう、英」

 

「はい、湊様。じゃあ先に行ってるね、ゆりちゃん」

 

「うん、また後でね」

 

 緊急時ゆえ、悠長に階段を駆け下りるわけにはいかず、湊と英はそれぞれのCHARMを携えた状態で屋上から身を躍らせた。

 

 文字通りの超人的な身体能力とマギの防壁展開によって、二人は難無く数十メートル下の地面に着地し、そのままガーデンの外へと走り去って行く。

 

 ガーデンの敷地から出て、隣接する廃墟の路上へと二人は歩を進めた。

 

 サーチャーは前方にヒュージ1体の存在を示している。

 

 半ば朽ち果て、破壊された建物の陰に隠れて、用心深く湊と英は前進する。

 

 ヒュージまでの距離はあと数十メートル程度と思われたが、まだその姿を目にすることは無かった。

 

 ラージ級ではない。スモール級かミドル級。

 

 おそらくこの先の角を曲がった所にいる。

 

「私が先に出ます。もし攻撃が来たら、掩護射撃をお願い」

 

「はい、分かりました。湊様」

 

 湊が建物の陰から飛び出すと、やや幅の広い道路の中央に一体のヒュージが立っていた。

 

 銀色の表皮に全身を覆われたその特型ヒュージは、大きさも形も人間に酷似していた。

 

 ヒュージは身動き一つせずに、路地から出てきた湊と十メートルほどの距離を置いて、正面から向き合う形になった。

 

 湊はそのヒュージを知っていた。

 

 正確には、湊はそのヒュージについての不十分な情報を知っており、そのヒュージが何者であるかを知らなければならないと思った。

 

「……特型ヒュージ、ジャガーノート。

エレンスゲ女学園に続いて、ここ御台場にも現れたのですね」

 

 

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