アサルトリリィ  LOST FLOWER   作:入江友

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第25話 尋ね人(5)

 

 岸本教授の勤務するイルミンリリアンラボに結梨と篠田教導官が向かう途中、ケイブ発生の警報がイルマ女子のガーデンに鳴り響いた。

 

 結梨はイルマ女子の予備CHARMを使わせてくれるよう、篠田教導官に求めた。

 

 結梨の言葉を聞いた篠田教導官は、一瞬だけ困惑した表情になった。

 

 だが、切迫した様子で自分を見つめる結梨の顔を見て、すぐに彼女本来の凛とした態度に戻った。

 

「……そうね、自分のガーデンの守備範囲外であっても、ヒュージが現れたのにリリィが戦いを後回しにはできない。

こっちへ来て。予備CHARMの格納庫があるわ。

すぐに使えるのはノーマル仕様のアステリオンかグングニルくらいだけど」

 

「ありがとう、先生。

燈の分のCHARMもお願いしていい?」

 

「分かったわ。でも、岸本教授との面会は戦いが終わった後になってしまうけれど、あなたはそれでいいの?」

 

「うん。早くヒュージをやっつけて、岸本教授のところへ行く」

 

 結梨と篠田教導官は連絡通路を引き返し、教導官の権限で解錠した格納庫から二振りのアステリオンを持ち出した。

 

 二人が応接室の前まで戻ると、扉の前の廊下で燈がじれったそうに立っていた。

 

 燈は二人の姿を確認すると、すぐさま足早に近づいてきた。

 

「お戻りになると思って、ここでお待ちしておりましたわ。

篠田先生、私とゆりさんも当然、戦闘に加わって構いませんわよね?」

 

「ええ、今はLGイルミンシャイネスを先頭に出撃して、ヒュージ群を迎撃する態勢に入っているわ。

二人はイルマ女子周辺の土地勘が無いでしょうから、イルミンシャイネスの近くで彼女たちから離れないように戦って」

 

 篠田教導官は自分の手に持っていたアステリオンを燈に渡した。

 

「承知いたしましたわ。

私とゆりさんは通常どちらもAZを担当するリリィですが、いつも通りの戦い方をしてよろしいですの?」

 

「ええ、それで構わないわ。

普段と違う役割をしても本領は発揮できないでしょうから」

 

 篠田教導官が答えた後、結梨は燈の制服の袖を引っ張った。

 

「燈、早く御巴留たちのところへ行こう。

ギガント級がいるって、放送で言ってたから」

 

 せっかちな結梨の求めに、燈は苦笑しながら答える。

 

「そうですわね。

――では私たちも出撃いたします。

また後程お会いしましょう、先生」

 

 そう言い残すと、燈は結梨と一緒にあっという間に廊下を駆け抜けていき、篠田教導官の視界から消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イルマ女子のガーデンから北東に1000メートルほど離れた地点で、LGイルミンシャイネスを中心とするイルマ女子のリリィたちは、ヒュージ群との戦闘に入っていた。

 

 イルミンシャイネスはギガント級を目標として、ノインヴェルト戦術を展開するためのシフトを敷き、その障害となるラージ級以下のヒュージを優先的に排除しようとしている。

 

 その戦術は、個々人のデュエル戦闘能力と、レギオンメンバー間の緊密な連携を両立したものだった。

 

 イルミンシャイネス以外のリリィはレギオンを構成せず、群れの周辺部に展開して各個にヒュージと戦っている。

 

 それはイルミンシャイネスが最短でギガント級に対するノインヴェルト戦術を開始できるよう、最大限に有利な戦況を作り出すための戦術だった。

 

 結梨と燈が戦場に到着した時、既にヒュージ群の個体数は半減しており、着実にギガント級を攻撃するための布石が打たれつつある状況だった。

 

 イルマ女子の戦いぶりを後方から見た燈は、やれやれと言わんばかりの苦笑いを見せて結梨の顔を見た。

 

「噂には聞いていましたが、イルマ女子は随分と杓子定規な戦術パラダイムをお持ちのようですわね。

平素の訓練時に数えきれないほどの細かい連携を、さぞかし徹底的に叩き込んでいるに違いありませんわ」

 

「レギオンで戦ってるのはイルミンシャイネスだけなのに、みんな動きがまとまってて、乱れが全然ないね」

 

「あの戦い方を見ていると、日葵様がイルマからルド女に移ったのも、さもありなんと納得してしまいますわ」

 

「『ひまり』って?」

 

「一之宮・ミカエラ・日葵様ですわ。

ルド女のトップレギオンたるLGテンプルレギオンの隊長であり、『自由で華麗な戦い』の戦闘スタイルを求めてイルマ女子から転校したと言われていますの」

 

「自由で華麗……」

 

「ここから見る限りでは、イルミンシャイネスはがちがちの堅実な守備と連携に裏打ちされた、計算通りの戦術を展開していますわ。

もちろんそれは個々人の極めて高い技量があって、初めて成立するものではありますが――」

 

「自由で華麗な戦い方とは違うってことだね」

 

「そのどちらが正しい戦術かを問うことは無意味ですわ。

ただ、日葵様は自分の心を偽らなかった結果、イルマ女子を去り、ルド女へ転校した。

それ以上のことをあれこれ言うのは野暮というものですわ」

 

「……うん、私たちは今できることをしよう。

私たちもイルミンシャイネスのところまで行って、いっしょに戦おう」

 

 二人はそれぞれ自らのマギクリスタルコアを装着した予備のアステリオンを構え、ためらうことなく戦場の中心へと突入していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結梨と燈が数十体のミドル級以下のヒュージを薙ぎ払い、イルミンシャイネスが戦っている場所までたどり着いたのは、約10分後のことだった。

 

 イルミンシャイネスのリリィで二人の接近に最初に気づいたのは、BZを担当する1年生の日下部蓮月だった。 

 

 ツインテールの髪形をした勝ち気な性格の蓮月は、イルマ女子の国定守備範囲にいないはずのリリィを見て首をひねった。

 

「あれ?御台場の制服を着たリリィが二人いる……

おーい。あなたたち、どうしてこんな所にいるのよ。

ここは御台場の国定守備範囲じゃないわよ」

 

 結梨と燈は蓮月の傍まで来て立ち止まった。

 

 燈が、アステリオンを持っていない方の手を、結梨の肩に置いて説明する。

 

「この子が個人的な事情で面会したい人がイルマ女子にいますの。

篠田先生がその手続きをして下さっている途中でヒュージが出現したので、私たちも戦いに加わらせてもらった次第ですの」

 

 同じ1年生ながら、にやりと凄みのある微笑を浮かべる燈に、蓮月は思わず気圧された。

 

「そ、それはどうもありがとう……」

 

 蓮月が言葉を途切れさせた時、燈の横でやり取りを聞いていた結梨が控えめに声をかけた。

 

「あの……私は北河原ゆり、私の隣にいるのは司馬燈っていうリリィなんだけど、あなたの名前を教えてほしいの」

 

「――ああ、そうだったわね。

私は日下部蓮月。LGイルミンシャイネスでBZを務めている1年生よ」

 

「レギオンとして戦っているのは、あなたたちイルミンシャイネスだけのようですが、ほかにレギオンは出撃していませんの?」

 

「イルマ女子にはもう一つ、自主結成レギオンのLGハコルベランドがあるわ。

でも、今はあいにく外征中で不在なの。

トップレギオン制であるイルマでは、今は私たちLGイルミンシャイネスだけが出撃可能なレギオンよ」

 

「では、あなたたちがあのギガント級を討滅する枠割を担っているというわけですのね」

 

「そうよ。でも――」

 

「まだイルミンシャイネスはノインヴェルト戦術を始めてない……」

 

 再び声を詰まらせた蓮月に、結梨がそれを補うように言葉を続けた。

 

 さらに燈が重ねるように蓮月に尋ねる。

 

「日下部さん、私の見たところ、ノインヴェルト戦術を開始する状況はできているようですが、それはなぜなんですの?」

 

「――あのギガント級が、おそらく特型だからよ」

 

 蓮月の返答を聞いた結梨と燈は、前方数100メートルの地点に屹立している二足歩行の巨人のようなギガント級を遠望した。

 

「確かにあのギガント級、以前に下北沢で戦った個体とよく似ていますわね」

 

「特型のギガント級だから、ノインヴェルト戦術を使えないってこと?」

 

 結梨の質問に答える蓮月の表情は、本来の彼女の性格には似合わない翳りに満ちたものだった。

 

「……正確には『使っても倒せない可能性が高い』ね」

 

 蓮月の短い答えを補うように、燈が説明を続ける。

 

「マギリフレクターを備えている個体であれば、一度しか使えないノインヴェルト戦術を防がれてしまうと万事休すですわ。

あのギガント級を倒す術は無くなってしまいますの」

 

「そうよ。この戦場でノインヴェルト戦術を使えるのはイルミンシャイネスだけ。

複数レギオンによる多重ノインヴェルト戦術は不可能。

だから、まだノインヴェルト戦術を開始するわけにはいかないのよ」

 

「でも、このままだとギガント級は倒せない……どうしたらいいのかな……」

 

 結梨は黙り込んでしばらく考えに耽っていたが、何かを思いついたかのように顔を上げて蓮月と燈に提案した。

 

「ギガント級がマギリフレクターを使っても、私がノインヴェルト戦術弾を命中させる。

だから、私にフィニッシュショットを撃たせて」

 

 その結梨の提案に、蓮月は渋い顔で答えた。

 

「どうやってマギリフレクターを突破するの?

それを聞かせてもらわないことには、いきなり現れた他ガーデンのリリィにフィニッシュショットを任せることなんてできないわよ」

 

「うん、あのね……」

 

 結梨は蓮月の耳元で何事かを呟いた。

 

 それを聞いた蓮月の表情は、驚きに満ちたものへと変わった。

 

「……すぐに御巴留様に伝えるわ。

 あなたたちも御巴留様のいるTZまでついてきて」

 

 言うが早いか、蓮月は前方へ向かっていきなり駆け出す。

 

 それを見た結梨と燈は、すかさず蓮月の後に続いて走り始めた。

 

「どうやら妙案を思いついたようですわね、結梨さん」

 

 不敵な微笑を浮かべて並走する燈に、結梨は対照的にあどけない笑顔を返した。

 

「きっとこの戦い方で倒せると思う。

特型のギガント級がマギリフレクターを使っても、この戦い方で」

 

 三人のリリィは数十秒後に、イルミンシャイネス隊長の西川御巴留の所へ到着した。

 

「蓮月、どうしてここへ?それに、あなたたち二人も」

 

 怪訝な顔で三人を見つめる御巴留に、蓮月が事情を説明する。

 

「御巴留様。あのギガント級をノインヴェルト戦術で倒す方法を、御台場のリリィが――」

 

 蓮月の説明を聞いた御巴留は、先程の蓮月と同じく意表を突かれて驚いた様子だったが、間もなく落ち着きを取り戻した。

 

「それが本当にできるなら、やってみる価値はあるわ。

でも、あなたにそんなことができるの?」

 

 1年生という学年を差し引いてもなお幼さの残る結梨を見て、御巴留は幾分不安な様子だった。

 

 その御巴留に詰め寄るように燈が距離を縮めて、御巴留の目を真正面から睨むように見つめた。

 

「信じられないのなら、御台場女学校のLGロネスネスで船田姉妹とともにアタッカーを務めている、この司馬燈が保証いたしますわ」

 

「……分かったわ。どの道このままでは、あのギガント級を倒すことはできない。

いくらかでも成功の可能性があるのなら、それに賭けてみるしかないわ」

 

 御巴留は覚悟を決めたように一瞬目を閉じた後、周囲に展開しているイルミンシャイネスのリリィたちに号令をかけた。

 

「これよりLGイルミンシャイネスによるノインヴェルト戦術を開始する。

訓練通りギガント級に最接近してパスを回し、マギスフィアの威力を極限まで高めなさい」

 

 一呼吸置いて、御巴留は一段声を大きくして宣言するように叫んだ。

 

「――そして、フィニッシュショットへのラストパスは、ギガント級の直上へ撃つように!」

 

 




追記
ラスバレやOPED原画集の特典などで唐突に結梨ちゃん推しが始まりましたが、これは結梨ちゃん復活のフラグなのだろうか……
夢オチや闇落ち復活だったら嬉しさ半減ですが。
とりあえず20日のメモリアストーリーをおとなしく待つことにします。
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