アサルトリリィ  LOST FLOWER   作:入江友

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第5話 初陣、再び(2)

 駐車場に停めてあった車からCHARMを取り出すと、結梨たち四人は遠望が利くビルの屋上まで跳躍し、エリアディフェンスの外側から市街地に接近しつつあるヒュージ群の規模を確認した。

 

「ラージ級1、ミドル級30、スモール級100というところかしら。おそらくあの群れの後方にケイブが発生している。今ここから見えているのは第一波でしょうね」

「第二波以降の攻撃があるんですか?」

 ロザリンデの見立てに碧乙が問いかけをする。

「それは今の段階では分からないけど、可能性としては十分にありうると考えるべきでしょうね」

 

 考えうる作戦としては、接近中のヒュージ群を迎撃して排除し、その背後にあると思われるケイブを破壊する。

 あるいは戦闘を回避して群れの後方に回り込み、先にケイブを破壊、その後で群れの背後から攻撃する選択もある。

 「まず必要な情報として、ここのレギオンやマディックが現在どのように展開しているかを知らなければね」

 「あそこにいる人たち、マディックに見えるよ。行ってみよう」

 ロザリンデの言葉に結梨が眼下の百メートルほど先を指さして答えた。

 その方向を見ると、川に架かる橋のたもとに数人のマディックらしき制服の人影が集まっている。

 

 ただちにロザリンデたちはその場所まで移動すると、彼女たちの一人に尋ねた。

「不躾ですまないけど、あなたたちはこの近傍のガーデンに所属するマディックね。

私たちは休暇でここを訪れているリリィだけど、あなた達のガーデンのレギオンは?」

 

 ロザリンデに問いかけられたマディックの少女は、眼前に現れた四人の少女を一瞥した。

 服装は完全な私服だが、全員がCHARMを携えているので、確かにどこかのガーデンのリリィには違いないとマディックの少女は判断した。

「我々のガーデンの主力レギオンは、一時間ほど前に別方面に出現したヒュージの迎撃に出動しているところです。

先ほどガーデンに連絡して応援を要請しましたが、到着までには今しばらく時間を要するとのことです」

 

「ここにいるのはマディックだけなの?」

「そうです、応援のレギオンが来るまでの間、我々マディックの部隊でヒュージを食い止める必要があります。

現在、ここから南に約2キロの地点でマディックの迎撃部隊が展開中です。

ここにいる我々は戦闘部隊ではなく、前線で負傷して後方へ搬送されてくる者の救護に当たる予定になっています」

 

「そう、それなら私たちでラージ級を撃破するから、あなたたちはミドル級とスモール級の迎撃に専念してくれる?マディックだけでラージ級を相手にするのは無理でしょうから」

「四人だけでラージ級と戦うというのですか?そんな少人数でラージ級を倒すのは相当に骨が折れますよ」

「いえ、正確には私とこの子の二人で仕留めるつもりよ。他の二人には、ここで負傷者の救護を手伝わせてほしいの」

 ロザリンデは結梨の肩に手を置いて目の前のマディックに言った。

 

「無茶です。いくらリリィとはいえ、通りがかりの方にそこまでの事をしていただくわけにはいきません。

お言葉はありがたいのですが、我々のレギオンが到着するまで時間を稼いでくれるだけで十分です。

いたずらにあなた方を負傷させては申し訳が立ちません」

「心配しなくても、私たちだってここでやられるつもりはさらさら無いわ。

自分たちの力量は把握している。無理だと判断すれば時間稼ぎの遅滞戦術に移行するから、心配しないで」

 そうは言ったものの、ロザリンデも結梨もラージ級一体に後れを取るつもりは全く無かった。

 

「……分かりました。ではそのように前線の部隊長に連絡します。くれぐれもお気をつけて」

「ありがとう。あなたたちの指揮権を侵害するわけにはいかないから、私たちの行動は『通りすがりの見知らぬリリィ二人が単独で勝手にラージ級と戦闘を始めた』ことにしてもらえると助かるわ。あなたたちの作戦行動とは無関係にね」

 

 ロザリンデは目の前のマディックの少女にそう言った後、伊紀の方を振り返って指示を出す。

「伊紀、私たちのガーデンに連絡を」

「はい、休暇中の外出先にて偶発的にヒュージと遭遇したため、交戦規定に基づいて戦闘を開始する、と伝えます」

 

「では、これより私たち四人は二手に分かれてそれぞれの役割を果たします。散開」

 ロザリンデは行動開始の言葉を告げ終えると、結梨と共に高く跳躍し、瞬く間にヒュージの接近しつつある方向へと遠ざかって行った。

 

 建物の屋上を跳び越えて移動しながら、結梨とロザリンデはこの後の攻撃方法を確認していた。

 「敵ヒュージ群は前方に展開するマディック部隊に向かって進行中、それに対して私と結梨ちゃんは群れの左右から挟撃する形で奇襲をかける。

遮蔽物を利用してヒュージに気付かれないように群れの側面に回り込み、互いに準備ができたら私が陽動を仕掛けるわ。

そのタイミングで二人同時に群れの両側から攻撃を開始。その後は―――」

 

「ラージ級のまわりにいるミドル級とスモール級を最短でやっつけて、そのあと二人でラージ級をやっつける。

ただし第二波の可能性を考えて、できるだけレアスキルは使わずに、マギが減らないようにする。

ラージ級をやっつけたら、後ろにあるケイブを壊して、すぐに碧乙と伊紀のところに戻ってくる、で合ってる?」 

「良くできました。次はあのラージ級の前で再会ね。ここで二手に分かれましょう」

「うん、またね、ロザリンデ」

 あっという間に点のように小さくなる結梨の後ろ姿を見送って、ロザリンデは結梨の去って行った反対側へと移動を開始した。

 

 ヒュージの群れは前衛の部分がマディックと接触し、既に戦端が開かれていた。

 ロザリンデと結梨が攻撃目標とする一体のラージ級は、その前衛から距離を置いて約500メートルほど後方に位置している。

 ラージ級の周囲には直掩機の如く数十体のミドル級とスモール級が群れを成している。

 

 ロザリンデが攻撃開始位置まで移動を完了し、群れの反対側を遠望すると、胸元のポケットに入れている通信端末が音も無く振動した。それが結梨からの準備完了の合図だった。

 

 ロザリンデは対ヒュージ用の音響閃光手榴弾のピンを抜くと、群れの最後尾へ向けて力強く遠投した。

 ロザリンデの手から離れた手榴弾は不可視の放物線を描いて飛び、群れの後方数メートルの所で炸裂した。

 たちまち雷鳴のような轟音が響き渡り、純白の閃光が周囲の光景を漂白していく。

 

 それに驚いた群れ全体が動きを乱し始めるのと同時に、ロザリンデと結梨が間髪を入れずに群れに向かって全速で突撃した。

 

 

 

 

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