いろいろと説明不足や描写不足の部分もあるかと思いますが、ご容赦願います。
眼前のミドル級ヒュージが前腕を振り上げて攻撃態勢に入った時点で、既に結梨は両手に構えたCHARMを振り抜いている。
袈裟懸けに斬られたヒュージの青い体液が空中にほとばしり、それが地面に落ちる前に、結梨の次の斬撃が隣のヒュージを薙ぎ払う。
恐るべきスピード、恐るべき正確さで結梨はCHARMの一閃ごとにヒュージを斃していく。
ロザリンデは自らも戦いの渦中に身を置きながら、その様子を群れの反対側の離れた場所から見ていた。
以前、百合ヶ丘の戦技競技会でのエキシビションでは、メカヒュージの攻撃を受け流した上で結梨は反撃していた。その時の戦いぶりをロザリンデはよく覚えている。なにせ自分が結梨にそう戦うよう、外野からアドバイスしていたのだから。
しかし今、結梨は敵に先制して攻撃し、敵が攻撃すること自体を許さない。
エキシビションの時は、相手の力量を見極めた上で攻撃に転じていたが、今はその必要も無いということか。それとも最短時間・最大効率で戦闘を終わらせようとしているのか。
結梨のその攻撃動作は、ヒュージが襲いかかってくるタイミングよりもわずかに早く開始されていた。
つまり結梨はヒュージの動きを見切って反応しているのではなく、動き始める前の、今より一瞬先の動きを予測して攻撃している。
ファンタズム?この世の理?いや、違う。結梨は最初からレアスキルを一切発動せずに戦っているように見える。
では何が結梨にそのような攻撃を可能にさせているのか。ロザリンデは前に病室で結梨から聞いた話を思い出した。海上で結梨がギガント級ヒュージと戦ったあの時、ネストとヒュージの間でマギがつながっていることが分かったと。
そして結梨はネストのマギを横取りする形で、通常では不可能な機動力と大出力での攻撃を可能にしたのだ。
そんな常軌を逸した芸当ができるのなら、ヒュージの体内に存在するマギの挙動を見て取ることができるとしても不思議は無い。
運動神経を伝わる微弱な電気信号によって筋肉が動くように、ヒュージの体の動きに先立って発生しているわずかなマギの変化を感じ取り、ヒュージが攻撃に移るタイミングを見極めているのかもしれない。
いずれにせよ、異常ともいえる卓越した戦闘能力とセンスであることに変わりは無い。たとえそれが結梨本人には自覚の無い半ば無意識のものであったとしても。
(ネストのマギを利用したとはいえ、さすがにギガント級を一騎打ちで倒しただけのことはある。ミドル級までなら何百体いても問題なさそうね。後はあのラージ級か)
ロザリンデは敵の攻撃を避けながら結梨の戦いぶりを遠目に見て、改めて驚きを禁じ得なかった。
その現実離れした結梨の戦闘とは対照的に、ロザリンデの戦闘は合理性と堅実さを極めたものだった。
ロザリンデは流麗な体捌きでヒュージの攻撃をすべて受け流し、あるいは回避していく。そして攻撃を流されて体勢を崩したヒュージを、返す一刀で確実に屠っていく。
しかもロザリンデは常に自分の身体を、敵の攻撃方向の軸線上から外れた位置に高速で移動させ続けていた。
この精緻な機械仕掛けのように巧みな体捌きにより、同時に複数の敵と対峙しても、実質的には常に一対一の状況を作り出すことができる。
結果として、このポジション取りによって、多数の敵に囲まれても複数方向からの同時攻撃を許さず、一体ずつの各個撃破が可能となっていた。
そして敵の攻撃をまともに正面から受け止めることは無く、すべて躱すか受け流し、体勢の崩れた無防備な相手の急所を攻撃して確実に仕留めていく。
この一連の動作の間断無き反復こそが、「一人で戦局を打開できる」と評されたロザリンデの強さの源だった。
二人が戦闘を開始して5分と経たないうちに、ラージ級を取り巻くミドル級とスモール級の群れは一掃されていた。
累々たる死骸の中に、巨人型のラージ級はただ一体で巨大な体躯を晒して立っている。
マディックの部隊と戦っている前衛のヒュージが戻ってくる前に決着をつけるべく、結梨とロザリンデは息つく間も無くラージ級に襲いかかった。
ロザリンデと結梨は常にラージ級を挟みこむ形で、二方向から全く同時に攻撃を仕掛け続けた。
二人はラージ級の頭部と脚部に対して、それぞれが交互に攻撃個所を入れ替えて斬撃を叩き込む。
この攻撃方法は、攻撃を仕掛ける高さを分けることによって、ヒュージに攻撃を回避されても同士討ちしないための安全策も兼ねていた。
ラージ級は複数方向からの同時攻撃を完全には防ぎきれず、見る間に一撃ごとに確実にダメージを蓄積させられていく。
最小構成での一対多の群狼戦術、それが今ロザリンデと結梨が目の前のラージ級に対して実行している戦術ドクトリンだった。
それを可能にしているのは、個人レベルの突出した戦闘能力と完璧なコンビネーション、その二つだけだ。
逆に言うと、その二つを極めなければ、この戦術は決して成功しない。
標準的な能力のリリィが用いる一般的な戦術としては、間違いなく採用されないだろう。
ラージ級ヒュージへの攻撃開始から数分のうちに、ラージ級の足は止まり、移動することさえままならなくなった。
その足元には既に青い体液の血溜まりが大きく広がっている。
ロザリンデと結梨は動きを止めたラージ級を見ると、それまでのラージ級を挟み込む形から、ラージ級を中心として90度の角度へとポジションを即座に変更した。
移動と同時にそれぞれのCHARMをブレードモードからシューティングモードへ変形し、二人の視線が合うとロザリンデは声を出すことなく唇だけを動かした。
『SHOOT』
トリガーが引き絞られ、二つのCHARMの砲口からオレンジ色の発砲炎とともに弾丸が射出される。
満身創痍のラージ級ヒュージは、その決定的な十字砲火を回避することも防御することもできなかった。
立て続けに急所へ直撃を受けたラージ級は、十数箇所の弾痕から青い体液を噴き出し、その場に地響きを立てて崩れ落ちた。
瞬く間にラージ級を仕留め終えたロザリンデと結梨は、息一つ乱すことなく周囲の警戒に移行している。
「前衛のヒュージの一部が、こちらに気づいて引き返してくる可能性がある。私はそいつらの相手をするから、結梨ちゃんはこの後方にあるケイブの破壊を。
破壊後は私と合流する必要は無いから、まっすぐ碧乙たちの所へ向かって。
もしケイブを破壊する前に第二波が出現した場合は、速やかに私のいる所まで一時撤退。できるわね?」
「うん、ちょっと行ってくる」
先ほどロザリンデと別れた時と同じように、結梨はごく簡単に返事をすると、その俊足を存分に発揮して瞬時に走り去って行った。
結梨の後ろ姿が見えなくなると、ロザリンデは再びアステリオンをブレードモードに戻して振り返り、数百メートル先に立ち込める戦塵の拡がりを見据えた。
(あの前衛ヒュージ群を背後から攪乱してマディックを掩護、群れをバラバラにして戦力を低下させる。後はケイブから新手が出て来なければいいけど。無事に戻って来てね、結梨ちゃん)
心の中でつぶやき終えると、ロザリンデはヒュージの侵攻によって破壊された人工物と木々の間を縫い、背後から前衛のヒュージを急襲するべく行動を開始した。
鞍馬山環境女子高等学校のリリィ、古田八重が前線の指揮所に到着すると、すぐにマディックの部隊長が戦況報告を行うべく歩み寄ってきた。
「八重様、お待ちしておりました。現在、戦局は掃討戦の段階に入ったところです。
目標のヒュージ群は集団での戦闘行動ができず、各個体が散り散りに敗走している状態です」
「分かった。しかしラージ級が一体いるとの連絡を受けているが、そいつはどうなった?マディックだけで手に負える相手ではないはずだが」
「偶然に後方の救護班の所に居合わせた他ガーデンのリリィが、極めて短時間でラージ級の排除に成功しました。
ヒュージの発生源となっていたケイブも、その後に破壊したと彼女たちから報告を受けました。
加えて前衛のヒュージ群に背後から奇襲をかけてくれたおかげで、敵集団の形が崩れ、こちらから攻勢に出る契機を作ることができました。
第二波の出現が無く、現在の戦況がミドル級とスモール級の掃討段階なのは、そのためです。結果として我々の損害も当初の想定より大幅に少なくなっています」
「ほう、それは大したものだ」
マディック部隊長の報告を聞いた八重は、少なからず驚きを隠せなかった。
(二人だけでラージ級を瞬殺とは恐れ入る。
どこのガーデンのリリィか知らないが、相当の手練れであることは間違いない)
「その二人のリリィは今どこに?私からも一言お礼を言っておきたい」
「それが、後方で救護班と一緒に負傷者の治療にあたっていたお連れのリリィと一緒に、既に立ち去られました。
名乗るほどの者ではないと言われ、所属のガーデン名も聞けませんでした」
「そうか、それは残念な事だ。そのリリィの詮索は後にして、戦果と損害の確認結果を早急に取りまとめてガーデンに報告。
後は私たちのレギオンがマディックと交代して掃討と哨戒を続行する」
「承知しました。では戦闘中の部隊に陣形を維持しつつ、順次レギオンのリリィと交代するよう指示を出します」
(休暇であっても他地域から来たリリィなら、外征宣言に相当する連絡がガーデンに入っているはずだ。問い合わせれば大まかな身元情報を得ることができるだろう。
だが名乗らなかったということは、名乗ると都合が悪い事情があるのかもしれない。
恩を仇で返すようなことはしたくない。詮索は無しだな)
マディックから敬礼を受け、八重は自らがリーダーを務めるレギオンに指示を出すべく指揮所を後にした。
「ロスヴァイセ主将、北河原伊紀です。理事長代行ですか?
先ほど攻撃目標としたラージ級ヒュージの排除が完了しました。
レギオンメンバーの死傷者、CHARMの損傷、ともにありません。
これより速やかにガーデンに帰投します。以上、通信終わります」
「ああ、せめて一口、生八ツ橋が食べたかった。おたべの生八ツ橋が。あと、出町ふたばの豆大福も」
「今回は縁が無かったと思って、また日を改めましょう、碧乙様」
通信端末でガーデンへの報告を終えた伊紀が碧乙をなだめようとする。
「今度っていつなのよ……また日の出前にガーデンを出発して、あの道とも言えない道を何時間も車に揺られ続けるの?というか、これからまたその悪路をたどってガーデンに戻らないといけないんだけど。しかも、お土産もなく手ぶらで」
往路と同じく助手席に座った碧乙は、ダッシュボードに突っ伏して嘆きの言葉を口にし続けている。
四人のリリィは百合ヶ丘のガーデンへの帰途につくべく、駐車場に停めた車に戻っていた。
「私と結梨ちゃんは戦闘でそれなりにCHARMも酷使したし、少量とはいえヒュージの体液も体や衣服に付着してしまったわ。だから一度ガーデンに戻って検疫とCHARMの整備を受けないと」
ロザリンデが後部座席を振り返って見ると、結梨は対ギガント級以来の本格的な戦闘で疲れたのか、隣に座っている伊紀にもたれかかって、すやすやと眠っている。
伊紀は結梨の頭を撫でながら、
「今日はよく頑張りましたね、結梨ちゃん。ガーデンに着くまで、ゆっくり休んでください」
と、ねぎらいの言葉をかけた。
一方、碧乙はまだ諦めきれない様子でロザリンデの方を見た。
「それは私だって分かってますけど、あんまりじゃないですか。なんであのタイミングで出てくるかなあ、あのいまいましい怪生物どもは」
「でも、私たちがいたからマディックの人たちの損害が少なく抑えられたんですよ。救護所に後送されてきた負傷者もその場で完治できましたし。休暇をふいにしただけの甲斐はあったと思います」
「それはその通りだけど、でもやっぱりなあ……」
伊紀の言葉を聞いてもまだ今一つ納得できない表情の碧乙。
「さあ、もう繰り言はそのくらいにして、出発するわよ。寄り道せずに走り通せば、日没までにはガーデンに到着できるでしょう」
そう言ってロザリンデはイグニッションキーを回し、ゆっくりと車を発進させた。
ラスバレのメインストーリー早く更新してほしい。
結梨ちゃん実装してほしい。