かなり理屈っぽい内容になっていますのでご注意下さい。
さて、君には聞きたいことが色々とあるけど、まずは僕のことから話そうか。
君は僕のことを何も知らないだろうが、僕は君のことをそれなりには知っている。
それでは少しばかり不公平に過ぎる。
条件はなるべく対等にしておきたい。そうでないと、君に疑いを持たれては真実に辿り着けなくなってしまうから。
それに、生前に一度も面識の無い君のことをなぜ僕が知っているのか、それも後で話してあげよう。
結梨は黙って美鈴の言葉に耳を傾けている。
まず、死者である僕が今こうして君の意識に現れ、言葉を交わしている状況がなぜ成立しているのか、その説明をしてみよう。
甲州撤退戦で致命傷を負ったその時の僕は、夢結のCHARMだったダインスレイフの術式を書き換えて自らのCHARMとし、ヒュージに向かって行った。
今となっては、なぜそんな行動をとったのか、僕自身にも判然とせず思い出すことができない。
致命的な深手を負い、意識も半ば朦朧とした中での行動だったから、正常な判断ができなくなっていたのかもしれない。
ひょっとしたら夢結のCHARMと共に最期を迎える覚悟だったのかもしれないが、それは僕の行動としてはちょっと感傷的すぎる。
おそらくは何かしら現実的な目的があっての事だろうが、今の僕自身にも思い出せない以上は棚上げにしておくしかない。
その時に僕が持っていたダインスレイフは、その後ヒュージと共に移動を繰り返し、最終的には相模湾のヒュージネストへと辿り着いたのだろう。
なぜなら、相模湾のネストから百合ヶ丘へ襲来したラージ級ヒュージの体内に、正にそのダインスレイフが収まっていたからだ。
アールヴヘイムと一柳隊によってそのヒュージは撃破され、ダインスレイフは再び百合ヶ丘のガーデンに戻った。
今は工廠科の真島百由の管理下で保管と分析が行われている。
そうした一連の動きをなぜ僕が知っているか。それは僕の自我、いや僕の非物質的情報が、そのダインスレイフの中のマギと共に存在していたからだと考えている。
僕の記憶や人格といった非物質的な情報は、おそらくは僕がダインスレイフの術式を書き換えた後、クリスタルコアのマギを介してヒュージに、さらには相模湾上のヒュージネストに取り込まれた。
それが百合ヶ丘のガーデンに襲来するヒュージの行動に影響を与えた、と僕は推測している。
そう言ってしまうと、何か僕が問題の原因そのものみたいだが、それは僕の意図せざるところだ。
大体、ヒュージと共にヒュージネストに入ったCHARMが、ヒュージの行動に影響を及ぼすかどうかなんて、何一つ確認されていない未知の事象だ。
G.E.H.E.N.A.の物好きな研究者なら狂喜して研究対象にするかもしれないが、それは僕が今話そうとしていることの主題じゃない。
そんなわけで、おそらく僕の記憶や人格というべきものは、ダインスレイフやネストのマギの中に存在しているのではないかと思う。
それは勿論、幽霊でもなければ生霊でもなく、『僕が死を迎えた時点までの非物質的情報』なのだろう。
ではただの情報に過ぎないそれが、なぜ生きている人間のように君に話しかけることができているのか。
それは君の無意識がその情報を基にして、僕の人格をまるで生きているかのごとく動作させているのだと思う。いわゆるエミュレーションのような現象だ。
僕が君のことを知っているのも実は逆で、君の無意識が、僕に君の情報を与えているんだ。
なぜ君にそれが可能なのか。一つの理由として挙げられるのが、君とネストのマギとの接触だ。
海上でのギガント級との戦闘時、そしてその後の海中での回復時において、君はネストのマギを自分の中に取り込んでいる。
マギが単なる魔法エネルギーにとどまらず、それ以上の何かであるならば、CHARMの契約者の情報を何らかの形で内包している可能性もゼロではない。
ダインスレイフの内に有ったマギ、そのダインスレイフを取り込んだヒュージ、さらにそのヒュージが辿り着いたネスト。
そして、そのネストのマギを攻撃と回復のために自らの身体に取り込んだ一柳結梨。
ここまで来れば、後は自ずから明らかだ。
僕の記憶と人格は、マギを経由して君の中に移植されたんだ。
そこまで語り終えて、美鈴の声は一息つくかのように間を置いた。
じっと美鈴の話を聞いていた結梨は、彼女が話を区切ってしばらくの後、一つの疑問を口にした。
でも、私は美鈴が言ってるダインスレイフを見たことも触ったこともないよ。
ダインスレイフがヒュージと一緒にネストを離れた後は、ダインスレイフがどうなったか、ネストのマギには分からないと思う。
いま私と話してる美鈴は、どうして今ダインスレイフがどこにあるか知ってて、それを私に伝えられるの?
結梨の問いに対して、あくまでも一つの仮説にすぎないが、と断りを入れた上で美鈴は説明を始めた。
ダインスレイフがこのガーデンの工廠科に保管されているということは、君から相当に近い距離にそれがあるということでもある。
ネストの時のように直接に大量のマギを取り込む形ではなくとも、ごく微弱なものであってもダインスレイフが帯びるマギの影響を受けているのかもしれない。
それによって一種の情報の同期とでも言うべき現象が発生しているかもしれない。
その結果、ダインスレイフと共にあった出来事の情報が君の無意識に流れ込み、その情報が基となり、僕の記憶として話すことができているのかもしれない。
かもしれない、ばかりで恐縮だが、僕も全知全能の存在なんかじゃない。
結局の所は目の前で起こっている現象を観察して、仮説を組み立てていき、それが正しいか検証するしかないんだ。
分かった。ありがとう、美鈴。
ひとまずは、こんなところか。では次に、君のことについて話を進めてもいいかな。
ここまでの話は前座だと言わんばかりに、美鈴の声は熱を帯び始めた。
美鈴様に無理やり説明役を担当してもらっています。
本来は百由様が適任なのですが、結梨ちゃんと直接会話してもらうわけにもいかないので、このような形になりました。
内容的には謎解きに属するものになっていますが、本文中で美鈴様が言及しているように、あくまで一つの仮説としてお読みいただければ幸いです。