アサルトリリィ  LOST FLOWER   作:入江友

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第7話 天気晴朗なれども波高し(1)

 結梨が夢の中で美鈴の声と会話を交わしてから数日が過ぎた頃。

 伊紀が特別寮の自室で李組の日報を作成していると、ドアをノックする音が耳に入った。

 伊紀が入室を促す返事をすると、すぐにドアが開いて碧乙が姿を現した。

 

「ごきげんよう、碧乙様。何かご用ですか?」

「ごきげんよう。用事があったわけじゃないけど、今ちょうど私の部屋で三者面談が始まったから、人払いでこっちに来たの」

「三者面談、ですか?」

「ええ、結梨ちゃんとロザリンデ様と、理事長代行の三人で」

「えっ」

 意外な人物の名前が出てきたことに、伊紀は驚きを隠せない。

 

「何日か前に、結梨ちゃんが強化リリィの救出作戦に加わりたいってお姉様に言ったそうなの。

その件でガーデンとして参加を認めるかどうかの話をするんだと思う。

理事長室だと行き帰りの途中で誰かに見られる可能性があるから、代行直々にここまでお越し下さったというわけ」

 

「そうですか、結梨ちゃんがそんなことを……いろいろと思う所があるんでしょうね」

「そりゃまあ、記憶も無い状態で一柳隊に発見されて、それからいくらも経たないうちにヒュージ扱いで危うくG.E.H.E.N.A.送りにされかけて、その直後にギガント級と一騎打ちで刺し違えて、九死に一生を得て今度は私たちに発見されて、今は死亡扱いで潜伏中……となれば、何も考えない方がおかしいわよ」

「自分の人生どれだけハードモードなのかって思ってしまいますね、普通は」

 

 そう言う二人も強化リリィである以上、並々ではない過去を背負っているはずだ。

 しかし二人とも、今はそのことはおくびにも出さず結梨のことを気にかけている。

 

「自分も何か役に立ちたいと考えたのかもしれないけど、よりによって私たちの任務が対人戦闘メインの内容なのがね。これが対ヒュージだったなら、何のためらいも無く一緒に頑張ろうって言えるんだけど」

 

 無論、結梨もG.E.H.E.N.A.の強化リリィを仮想敵と想定した訓練は、ロザリンデを相手にして今日まで絶え間なく続けている。

 ただしそれは、G.E.H.E.N.A.に自分の存在を知られて逃亡することになった場合の備えとしてであるが。

 

「でも、実際に敵意や殺意を持ったG.E.H.E.N.A.の見知らぬ強化リリィを相手にして、迷いなく訓練通りの動きができるかどうか……そこが一番心配です」

「そうね。ヒュージの殺意には慣れていても、人の殺意なんて通常のレギオンには無縁のものだしね」

 伊紀の言うように、いざ現場でむき出しの敵意や殺意を向けられた時、心が乱れれば動きに隙を生じ、それが命取りになりかねない。

 

「私たちはただ、G.E.H.E.N.A.から逃れたい強化リリィを保護しようとしているだけなんですけどね。G.E.H.E.N.A.の強化リリィとだって、できるだけ戦いたくありません」

「足抜けを許さない反社会的組織そのものね。そもそも拉致同然のやり方で孤児や一般の女の子を組織に引きずり込んで、本人の同意も無く人体実験まがいの強化をしてる時点で外道の所業としか言えないけど」

 

 しかし現実には、G.E.N.E.N.A.の研究と実験によって実用化された強化とブーステッドスキルの技術があり、その成果と引き換えに表沙汰にはできない非人道的な扱いがG.E.H.E.N.A.の内部で数多く行われている。

 このことは今では誰もが知る、半ば公然の秘密となっている。

 にもかかわらず、社会全体としては必要悪としてG.E.H.E.N.A.の活動を黙認する考えが、無視できない割合にまで高まっている。

 

 全体の利益のために少数の犠牲を黙認するという思想、それは今に始まったことではなく、前世紀から連綿と続いてきた全体主義の系譜に位置付けられる。

 社会の中では少数派にすぎないリリィの、さらに少数派である強化リリィが抗議の声を上げにくいのも、ある意味では当然の成り行きなのかもしれない。

 

「だからと言って、G.E.H.E.N.A.のやることを大人しく黙って見過ごしてもいいってことにはならないわ。結梨ちゃんの希望そのものは何も間違ってなんかいない。

となると、あとは結梨ちゃん自身の覚悟の問題か……誰かを護るために他の誰かを傷つけるかもしれないという。たとえそれが明らかな敵対者であっても。難しいところね」

「私たちが口添えできるような問題ではないし、もしできたとしても、そうするべきではないのでしょうね。結梨ちゃんの心の中まで入り込んで、どうこう言えるほど無神経にはなりたくありません」

 

 いずれにせよ、この件に関して碧乙と伊紀は直接ガーデンに交渉できる立場ではないため、結梨とロザリンデが『面談』の結論を持ち帰ってくるのを待つことしかできないのだ。

 

「何とももどかしいですね、結果が出るのをここで待っているだけというのは」

「果報は寝て待て、とも言うわよ。さて、今ごろ御三方は何を話しているのやら」

 碧乙は先ほどまで自分がいた自室の方向を見やり、大きく一つ息をついた。

 

 

 




対G.E.H.E.N.A.の話になると、どうしても内容が重くなります。
重くはなりますが、鬱にはしないつもりです。
少なくとも百合ヶ丘ガーデン側の登場人物からは、死亡者と再起不能者は出さない予定です。
G.E.H.E.N.A.側はまだ分かりません。(内部での粛清とか普通にありそうなので)
G.E.H.E.N.A.がもう少しまともな組織なら、みんなで一致団結してヒュージと戦う胸熱展開に出来るのに……
結論:全部G.E.H.E.N.A.が悪い。
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