アサルトリリィ  LOST FLOWER   作:入江友

25 / 157
今回は理事長代行が登場します。
独断と偏見により、老人口調ではなく一般的な話し方に変えています。
普通の口調だと言峰神父やブッカー少佐が脳裏に浮かんでくる……



第7話 天気晴朗なれども波高し(2)

 特別寮のロザリンデと碧乙の居室では、先刻から理事長代行の高松咬月を迎えて、結梨とロザリンデを合わせた三人での話し合いが行われていた。

 

「では、既に亡くなった川添君が一柳君の夢に現れて、そのように言ったと?」

 

「はい、当然ながら甲州撤退戦で戦死した川添美鈴さんと一柳結梨さんの間に面識はありません。

結梨さんも一柳梨璃さんや白井夢結さんから川添さんについて聞かされたことは無いそうです。

その川添さんが、先ほど私が説明した内容を結梨さんに伝えたということです」

 

「ネストやCHARMのマギを介して川添君の記憶と人格が一柳君の中に流れ込んだ結果、疑似的に川添君が一柳君の夢に現れ、一柳君の自己理解に必要な情報を与えた。

あまつさえ一柳君に今後の生き方についての意思確認まで促した、と」

 

「美鈴は、私の心が気にしてることを話すために夢に出てきたって言ってた。

私が知りたいことや、どうしたらいいか心の底で考えてることを、私に言うためだって。

夢の中の美鈴は本当の美鈴じゃなくて、私の心が作り出してる美鈴なんだって言ってた」

 

「おおよその経緯は分かった。単なる夢の話と片付けるには、少しばかり無理がありそうだな」

 

 咬月はそこで一旦言葉を切り、一呼吸置いた後で改めて話し始めた。

 

「以前に一柳隊がラージ級ヒュージから回収したダインスレイフに絡んで、最後の契約者が白井君ではなく川添君だったという情報がある。

それが事実なら、今聞かせてもらった一柳君の夢の内容とも一致する。

また、川添君のレアスキルについても不透明な部分が浮上している。

そのため、改めて川添君本人についての情報を一から洗い直しているところだ。

ダインスレイフの解析には二年生の真島君にも協力してもらって調査を進めている。

結果が判明次第、君にも情報が開示されるだろう」

 そう言って咬月はロザリンデの顔を見た。

 

「川添さんのレアスキルが不透明とは、どのような意味でしょうか?」

 ロザリンデは怪訝そうな表情で咬月を見返して尋ねる。

 

「これはまだ仮定の話だが」

 と、咬月は断りを入れた上で言葉を続ける。

「川添君のレアスキルは従来の我々の認識とは異なり、カリスマあるいはその上位スキルである可能性が高い。

君も知っての通り、カリスマは『類稀なる統率力を発揮する支援と支配のスキル』だ。

味方のマギを底上げし、士気を高揚させる。つまり、対象者の精神に強く影響を及ぼす。

仮に川添君のレアスキルがカリスマの上位種であった場合、相手の記憶を操作することさえ可能であると考えられる」

「つまり、川添さんについての私たちの記憶も、意図的に変更されていたかもしれないということですか?」

 

 しかし咬月は首を横に振り、ロザリンデの問いを肯定しなかった。

「今の段階でそこまで考えを進めるのは拙速に過ぎると思っている。

我々の記憶を操作して、川添君に何のメリットがあったというのか。

記憶の操作が事実なら、何の目的があっての事なのか、見当がつかないからだ」

 

「私の夢に出てきた美鈴は、変な感じはしなかった。私をだまそうとしてるような感じじゃなかったと思う」

 と、結梨は夢の中で会話した美鈴の印象を語った。

 

「君の夢に出てきた川添君は、本人そのものではないと言ったのだろう?

そうであるなら、生前の彼女とは別物と考えるべきだと思うが。

聞かせてもらった内容からは、夢の中の川添君は、君の本心をはっきりと意識させるための補助線として登場したように思える。

だから、ひとまずはレアスキルの件とは関係無いものとして扱った方がいい」

 

「私も代行のご意見に同意します。判断する材料に乏しい状態で、仮定に仮定を積み重ねていくことは危険に感じます」

「そうだ。言うまでもなく、今日の本題は川添君の問いに対する一柳君の答えの方なのだからな」

 そう言うと、咬月はロザリンデから結梨へ視線を転じた。

 

「一柳君、君は何ができるか、何をすべきかという川添君の問いかけに対して、G.E.H.E.N.A.の強化リリィを救うことを希望したと聞いている。

なぜ君が強化リリィの救出作戦に参加したいのか、その理由を君の口から聞いておきたい。

そのためにこそ、私は今日この場に来ていると言っていい」

 

 咬月の言葉を聞いた結梨は、しばらくの沈黙の後で静かに答えを口にする。

「それは、もう一人の私だから」

「どういうことかね?」

「私が梨璃と一緒に逃げた時、みんなが来てくれるのが間に合わなかったら、私はG.E.H.E.N.A.に送られてた。

今G.E.H.E.N.A.の中で苦しんでる強化リリィは、あの時G.E.H.E.N.A.に送られてたかもしれない私と同じ」

 

 咬月とロザリンデは何も言わず、結梨の言葉に耳を傾けている。

 結梨はなお言葉を続ける。

「梨璃や夢結たちが私を助けてくれたから、私は今ここにいる。

だから、梨璃や夢結たちが私を助けてくれたみたいに、私もその子たちを助けたい。

ロザリンデたちと一緒に、その子たちを助けたい。それが私の望み」

 

 結梨の答えを聞き終えた咬月は表情を変えないまま、

「君の考えはよく分かった。その答えをもって、私から理事長に上申しよう。

ガーデンの総意として君の作戦参加が承認されれば、次回の直命から出撃となるだろう」

 との発言によって、彼自身が結梨の回答を受け入れたことを表現した。

 

 ただし、と咬月は付け加える。

「限界的な状況下では、君とロスヴァイセの帰還を最優先する。

これはガーデンとして絶対に譲れない一線だ。

なぜなら、一人の強化リリィを救えないことより、君を失うことの方が遥かに重大な損失だからだ」

 そう言って、咬月は再び視線を転じてロザリンデを見る。

 

「仮にG.E.H.E.N.A.が一柳君を捕えて洗脳し、報復として百合ヶ丘を攻撃するように命令すればどうなるか、君には想像がつくだろう」

 咬月の指摘にロザリンデは目を伏せて沈黙したまま、何も言葉を発しない。

 咬月の視線は結梨に戻る。

「君の存在はそれほどまでに重いことをよく理解してほしい。いいかね、一柳君」

 

 咬月の言葉を聞き終えて、結梨は黙ってうなずいた。

「私が死んだり、G.E.H.E.N.A.に捕まって戻れなくなったら、ロザリンデたちが悲しい思いをする。

梨璃や夢結たちにも二度と逢えなくなる。そんなのは嫌。

だから約束する。必ず無事に生きて戻ってくるって」

 

 それを聞いて、隣に座っていたロザリンデは結梨の手を握り、咬月に、

「私の一命に代えても結梨さんを護る、というわけにはいかないのですね」

 と、確認をした。

「そうだ、君たちの誰一人欠けることなく帰還しなければならない」

「承知しました。必ず任務を果たし、全員が無事に帰還することを誓います」

 宜しく頼む、と咬月はごく簡潔に答えた。

 

 ロザリンデは次に結梨の方を見やって、気遣うように問いかける。

「でも、いいの?結梨ちゃん。

救出の過程でG.E.H.E.N.A.側の強化リリィと戦闘になることも往々にして起こりうる。

G.E.H.E.N.A.側の強化リリィと戦えば、相手を傷つけることになるかもしれない。

それでもいいの?」

「誰も傷つけないように戦って、助けるから」

「相手を傷つけないように無力化するということ?」

「うん」

「オットー君、それは可能なのか?」

 咬月がロザリンデの姓を呼んで問う。

「相手の体に攻撃を命中させず、CHARMのみを破壊できれば可能です。

ただし、それは圧倒的な彼我の実力差があって初めて成立する戦術です」

「一柳君にそれが出来ると思うかね?」

「彼女に日々の戦闘訓練を実施している、この私が保証します」

 今日の話し合いが始まってから初めて、ロザリンデは不敵な笑みを湛えて答えた。

「それなら重畳だ」

 咬月は安堵した表情でうなずき、本日この場で話し合うべき内容は終了した。

 

 

 

 

 

 咬月を見送った結梨とロザリンデは伊紀の部屋に向かい、ドアをノックした。

 すぐにドアが開き、碧乙と伊紀が顔を出した。

 碧乙が慌ただしくロザリンデに尋ねる。

「面談の結果はどうだったんですか、お姉様。

結梨ちゃんは救出作戦に参加できるんですか?」

「ええ、ほぼ内定したものと考えていいと思うわ。おそらく参加は認められる。

早ければ来週にも出撃の直命が下るでしょう」

 ロザリンデは碧乙と伊紀に、先程の話し合いの内容を手短かに伝えていく。

 

「……そうですか、敵に攻撃を当てずにCHARMだけを破壊する……

でも、結梨ちゃんがやられそうになったら、私が遠慮なく敵をぶっ飛ばすから、止めても無駄ですよ」

「大丈夫。私、結構強いんだよ。ね、ロザリンデ」

「そうね。私と一緒にあれほど日々訓練を重ねているのだから、並みの強化リリィでは百人がかりでも相手にならないでしょう」

 それはいくら何でも大げさなのでは、と碧乙は言いかけた。

 しかしロザリンデの本気の訓練について行けるということは、つまりそういうことなのだと碧乙は理解した。

 

「では事前に伝えられている作戦の概要を説明しておきましょうか。

伊紀、このまま部屋の中でブリーフィングをしてもいいかしら」

「もちろんです、ロザリンデ様。結梨ちゃんも一緒に聞いてもらうんですよね」

「ええ、なるべく噛み砕いて話すようにするわ。だから、よく聞いておいてね」

 そう言うとロザリンデは結梨の肩を抱き、二人は並んで伊紀の部屋に入って行った。

 




後半部はラスバレのヘルヴォルイベントストーリーを読んでから書いたので、その影響を受けているかもしれません。
エレンスゲ司令部と旧ヘルヴォルどんだけブラックやねん……
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。