アサルトリリィ  LOST FLOWER   作:入江友

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第7話 天気晴朗なれども波高し(4)

 

 強化リリィに対峙して立っている黒衣のリリィの右手には、砲口からマギの残滓がわずかに青白く立ち昇るCHARMが握られている。

 全てのパーツが黒色であること以外は、ごく一般的なアステリオンだ。

 そのアステリオンをシューティングモードからブレードモードへと、黒衣のリリィは変形させた。

 

 黒衣のリリィは対催涙ガス用であろうゴーグルを装着していて、人相は分からない。

 だが、全身に漆黒の制服を纏っていることから、一見して特殊部隊に類するレギオンのリリィだと判断できる。

 それにしては少女に話しかけた時の幼い声といい、やや未成熟な体つきといい、実戦の場に出てくるには少し早いような印象を強化リリィは受けた。

 

(こいつはまだ新米のひよっこか……大方、外部の反G.E.H.E.N.A.主義ガーデンのリリィだろう。

しかし、さっきの射撃は実に正確に私を狙ってきた。

発砲音とのタイムラグを考えると、射撃地点はここから100メートル近く離れていたはずだ。

その距離を瞬時に詰めたということは、こいつは縮地のレアスキルを持っているのか。

しかもかなり高ランクの)

 

 射撃と少女の確保を黒衣のリリィが一人で実行したであろうことは、いまだに第二射が来ないことからも明らかだった。

 草原を覆う霧はしだいに晴れつつあった。

 今のところ、三人の他に周囲に人影は見当たらない。

 

(こんな嘴の黄色いひよっこが出張ってくるとは、随分と舐められたものだな)

 自分の獲物を横取りされた強化リリィは、憤怒に燃える目で黒衣のリリィを睨む。

「お前、わざとCHARMの発砲炎が私の視界に入る位置から撃ったな。

なぜだ、背後から撃てば私を一撃で仕留められたかもしれないのに」

 

 怒りを露わにして問い正す強化リリィに対して、対照的に黒衣のリリィは冷静に答える。

「私はあなたを傷つけたくないから。ただ、この子を助けたいだけだから」

 

 その返答を聞いた強化リリィは、敵意に満ちたまなざしで酷薄な冷笑を浮かべた。

「ふん、非暴力不服従で正義の味方気取りというわけか。

いかにも反G.E.H.E.N.A.主義の連中らしい綺麗事だ。

エリートの絵空事を錦の御旗の如く振りかざして、自己満足の極みだな。

お前たちの陣営にも少なくない数の強化リリィがいるだろうに。

そいつらの戦力は対ヒュージ戦闘において重要な役割を果たしているはずだ。

自分たちは強化リリィの能力を戦力として利用しておきながら、その『製造元』であるG.E.H.E.N.A.の邪魔をする。

とんだダブルスタンダード、ご都合主義だ。そうは思わないのか?」

 

 黒衣のリリィはその挑発には何も答えず、黙って強化リリィとの間合いを計っている。

(やはり見えすいた煽り文句には乗ってこないか。

ひよっこと言っても一通りの感情制御訓練は受けているだろうからな。

それなら正面からやりあってみるとしよう)

 

 強化リリィは一歩前に進み出て、今一度、黒衣のリリィに問いかける。

「自分の身を危険に晒してまで助けるほどの価値が、そいつにあると思うのか?」

「あるよ。だってこの子はもう一人の私だから」

「何を言っている?そいつはお前の血縁者か?」

「違う、でも私はこの子を助ける。G.E.H.E.N.A.から救い出すの」

「分からんことを……それならやってみせることだ、この私を倒して」

「うん、そうする」

「上等だ。では遠慮なくやらせてもらうぞ」

 強化リリィは更に一歩踏み出し、CHARMを正面に構えた。

 

「危ないから後ろに下がってて。すぐに終わらせるから」

 黒衣のリリィは少女を自分の後方に下がらせ、自らは強化リリィに向かって迎え撃つ態勢を取る。

 

「そいつを護りながら戦えば、お前の戦闘能力は何割も低下するぞ。

それが分からないはずはない。

そいつを背後に庇いながら戦うということは、お前は私の攻撃をすべて受け止めなければいけない。

かわすことも飛び下がることもできない。

そんなハンデを背負って私に勝つつもりか?」

「あなたみたいな人には負けない」

「結構、それではお手並み拝見といこう。あの世で己の甘さを悔やむことだな」

 そう言い捨てると、強化リリィは黒衣のリリィに向かって一気に間合いを詰めて斬りかかった。

 

 身を引いて攻撃をかわすことが出来ない黒衣のリリィは、その斬撃をまともにCHARMで受け止める。

 強化リリィは黒衣のリリィを斬り倒さんとすべく、縦横無尽に斬撃を繰り出していく。

 しかし黒衣のリリィは一歩も退かず、繰り出されるすべての攻撃を受け止め、隙あらば反撃の一振りを強化リリィに浴びせようとする。

 

 十合も斬り結ばないうちに、強化リリィは相手が並みの使い手ではないと分かった。

 少なくとも先程の少女とは天と地ほどの実力差がある。

 

「なかなかどうして、やるじゃないか。大したものだ。予想以上だ。

人は見かけによらないとはこの事だ。

だが、護るものを抱えて戦っている時点で、お前に勝ち目は無い。

今からそれを証明してやろう」

 次の瞬間、強化リリィの姿が瞬時に消えた。

 

 黒衣のリリィは、強化リリィも自分と同じく縮地のレアスキルを持っていたことを知った。

 そして強化リリィがどこに移動するつもりなのかも。

 強化リリィに何百分の一秒か遅れて、黒衣のリリィも縮地を発動し、姿を消した。

 

 強化リリィは自らが縮地を発動した瞬間、己の勝利を確信した。

 相手より先に縮地を発動すれば、相手より先に移動を完了できる。

 強化リリィは、黒衣のリリィの背後にいる少女の眼前に瞬間移動するべく縮地を発動した。

 

 黒衣のリリィがそれに気付いて縮地を発動しても、自分の方が一瞬早く移動を終えられる。

 その一瞬のアドバンテージがあれば、丸腰の少女を斬り捨てることは造作も無い。

 少女が死んでしまえば自分の任務は達成でき、黒衣のリリィは任務に失敗する。

 任務に失敗した特殊部隊が、その場に留まる理由は無い。

 黒衣のリリィが撤退した後に、悠々と少女の遺体から認識票を回収すればいい。

 

 しかし強化リリィの目論見は、縮地の移動が完了した瞬間に潰えることとなった。

 強化リリィが少女の前に現れた時、その眼前には既に黒衣のリリィが立ちはだかっていた。

 強化リリィが驚愕の表情を作るよりも早く、黒衣のリリィがCHARMを下から上に振り抜き、強化リリィの手からCHARMを跳ね飛ばす。

 

 回転しながら空中に高く舞い上がる強化リリィのCHARMに向かって、黒衣のリリィは再び縮地を発動した。

 次の瞬間に、放物線を描いて宙を舞うCHARMの至近に黒衣のリリィは現れた。

 既にブレードモードからシューティングモードへ、CHARMの変形を終えている。

 そして強化リリィのCHARMのマギクリスタルコアに向けて、ゼロ距離から発砲した。

 

 寸分の狂いも無くマギクリスタルコアの中心に弾丸が命中し、破壊されたコアの破片が星屑のように輝きながら舞い散った。

 コアを喪失した強化リリィのCHARMは機能を停止し、ただの金属塊となり、地面に落下した。

 コアの破壊音を聞いた時、強化リリィは自分が無力化されたことを理解した。

 この時点をもって、強化リリィと黒衣のリリィの戦闘は実質的に終了した。

 

 

 

 




最後は能力バトルものみたいになりました。
やっと結梨ちゃんTUEEEEEEE!描写が出来た……つもり。
諸々の説明は次回の投稿でします。
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