救出作戦が終了した日の午後、特別寮のロスヴァイセ専用ミーティングルームには、結梨、ロザリンデ、碧乙、伊紀の四人と、それに加えてもう一人の人物が集っていた。
「では、本日早朝の作戦に参加したメンバーが全員揃いましたので、今から内容のレビューを始めたいと思います。よろしくお願いします」
ロスヴァイセの主将である伊紀が、『極秘』の印が押された戦闘詳報の書類を各自に配布していく。
書類を受け取った碧乙は、その文面に目を落とす前に、ロザリンデに向かって挙手をした。
「ロザリンデ様、私から一つ質問があります」
「どうかしたの、碧乙」
「はい、なぜかこの部屋に一人だけ部外者が居るんですけど、どういうことでしょうか」
碧乙はその『部外者』を横目でじろりと見て、ロザリンデに異議を申し立てる。
「作戦の経過と結果について、生徒会を代表して直接内容の確認をしておきたいと連絡を受けたのよ。それで今日この場に同席してもらっているの」
「分かりました。で、その生徒会の同席者が、どうして結梨ちゃんを膝の上に乗せて頭を撫でてるんですかねえ?祀さん」
「もちろん、あくまでも私は生徒会のオブザーバーとしてここにいるのよ。
何もやましい所やよこしまな気持ちなんて無いわ、碧乙さん。
それに結梨ちゃんは当分の間、梨璃さんに逢える目処が立っていない。
だから私は梨璃さんの代理として、結梨ちゃんが元気でいるか確認することも兼ねてここに来ているの。
もっとも、結梨ちゃんのことを梨璃さんに伝えるわけにはいかないけど」
久しぶりに結梨に逢えていかにも嬉しそうな様子で、オルトリンデ代行である二年生の秦祀は隣に座る碧乙に答えた。
結梨は特に嫌がることもなく、祀の膝の上で頭を撫でられるに任せている。
「結梨ちゃん目当てに来ておいて、よくも白々しい建前をぬけぬけと……なら結梨ちゃんを膝の上に乗せてる理由は何よ、普通に座ればいいじゃない」
「これは単なるスキンシップの一つよ、どうぞお気になさらず」
「スキンシップの方が本命のくせに、この拗らせオルトリンデ代行は相変わらず面倒くさい…… もっと素直になりなさいよ」
と、文句を言う碧乙の横で、おとなしく祀の膝に乗っている結梨を見た伊紀が問いかける。
「でも、結梨ちゃんは祀様のこと、もう大丈夫になったんですか?
以前は全く祀様に懐いていなかったと聞きましたけど」
「うん、今は別に嫌じゃない」
「初めの頃の拒絶は一体何だったのかしら……謎だわ」
その時の原因について思い当たるところが無く、祀は苦笑した。
「結梨ちゃんの心が成長して、好き嫌いや人見知りが無くなってきたんでしょうか。良かったじゃないですか、祀様」
「ありがとう、伊紀さん。そうね、初めは好かれてたのに、後になって嫌われるよりは余程いいわ」
「結梨ちゃんも少しずつピーマンや納豆みたいな癖のある物が食べられるようになってきたということね」
「人をピーマンや納豆になぞらえるのは失礼ではなくて?碧乙さん」
「ああ、こんなややこしい人より、もっと竹を割ったようにさっぱりした人柄のリリィに来てほしかったなー、残念だなー」
碧乙は祀と反対の方向を向き、わざとらしく独り言を口にした。
それに対して、祀はあくまでも微笑を絶やさずにやり返す。
「それなら、私じゃなくてブリュンヒルデにお越しいただいた方が良かったかしら?
史房様ならあなたの希望にぴったりのお人柄だし、何も問題無いわよね?」
「祀さん、あなたの言ってることは真綿で首を締められるか、千尋の谷に突き落とされるかの二者択一を迫っているに等しいわよ」
「あら、私と史房様のどちらが真綿で、どちらが千尋の谷なのかしら」
「そのわざとらしい質問の仕方が、もう答えになってるじゃない。
こんな癖球のコーチにBZの指導を受けてる梨璃さんに同情を禁じ得ないわ」
「それは心外ね。あなたと違って梨璃さんは人を疑うことを知らない純真無垢なリリィだから、とっても素直に私の言うことを聞いてくれるわよ。あなたと違って」
「二度言ったわね」
「大事なことなので」
「結梨ちゃんも、こんな性悪の生徒会長代理の言うことなんて聞く必要ないんだからね。
何なら今から私の膝の上に乗り換えても構わないくらいよ」
「ううん、今日はこのままでいい」
結梨は二人の不毛なやり取りには関心の無い様子で、伊紀から手渡された戦闘詳報に熱心に目を通している。
「二人とも、もうそのくらいにしておきなさい。この調子だと本題に入る前に日が暮れてしまうわよ」
「……はぁい」
ロザリンデの仲裁に碧乙と祀が同時に返事をし、ようやく本日のミーティング内容である作戦結果のレビューが開始されることとなった。
遅筆のためエピローグが一回で書き切れなかったので、次回もこの続きとなります。
祀様の性格描写はこんな感じでいいのだろうか……