アサルトリリィ  LOST FLOWER   作:入江友

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第7話 天気晴朗なれども波高し(7)

 

「結梨ちゃん、これちょっとやりすぎだよ~。ドヤ顔が目に浮かぶじゃない」

 戦闘記録の詳報を見ながら碧乙が苦笑いした。

 

 今朝早く実施された救出作戦の結果を記録した詳報は、当然ながらその大部分が結梨の戦闘に関する記述で埋められていた。

 ローテーブルを囲んでソファーに座る五人は、それぞれの手元にある詳報の書類を読み込んでいるところだった。

 つい先程まで不毛な嫌味を言い合っていた碧乙と祀も、打って変わって真剣な表情で文面に目を通している。

 

「そうなのかな……早くコアを壊さないといけないと思って、急いでやったんだけど」

 結梨は意外そうな表情で碧乙に答えたが、碧乙は興味津々で内容を読み進めている。

 そして顔を上げて結梨の方を見ると、

「だって、相手のCHARMを空中に弾き飛ばして、それが落ちてくる前に自分も縮地で飛び上がって、そのままクリスタルコアを撃ち抜くって、恰好良すぎでしょ。

センターサークルからドライブシュート決めちゃう翼くんみたいなものよ」

 と、碧乙以外の者には理解できない例えで結梨の戦いぶりを褒めた。

 

「よくわかんない。伊紀、私の戦い方って変なの?」

「変じゃなくて、抜きん出てレベルが高くて目立ってしまうんです。

今の結梨さんなら、汐里さんや壱さんと一騎打ちしても互角以上に戦えるかもしれませんよ。

祀様はそう思われませんか?」

 

「その辺りは実戦の経験値も大きく影響してくるから、一概には言えないけれどね。

それでも結梨ちゃんのデュエル戦闘能力が一級品なのは間違いないわ。

百合ヶ丘のどのレギオンにいてもAZの軸になれるレベルよ」

 

「おまけに、その一つ前に発動した縮地は、発動継続時間がニアリーイコールゼロ。

CHARMの内蔵センサーでは計測不能なほどの短時間と来たもんだ」

 祀の見解に続けて、碧乙が付け加えた。

 

「これって、ごく短い移動距離とは言え、事実上のワープですよね。

ロザリンデ様、この時の結梨ちゃんの縮地は、ほぼS級に匹敵するレベルじゃないですか?」

 

「私も実際にこの目でS級の縮地を見たことは無いから、本当にこの時の結梨ちゃんの縮地がS級なのかは軽々に判断できないわ。

でも、先に縮地を発動した強化リリィを追い抜いたのは、CHARMに記録されたデータからも間違いない。

標準的なレベルの縮地とは段違いに上の領域に達しているのでしょうね。

……でも」

 

 と、ロザリンデは言葉を区切って声のトーンを落とす。

 

「結梨ちゃんが前面に出て戦うと、あまりにも目立ちすぎて危険だと思う。

弾き飛ばした敵のCHARMのコアを空中で正確に撃ち抜くような、目標も自分も動きながらの精密射撃は、私にも百発百中で出来るとは言えない。

面が割れていないとは言え、結梨ちゃんが今の戦い方を続けていたら、すぐに各地のG.E.H.E.N.A.ラボの間で賞金首になりかねないわ。

だから当分の間は、私のサポートとして一段後ろで行動してもらう方が安全だと思う。

結梨ちゃんはそれで構わない?」

 

「うん、私は一番前じゃなくても全然気にしないよ」

 ロザリンデの心配をよそに、結梨はごくあっさりとロザリンデの提案を受け入れた。

 結梨にとっては救出作戦に加わることに最大の意味があり、作戦時における自分の役割にはこだわっていないようだった。

 

「結梨ちゃんから何か聞いておきたい事はありますか?

私たちで答えられることであれば、何でも教えてあげられますよ」

 伊紀に尋ねられた結梨は少し考えた後、ロザリンデに質問を投げかける。

「作戦が始まる前は、G.E.H.E.N.A.の建物に忍び込むのかと思ってたけど、違ったんだね。

建物の中に入って助け出すことは無いの?」

 

「もちろんそうする場合もあるけど、それはどちらかというと最後の手段ね。

基本的には内通者――主に内務省や防衛軍の特務関係者だけど――の手引きで、保護対象の強化リリィに自力で建物の外まで脱出してもらって、可能な限り早いタイミングで私たちが保護するのがベストの形よ。

今回は濃霧が発生したために被保護者の発見が遅れてしまったけれど、基本的な作戦方針としては変わらないわ」

 

「どうして建物の中には入らないの?」

「そうね、まず第一に、各地に点在するG.E.H.E.N.A.ラボの内部には、どこにどんな対侵入者用のトラップが設置されているか分からない。

外部機関の内偵を使っても不確定要素が多くて、十分な情報を得られることの方が少ないのが実情なの。

だから、できるだけ建物の中には入らない前提で、作戦が立案されるケースが多くなっているわ」

 

「内部に侵入して発見されないかどうかは未知数だし、もし発見されてラボの中で戦闘になれば、警備に配置されている全ての強化リリィを相手に戦わなければならなくなる。

そうなれば戦闘が本格的で大規模なものに発展して、本来の目的である救出活動が困難な状況になってしまう。

最悪の場合、進退窮まって私たちがラボから脱出できなくなる可能性すらある」

 

「それに作戦自体が成功しても、その後はすべてのラボで格段に警備のレベルが厳しくなるから、次回以降の作戦遂行が非常に困難なものになってしまうと予想される。

当然だけど、強化リリィが一人脱走することと、戦闘行為でラボが壊滅的な損害を被るのとでは、G.E.H.E.N.A.側の事後対応が全く違ったものになってくるわ」

 

「今回の作戦で追っ手の強化リリィが一人だけだったのも、多くの追っ手を出して施設の警備が手薄になることを恐れての対応だった可能性が高い。

つまり、脱走が施設侵入のための陽動である可能性を考えた結果だと言えるわ。

だから建物の中には極力入らない方がいいの。

私たちの目的は保護を希望する強化リリィの救出であって、G.E.H.E.N.A.ラボを壊滅させることではないから」

 

 ロザリンデが長い説明を終えると、結梨は得心したようにうなずいた。

「私が助けた子も強化リリィだったの?」

「まだ今は医療施設での検査と並行してガーデンによる身元確認が行われているところだから、確実なことは言えないわ。

でもG.E.H.E.N.A.ラボの中に囚われていて、かつCHARMを扱えるということは、強化リリィである可能性が最も高いでしょうね。

ブーステッドスキルを付与されているかどうかは分からない。

作戦が終了した時点では、彼女の手首の負傷は残っていたから、少なくともリジェネレーターは持っていないようね」

 

「私たちがその子と会うことはできないの?」

「今はまだ必要な検査や確認が終わっていないから、連絡を取ることはできないわ。

可能性は非常に低いけれど、彼女がG.E.H.E.N.A.側のスパイである可能性も残されているから。

だからガーデンが彼女に対する聞き取り調査と、その裏取りをひとまず終わらせる必要があるの。

それが完了したら、早ければ数日中に面会は許可されるはずよ」

 

「ただし機密保持のため、その時点ではお互いの個人情報は話してはいけない禁則事項になっているわ。

その時は結梨ちゃんは名乗ってはいけないし、彼女の名前も聞いてはいけない。

その制限が付くとしても、彼女に会いたい?」

「うん、あの時は私もあの子もほとんど話す余裕が無かったから、会ってきちんと話したい」

「では、その旨を理事長代行に連絡しておくから、それまで待っていてね」

「ありがとう、ロザリンデ。伊紀、長くなってごめん。私の聞きたかったことは全部終わったよ」

 

「はい、分かりました。では次の議題に移ります。先ほどの内容を踏まえて、次回以降の作戦における連携フォーメーションの変更について――」

 レビューの進行を担当する伊紀が、落ち着いた声で議論を先へ進めていく。

 びっしりと作戦の経過が書かれた文章を目で追いながら、いつの間にか結梨は自分が助け出した少女のことばかり考えていた。

 もう一人の自分は――あの少女は、これで救われたのだろうかと。

 

 

 

 




説明ばかりになった上に、またしても終わりませんでした。
もう一回続きます。
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