凍死しないようにご注意ください。
今後ストーリーが進むと戦闘回も出てくる予定です。
結梨とロザリンデが病室で面会している間、部屋の外の小ぢんまりとした待合室では、碧乙と伊紀が海岸で結梨を見つけた時のことを話していた。
結梨の病室周辺の区画は特別寮に準ずる機密性が確保されており、会話の内容が外部に漏れることはない。
「でも、私たちが他の人より先に結梨ちゃんを見つけられたのは、つくづく幸運だったと思うわ」
と、碧乙は伊紀に言った。
確かに、もし他のリリィや民間人が先に結梨を見つけていた場合、GEHENAに対する情報遮断の点で相当に面倒なことになっていたのは間違いない。
「それに、何かの間違いで亜羅椰さんあたりが結梨ちゃんを見つけてたらと思うと、GEHENAとは別の意味で考えるだに恐ろしいわ」
碧乙はそう言うと、何か冷たいものが背中を伝い落ちたかのように身震いした。
「どうしてですか?」
伊紀は碧乙の言わんとする所が今ひとつよく分からず、その理由を尋ねた。
「それを私に言わせる気?……まあいいわ、説明してあげる。
たとえば、伊紀の目の前で一人の可愛らしい女の子が倒れていたとします。その子は何も服を着ていない状態です。
この場合、伊紀はどうする?」
「それは、まず自分の着ている上着を脱いで、その子に掛けてあげて……」
伊紀はおずおずという感じで少し自信なさげに答えた。
「そう、それが常識ある人の行動よ。でも亜羅椰さんは、その場で自分の着ている服を全部脱ぎ始めかねないのよ。そういう人なのよ」
「全部脱いで、その後どうするんですか?」
「それを私に言わせる気?
伊紀って意外と鬼畜なのね。サディストなのね」
碧乙はいかにも恨めしそうな目で伊紀をにらんだ。
「私、そんなに酷いこと言いました?」
伊紀は碧乙の反応にきょとんとした顔をしている。
「実際に亜羅椰さんの前に裸で立ってみれば、私の言っていることの意味がよく分かるわ。いえ、そんなおぞましいことを私の可愛いシルトにさせるわけにはいかない。伊紀をあんな性的問題児の毒牙にかけさせるわけにはいかないわ。他の誰よりも伊紀を護れるのは、伊紀のシュッツエンゲルたる、この私だけなのだから」
碧乙は途中から半ば自分に言い聞かせるような調子で、一気にまくし立てた。
「あの、碧乙様?何をおっしゃっているのですか?
亜羅椰さん、ちょっと押しが強いけど、とってもいい人ですよ」
「ダメダメダメダメ。いいこと、伊紀。よく聞いておきなさい。
絶対に亜羅椰さんと密室で二人きりになっちゃダメよ。保健室とか放課後の教室とか体育倉庫とか。
二人きりになったとたん、すぐにガチャっと鍵をかけてあんなことやこんなことをしてくるに決まってるわ。
『美味しかったわ、ごちそうさま』なんてことになってしまったら私はもう永遠に立ち直れない。どうすればいいの?
……ああ神様、どうかお願いだから私の愛しいシルトをあの盛りのついたネコ耳ピンクの魔手からお護りください」
碧乙はわなわなと震える両手で青ざめた顔を覆い、伊紀の前にがっくりと両膝をついた。
「えーっと……」
一人で勝手に盛り上がって勝手に絶望している碧乙を前にして、伊紀は、
「と、ところで、あのギガント級ヒュージと結梨ちゃんの戦闘はすごかったですね、お姉様」
と、わざとらしく話題を変えた。