また、今回投稿分から御台場とルドビコのリリィが順次登場します。
本作の世界線は今後もアニメおよびラスバレの世界線とし、その中に御台場とルドビコのリリィも存在するものとして記述します。(『御前』も同様です)
今回のエピソードの時系列は、アニメ第12話後半で梨璃さんと夢結様がアルトラ級を討滅してから、海岸に漂着するまでの期間のものとしています。
「御台場に行くのは、私ではだめなのかしら」
名乗り出た史房に対して、ロザリンデが尋ねる。
「特務レギオンのリリィであるあなたが行けば、向こうの警戒心を呼び起こして、痛くもない腹を探られかねない。
だから、ここは生徒会長かつ百合ヶ丘の全レギオン代表である私が行くのが最善よ」
「分かったわ。この件については、あなたに一任しましょう」
ロザリンデは史房の指摘を素直に受け入れ、史房は咬月に再び発言する。
「理事長代行、では私が代表者として訪問することを先方にご連絡いただけますか」
「よろしい、この後で速やかに申し入れをしてみよう。
ただし、訪問に当たっては、こちらの事情を説明する必要に迫られるかもしれない。
その場合は、一柳君や『御前』の存在を御台場に伝えなくてはならなくなる可能性がある。
当然、百合ヶ丘と御台場の間での極秘事項として、その情報は厳重に管理される。
君たちはその条件を受け入れることができるかね?」
咬月はその場にいる六人のリリィの顔を見渡した。
咬月の意思確認に対して意見を述べたのはロザリンデだった。
「御台場はメルクリウスと並んで、百合ヶ丘にとって最も信頼のおけるガーデンの一つです。
それに、もし事態が悪化して結梨さんがこのガーデンを離れなければならなくなった時、身柄を受け入れてくれる所があれば非常に重要なセーフティーネットとなります。
御台場としても結梨さんの生存を知った場合、彼女がG.E.H.E.N.A.の手に落ちることは避けたいはずです。
G.E.H.E.N.A.が結梨さんの細胞を使ってクローンを作り、強化リリィやヒュージに勝る生体兵器として反G.E.H.E.N.A.主義ガーデンを襲わせる、というのは悪夢以外の何物でもありません。
ですから、善後策の選択肢を作っておくという意味でも、御台場に結梨さんの事情を説明することは双方にメリットがあると考えます」
「分かった。一柳君は、それで構わないかね?ガーデンは君の同意無く話を進めることはしないつもりだ」
咬月はロザリンデの意見を聞き終えると、結梨を見て情報開示の可否を確認した。
結梨は黙って頷き、肯定の意思表示をした後、自らの思うところを静かに話し始めた。
「『御前』の力は私とよく似てた。
『御前』は私と同じように、ヒュージの細胞から作られた人間なのかもしれない。
それで私を仲間だと思いたいのかもしれない。
でも、私にはまだ『御前』のことがよく分からない。
だから私は、あの人が何を考えて、何をしようとしているのか、もっと知りたい。
もし、それが誰かを犠牲にするのと引き換えのものなら、私はあの人を止めないといけない。
――私は、あの人と分かりあいたい」
「そうか。あまり彼女に肩入れするのは危険だとは思うが、直接言葉を交わした者にしか分からないことがあるのかもしれんな。
……では決まりだな。理事会に諮った上で、御台場に訪問の申し入れをする。
回答が得られ次第、再び君たちに招集をかけることになるだろう。
今日のところは、これでひとまず解散とする」
「承知しました。では私たちはガーデンの損壊した設備の復旧を行うとともに、残存する予備のCHARMをかき集めて、周辺の哨戒に当たります。
祀さん、眞悠理さん、行きましょう。百合ヶ丘の全アーセナルを集合させるわ」
ライフラインがストップし、自然災害に襲われた避難所のようになっているガーデンを取りまとめるべく、三人の生徒会長はミーティングルームを後にした。
「それでは、私たちも失礼します。二人とも、部屋に戻りましょう。
これまでの情報を洗い直して、会話と戦闘のデータから『御前』に関連する手掛かりが他にないか、再確認するわ」
ロザリンデが碧乙と結梨に声をかけ、三人は咬月に会釈してミーティングルームを出て行く。
咬月は彼女たちの後ろ姿を見送った後、姉である理事長に連絡を入れるべく席を立ち、特別寮のミーティングルームは静寂が支配する無人の空間に戻った。
その数日後、史房と結梨は御台場女学校の制服を着て、東京へ向かう列車の座席に向かい合って座っていた。
御台場からの回答は、条件付きで百合ヶ丘のリリィの訪問を認めるものだった。
その条件とは、以下のようなものだった。
・今回の訪問に結梨本人が同行すること。訪問時のCHARM所持は可とする。
・箝口令を敷いた上で、御台場の中核レギオンであるヘオロットセインツとロネスネスに、結梨と『御前』についての情報を極秘事項として開示すること。
・結梨の存在が露見することを防ぐため、御台場の制服を着用した上で訪問すること。同様に露見防止のため、ガーデンへの入退場およびガーデン内の移動は、指定のルートを使うこと。なお、制服は御台場側から支給するものとする。
再度招集された六人のリリィは、訪問時に御台場側が機密の保持に細心の注意を払うように念押しした。
その上で御台場側の提示した条件を承諾し、史房と結梨の訪問は全会一致で議決された。
二人の身体を列車の振動が小刻みに揺らし、窓の外、ビルの隙間から水平線がわずかに見え隠れする。
列車の運行に遅延が生じなければ、あと十分ほどで御台場の最寄り駅に着くはずだった。
「結梨さんの同行は、御台場の理事会ではなく生徒会からの希望だと、理事長代行から言われたわ。
あなたはあの事件ですっかり有名になっていた上に、今まで未帰還死亡扱いだったから、どうしても自分たちの目で確かめておきたいのでしょう」
「私はそんなに大したリリィじゃないと思うけど……」
どことなく困惑した様子で結梨が答える。
「あなたは自分のことをもっと高く評価するべきね。
それが生まれつきのものか、これまで生きてきた中でのものかの違いはあれ、誰にでも背負いながら生きている何かがある。
それに振り回されるか、目を背けて無視するか、逆境として乗り越えるかは、その人次第よ」
「……ありがとう、史房」
その言葉が史房なりの気遣いなのだと、結梨は理解した。
「――そう言えば、『御前』に連絡を取る方法を尋ねたのは、碧乙さんではなくてあなただったと聞いたわ。意外と策士なのね」
「その時は、別に深く考えたわけじゃなかったんだけど。もっとたくさん話をしないと、あの人のことが分からないと思ったから」
「おそらく彼女の中では、救うべき者とそうでない者は明確に線引きされているでしょう。
それは間違いなく彼女自身が背負っている何かと結びついていて、しかもG.E.H.E.N.A.が裏で策動してきたこととも無関係ではないはず」
「リリィがヒュージを全部やっつけても、それで終わりじゃないんだね」
「世界がもっと簡単に出来ていれば、こんな面倒なことを考えずに済んだのにね。
――ああ、もう着くわね。降りましょう」
駅に接近した列車が速度を落とし、史房と結梨はそれぞれのCHARMが収められたケースを持ち上げて席を立った。
御台場女学校から指定された校内への進入ルートは、正門ではなく来賓用の専用ゲートからガーデンに入るものだった。
ゲートの周囲と、そこから敷地内に続く道には人の姿は全く見られなかった。
おそらくガーデンがあらかじめ人払いをして、二人が人目に触れないように配慮したものと思われた。
史房と結梨がゲートを通過して数十メートル歩いた先に、さほど大きくない面積のエントランスが現れた。これも来賓用のものだろう。
そのガラス張りの扉の手前に、一人のリリィと思しき生徒が立っていた。
長い黒髪を橙色のリボンでまとめ、寸分の乱れも無い姿勢で二人を静かに見ている。
近づいてきた二人に向かって穏やかな微笑を浮かべると、そのリリィは結梨を見て軽く会釈し、自分から先に言葉を発した。
「御台場女学校生徒会長の月岡椛と申します。はじめまして、一柳結梨さん」