結梨ちゃんが復路のターンに入ったため、それに合わせてタイトルを付けました。
また、場面は再びルド女に変わります。
史房と楪に挨拶をした来夢は、いかにも一年生らしい初々しさに溢れていた。
「私は御台場の川村楪。あんたは幸恵のシュベスターなのか。
それなら先に事情を説明しておく方がよさそうだ。史房様、お願いします」
楪は史房に軽く会釈して、自分の身を一歩後ろに引いた。
史房はそれを受けて小さく頷くと、来夢に説明を始めた。
「はじめまして、百合ヶ丘のブリュンヒルデを務めている出江史房です。
先日、百合ヶ丘に特異なラージ級のヒュージが襲来した際に、避難行動のためガーデンの警備レベルが一時的に大きく低下しました。
その隙を突いて、一人のリリィらしき人物が外部からガーデン内に侵入したのです。
彼女は自らを『御前』と名乗り、G.E.H.E.N.A.がヒュージを使って敵対勢力を排除していると指摘しました。
その時に相対した百合ヶ丘のリリィ二人によると、彼女は素手であったにもかかわらず、完全武装の二人を全く寄せ付けない戦闘能力の持ち主だったとのことです。
このことから、彼女は相当なレベルの強化が施された強化リリィの可能性が高いと考えています。
また、彼女は一般市民を二の次にして、強化リリィの理想社会を作りたいようです。
その計画を実行するための右腕として、百合ヶ丘の或るリリィをスカウトしに来たというわけです。
結局、その場は何もせずに去って行きましたが」
史房は一旦そこで言葉を切って、楪の方を見た。
楪は史房の説明を引き継いで話を続ける。
「それで、こちらから連絡を取りたい時の窓口として『御前』が指名してきたのが、ルド女の戸田・エウラリア・琴陽というリリィだ」
それを聞いた来夢は、驚きを隠せずに目を見開いた。
「今のところは、『御前』が敵か味方かは分からない。
おそらくは、こちらの出方次第でどちらにもなりうると私たちは考えている。
できれば彼女とは敵対したくないが、彼女の目的次第では、そうも言っていられなくなる。
それを見極めるために、彼女についての情報をできる限り集めておきたい。
そのために琴陽に会いにここまで来たというわけだ」
「来夢さんは琴陽さんのことをご存じなの?」
史房の質問に来夢は肯定の返事をした。
「はい、琴陽さんは私と同じ一年生ですが、特定のレギオンには所属せず、シュベスターの契りを交わしている方もおられないはずです。
あまり積極的に人と関わるタイプではないようなので、彼女のことをよく知っているとは私には言えませんが……」
「彼女をここに呼び出すことは出来るかな」
「正直なところ、琴陽さんは神出鬼没のリリィなので、所在を確認するだけでも簡単ではないと思います。
やみくもに校内を探し回っても、見つかる可能性は低いと思います」
「何かいい方法はないものかしら……」
三人が頭を悩ませていると、そこへルドビコの制服を着た一人のリリィが通りかかった。
眼鏡をかけたそのリリィは、どことなく挙動不審な動作で来夢に声をかけた。
「おや、来夢さん、こんな所で御台場のリリィと立ち話ですか。
何の目的で御台場のリリィがルドビコに……って、あ、あああああなたはもしかして、あのヘオロットセインツの、か、かかかか川村楪様でいらっしゃいますか?」
「あ、ああ、そうだけど、何か私の変な噂でも広まっているのか?」
明らかに異常な興奮状態で楪に話しかけたそのリリィは、急に姿勢を正すと、そのまま最敬礼でもしかねない勢いで自己紹介を始めた。
「わ、私はルドビコ女学院二年生の松永・ブリジッタ・佳世と申す者であります。
テンプルレギオン所属、レアスキルはルナティックトランサー、使用CHARMはダインスレイフ・カービンであります。
楪様におかれましては、わざわざこのガーデンまで御足労下さり、恐悦至極に存じまする。
何か御用がおありの際には、何もご遠慮なさらずにこの不肖のリリィにお申し付けくださいませ、ませ」
常軌を逸したテンションで一方的に盛り上がる佳世を横目で見ながら、史房は決して視線を合わせないように、じりじりと佳世から距離を置いた。
一方、楪は佳世の勢いに押されつつも、本来の目的を忘れることは無かった。
「……実は、このガーデンの一年生の戸田・エウラリア・琴陽に会いたいんだが、彼女をどうやって呼び出したらいいか困っていたところだ。
あんたは何かいい方法を知らないか?」
それを聞いた佳世は少し考え込んでいる様子だったが、やがて何かを思いついたらしく、目の前にいる三人の顔を見渡して得意気に提案を始める。
「一年生の琴陽さんですか。ふむ、彼女の習性を利用すれば、ここに呼び出すことなど造作もありません。
この私めにお任せあれ。必ずや琴陽さんをここに出現させてみせましょう。
では、しばしお待ちを」
そう言うが早いか、佳世は一目散に校舎の中へと駆け込んでいった。
あっという間に三人の前から姿を消した佳世について、楪が来夢に質問する。
「一体あの佳世っていうリリィは何者なんだ。どう見ても様子が普通じゃなかったぞ」
「佳世様は筋金入りのリリィオタクなので、スターリリィである楪様にお会いできて完全に舞い上がってしまわれたのだと思います。
御台場の制服を着ていたために史房様のことは気づかなかったようですが、もしご本人と認識していれば、楪様に対するのと同じ振る舞いをされていたと思います」
それを聞いた史房は、自分と同じガーデンの一年生リリィを想起せずにはいられなかった。
(挙動不審だったり、鼻血を出したり、どこのガーデンにも似たようなリリィがいるものなのね……)
しばらくすると、校舎のある方角から佳世の声で校内放送が聞こえてきた。
「一年生の戸田・エウラリア・琴陽さん、正門の近くであなたと手合わせを希望するリリィがお待ちです。
とっても強いリリィで、幸恵さんや日葵さんよりも強いかもしれません。
ただし、早く来ないと帰ってしまうかもしれませんよ~。以上」
ブツッとマイクを切る音がして放送は終了し、周囲に静寂が戻った。
楪は来夢の方を見て、再び琴陽について尋ねる。
「こんな誘いに乗ってくるような好戦的なリリィなのか、その琴陽って」
「確かにちょっと変わった人ですが、悪い人ではないと私は思っています」
「何か答えになっているようで、なっていない言い方ね……」
微妙にピントのずれた来夢の回答に、隣で聞いていた史房は苦笑して首をかしげた。
すると、放送が終わってから一分も経たないうちに、史房たちの背後から少女の声が聞こえてきた。
「お待たせしました、御台場女学校のリリィ御二方。どちらが私の相手をしていただけるのですか?」
振り返ると、グングニル・カービンを携えた一人の少女が、好奇心に満ちた挑戦的なまなざしで史房と楪を見据えていた。
二人は困惑の表情を浮かべて、お互いの顔を見合わせた。